11.もふもふ、暴走!
「アンネローゼさま、お逃げください」
吹き飛ばされたマルカが、顔をゆがめながらそういった。
わたしはこたえず、ヴォルフのほうを見る。
「グ、ガァァァァァァ」
ヴォルフは吠え、腕を振り回して暴れている。
彼はわたしに対して文句をいいに来たはずだけれど、
もう、わたしのことを気にしてすらいないみたいだ。
それなら・・・・・・
わたしはこっそり、マルカのほうへ向かおうとした。
大きな怪我をしているようにはみえないけれど、あれだけ派手に飛ばされたのだ。
心配しても、しすぎるということはないだろう。
いけません
とマルカの口が動いて見えたけど、わたしは見ないふりをした。
暴れるヴォルフに見つからないよう、姿勢を低くして這うように。
マルカとの距離を半分ほど縮めたとき、
ゴトン
と後ろのほうで音がする。
「ガフ?」
その音に、ヴォルフが反応する。
彼はそのあたりにあった椅子をガッと掴むと、音のしたほうへぶん、と投げた。
机に叩きつけられたその椅子が、派手な音をたててバラバラになる。
「うわわわ」
リットくんの、悲鳴に似た声があがった。
物音がしたのは、確かさっきまでわたしと、それからリットくんのいたあたりだ。
「グォォォォォ!!」
ヴォルフが吠える。
そうして、のしのしとリットくんのほうへ向けて、歩き出した。
「いけない!」
リットくんが、机の影から這い出るのが見えた。
砕けた椅子が、どこかにあたったのだろうか。
痛そうに、足を引きずっているみたい。
「だめよ、こっち!!」
わたしはヴォルフの注意を引こうと、わざと大きな声で騒ぎたてた。
でも、彼はわたしを無視して、リットくんのほうへと歩みを止めない。
「もう、わたしに会いに来たはずなのに!!」
「アンネローゼさま!」
マルカの声が聞こえたけれど、気にしている暇もなかった。
わたしはとたとたと、小走りする。
這いずっている、リットくんのほうへと。
「まちなさい。ヴォルフ!!」
「グゴォォオォオォオ!」
わたしの声が、咆哮にかきけされた。
ヴォルフが思い切り振りかぶる。
その先には、リットくんが・・・・・・
「だめ、リットくんは!!」
わたしは彼に向け、おもいきり床を蹴る。
浮遊感。どうやらうまくいったみたい。
次の瞬間には、わたしはリットくんに覆い被さっていた。
「アンネローゼさま、だめです。やめてください」
リットくんの声が、したから聞こえる。
上からは、ヴォルフの拳が、今にも振り下ろされようとしていた。
どっちにしろ、もうどいている時間はないみたい。
あんまり痛くないといいんだけど。
そう思って、わたしはめをつむる。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「あ、あれ?」
大きく膨れあがったた、ヴォルフの拳。
それは、いつまでたっても訪れなかった。
わたしは少しだけ薄めをあけて、こっそり上のほうをうかがう。
腕を振りかぶったままの、ヴォルフの顔がそこにあった。
「なゼ、おまエ、が、追放シャを、庇ウんだ?」
絞りだしたようなくぐもった声が、かろうじてわたしの耳に届く。
目だけを動かしてあたりをうかがうと、リットくんの左袖がはだけて、手首があらわになっているのが見える。
そこには、追放者の文様が痛々しく浮き上がっていた。
ヴォルフは、これを目にしたらしい。
「なんデ、ナんデだ・・・・・・」
グォォォオォォォ
ぽつりといった直後、ヴォルフは上を向いて咆哮する。
しばらくのあと、糸が切れたように、
彼はばたりと倒れ伏した。