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6話 第一次玄関前戦争






 重たい玄関をあける。


 玄関の先には金髪碧眼の女の子、リリィが居た。

 一見、遊んでいそうなギャルという印象を受けるが、金髪も地毛で、青い瞳も自前だ。父親がイギリス人らしい。


 「風邪は大丈夫?雨川」


 「あぁ、大丈夫だ。わざわざありがとな」


 プリントを受け取り、玄関を閉めようとする。ツッコまれる前に戦線を離脱する。脱兎の如き撤退だ。


 「ところで雨川、その背中は何?」


 しかし、まわりこまれてしまった!


 なんとかしておんぶ妹もとい、子泣き美少女と化した小雪をおろそうとしたけれど、


 『おろすだなんて!ひどい!お兄ちゃん私にあんなことやこんなことをしたのに!!責任はとらないっていうのね!!』


 と、叫び散らかすので、妥協案として親父の大きめのコートを小雪の上からはおり隠している。

 不自然に盛り上がった背中は莫大な違和感を放っている。ツッコむなという方が無理だ。


 「え?なんのこと?」


 それでもとぼける。小雪が義妹で同棲しているなんて知られた日にはまたあらぬ噂をたてられてしまうからだ。


 「それを誤魔化すのはちょっとキツイんじゃない?なんか声聞こえるし」


 「おいおいリリィ、俺にはなんにも聞こえないぞ?」


 ここは、小雪の無理難題駄々こね攻撃を日々受け流すことによって鍛えられた俺の誤魔化しテクニックを炸裂させるしかない……!


 「いや聞こえるって、雨川の背中から」


 「ちなみになんて言っているんだ?」


 「立ち去れ、泥棒猫……って言ってるけど」


 「ま……まずい…それは……!俺の家系に取り憑いている子泣き美少女の声だ……!逃げろリリィ!ここは危険だ!子泣き美少女に背中をとられたら最後!一生子泣き美少女のおやつほしいほしい攻撃を受け続けることになる!ちなみにおやつをあげないとめちゃめちゃグズるぞ!赤ちゃんも裸足で逃げ出すほど駄々をこねるぞ!!」


 「ふーん」



 リリィは問答無用で俺のコートを剥ぎ取った。2秒でバレた。



 「この前いたちっこいの……なんで一緒に……」


 「なによ泥棒猫、兄妹で一緒に住んでなにが悪いの?」


 「別に悪いとは言ってない。そっか、兄妹なんだね。……付き合ってはなかったんだ」


 「は?」


 「何?」


 ちょっ!怖い!怖すぎるって!!


 なんでこんな冷たい声出せるの!?女の子って喉にみんなエアコンつけてんの!?二人とも顔が整ってるから余計怖い!


 ここは俺の渾身の一発芸で場を暖めるしかない……!


 「まぁまぁ、二人とも、ここは俺の一発芸でも」


 「「うるさい」」


 「すみませんでした」


 もう無理、女の子怖い。


 「雨川、ちょっと妹さん甘やかしすぎなんじゃない?いくらシスコンだからってここまでワガママ聞いたり甘やかしちゃうと妹さん勘違いしちゃうよ?」


 「いや……そ…そっすね。へへっ」


 「お兄ちゃん?小雪がどんなにワガママいっても嫌いにならないって約束したよね?約束破るの?お兄ちゃんが約束守らないなら私も約束破っちゃおうかな〜おんぶ一日延長しちゃおっかな?それか口がとんでもなく軽くなっちゃうかも!」


 「すっ!すんませんしたぁ!」


 ここは謝るしかない、たとえ理不尽な責め苦を受けようと、反撃しちゃあいけない。女尊男卑のこの世の中、女の子は嘘泣きするだけで男子を抹殺できるのだ。


 この状況で反撃しようものなら、小雪は、


『いっとくけど私たち、もうとっくにキスすませてるから』


とか口走るに違いない。その流れだけはどうしても避けなければならない。

 はじめての友達を失うだけじゃなく、妹に手を出す鬼畜ロリペドシスコン野郎の烙印を押されてしまう。


 兄妹じゃなく義兄妹なんだ!と訂正しても結果は同じだ。練馬のアイドルと同棲してるなんて噂が広まればめんどくさいことこの上ない。



 「そういや雨川、この前はいろいろと教えてくれてありがとう。はじめてで怖かったけど、雨川が手取り足取り教えてくれたから、怖くなかったよ。むしろ気持ち良いくらいだったもん」


 「リリィさん?クッキー作りの話だよね?ちょっ小雪さん!?いだだだだ!腕はそっちには曲がらないよ!?」


 リリィが満足気に笑う、どうやらこの状況を楽しんでいるらしい。許せん、今度こいつに貸す漫画とラノベの背表紙を逆さまにして貸すことにしよう。


 「という冗談はおいといて……この前は本当にありがとう。弟達、喜んでくれたよ」


 リリィが笑う、思わず見惚れてしまうほど綺麗な笑顔だった。

 けれど、その冗談のせいで俺の右腕があらぬ方向に曲がりそうになっているのをちゃんと理解してほしい。現在進行系で。


 「それと、これ」


 プリントとは別の冊子を渡される。


 「宿泊研修?」


 「そ、高校入学したらよくある友達作りのイベントみたいなものだよ」


 「そうか、わざわざ悪いな」


 「いいよ別に、家近いみたいだし、明日はその宿泊研修の班決めがあるから休まずくるんだよ。それじゃあまたね」


 「おう、ありがとな、また料理に関してわからないことがあったらいつでも聞いてくれ」


 「わかった、近いうちにメールするよ」


 嵐のような金髪ギャルは去った。なんだかんだでいいやつなんだよな、アイツ。


 「ID、交換してたんだ」


 底冷えするような小雪の声が耳元で聞こえる。


 「IDくらい交換するだろ、俺とお前だって交換してる」


 「ふーん、なんだかおんぶ延長したくなってきちゃったな〜」


 「落ち着け……小雪…!やましいことは何もない!ただオタク談義に花を咲かせた程度だ!」


 「……ふーん」






 このあと無茶苦茶プリン作った。


次回から波乱の宿泊研修編です!



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