25話 2ヶ月遅れの浴衣と、小雪の決意
親父がイギリスに戻って、数日たった。
リビングで頭を抱える。
「あぁ〜反省文おわんないよぉ〜」
俺は今だに反省文に頭を悩ませていた。100枚はキツイって……。
10枚あたりまではなんとか反省文らしきものは書けたが、20枚あたりに差し掛かると流石にネタ切れをおこしてきた。仕方ないだろ、世界一可愛い妹の為ならライブくらいするだろ。
教員たちはそのあたり分かっていない。だからわからせてやる必要がある。
今は犯行動機、つまり、妹の可愛さについて書いている。
もう反省文なんてどうだっていい、小雪の可愛さを教員たちも知れば、俺がなんで魂のライブを強行したかわかってくれるだろう。このネタならのこり80枚すべて埋め尽くすことができる、いや200枚はいけるな。
「お兄ちゃん、ひま、かまって」
「お兄ちゃんいま忙しいからあとでなー」
「……む…」
オリジナル小雪にかまいたい気持ちを抑えつつ、目の前の原稿用紙に集中する。よし、10万文字はいける!
……いやまてよ、この反省文を読んで教員どもが小雪のファン(過激派)になったらどうしよう……ありうるぞ。小雪の可愛さは国家を揺るがすほどだからな。
日本ははやく小雪に国民栄誉賞を授与すべきだと思う。小雪の可愛さによる癒し効果によって練馬のあらくれどもは骨抜きにされているのだ。
小雪がいなくなれば練馬は戦場と化すだろう。俺が戦場にする。
「やべぇ……筆が捗ってしょうがない…!」
これは書籍化まったなしだ、いや書籍化どころかアニメ化、そしてハリウッド映画化までいける!
「お兄ちゃん……」
「どしたー? お兄ちゃん今、小雪をハリウッドスターにすべく執筆活動中なんだけど」
「はりうっどすたぁ…?」
後ろから小雪の声が聞こえるけれど、いまは目の前の反省文、もとい原稿用紙に集中する。
確信した、俺はこの一大抒情詩を書き終えるまで、この原稿用紙の前から離れないと、この原稿用紙に真摯に向き合うと。
小雪の可愛さを世界中に広めるのだ。世界で一番発行部数の多い本、聖○を超える勢いだ。聖女小雪だ。ハリウッド超えちゃったよ。
「お兄ちゃん、浴衣きたよ」
目の前の原稿用紙をマッハで放り投げて後ろを振り向く。
そこにはハリウッドスターや聖女なんて目じゃないくらいの超絶宇宙級の美少女、小雪がいた。
そう、俺の近くに御神体、もとい小雪はいるんだ。こんな紙切れにうつつを抜かしている暇はなかった。
「ど……どうしたんだ? 浴衣なんか着て……秋の祭りはもう終わっちゃったぞ?」
「お兄ちゃん、見たいって言ってたでしょ……だから、着てあげよっかなって」
「お前はなんて……なんてできた妹なんだ……!」
小雪にどういう心境の変化があったのかわからないけれど、急いで自室に戻って、大枚はたいて買ったカメラを持ってくる。
「小雪、写真撮ってもいいか」
よだれを垂らしそうになるけれど、なんとかこらえる。震える手をなんとか抑えて、カメラを構える。
「いいけど……えっちなアングルはダメだからね」
「安心しろ、お兄ちゃんはそんなことしないからな」
小雪は髪を結って、お団子ヘアーにしている。お祭りで女の子がよくやってるあれだ。いつもは見えないうなじが見える。なんて綺麗なうなじなんだ、俺が調査兵団なら立体機動装置を駆使して進撃しているところだ。
あのエロいうなじをなんとかキャメラにおさめる為にアングルを調整する。
「なんか、お兄ちゃんの目つきえろくない…?」
「えろくないよ、何言ってるんだ、お兄ちゃんはえろいこと考えたことありません」
時に、浴衣というのはノーパンノーブラで着るのなどという非常に破廉恥な風習が日本にはあると聞き及んだ。
小雪もノーパンノーブラなのかどうか、これは早急に調査する必要がある。
しかしながら、『小雪って、浴衣着る時ってノーパンなの?』とは聞けない。
聞けば間違いなく拳が返ってくるだろう。殴られるくらいならまだいい、ご褒美ととれなくもないからだ。でも殴られたあとの無視はつらい。
俺は真性のMではないので、放置プレイだと割り切ることはできないのだ。
小雪が着ているアサガオ柄の浴衣は、かなり薄い布地でできている。
そう、しゃがんでお尻の部分の布が突っ張ったとき、おぱんつの紐部分が少し浮いて見えるくらいには薄い。
ちなみに俺が作った。
これは部屋で着るようだよと、小雪には念を押していたので、外で着るようなことはないだろう。まぁそんなことはどうだっていい。
小雪がしゃがんだとき、ぱんつの紐部分が浮いて見えれば、ぱんつをはいているということ。
小雪がしゃがんだとき、ぱんつの紐部分が浮いて見えなければ……そういうことだろう。
どうしよう、お兄ちゃん、急に小雪を肩車したくなっちゃうかもしれない。
別にいかがわしい気持ちではないということだけ、伝えたい。これはあくまで民俗学という学問の範疇なのだ。
日本国民の文化を俺は調査したいだけなのだ。
「お兄ちゃん、写真撮れた?」
「おう、可愛くとれたぞ」
「じゃあ、一緒に撮ろ、スマホの壁紙にするから」
そういうと小雪はウサギの耳がちょこんとついた可愛らしいスマホを構える。どうやらインカメで自撮りをしたいらしい。
「おう、いいぞ」
「もっとちかくによって」
「おう……」
小雪と俺の顔が急接近する。柑橘系の香りがする。小雪が好きなアロマの香りだ。唇がすこしだけキラキラしている。どうやら今日は化粧をしているらしい。家の中では基本スッピンなのに、珍しいな。
「はい、チーズ」
シャッターを押す瞬間、頬になにか柔らかいものがあたる。写真を確認する。小雪が俺の頬にキスをしていた。
「……えへへ、カップルみたいだね、待ち受けにしよっと」
「そ……そういうことするならさきにいえよ!!えっち!!」
恥ずかしそうに、はにかむ小雪。写真を大切そうに保存している。
可愛いが過ぎるので、思わず抱きしめそうになるけれど、なんとか耐える。今はぱんつ案件の方が大切だ。
俺は2ヶ月前から練りに練っていた作戦を実行に移す。
手に隠しもった500円玉を、小雪にバレないように、落とす。
500円玉はころころと転がり、小雪のちょうど後ろで止まった。
「悪い小雪、拾ってくれないか?」
「……もう、しょうがないなぁ…」
これがシンプルかつ、もっとも怪しまれない方法だ。小雪がかがんで500円玉を拾えば、布は突っ張るはず!片時も目を離すことはできない!
ノーパンか!ぱんつか!どちらでも美味しいぞ!!!!!!
時間がゆっくり進む、小雪の動きもどことなくぎこちなく、ゆっくりだ。
500円玉を拾おうとしたその刹那
インターホンが鳴った。
「あ!そういえば、私、am○zonで注文してたものがあるんだよ!とってくるね!」
am○zonめぇ……ッッッ!!!
俺は落ちている500円玉を拾う。
……落ち着け、焦ることはない。まだ時間はたっぷりあるじゃないか。
トテトテと小雪が戻ってくる。少し大きめなダンボールをガザゴソと開封している。
「しゅるるる!ばーん!お月見セット!」
小雪は某サングラスをかけたyoutuberような声を出して、ダンボールから白い団子と、その団子をのせる木の高杯をこれ見よがしに見せてくる。可愛い。
「今日はスーパームーンらしいよ、お兄ちゃん、お月見しようよ!」
「お月見か…いいな」
しかし、小雪がこの程度のお団子の量で満足できるはずがない。
「小雪、お腹すいてないか?せっかくだから焼きそばでも作ろうか? お好み焼きでも、たこ焼きでもいいぞ?」
「………今日はお団子だけでいいや」
「………」
………おっとあぶないあぶない、びっくりしすぎて意識がぶっ飛んじゃうところだった。ダイエットでもしてるのか?それとも……
いやお医者さんは快方に向かっていると言っていたんだ、邪推はよそう。今は小雪とお月見を楽しむんだ。
「そうか、お腹すいたら言うんだぞ」
「うん、ありがと」
縁側に、小雪と2人で座る。空には大きな月がくっきりと浮いていた。
「月が綺麗だな」
「……このまま、時が止まればいいのに」
お決まりの言葉に、小雪は恥ずかしそうに、返す。
「森鴎外か……さすがに詳しいな」
「乙女の憧れだもん、返し方くらい、調べてるよ」
すこし、フライングしてしまったかもしれないけれど、直接的な表現じゃないから、セーフだ。
約束の日には、ちゃんと自分の言葉で、想いを伝える。
「お兄ちゃん、これあげる」
「……なんだこれ?」
綺麗な包装を丁寧に開ける。赤いマフラーが入っていた。
「ちょっと、早いけど、誕生日プレゼント。入院してる時、コツコツ作ったんだ」
「小雪……ありがとう、大切にするよ」
不器用な小雪が、丁寧に編んでくれたマフラー……一生の宝物にしよう。
すこし長めのマフラーを、小雪の首に巻く、余った部分は俺に巻く。
いままでつけた、どんなマフラーよりも、暖かかった。
「俺の誕生日って、1週間後だろ?どうしていまなんだ??」
「…………」
小雪は、口をつぐんで、ゆっくりと俺の肩に頭をのせた。
「……私ね、もうすぐアメリカに行かなきゃ……いけないから……」
月を、暗い雲が覆った。
次回は小雪とのデート編です、長くなれば、前後編になると思います!
日間ランキング1位を目標に今後は最低1日2話投稿をすることにしました。評価、感想、ブックマーク等をいただけると更新のモチベーションにつながります。できれば3話投稿したい…!
どうぞよろしくお願いします!




