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3話 妹の可愛さは犯罪をも助長させる





 天使のふわとろプリン3個で小雪の機嫌は回復した。


 桜が散りはじめた学校前の並木道を小雪と歩く。



 「いいか、俺たちが兄妹になったということは絶対に秘密だからな」


 「もうーしつこいなー、わかってるって」



 校門前で耳打ちする。この兄妹関係がバレれば練馬の小雪ファン共は黙っていないだろう。

 俺に喧嘩を売ってくる分には全く問題ない。

 問題は、嫉妬と絶望のあまり、小雪によからぬことをしようとする奴らだ。

 まぁ10人程度なら同時に屠ってみせよう。必殺のレインリバーブローでな。


 しかし、小雪のファンは10人程度ではない。非公式のファングループが両の手では数え切れないほど存在している。

 穏健派ならまだしも、スモールスノースメルという過激派グループは小雪の私物を盗むためにゴミ捨て場で張り込んでいたほどだ。

 もちろん抹殺した。いや、死ぬよりも辛い目に合わせたと言った方が正しいだろう。

 こういう時だけ自分のヤクザ顔や腕っぷしは役に立つ、今は亡き母親に感謝だ。



 「げっ、なにあれ……!」


 「やはり今年もやってきたか」


 前方から50人ほどのグループがこちらに向かって走ってきている。おそらく部活勧誘だ。


 「小雪ちゃーーーん!!野球部のマネージャーやらない!?甲子園連れてってあげるよ!!」


 「いやいや時代はサッカー部だって!野球部なんて汗臭くて小雪ちゃんには似合わないよ!!」


 「テニス部だってマネージャー募集してるよ!小雪ちゃんなら仕事しなくても大丈夫!!そこにいてくれるだけでいいんだ!」



 奇声をあげながらどんどん近づいてくる。おそらく奴らも小雪ファングループに属しているやつらだろう。


 しかし、案ずることはない。この部活勧誘小雪争奪戦争は毎年のように起こること、予測はできていた。


 「小雪、さがってな」


 「ユウ……」


 小雪とファングループの間に割って入る。若干小雪の瞳が水気を帯びている、頬も赤い。あんな奇声をあげる集団に狙われて怖いのだろう。安心しろ、お前はお兄ちゃんが守る!



 学生鞄に手を入れる。そして、



 トンプソンM1短機関銃をとりだす。



 安心してくれ、もちろんモデルガンだ。しかしそんじょそこらのモデルガンとはわけが違う、今は亡き母方の実家が俺に持たせてくれた特注品だ。


 銃口を奇声集団に向ける。セーフティを外し、撃鉄を起こす。


 「良い子は真似しないでねっ!!」


 引き金を引いた。バララという小気味良い音が学校中にこだまする。


 「うわあああぁぁぁあああ!!! ヤクザだ!!ヤクザがいるぞおおお!!!逃げろォォオオオオ!!!」


 「誰がヤクザじゃ死に晒せやボケーーーッッッ!!」


 礼儀知らずを一人残らず抹殺するため、追いかけ回す。足を狙えば動きを止められる、トドメを刺すのは後で大丈夫だ。


 「ちょ!ユウやりすぎ!死人がでちゃうって!!」


 小雪が学ランの裾を引っ張っている。


 「……しかし小雪、ゴギブリは1匹見かけたら30匹はいると聞く。凄まじい繁殖力は雑魚と言えども侮れんぞ?」


 「ユウは過保護すぎ!そんなに心配しなくてもみんなそのうち飽きるって」


 大天使コユキエルがここに降臨なされた。小雪がそこまで言うのだ、見逃してやろう。


 「……そんなに私のことが心配なら、離れないように家族にしちゃえばいいんじゃない?」


 「ん?もう家族だろ?」


 「まぁ……そうだけど……」


 コユキエルはなにやら不服そうな顔をしている。やはり俺なんかと兄妹になってしまったことにまだ納得がいってないのだろう……。すこし…いや、かなり悲しいけれど、小雪の為に、表情には出さない。



 ……安心しろ小雪!!お兄ちゃんはお前に決して手を出さないぞ…!!






 始業のベルがけたたましく鳴る。ホームルームが始まるようだ。俺と小雪は急いで教室に向かう。


 今年も俺と小雪は同じクラスだ。これで10年連続同じクラス、これはもう運命かもしれない。


 1年B組の教室に入る。俺の顔をみた生徒がボソボソと小声でなにか話している。


 どうせヤクザだとか、不良だとか、そういった噂話だろう。まったく失敬な、俺のどこがヤクザで不良なのか、人を外見で判断しないでほしい。サブマシンガンで掃射してやろうか。


 「ユウは私のこと、有名人だってよくいうけど、たぶん私よりユウのほうがこの街じゃ有名だよ。」


 「えっ……なんで?」


 「ファンを撃退するためにサブマシンガン連射するようなやつ、有名じゃないほうがおかしいでしょ」


 「まぁ……たしかに……そうか」


 教室の扉が開く、どうやら教員が入ってきたようだ。俺たちは急いで席についた。



 教室の窓から外を眺める。春風にのって、桜の花びらが校庭を走っていた。





 


 今日の授業も簡単な自己紹介や、担任の挨拶、校内見学で終わった。改装されたばかりの校舎は木材を基調とした暖かいデザインで、廊下を歩くだけで木の香りがした。


 小雪と一緒に廊下を歩く。外から運動部の元気の良い挨拶が聞こえる。


 ちょうど今は放課後、部活動見学の時間だ。



 「ユウは部活に入らないの?」


 「そうだな、料理部とかは、すこし興味があるな」


 「ユウらしいね」


 くつりと小雪が笑う。小雪は食べることが大好きだ。

 俺は小雪の気を引くために料理をはじめた。

 ロリ小雪の屈託のない笑顔を思い出す。これだけでご飯200杯はいける。


 「おっ、家庭科室だね、覗いてみる?」


 本校舎1階の突きあたり、この匂いはクッキーだろうか。香ばしい匂いが漂っている。


 「現役高校生の腕前とやら、拝見させてもらおう」


 「クッキーか悪くないね」


 さっき昼飯を食べたばかりなのにもう小腹が空いたらしい、しかしながら毎日大量摂取している栄養は小雪の体のどこに使われているのだろう……俺が見るに、胸に使われていないということだけは確かだ。


 家庭科室の扉をあける。奥の方で金髪の女生徒がオーブンとにらめっこしていた。テーブルの上にはすこし焦げたクッキーが大量に焼かれている。


 金髪にピアスに肌色のカーディガン。手首にはシュシュを巻いている。ギャルのテンプレのような服装、ミニスカとルーズソックスがあればさらに完璧だった。ギャル力80点といったところだ。


 「なんか用?」


 金髪ギャルはこちらを振り向かずに答える。どうやらクッキーにえらく集中しているらしい。前かがみになっているせいで健康的な太ももが見え隠れしている。

 いだだだだ!ちょっと小雪さん、足踏まないでもらえます?


 「あのー料理部を見学しに来たんだけど…」


 「料理部?そんな部活はこの学校にはないよ」


 「え?じゃあ…」


 「アタシは先生に許可もらって家庭科室借りてるだけ」


 なるほど、先生に許可さえ貰えば家庭科室を自由に使えるのか、なかなか自由な校風だ。


 「ねぇ、このクッキー食べていい?」


 「いいよ、弟達にあげるやつだけど、失敗しちゃったから」


 「やた!」


 小雪が嬉しそうにクッキーに飛びつく。失敗か……色はともかく香りはそんなに悪くはないけど。


 「俺もひとつ、いいか?」


 「どーぞ」


 金髪ギャルはまだオーブンとにらめっこしている。ひとつのことにしか集中できないタイプの子かもしれない。小雪とよく似ている。


 クッキーをひとつ口の中に入れる。味も食感も悪くはない。ただすこし焼きすぎているのと、バターの風味が弱かった。


 「おいしい!」


 「そりゃどーも」


 小雪が問題なく食べられるレベルで美味しいのは間違いない。

 そんなにクッキーを渡す弟のことが大事なのか。シスコン、いやブラコンか…。

 どちらにしろ、大切な人のために妥協のないものを作ろうとする精神はものすごく好感が持てた。



 「クッキーの作り方、教えようか?」


 「え!?」


 「マジ!?」


 小雪と金髪ギャルがほぼ同時に振り向く。小雪さんがものすごい形相でこちらを睨んでいる。心配しなくても作ったらちゃんと食わせてやるよ。


 金髪ギャルが震える唇を開く。


 「……なんでヤクザが学ランきてんの?」


 「ヤクザじゃねーよ、ぶっ飛ばすぞ」




 訂正する、この金髪ギャル嫌い。








 数十分後、家庭科室の中は芳醇なバターの香りで包まれていた。


 金髪ギャルは俺の風貌を見たにも関わらず、何も態度を変えず俺と接している。

 自分で言うのもなんだけれど、豪胆なやつだ。


 「すごい……めちゃくちゃ美味しそう」


 黄金色のバタークッキーがテーブルにおいてある。雨川スペシャルバタークッキーとでも名付けようか。


 「どうだ金髪ギャル、これがヤクザの焼いたクッキーだぜ?」


 「さっきのはごめんて!食べていい?」


 金髪ギャルの瞳が青く輝く、カラコンだろう。最近のギャルはスマホだけじゃなく眼球もキラキラにしたがるのか、ギャル怖い。


 「もちろんだ、小雪も食べていいぞ」


 「いらない…」


 小雪がむくれている。かわいい。わざとほっぺを膨らませてしまうあたりかわいい。あざとかわいい。


 「うまーーっ!私のクッキーと何が違うの…!?」


 「さっき説明しただろ?たぶん、バターを泡立て器ですり混ぜすぎたり、生地を触りすぎたりすることが原因だ。たしかに、すり混ぜることは大切だけど、食感が良くなることと引き換えにバターの味が伝わりにくくなるんだ。」


 「な……なるほど、難しそうだね……できるかなぁ…」


 「弟に渡すんだろ?手伝うからさっさと作っちまおうぜ」


 「……あ、ありがと」


 金髪が嬉しそうにはにかむ。

 同じ、シスコン、ブラコン同士、助けあわねばなるまい。


 「私、帰る」


 「おい!小雪!!」


 小雪が機嫌悪そうに家庭科室を出て行く。


 ……なにか用事があるのかもしれない。学校から家まで歩いて5分だし、まぁ一人でも大丈夫だろう。


 また生地を作ることから始める。さっき作ったバタークッキーは明日の小雪のおやつにしよう。



 窓から差し込む光がすこし陰る。快晴の予報だった天気は曇りに変わっていた。







 1時間ほど経っただろうか?ようやく、金髪のクッキーが完成する。


 「うん、美味い。これならどこに出しても恥ずかしくない出来だ」


 「よっしゃー!これで弟達も喜ぶよ!ありがとう……えっと」


 「そういや自己紹介してなかったな、雨川ユウ、よろしく」


 「ありがとう雨川。私はリリィ・カーベンダー、リリィでいいよ」


 「……驚いた、ハーフだったのか」


 「顔は母さん似だからね、この髪のせいでよくギャルや不良と間違われるよ」


 アンタと一緒だね、とリリィは笑う。たしかに共通点が多い、シスコンとブラコン、見た目にそぐわず料理が趣味。好きな漫画まで一緒だった。


 「また、料理教えてね」


 「おう、いつでも言ってくれ」


 小雪の言う通り、考えすぎず行動することの大切さを改めて実感した。今日、この高校ではじめての友達ができた。






 スマホがけたたましくなる。小雪からだ。






「ユウ……ッ!!!たす………け……てッ!!」





 小雪の声と、複数人の男の声が聞こえる。




 「今のって…ヤバいんじゃ…!」


 「リリィ悪いけど片付けは頼む!!」





 家庭科室の扉を勢いよく開けて廊下に飛び出す。








 天気予報は外れ、雨が降っていた。



 


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