24話 自宅療養の妹と、自宅謹慎のお兄ちゃん
練馬の中心で愛を叫んだ俺は、その後、抵抗むなしく先生に捕縛され、2週間の謹慎処分を言い渡された。
退学まで覚悟していたのに、2週間の謹慎で済んだのは不幸中の幸いだ。100枚近く、白紙の反省文を渡されているけれど……。お兄ちゃん、腱鞘炎になっちゃう。
なんでも、生徒の一人がスマホで俺たち『誘拐ヤンキース』の動画を撮って、SNSに投稿したらしく、その動画が大きな反響を呼んでいるらしい。
苦情は少しきたものの、むしろ、バンドに関する情報や、メンバーの素性を求めての電話が学校に殺到しているようだ。特にリリィの人気がすごい、その件のSNSを見ると、リリィのベースを弾いている姿が何万リツイートとバズっていた。
ちなみに俺に関してのツイートはほとんどなかった。別に悲しくないよ?だって小雪の為に歌ったんだもん。別に悲しくないよ?
「あぁ……反省文しんどいよぉ……」
「お兄ちゃん、頑張って」
大天使コユキエルが俺の膝の上から応援している。
小雪の体調も少しづつだけど、回復しているらしく、自宅療養を許してもらえたらしい。またこんど、大きな病院で診てもらうらしいけど、しばらくの間は家にいるそうだ。やったぜ!
「小雪さん、嬉しいんですけど、ちょっと反省文書きづらいかなって……」
リビングのテーブルで反省文を書いている俺のあぐらの上に、小雪はちまっと座っている。
「いやなの?」
「嫌じゃないですけど」
「ならいいじゃん」
大天使コユキエルは、この前のライブ以降、かなり甘えたになっている。入院でお兄ちゃんに会えなかったのがそんなに寂しかったのか。ったく可愛い妹だぜ。
「お前らいつの間にそんなに仲良くなったんだ?」
リビングのテーブルに座って、新聞を読んでいた親父が俺たちをみて驚いている。
小雪が入院してから看病の為、舞子さんと一緒にイギリスから帰ってきていた、けれど、また今日の夕方からイギリスに戻るらしい。親父の仕事はあまり融通が効かないようだ。
舞子さんはもろもろの手続きの為、今はアメリカにいるらしい。詳しくはまだ聞いていないけれど、たぶん小雪の病状の件についてだろう。
親父が訝しげにこちらを見ている。てめぇがイギリスで舞子さんとイチャついている間にいろいろあったんだよ!!
「おじさんがイギリスでお母さんとイチャついている間にいろいろあったんですよ」
小雪は妖艶な笑みを浮かべている。小雪さん、いろいろに含みを持たせるような言い方は非常に気まずいと言いますか、やめていただきたい。まだキスしかしてないでしょ!!いやダメか!!!
「そうか……節度をもった、生活を……その、するんだぞ」
「もちろんです、おじさん」
うわーっ!気まずいよぉ!なにこの空気!親にえっちな本見られた時みたいな!保健の教科書の性教育の部分を見てしまった時みたいな!うわーっ!
「ユウ、いつもお前ばかりに負担をかけてすまんな……」
「……別いいよ、親父の仕事も大事だ」
俺の親父は公にできないような仕事をしている。外交関係の仕事とは、俺も知っているけれど、詳しい話はしらない。じぃちゃんが言うには、日本という国の為には必要な仕事らしい。今回もかなり無理をして日本に帰ってきているみたいだ。1ヶ月近くも休みをとっているからな、普通の仕事だって、それだけ長い期間の休みをとるのは難しい。
「困ったら、お父さんかじぃちゃんにすぐ連絡するんだぞ」
「わかった」
そういうと、親父はリビングから出ていく、イギリスに戻る準備をはじめるんだろう。すこし、悲しげな顔をしていた。
ここ半年、いろいろなことがありすぎてなかなか落ち着けなかったけれど、当分の間はゆっくりできそうだ。
「………ん…」
小雪は俺のあぐらの上で器用に体を丸めて寝ていた。
安心して眠っている姿を見ると、なぜだか涙が出そうになる。綺麗な黒髪を大切に撫でる。小雪が少しだけ笑ったような気がした。
小雪の誕生日まで、あと2ヶ月と少し。
俺は、ただ、漠然と、
大切にしよう、そう思った。
「……」
「……」
待てよ?今なら小雪の胸のサイズを確認できるんじゃないか?
小雪は安心しきって、はふぅ、と寝言を言っている始末だ。馬鹿め、お前が寝ている場所は狼さんの巣だということを……いやいや違う。
前にも言ったけれど、やましい気持ち、罪悪感は一切ない。なぜなら小雪の為だからだ。小雪が元気になった時の為に、パッド入りの水着を作成せねばならんのだ!小雪の為に!小雪のおっぱいを揉み揉みするのだ!!
「小雪、すまん……これはお前のためなんだ…!」
「んぅ……」
「……では、失礼して。」
小雪のおっぱいを揉み揉みしようとした瞬間。
リビングの扉が開く。
親父と目が合う。
「ユウ……お前……」
「ちっ……違うんだ親父……!!」
「小雪ちゃんとそういうプレイをする仲にまで……お父さん……知らなかったよ……」
「違う!これはその…胸パッド作成の為の資料としてだな!!」
「小雪ちゃん……寝てるのに……?」
「うっ……!」
親父は見たこともないような悲しい顔をして、扉をゆっくり閉じた。
「違うんだぁぁぁあ!!親父ぃいいいいい!!」
何が違うのか俺にもわからないけれど、喉が張り裂けるくらい、そう叫んでいた。
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