13.ハラキリ、ダメ。ゼッタイ。
「うう、ん……」
「よかった。気がついたみたい」
リットくんの目がうっすらと開いて見えて、わたしはほっと一安心だ。
彼は少し身をよじるように、からだをふるふる震わせる。
うう、ちょっとくすぐったいな。
「あれ、僕・・・・・・」
リットくんはぱちりと目を見開き、わたしを見上げる。
「わわ、ごめんなさい」
彼はそういうと、ぱっと跳ね起きて立ち上がった。
なんだか顔が赤いみたい。
やっぱり、まだ少し横になっていたほうがいいような気もするのだけれど。
わたしはさっきまでリットくんの頭がのっていた太もものあたりを軽く整えて、そんなふうに聞いてみる。
「い、いえ、大丈夫ですから。ほらもう。ぜんぜん」
リットくっんはその場でぴょんぴょんとジャンプまでしてみせた。
「おう、大丈夫みたいだな、少年。よかっだぜ、その・・・・・・」
のし、とリットくんに歩み寄る影があった。
ヴォルフだ。
「・・・・・・!!」
さっきまで暴れ回っていたヴォルフを相手に、リットくんは目を白黒させている。
「・・・・・・さっきはすまな・・・・・・」
「誰が立っていいといいましたか?」
鋭い声が、ヴォルフを打った。
びく、とする彼に、マルカが続ける。
「ほら、はやく座りなさい、駄犬。話はまだ終わっていないのですが?」
いわれて、ヴォルフはすごすごとリットくんの側をはなれてマルカのもとへと向かう。
そうして、彼が指し示した場所に正座した。
よく見れば、くびから札のようなものをさげていた。
『わたしはつみをおかしました』
そう書かれた札。
あれって、むかしわたしがイタズラなんかをした時に、首から下げさせられた木札じゃなかったっけ。
シエラってば、まだあんなものを持っていたのね。
そのシエラはといえば、マルカに促され、ヴォルフにこんこんとお説教をはじめている。
「でもよう、」
だとか、
「そりゃ、わかったからさ」
なんていうヴォルフの言葉を気にもとめず、シエラのお説教はとまらない。
わたしも、よくやられたっけ。
だんだんと背中を丸め、大きなからだをますます小さくするヴォルフにちょっと前までの自分の姿を見て、わたしはちょっとだけいたたまれない気持ちになった。
「・・・・・・そんなこともちゃんと確認をせずに大暴れ。まったく、はずかしいとは思わないんですかね」
そうシエラがいうのが聞こえてきて、わたしはあたりを見回した。
うん。けっこう派手にやっちゃってるわね。
破壊されたのはテーブルがふたつに椅子がひとつ。
そのほかにもところどころ、へこんだり引っかかれたりした後がある。
『追放者のみなさん、ようこそ』
っていう横断幕は無事だけど、今の状態じゃあ、とてもみなさんをお迎えできる感じじゃないな。
「おー、こりゃまた、えらいありさまですな」
声かけられて振り向くと、入り口のあたりに何人かの人影が見てとれた。
「姫さま、ご無事で?」
「大丈夫よ。ほら、このとおり」
わたしは立ち上がって、くるりとまわってみせた。
人影は、王都ヘリオスの街のみなさんだ。
手に手に、鍬だったり、すりこぎ棒だったりと、みんな何かを持っている。
「大きな音がしたってんでみんなで駆けつけてきたんですが、大丈夫ならよかったです」
ああ、それで!!
もしもの時は、みなさん手にしたえもので戦ってくれるつもりだったのかな。
「ほんとうに、ありがとうみなさん」
みなさんは、顔を見合わせて、
「姫さまがご無事ならなによりた。どうやら危険もないらしいし、」
「よし、じゃあさっさと片付けちまおう。おい、大工。あのへん、修理してなんとかならんか?」
「ありゃあ、ちょっとムリだぁ。けど、確か、ウチに使ってないいいテーブルがあったはずだ」
「うちにも椅子ならそれなりのがあるぜ。姫さまにはちょっと大きいかもしれないが・・・・・・試しに持ってくるから、こっちは頼む」
「わかった」
どやどやとしながら話が決まっていくみたい。
「そいでいいですかな? 姫さま」
「いいもなにも、わたしのほうこそ聞きたいわ。いいの? みなさん」
わたしのほうからお願いしたいくらいなのに。
「もちろんでさ、なあみんな」
うんうんと頷きながら、みなさんは散らばって片付けをはじめる。
「あんた、えらい慕われてんだなあ」
ぽつり、と正座したままヴォルフがいう。
「そうか。やっぱりオレが間違っていたのか」
「やっとわかったか犬。わかったならアンネローゼさまに手をあげたことを恥じ、腹かっさばいて詫びるがいい」
マルカがいうのに、ヴォルフはうなだれる。
「ああ、すまなかったな、姫さま。それに少年も。あんた、マルカだったか。介錯を頼む」
「よし、剣は私のものを使うがいい。そこに直れ」
「ちょちょ、ちょっと待ちなさいふたりとも」
わたしは、急いでヴォルフに駆け寄った。
「ダメよ。簡単にそんなこと」
「邪魔をしないでくれ。もうオレには何もないんだ。このくらいして詫びるしか」
「わかった。わかったから。許します。わたしが許しますからハラキリはやめて」
とめようとするわたしの肩に、マルカの手がかかった。
「しかしアンネローゼさま。それでは示しがつきません」
「いいんだよ、姫さま。そいつのいうとおりだ。どうせ、オレなんて・・・・・・」
むむむ、とわたしは思った。
ふたりとも、そんなことをいうなんて。
こうなったら、あれを使うしかないのかも。
「リュミエールの王女として、」
とわたしはいった。
「あなたのことはわたしがあずかります。マルカも、それでいいわね」
アンネローゼさまがそれでいいなら。とマルカは引き下がる。
わたしはヴォルフのほうを向いた。
「そういうわけで、ハラキリは禁止。いい?」
「オレは、どうしたら」
ヴォルフは顔を上げてわたしを見る。
「そうね。ただ許してあげるっていうのもちがうのかなって、わたしもマルカにいわれて反省したの。だからね」
わたしはぐるりを指さした。
「まずは、みなさんの片付けを手伝って。あとのことは、それからお願いしますので」
ヴォルフはわたしを見つめたまま、こくりと小さく頷いた。
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