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5話 おんぶ妹





 小雪が拉致監禁ドッキリを敢行した翌日、俺たちは仮病を使って学校を休んでいた。

 新学期早々休んだのには理由がある。


 「えへへ〜お兄ちゃんいい匂い〜」


 「小雪さん、いつまでそうしているつもりでしょうか……?」


 背中に元幼馴染で現義妹、小雪が張り付いていた。家事をするにも食事を作るにも絶対に離れようとしない。

 駄々っ子おんぶ妹になってしまったのである。


 学校に行こうにも、このおんぶ妹は全力で抵抗し、


 「昨日わがまま言っても嫌いにならないって言った!」


 と髪を逆立てて激昂するのである。伝説のスーパーおんぶ妹になっちゃう勢いである。

 まぁ一日限定のおんぶ妹らしいので、今日くらいは甘やかしてもいいだろう。

 小雪に寂しい想いをさせてしまうたびに、拉致監禁ドッキリをされてはこちらの心臓が持たない。


 「ところで小雪さん」


 「なんだいお兄ちゃん」


 「なぜ急にお兄ちゃん呼びになったんだい?」


 「昨日言ったでしょ、妹になったとしても、私の気持ちはかわらないし、お兄ちゃんの気持ちが私にとって迷惑じゃないって信じさせてあげるって」


 「なるほど……」


 「愛して愛して、愛し尽くしてあげるね?」


 小雪が耳元で呟く、こら!いつの間にそんな妖艶な声を出せるようになったんですか!!お兄ちゃん許しませんよ!!


 「まさか……やなの?」


 「もちろん大歓迎だ」


 「やた!」


 おんぶポケモン、コユキエルのむねをおしつけるこうげき!

 効果は今ひとつのようだ…。


 比較的、いやかなり控えめな胸をグイグイ押し付けてくる。少し痛い、心なしかお兄ちゃんの心も痛い、ある意味こうかはばつぐんなのかもしれない。

 小雪の涙ぐましい努力が実を結ばない不憫さ、まるでこの世は生まれ持った才能がすべてと言わんばかりの残酷さである。


 「ねぇ、いま失礼なこと、考えなかった?」


 「なんのことやら」


 「私ね、耳を甘噛みすると、その人が嘘をついているかどうかわかるの」


 「は?」


 思わず右耳を隠す、まずい!小雪にそんなイタリアのギャングでスタンド使いの様な能力があったとは……!知らなかった!


 「ダウト、右耳を隠したね。嘘をついている証拠だよ。」


 「なん……だと……!?」


 お兄ちゃん知らないよ?こんな高度な心理戦を繰り広げる妹知らないよ?いつの間にメガ進化したの?ゼット技繰り出しちゃうの?

 お兄ちゃん悪タイプだからフェアリータイプの小雪の一撃は、こうかはバツグン、いっぱつ瀕死である。股間がわるだくみをくりだしてしまう。そして、そのまま刑務所に叩き込まれるまである。


 「そして、左耳はガラ空きだよ?」


 「ふぇ?」


 「かぷっ」


 フェアリータイプ、コユキエルの一撃、耳を舐める。こうかはばつぐんだ。


 「こら小雪!お兄ちゃんそんな妹に育てた覚えはありましぇん!はなしなしゃい!!」


 「ひもうとにらったの、おとついからふぇしょ」


 「ちょっとくわえたまま喋らないでぇぇ!もうひんしだから!ライフポイントもゼロだから!!」



 おんぶポケモン、コユキエルはそのまま数十分ほど耳を舐めたのち、ふへぇ、と満足げな声を漏らした。お兄ちゃんは股間がわるだくみをはじめたのでなんとか気持ちを落ち着けた。



 今は小雪がお腹が空いたと駄々をこねはじめたので、さっき3時のおやつ作って食べさせたばかりなのにフレンチトーストを焼いている。


 「ねぇ、お兄ちゃん」


 「どした?」


 「……昔した約束、思い出した?」


 「あぁ……思い出したよ。」



 昨日、小雪に正座させられながら問いただされ、ようやく思い出した。


 幼い頃、小雪と交わした約束を。





 10年前 近所の公園のブランコにて



 「ゆーくん、ゆーくんっておよめさんいるの?」


 「いないよ」


 「じゃあわたしがなってあげる!」


 「えー、今はいいや」


 「なんで!?わたしのこときらいなの!?」


 「だって、告白って、おとこからするもんだろ?」


 「えっ……まぁ…そうなのかな……?」


 「こゆきがでっかくなったらオレから言うよ、そうだなーこゆきのたんじょうびにしよう、ケーキもあるし」


 「たんじょうび…!わかった!やくそくだからね!!」


 「おう。」



 昨夜、ようやく思い出した。よくある、他愛ない子供同士のじゃれあいかと思っていたけれど、小雪にとってはそうじゃなかったみたいだ。

 もちろん、俺もその時からずっと、小雪のことは好きだった。けれどまさか本心で言っているとは子供の時の俺は気がつかなかったのだ。



 フレンチトーストの香ばしい香りが小雪のお腹をならす。恥ずかしそうに背中でもじもじしている。

 その恥ずかしさを誤魔化すように、小雪は口を開いた。


 「私の誕生日は?」


 「12月24日」


 「期待してて、いいんだよね?」


 「もちろん、小雪の気持ちには、ちゃんと応えるつもりだ」


 小雪が嬉しそうに、そして恥ずかしそうに、顔を背中に埋める。俺も恥ずかしくて顔が真っ赤になっていた。



 「ちょっとくらい、フライングしても大丈夫だからね?」


 頬に小雪がキスをした。耳が真っ赤になる。もちろんこうかはばつぐんだ。



 二人の世界に入ろうとしたその時、玄関でチャイムが鳴った。妹の可愛らしい舌打ちが聞こえる。


 「なーんでこう……いいところで毎回邪魔が入るかなぁ…」


 小雪がボソボソ呟いている。俺としてはありがたい、まだ付き合ってもないのにそういうことをするのはお兄ちゃんいけないと思います!えっちなのはいけないと思います!


 おんぶ妹を抱えたままインターフォンを確認する。



 「はーい、どちら様ですかー?」


 「雨川、元気?プリント持ってきた。」


 「リ……リリィ。ちょっと待ってくれ、すぐ行くから!」


 玄関には、昨日、クッキー作りを手伝ったリリィがプリントを抱えて立っていた。青い瞳が夕日でキラキラ輝いている。

 インターフォンを切る。


 「泥棒猫。」


 底冷えするような声で小雪が呟く、どうやらフェアリータイプから氷タイプに進化したようだ。怖い、どこから出したのその声…。


 「小雪さん、プリントを貰いに行ってもよろしいでしょうか?」


 「もちろんいいよ、お兄ちゃん。」


 「じゃあちょっとだけ…おりててくんない?」


 「え?やだよ?」


 どうやらこのおんぶ妹、呪いの装備だったようだ。ド●ゴンク●ストでお馴染みのあの音が流れる。教会に行くまでこのおんぶ妹は外せないらしい。



 「見せつけちゃおうよ、私たちの兄弟愛を」




 満面の笑みで小雪は笑った。

おかげさまでジャンル別日間ランキング13位にランクインすることができました!ありがとうございます!このまま5位以内に入れるよう頑張ります!


次回は、おんぶ妹vs金髪ギャル


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