7話 お兄ちゃんと宿泊研修
俺と小雪が通う、大由良高等学校は自由な校風が売りの私立高校だ。
よって、他校では珍しい、新入生宿泊研修なるものを年中行事として毎年行っている。
目的としては、自主性・自発性を旨とした実践を通し、自らの日常生活を見直して自立的な生活を確立する。
寝食・起居を共にする中で、相互の真の「ふれあい」のすばらしさを体得し、「思いやり」の心を育む。
と、宿泊研修のしおりには書いてある。
「金髪……よくも私に4枚も引かせたわね……!!」
「アンタから言い出した罰ゲーム、忘れたとは言わせないわよ?ジュース一本ね。」
「……あの…小雪さん?リリィさん?もう少し仲良くできないの?」
「「うっさい!」」
この二人が仲良くなるなんてカケラも想像できない。
俺たち1年B組は、宿泊研修施設に向かうためのバスに乗っている。
一番後ろの座席5人席を、リリィ、俺、小雪の順番で座って、UNOをしている最中だ。
俺とリリィの見た目のせいか、二つ席が空いているのに誰も座らない。
ちなみに班も3人一緒だ。4人班にも関わらず、俺たちの班だけ3人だけど……。
それもそのはず、大由良高校界隈で俺たち3人グループは『誘拐ヤンキース』と呼ばれているらしい。俺とリリィが誘拐犯で、小雪が拐われている子供に見えるということだ。
なんとも失礼でセンスのないネーミングだ、俺が犯罪を犯すような人間に見えるとでも言うのか。練馬に俺ほど優しい人間はいないと言うのに。
まったく……。
ぶっ殺してやろうか。
「ぐぬぬぬぬ!!また負けた…!!なんでそんなに強いのよ!」
「アンタが弱すぎるだけでしょ」
「……このビッチ!おしりむね!淫乱金髪!」
「はぁ!?アタシはまだ処っっ……!!」
生暖かい空気が流れる、リリィと目があった。
その見た目で……ふぅん。
萌えますね。
「雨川目線がキモい死ね!!」
「ぶべらっ!!」
おかしい、この宿泊研修は思いやりの心を育む為に行われている行事のはず……この金髪ギャル……全く手加減なしに俺をビンタしたぞ?
先生!黙ってないでちょっと注意して!この子全然怖くないから!案外乙女だから!
数時間後
宿泊研修施設に着いて、先生のメタルキング級に硬い話を聞き終えると、野外炊飯の時間だ。
ロッジから少し歩いた野外炊飯施設にいくと、東京では見えないような自然が広がっていた。
これから2日間この宿泊研修で、野外炊飯や登山、レクリエーションをする。
お堅い目的を並べているけど、宿泊研修を平たく言えば、
『入学したし友達作ってね会』
ということだろう。
「食材は各班のテーブルに置いてあります!各自の班で班長を決めて、協力してカレーを作ってください!」
担任の声に、1年B組の男子諸君は気だるく返事をしている。
馬鹿が、女の子はかっこよく料理できる男の子が大好きなんだぞ?ソースは俺。
リリィは、俺がクッキーの生地練っているときキラキラした目で俺を見つめていた。あれはもう俺に惚れているといっても過言ではない気がする。
「何?こっちじろじろみないで、キモいんだけど」
過言だった。
「ユウ、火、起こしたい、起こしていい?」
「おう、気をつけて火をつけるんだぞ、小雪」
トテトテと小雪はどこかへ走っていく、マッチかなにかもらいに行ったのかな?
火や包丁、危険なものを扱う時は必ず、小雪は俺に許可を求める。小雪ちゃんマジ大天使。
二人きりの時だけお兄ちゃん呼びになるコユキエルも捨てがたいが、ユウ呼びのコユキエルも非常に可愛い。
可愛いとはコユキエルの為にあるような言葉だと思う。可愛い=コユキエル、訳すと、コユキエルはコユキエルということだ。違うな。
「ユウ!火種持ってきたよ〜!」
「ん?」
小雪はえっちらおっちらと一斗缶を持ってくる。
「小雪……それはなんだ?」
「何って……ガソリン?」
ボマー捕まえた。
危ない、妹をテロリストにしてしまうところだった。成績優秀キャラはどこにいったのか、勢い余って1話目を改稿しそうになったぜ。
小雪は勉強はできても、こういった一般常識は欠如している節がある。
「何やってんのよちっこいの、ガソリンなんてまいたら死人でるよ、私が火をつけるからアンタは野菜でも切ってて」
「……はーい」
…第二次炊事場戦争が勃発するかとおもったら案外いうこと聞いたな。リリィは案外オカン属性なのかもしれない。
ビッチっぽい金髪ギャルが乙女でオカン属性か……悪くない。
「俺も火をつけるの手伝う、薪を割るのは力がいるからな」
「ありがと」
「むっ……ユウ、玉ねぎきれない、涙でる、手伝って」
「仕方ねぇなぁ、ちょっと待ってろ」
「雨川甘やかしすぎ、この宿泊研修は自立を促す為の行事ってこと忘れたの?」
なんだか空気がヒリついている気がする、思いやりを育むという目的があることも忘れないでほしい。
「小雪、猫の手だ。頑張れ」
「んぅ……わかった……」
小雪は手をにぎにぎして猫の手を作っている。やっぱりコユキエルはコユキエルだなぁ。
数分後、火をつけて鍋や飯盒をかける。鍋には小雪が切ったすこし不恰好な野菜と、リリィが焼いたチキンが並んでいる。
「こっからは、俺の仕事だな」
俺は家から持ってきた各種スパイスと必要な缶詰各種をカバンから取り出す。
小雪とリリィは不思議そうに俺を見つめている。
まずは、水、ローリエ、コンソメ塩を加え、火を強火にする。
「リリィ、薪を追加してくれ」
「ん」
数分後、鍋が煮立ちはじめる、すこし炭をとりだし、火を弱める。
「アンタ、こういうの本当に凝り性だよね」
「小雪には美味しいカレーを食べてもらいたいからな」
「シスコン」
「もちろんお前にもだぞ、リリィ」
「………あっそ」
トマトの水煮缶を開けてそのまま入れる、ハチミツも忘れずにいれる。蓋をすると、カレーではないけれど食欲をそそる香りがあたり一帯に広がる。
他の班も匂いにつられてこちらを伺っている。
あとは仕上げを残すのみ。
しっかり煮込んだら、醤油、ウスターソース、ガラムマサラを加え、最後に用意されていたカレールーを溶かせば完成だ。
「美味しそう……」
「ユウ、おなかすいた。我慢できない」
欲を言えばもう少し煮込みたかったけど、野外炊飯の時間は決まっている、仕方がない。
白飯を皿についでルーをかける。
「特製、お兄ちゃんの黄金本格チキンカレー。召し上がれ」
気がつけば、周りに人だかりができていた。みんな匂いにつられてきたのだろう。味付けだけでそんなに難しいことはしてないんだけどな……。
小雪とリリィがカレーを口に運ぶ。
「うまっ……一口だけで口の中に波紋が広がるみたいに旨味が広がる…辛さもちょうどいい……」
「あたりまえでしょ、ユウのカレーは世界一なんだから」
なぜか誇らしげな小雪が、ない胸を逸らす。いっぱいたべて大きくなるんだよ。
数十分後には鍋は空になっていた。
「昼からは登山か」
「宿泊研修と登山、なにが関係あるんだろうね」
リリィと皿を洗う、意外にもリリィの洗いもの手際はとても良かった。常日頃から家事を手伝っているのかもしれない。ギャップ萌えご馳走です。
「登山と言えば、遭難イベントだよな」
「なに言ってんの…?」
「いやだってよくあるだろ? ラノベや漫画で、登山とか、雪山にスキーに行くと、高確率で遭難するじゃん」
「……たしかにそうだけど……宿泊研修で予定されてるような山で遭難するわけないでしょ、教員だってその辺はちゃんとしてると思うよ」
「まぁそうだよな。」
このあと無茶苦茶遭難した。
次回はドキドキの遭難編です…!
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