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19.あばれる牛さん

「ヴォルフ!!」


わたしは叫ぶ

ふつうのひとが、あんな突進をうけたら、ひとたまりもない。

さっきまでのんきに草を食んでいたはずの牛だったのに、今はびっくりするくらい、猛り、狂っている。


「心配すんな、姫さん」


ヴォルフは牛の角をしっかりとつかみ、こっちをちらりと見てからそういった。


「ご無事ですか、姫様」


ツェペットさんが、肩で息をしながら駆けてくる。


「わたしは大丈夫よ。でも」

「ヴォォオォォ」


ヴォルフに止められてからすこしが経つのに、牛はいまだ興奮している。


「儂にもわからんのですじゃ。こいつ、急に暴れ出しよって……」


「ヴモ、ヴモッ」


なんだか、さっきからやたらと牛と目が合う気がするな。

そういえば、さっきもわたしをめがけて突進してきていたような、


全身を見まわしても、とくにおかしなとことはない。

そとゆきのワンピースが、ひらひらと風にあおられているくらいだ。


「ヴモオオオオオオオオ!!」


ハーフの獣人がなせる技か。

ヴォルフはここまで、よく牛を留めていた。

その均衡が崩れるほど、牛の興奮は勢いを増す。


ずりずりと、


地面にふたすじのあとをつけながら、ヴォルフが後ろへ押されはじめた。


「ち、こいつ!!」


ヴォルフは角から手を離すと、大きく跳んで距離をとる。


「ブモォヴモォ!!」


前足で地面を掘り返しながら、牛はゆっくりと向きを変える。

わたしの、ほうへむかって。


「しょうがねえ、ここは……」


ヴォルフは懐に手をやって、何かを探った。

すぐに抜き出した手には、何か、小さな筒のようなものが握られている。

彼はそれを、手のひらの上で何度か振った。

ころり、と茶色の小さなかたまりが、いくつかそこへとまろびでた。


「こいつで、しまいにしてやるよ」


ヴォルフはそういって、にやりと笑った。


そうだ、あれってば、もふもふの……


「ダメーーー!!」


いうなり、わたしはヴォルフのもとへと猛ダッシュする。

もしかしたら、さっきの牛より速かったかも。


ぺち


そうして、すぐさま振るった右の手で、ヴォルフが握ろうとしていた茶色のかたまりを、地面へとたたき落とす。

芝生の上に落ちたそれは、わたしが思った通り、茶色く丸い、丸薬だった。


「なにすんだ、姫さん」

「ダメよ。それってば、危ない薬なんでしょ」


はじめて出会った時に使った、茶色い丸薬。

それはヴォルフが、もふもふの人狼へと変身する、魔法の薬だ。


ー使用者であるヴォルフの身体に、大きな負担をかけながらー


そう、わたしに説明してくれたマルカの言葉を思い出しながら、わたしはもういちど首を振った。

あの時の暴走も、薬の危険な成分が原因だって聞いている。

そんなもの、もう2度とヴォルフに飲ませるわけにはいかない。


「いや、そりゃわかっちゃいるがね。今はそんなこといっている場合じゃ!!」

「もうこれ以上、そんなのに頼っちゃダメ!!」

「危ないのは姫さん、あんたなんだぜ」

「それでも、よ」


ヴォルフは薬を見て、それからもういちどわたしを見た。


「わかったよ。なんとかやってみるさ」

「うん。それでこそわたしの護衛よ」


「ヴモ、ブモォォォォオオォオォオォオオ!!」


ヴォルフはとっさにわたしを抱きとめると、ごろごろと転がって突進してきた牛をかわした。


「こっちだ。かかってこい」


わたしをそっと芝生におろして、彼は猛然と牛に向かって駆けていく。


どすん


その腕が、ふたたび角をつかみとる。


「ヴモオオオオオオオオ!!」


先ほどよりも、さらに激しく、全力で牛が暴れたけれど、

今度のヴォルフは、ただの1歩もさがらなかった。


「すごい!」


唇の端をすこしだけあげて、ヴォルフはわたしの声に応える。


「どうする姫さん、このまま転がしちまうことも、できなくはないが……」


そうしたら、牛が怪我をしてしまうかも。

彼がいいよどんだのは、そのせいだろう。


「まってください」


リットくん?

急にあがった声に続いて、横合いから小さな影が走り寄った。


「おい、危ねえぞ」


その声をすり抜けて、リットくんが牛の首あたりへと、抱きついた。

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