18.お仕事探し
「それで、どうだった? リットくん」
ひととおり王宮じゅうをひとまわりした中庭で、わたしは彼にそう尋ねた。
王宮の中庭、なんていうと、丁寧に切り揃えられた生け垣やら、紅白に咲き誇るバラ園なんかが思い浮かんだりするかもだ。
でも、残念ながらわがリュミエール王宮の中庭といえば、芝生のはえただだっ広い空間が、飾り気泣く広がっているだけである。
まあ、これはこれで日当たりも良くて、お昼寝するにはうってつけだったりするのだが。
遠くにはツェペットさんが牛をつれ、お散歩しているのが見て取れた。
あしたも美味しい牛乳が飲めるといいな。
3人で座れるようにと広げた敷物の上には、いくつかのお菓子や飲み物が並んでいる。
王宮をみてまわる途中で、いろいろな人たちから、すこしずついただいてきたものだ。
わたしの甘い物好きも、どうやら王宮じゅうにひろまりつつあるみたい。
リットくんは勧められるまま、お菓子をひとつ手にとった。
さっきとかわらず、難しい貌をしているリットくん。
「やっぱり、僕なんかが手をだせるところはないみたいです」
「そうなのよねえ」
わたしはあめ玉を口に含んで、舌の上で転がしながらそう応える。
王宮をぐるりひとまわり。
わたしたちは、リュミエール王宮がいかに最小限の予算で効率的にまわっているかを目の当たりにすることになった。
どのひともどの場所も、お金も人手もも足りているようには見えなかったけれど、その足りないなかでせいいっぱい、みんなでやるべきことをやっている。
「へたにお手伝いなんてしたら、かえって邪魔になってしまいそうで」
「そうなのよねえ」
それはわたしも同じだった。
あまりにも忙しそうにしていたせんたく係のおねえさんに、
「お手伝いしましょうか?」
って声をかけたら、やんわりと断られてしまったのだ。
その時にもらったのがこのあめ玉。
甘くて美味しい、のだけれど。
「お父さまに、たのんでみる?」
リットくんは首をふる。
「これ以上、みなさんの手を煩わせるわけにはいかないです」
「ま、ゆっくりやればいいじゃねえか。姫さんのお手伝いってことで。きっといい修行になるぜ」
ヴォルフがいうのに、わたしは頷いた。
すぐにお役に立ちたいっていうリットくんの気持ちはうれしいんだけどね。
リットくんはちらりとわたしを見てうつむいた。
「……はやく、アンネローゼさまのお役に立ちたいのに……」
「え、なあに? リットくん?」
「なんでもないです」
最後のひとかけになったあめ玉が、わたしの奥歯でカリ、と砕けた。
と、
「姫様、あぶねえ、逃げてくだせえ!!」
突然、声が飛んで届く。
「え?」
と顔をやった先で、ツェペットさんが大きく手を振って叫んでいるのが見て取れた。
わたしは立ち上がって、
「何? どうしたの?」
ドド、ドスドドス
荒く、何かを踏み荒らす音が、わたしの声をかきけした。
「姫さん、こっちだ」
ぐい、と腕をひかれて、つんのめる。
気がつくと、わたしはヴォルフの胸の中にいた。
「クソ、油断した」
それも一瞬のこと、ヴォルフはわたしを守るように、わたしの前で大きく両の腕を広げる。
こちらへと突進してくる牛へ向かって!!
「ブモ゛ォォオオオオォ!!」
先ほどまで、ツェペットさんといっしょに、穏やかに散歩し、草を食んでいたはずの牛。
それが今や猛り狂い、こちらへ向かって爆暴走して来ていた。
「こいやぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
ヴォルフが、牛に負けない大声でそう叫ぶ。
ヴォルフと牛。
両者がぶつかり合う瞬間、
がしっ
とヴォルフの両手が、牛の角を掴んで止めた。
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