表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/53

1.或る女王の死

見上げれば、ベッドの天蓋がそこにある。


職人達が技術の粋をあつめて織り上げた、レースの端が目に入った。

お気に入りの逸品は、今はもう日焼けて煤け、破りとられて、

少しだけ残ったかけらが、がひらひらと風にあおられているだけだ。


私が王位についたときには、宝石や黄金。それから純白のレースが一面に縫い止められ、よい匂いの香だって焚きしめられていたはずだ。


今はもう、見る影もないけれど。


あたりにはカビ臭い、饐えた匂いが漂っている。


私は耐えきれずに、ゴホゴホと咳をした。


ぬるり、とした嫌な感触。

口に当てた手に目をやると、そこには赤い、血が混じる。


女王である私が、こんな状態にあるというのに、誰ひとり様子を見に来る気配もない。


「なぜ、こんなことになったのでしょう」


理由なんてわかりきっていることを、私はぽつりとつぶやいた。

それは、私自身のおこないのせい。


私が『追放』してしまった、あの『ビーストテイマー』のことだ。


畜産王国として周囲に識られる大国だった私の国は、彼を追放してから没落の一途をたどった。


『彼のつかう『ビーストテイム』の技術こそが、この国を支えていたのです』


そんなこと、私はぜんぜん知らなかった。


急に身罷られた父王さま。

その後を継ぐことになった、王女の私。


政治のことなんて、まるで知らなかった私は、親切に補佐をしてくれた大臣に、たよりきにりになってしまった。


「あのビーストテイマーは、何の役にも立っていません」


彼がそういうのを、私は疑いもしなかった。

私は、まんまと彼を追放してしまったのだ。


「あなたのような無能ものなど、この国には必要ありません」


そんな酷い罵声まで浴びせかけて。


知らなかった、なんて言い訳にもなりはしない。

だって、私は女王なんだもの。


その大臣も、もう私の側にはいない。

ビーストテイマーと酷く対立していたのだ、という彼は、国が傾きかけた頃、真っ先に亡命をしてしまった。

あのような人間を信じてしまっただなんて、後悔のしようもない。


かさ、と感触がした手の先を見ると、一枚の紙が目に入った。

何度も捨てようとして、捨てられなかった、ただ一枚の手紙だ。


『お願いだから戻ってきて』


ビーストテイマー宛てにしたためた、私の手紙。

その返信だ。


『こっちは新しい地でみんなに必要とされ、スローライフで毎日が楽しい。だから、戻ってくれ、だなんていわれても「いまさら遅い」』


丁寧な文章で、そのようなことが書かれている、拒絶の手紙。


もしやりなおせるなら、と私は思った。

もうかんたんに、ひとを追放したりだなんてしないのに。

そう思ったときには、すべてが遅かった。


視界がぼやけ、暗いものがそれすらも覆っていった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お読みいただき、ありがとうございます

↑↑を★★★★★にして応援頂けると嬉しいです

ブックマークもたいへんはげみになります


小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ