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いただきます。  作者: 奏 杏実
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2/6

サラダ戦争

 自分の体型が、平均を大きく超えていることは自覚していた。

 だが、これまで繰り返してきたダイエットはリバウンドを繰り返し、中学三年間をかけて一度も成功しなかった。


「今度こそ、絶対成功させるんだから!」


 かのこはこれまでのダイエット遍歴に思いをはせた。何が合っていて、何が合っていなかったのか。そして周囲の成功者に話を聞いて出した結論。

「結局、わたしには運動とカロリーコントロールが一番ってことか」


 しかし、かのこは運動が大嫌い。幸い食べ物の好き嫌いはなかったが間食を控えるのが苦痛でたまらなかった。そして出したファイナルアンサー。

「そうだ。ウチの学食の単品サラダは結構分量がある。お昼のカロリーを落とせるだけ落としてみたらどうだろう?」


 かのこは早速お弁当をやめ、お昼は学食のサラダだけを食べることにした。けれど毎日サラダだけしかトレーに取らない生徒など、食堂のおばちゃんが目をつけないわけはない。


「あんた、毎日それしか食べないけど、どこか具合が悪いのかい?」

 貫禄のあるおばちゃん職員に問われたかのこは、

「そうじゃないの。朝と夜は家で食べ過ぎちゃうから、お昼だけでも軽くしてダイエットしようと思って」


本当は朝は通学時間ギリギリに起きるために食パン一枚なのだが、それは当然ながら言えない。しかしおばちゃんの目はごまかせなかった。


「そうかい。けど一食だけとはいえバランスの悪い食事だとかえって落ちないよ? 量は減らしても、主食と肉か魚は食べた方がいいよ」

「そうなんだ……」

 かのこはちょっぴり落ち込む。


「まぁ、あたしゃこの体型だから偉そうなことは言えないんだけどさ。はいこれ、あたしからサービス。明日っからはちゃんと食べるんだよ」

 おばちゃんはそう言うと、サラダの脇に白身魚のフライを一つつけてくれた。


「明日から、ちゃんと食べる。ありがとう」

かのこはパッと顔をあげるとおばちゃんに笑いかけた。

そこから、おばちゃんとかのこの二人三脚が始まった。



「かのちゃん、運動が嫌いだって言ってたけど、歩くのはどうだい?」

「歩く?」

「そう。この間テレビでやってたんだけどね」

 すっかりおばちゃんと仲良くなったかのこは、この提案に乗って通学に使っていた自転車をやめて歩くことにした。元々歩けないことはない距離だったので、朝もさほど早起きせずに済んだ。



「かのちゃん、この間メニューの改訂を話し合ってたんだけど、サラダの種類を増やそうかって案が出てね。あんたならどんなのが食べてみたい?」

「新しいサラダかぁ……あ、そうだ。最近話題になってる温野菜とかはどう?」

「温野菜か。でも冷めちまったら美味しくないよねぇ」


 おばちゃんとかのこはあぁでもない、こうでもないと頭を捻り、冷たくなっても美味しく根菜サラダを食べるためのドレッシング、野菜スティックなどを試行錯誤。


「基本はやっぱりごぼう、人参、大根だよね」

「芋類や蓮根はデンプン質だから入れられないんだよねぇ」

「緑は胡瓜の他ってなにがいいんだろう……」


 二人で頭を捻って決めた根菜サラダと野菜スティックはどちらも和風だしで下味をつけ、食堂で仕入れる材料で作れる野菜ドレッシングやディップまで考えた。

 そうして完成したサラダたちは、やはり他にも体型や体重、美容を気にしている女子生徒にじわじわと人気が出始め、かのこのダイエット仲間も増えた。


 そうして、かのこの高校生活はおばちゃんとダイエットが大部分を占め、過ぎていったのだった。



*****



「かのちゃんもとうとう卒業か。寂しくなるねぇ」

 そうつぶやいたおばちゃんの前に立つかのこの体型は、三年前よりもすっきりし、綺麗になった。


「かのこ先輩、寂しいです!」

 周囲にはまだまだぽっちゃりだったり、順調にダイエットに励む後輩たち。


「わたしも寂しい。けどちょっとだけのことだよ」

 かのこが笑顔で言うと、みんな頭の上に疑問符が浮かぶ。


「だってわたしが進学するのは、付属の大学で栄養科なんだから。まだまだ、ココに通うわよ」

「そうかい。じゃぁ、かのちゃんとあたしのタッグはこれからも続くんだね」

 おばちゃんは嬉しそうにかのこの手を握った。


「もちろんだよ、おばちゃん。せっかくウチの学食メニューがダイエットに最適だって周知されはじめたんだから、我がダイエット部のためにも頑張らないとね」

 かのこはそう言うと、おばちゃんと知り合ったばかりの頃から変わらない笑顔を浮かべた。



 その後、かのこは大学でもダイエット部を設立し、学食利用者の増員に貢献したとかしなかったとか。

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