16.王宮にて
みなさんのがんばりで丁寧に整備されてはいるけれど、やっぱり古さは隠せない。
わたしたちがやってきた建物は、いつものようにがんばってそこに建っていた。
生まれ変わってから今日の朝まで、おおきくは変わらないわたしのおうち。
我らがリュミエール王国王宮である。
「と、いうわけでリットくん」
「は、はい」
「まずはここで、リットくんに合うお仕事を探してみない?」
わたしが私だった頃、私は自分の住む王宮のことなんてほとんど知らなかった。
前世の私の父王さまは、私を大事に大事にって、王宮の一室からほとんど出してはくれなかったから。
そんなことのおかげもあって、出来上がったのは、すっかり世間知らずの私。
「あれじゃあ、いけないわ」
前世の記憶をとりもどすなり、そう叫んだわたしは、てはじめに王宮じゅうを探険・・・・・・
・・・・・・じゃなくて、見てまわった。
時には服をボロボロに、手足を擦り傷だらけにして、一週間甘いもの禁止になったこともあったっけ。
「あれは嫌な思い出だったわ」
わたしがいうのを、リットくんが不思議な顔をしてみている。
ともかく、そんなわけでわたしはこの王宮のことについては、多くのことを識っている。
もしかしたら、お父さまやお母さまよりも詳しいかもだ。
「そんなわけで、大船にのったつもりでいていいのよ。きっといいものが見つかるから」
「・・・・・・お願いします」
よろしい、とうなずきながら、私はもう一人の方を見た。
「それからヴォルフ。あなたには今日一日、わたしの護衛をよろしく」
「俺かい? そりゃかまわねえが・・・・・・」
「必要ありません」
予想通り、マルカが横から口を挟む。
「護衛ならば、私が務めますから。おい駄犬。わかったらさっさと尻尾を巻いて・・・・・・」
「ごめんなさい、マルカ」
わたしはぺこりと頭を下げる。
「毎日毎日、わたしの護衛をしているせいで、執事のお仕事が充分にできていないと聞いています」
ここのところ『追放者さんのためのおうち』は順調に稼働していて、わたしも毎日のように出歩いている。
そうなればマルカもいっしょについてくるから、彼を一日じゅう連れ回すことになっていた。
お父さまが配慮してくれているから、わたしのお手伝い以外のマルカの仕事は、少なく抑えられているって聞いた。
それでも、まったく無いっていうわけにはいかないみたい。
わたしたちのリュミエール王国は、それだけ貧乏で人手も足りていないのだ。
わたしが『追放者さんのためのおうち』から王宮に戻ってきた後。
夜も遅くなってから、マルカは残った執事の仕事を片づけているんだって、知ったのは最近のことである。
「そんな、私も好きでやっていることですから」
頭を下げたままのわたしに、マルカはいう。
わたしは体を起こして、彼に向き合った。
「そういうわけで、これよりマルカの護衛の任を解きます。ほんとうは休んでほしいとこだけど・・・・・・」
執事のお仕事をこなす時間になっちゃいそうなのが、ちょっと残念。
「しかし、それではこの駄犬が、ひとりでアンネローゼさまの護衛をすることに!?」
「安心して、マルカ。もしあなたのいうとおり、ヴォルフがよからぬことを思っていたとしても、ね」
ここはリュミエール王宮だ。
人手は足りていないけど、それでもそれなりに人の目がある。
なにより、勝手知ったるわたしのおうち。
いざとなれば、逃げ隠れする自信はあった。
そうして、それ以上にそもそもの話として・・・・・・
「ヴォルフなら大丈夫。わたしはそう思うもの」
ね? と顔を向けた先で、
「応。このヴォルフ、姫さんを決して危ない目にはあわせない、と誓うぜ」
どこか誇らしそうにいうヴォルフ。
どの口が、といいかけて、マルカは黙った。
彼なりに、なにか感じるところがあったのかもしれない。
「はい。これで話は決まりね。リットくんのお仕事探しと、それからヴォルフの護衛のおためし試験。それではみんな、張り切っていきましょう!!」
わたしは胸の前で、両手をぱんと打ち合わせた。