28話 お兄ちゃんと一泊二日の温泉旅行【後編】【お風呂回】
窓から見えていた夕日も沈み、部屋の窓から見える竹林は、暖かい光にライトアップされ、ロマンチックな雰囲気を醸し出していた。
俺たちは豪華絢爛な夕飯を食べ終え、二人、無言で、なぜか正座をしていた。
「じゃあ……お風呂……入る……?」
「そっ…そうだな!」
「お兄ちゃん、先に入ってて、私あとからいくから……」
「……わかった」
兄妹でお風呂に入るだけだ、別におかしなことじゃない。よくあることだ。俺たちの場合、ちょっぴり血が繋がってないだけだ。
えっちなことをしているわけじゃないということだけ、各方面に伝えたい。あくまで、義妹といっしょにお風呂に入るだけだ!!ダメか!!ダメだな!!
「……すげぇ」
脱衣所で服を脱ぎ、今日の2時間だけ貸切の露天風呂を眺める。
竹林と大岩に囲まれた露天風呂は、灯篭のようなものでライトアップされていて、とても幻想的だった。
体を洗い、湯船に浸かる。思わずおっさんくさい声が出てしまうけれど、これだけ気持ちいいんだ、仕方がない。
体を奥からじんわり温める湯船に浸かりながら、虫の音を聞く。秋の夜風が心地いい。
「……お兄ちゃん…いる……?」
脱衣所の扉の奥から、鈴の音のような声が聞こえる。大天使コユキエルだ。あぶないあぶない、露天風呂があまりにも気持ちよすぎて、今世紀最大級のラブコメイベントを忘れるところだった。
「いるぞー……」
「じゃ……じゃあ、入るね……」
カラカラと音をたてて、小雪が入ってくる。なぜか不自然な霧が立ち込める。ちょっと邪魔!!なにこの霧!なにも見えないんですけど!!
「背中、流そうか?」
「いい……じぶんで、できるから」
小雪のあられもない姿を見るため、目を凝らす。新雪のように綺麗な肩や背中は見えるけれど、肝心の胸やお尻は不自然な霧やライトによって見えない。
なんだこれ!!物理法則無視すんなよ!!!
小雪が体を洗っている。どれだけ凝視しても、この距離じゃ物理法則無視しやがるクソみてぇな霧に邪魔されてしまう。
だがしかし、安心してほしい。
すぐ近くまでくれば、さすがに霧といえども完璧に隠すことはできまい。
なになに?ノクターン行き?!!!おっぱい見れるなら上等じゃボケェ!!!!ノクターンでもミッドナイトでもいったるでぇ!!!
小雪がタオルを縦に、体を隠すように湯船に入ろうとしている。
「小雪氏、湯船にタオルをつけるのはマナー違反では?」
「……お兄ちゃんのえっち……まぁ……べついいけど……」
小雪がタオルを退けた途端、不自然な霧が小雪を包み込む。上等だ。その物理法則無視した霧がどこまで通用するか、勝負しようじゃねぇか。
小雪との距離、およそ4メートル。長方形の湯船の端と端に俺たちはいる。家族団欒の湯、こんなにも離れていていいのだろうか?
いいや!よくない!!よくないぞ!!
「小雪、そっちによっていいか?」
「……うん…いいよ」
小雪のオーケーは頂いた。ならばあとは進撃あるのみ!!目標!小雪の控えめな小雪!これはチャンスだ!絶対に逃すな!!!
3メートル……
2メートル……
1メートル……
物理法則無視したクソみてぇな霧がだんだん薄くなっていく。勝ったぞ!!俺は勝ったんだ!!数多のラブコメイベントを、少年の夢を!大人の夢を!ぶち壊しにしたクソみてぇな霧に勝ったんだ!!
ラブコメアニメや漫画、ラノベのイラスト、その他もろもろのえっちなシーンを不自然な霧や光で邪魔され、がっかりした少年諸君!大人諸君!!君たちの無念はすべて!俺、雨川ユウが貫くぞッッ!!
小雪の肢体を見た暁には10万文字1話にぶち込んでお届けするぜ!!ブクマよろしクゥゥー!!
貫けぇぇええええええええ!!!!
小雪の控えめな小雪を見るべく、目を凝らす。
すると。
今度は湯が不自然に濁っていた。
「F◯CKッッ!!!!」
「ちょっとお兄ちゃん!湯船であばれないで!」
「あんまりだぁ……こんなのってないよぉっ……!」
月明かりに照らされた、露天風呂に浸かる。小雪と肩があたるくらい近くにいるけれど、やはりなにも見えなかった。
「お兄ちゃん」
「……ん?」
「私……アメリカに行っても、頑張るね」
「おう、何かあったらすぐにお兄ちゃん駆けつけるからな」
「ダメ、ちゃんと勉強しなさい」
「勉強より大事なことって、あると思うんだ、友達とかね」
「お兄ちゃん、友達一人しかいないじゃん」
「……リリィはいい奴だから10人分くらいにはなるだろ」
「浮気?死ぬの?おんぶ?選んで?」
「……じゃあおんぶで」
「………うん、いいよ」
小雪はそういうと、俺の背中にピタッとくっつく。露天風呂で、だ。何も着ていない露天風呂で、だ。
控えめな小雪の控えめな小雪が、俺の背中に控えめにあたる。
何か感じるような感じないような。柔らかいような柔らかくないような。いやきっと柔らかいな。うん。女の子だもん、柔らかいに決まってるよ。
「……無反応?」
「……違うんだ、小雪、お兄ちゃんちょっとびっくりしちゃって」
「むぅ……私だってもう3年もすればボンキュボンなんだからねっ!!ばか!!」
そういうと小雪はさっきの定位置に戻る、相変わらず肩は触れ合う距離にいるのでドキがムネムネしている。いや胸がドキドキか。
いくら理不尽な霧に隠されてるとはいっても、やはり俺のユウがユウしてしまいそうになっている。だって男の子なんだもん!仕方ないよねっ!
まぁこういう時はお母さんの裸を思い浮かべれば冷静さを取り戻す、というのがラブコメの定番でもある。
小さい頃に亡くなってしまった本当の母の裸は思い出せないので、小雪の母、舞子さんの裸を思い浮かべる。
「お兄ちゃん!鼻血でてるよ!!」
駄目だった。
鼻血をたらしてのぼせ上がる。意識が遠のく。
「じ…人工呼吸ねっ!仕方ないもん!人工呼吸するねっ!」
小雪が頬を赤らめて口を可愛らしく、タコみたいにしている。意識をうしなっ……て…たまる…か……。
こうして、俺の今世紀最大のお風呂イベントは、舞子さんの裸を思い浮かべてノックダウンという情けない結末に終わった。
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