ドラゴンを倒したアサシン
勇者一行は国から依頼を受けてドラゴン退治に向かっていた。
私は国王直々に勇者一行を秘かに消せという命令を受けて、首都からずっと尾行している。
勇者一行の依頼も国王からのものだが、ここら近辺のドラゴンを退治されてしまうと近隣諸国から侵攻を受けてあっという間に壊滅してしまう。
国王はこれを危惧した。さらにはとある筋からの情報では勇者一行は隣国の帝国から派遣されてきた腕利きの傭兵らしい。
ということもあり、命令を受けたのだが。
尾行者は私一人ではなかったようだ。
勇者一行は時々、後ろを伺うために振り返ったりしている。もちろん、私が見られているわけではない。私よりも先を隠れながら歩く一人の少女がいるのだ。
少女は白いワンピースを着て一つ結びの黒髪を揺らしながら付いて行く。
勇者一行は魔法使い、勇者、弓使い、王国兵士風のものの四人だが、誰もがちらちらと少女を見てはため息をついている。
まぁ、首都からずっと付けているのがバレバレではため息もつきたくなるだろう。
だが、それももう終わる。
もうそろそろ、ドラゴンが待つ山の入り口に差し掛かる。
山の山頂付近は黒い雲で覆われており良く見えない。時々、暴風に乗ってドラゴンの雄たけびも聞こえてくる。
勇者一行は武器を構えるとゆっくりと入り口に入って行った。
すると、雷鳴のような音と共にドラゴンが雲の中から現れた。
「よし、サクッと倒してしまおう」
「よっしゃ! これで金持ちの仲間入りやな!」
二人が突撃していく。魔法使いがそれに合わせて支援している。ドラゴンに対して怯むことなく攻撃できるとはな。
だが、勇者一行には一つだけ誤算があった。
他の地域で縄張りを持つドラゴンでもそこそこ強いが、若い個体が多く比較的に退治しやすいが、ここのドラゴン。特に王国の四方を囲む山に住むドラゴンは古からいてとてつもない強さを誇る。
幾度となく討伐隊が組織されたが、すべてを返り討ちにしている。
「ギャっ!」
「な――!」
激しい閃光と轟音が響き渡る。
勇者と王国兵士風の奴がやられたようだ。魔法使いと弓使いも近くに倒れて自分の血に体を沈めている。
一撃でこの威力である。
暗殺という名目はドラゴンが代わりにやってくれた。これで任務は達成と言っていいだろう。
ここは余計なことをせずに帰ろう。
そう思い離れようとして瞬間。
「ドラゴン! 私と勝負しなさい!」
勇者の剣を持ちドラゴンと対峙する少女がいた。
何をしているんだ!?
ドラゴンは少女に向けて威嚇するように咆哮を上げ、口に光を集め始めた。
ヤバい。
そう思ったときには体が動いてしまっていた。
消し飛んだ勇者の荷物にドラゴン退治の切り札となる短剣があることは宿に泊まっていた時に確認済みだ。
その短剣二本を拾い上げ、少女の前に立つ。
ドラゴンのブレスを直接受ける気はさらさらない。少女を抱き上げてその場から離脱する。
その際に木の枝に短剣を挟んでおいて起爆魔法であるタイミングを待つ。
凝集させている光が一番小さくなる瞬間に短剣を二本とも起爆魔法で飛ばす。
光の玉に突き刺さる短剣。
瞬間、衝撃波と轟音が発生し私も少女も吹き飛ばされてしまう。
少女は近くの岩に体を叩きつけられ気絶する。
私も木の枝に体を叩きつけられる。枝のしなりで意識が飛ぶまでの衝撃はなかった。
音も衝撃もおさまってから、ドラゴンのいる方を見る。
首から上が吹き飛んだドラゴンの死体が転がっているのが確認できた。
さらに、山頂から聞こえるドラゴンの雄たけびが何度も響いてきた。一匹だけではなかったようだ。
ここは、少女を連れて首都に戻るとしよう。
こうして、ドラゴンは一匹だけだが討伐された。
アサシンがドラゴン討伐する。というニュースは裏社会で有名になったが公表はされなかった。
その時いた少女はすっかり懐いてアサシンの技術を習得するため、弟子となった。
「ねぇ、教えてよ!」
「堂々と教えられるものか! というか、家に帰れ!」
「私は一人身なので家はありませーん!」
「チッ!」
少女から逃げる日々で仕事どころではなくなった。