15.リットくんはがんばりたい
「うーん、リットくんは、もう充分頑張ってくれていると思うんだけど」
お仕事がしたいんです、というリットくんに、わたしは首をかしげながらそういった。
「でも、あまりお役にたっていないように思うんです」
そうかな。リットくんには、ここ、『追放者のみなさんのためのおうち』の受付として、充分活躍してもらっているところなのだけど。
「それに、こんなものまでいただいてしまって」
リットくんは懐から革袋を取り出した。
わたしにはそれに見覚えがあった。少し前に、わたしがリットくんにわたしたものだ。
中身は、ここまで働いてくれている、彼へのお給料。
やっぱり、ちょっと少なかったかな。でも、今はこれでせいいっぱいなんだけど・・・・・・
「僕、まだこれをいただけるだけの働きは、出来ていないって思うんです」
「それは違・・・・・・」
「エリィさんにヴォルフさんは、自分の得意な仕事をしていますし、ツクモさんだって」
いわれて、わたしはツクモのほうに目をやった。
「あれ、マルカ?」
いつのまにか、ツクモのかたわらにはマルカがいる。
彼はマルカからなにかを受け取った。
あれは、マルカが愛用しているナイフみたいだ。
マルカはしばらくナイフを見つめる。それからひとつ頷いた。
そんな彼の手に、いつのまにか紙が一枚、つままれている。
はらり、
マルカの手を離れた紙が、上向きにされたナイフの刃へと舞い落ちる。
刃にふれるや、紙はふたつにわかたれた。
瞬間、マルカの手がぶれた。
わたしの目には、かろうじてナイフのきらめきだけが見て取れる。
ふたたび、マルカの手がもとのところに戻されたときには、紙片はさらに細かく分割されて、紙吹雪になってあたりを待った。
まるで、舞い散る雪のように。
「おー」
ぱちぱちぱちぱち
わたしとリットくんは、しらず、拍手をしていた。
「け、手品もどきかよ」
隣でひとり、ヴォルフがそんなふうに毒づいている。
あれから、わたしにはなついてくれているふうなヴォルフだけれど、マルカとはすっかりこんな感じだ。
男の子は喧嘩したら仲がよくなる、ってなにかの本で読んだ気がするけれど、あれは間違っていたのかな?
「すごいな、これは」
ヴォルフの言葉など気にもせず、マルカはナイフを見ながらそういった。
「もともとの手入れがよかったので、少し調整して研いでみただけ・・・…です」
ぼつり、とツクモがいった。
寡黙な彼はもともと鍛冶師さん、っていう話だ。
お国が魔導機器による大量生産をはじめるからって、古くからの技術で鍛治師をしていたツクモはクビになっちゃったんだって。
こんなに凄い技術を持っているのに、これだから大国って……
とわたしは昔の私を思い出した。
ほんとうに必要なものは、決して見失わないようにしなくっちゃ。
「あんなふうに、僕も、もっとおやくにたてることがあると思うんです」
マルカとツクモの様子を見ながら、リットくんが続ける。
なにか、こころあたりがあるみたいないい方だ。
そういえば、リットくんのおうちは代々ビーストテイマーの家柄なんだっけ。
彼自身は、まだ正式にテイマーというわけではないみたいだけど、やっぱりそういうことが得意なのかな。
たとえば動物のお世話だとか。
「なあ、姫さん。オレからもお願いがあるんだが」
ヴォルフが手で口元を隠しながら、ささやくようにそういった。
「姫さんの護衛は、オレひとりで充分だと思うんだ。だからあいつにいってやってくれよ。監視はもう結構です、ってな」
姫さんのいうことならあいつも聞くだろ、とヴォルフは続けた。
あいつとはもちろん……
「だまれ駄犬。貴様、自分がなにをしたのか忘れたのか?」
「だから、謝ったじゃねえかよ」
「謝って済むとでも思っているのか?貴様をアンネローゼさまのお近くに置くのですら、私は反対なのだ。アンネローゼさまが是非にというから許してやってはいるがな」
そうして、マルカはわたしにちらりと目をやった。
「私の目の届かないところで、などと、とんでもない」
うーん。とわたしは少し考えた。
そうして、ぱん、と胸の前で手をあわせる。
「わかりました。リットくん、ヴォルフ、それからマルカも。みんなわたしについてきて!」
勢いよく立ち上がったわたしに、みんなの視線が集まった。