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栗城史多の山

作者: 十二滝わたる

槍ヶ岳や剣岳に

人知れず登っていた修験僧のような

誰からも知られないような快挙であるならば

誰か難攻不落の未踏峰や難関ル-トの登山をする者がいるだろうか

歴史や登山史や登山仲間からの栄誉や称賛のないままに

発表も報道も記録を残さぬままの

ただの満足を得るだけの登山を志す者こそが

ほんとうの山人なのだろうと思う


しかし

精神と肉体が分離不能であるが故に

人間のアンビバレントは生まれる

絶対矛盾が混在する不可解は

誰もが日常でも経験するはずだ

ましてや究極の魂の活路が究極の肉体の限界を共にするのならば

なおさらである


ひとりの孤独な男が

愛した女性の愛した山の魅力を探し

のめり込み過程の前に

彼が意識的であれ無意識的であれ

彼は最終結末を目標としていたはずだ

共有の模索や新たな試みや

肉体のもがきは

肉体の余暇により生じたものにすぎず

かれの精神は一途に目指したものは

最初から決めていた


山懐のその約束の場所であったのだ

彼は書きかけの原稿を残したままに

予定どおりにさわやかに立ち去った

愛した女性の愛した山に抱かれて


肉体のもたらす印象の撹拌により

騒ぎ出す世間は毀誉褒貶の騒動を醸し出すも

彼の到達した精神の高みにおいては

小うるさい世俗の修羅の群れにしかすぎないだ

しかし彼はそのような世俗をも愛そうとしていたのだ

売名だと三流だと彼の行動を批判する

型通りのエリ-ト登山家や自分の居場所を荒らされたと勘違いした

覚悟もないまま山にも世俗にも寄り付かない三流の狂言者達は

冷やかに又はやっかみながら彼を見つめるしかなかった

彼にとっては

そんなことはどうでもいいことであったろう

なぜなら彼は登山家なのではないのだから


普通の青年が限界を超えて目指し

自分の場所を選び抜いたのだ

彼のメッセ-ジはただ一つ

一人の女性に 愛している ありがとう

そう伝えるためだけの山にすぎない


父は彼に向かって静かに言った

お疲れ様でしたと

すべてを理解する理解者とはそういうものだ

何も語らずにすべてを理解する

彼の姿と映像を心に刻もう

お疲れ様 good-bye と・・・・・

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