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19話 夏祭りの準備と、リリィの宣戦布告と………。







 胸パッド事件から3日後、俺は小雪に謝り倒して、リビングの床がすり減るほど土下座しまくって、なんとか許してもらった。

 いまは夏休み真っ只中、お昼を食べ終わった俺たち兄妹は、リビングで撮りためていたアニメを見ていた。

 アニメをみている小雪は終始ご機嫌だ。大枚はたいてかったカメラを無駄にするわけにはいかない。水着は仕方なくあきらめた俺は別のイベントを切り出す


 「小雪、夏祭りいかない?」


 「や」


 一言でばっさりいかれた。


 最近小雪が冷たい気がする。正確にはリリィとの一件があってからだろう。

 ……まさか、やきもち?やきもち焼いちゃってるのか!?

 小雪がやきもちを焼いちゃってるのならお兄ちゃんとして見過ごすわけにはいかない。ストレスはお肌の大敵だからな。


 「小雪ちゃん、なでなでの時間だよ、おいで〜」


 小雪はこれに一発で落ちる。2コマで即堕ちする。正直、俺のなでなでのどこがいいのかわからないけれど、小雪が好きなら問題ないのだ。


 「……なでなでいらない」


 「ぬぇぅ!?!?」


 「いらないっていったの!あっちいって!!」


 頭の整理がつかない、やばい……。


 小雪に嫌われたかもしれない……。


 「こ……小雪? お兄ちゃんのこと嫌いになっちゃったの……?」


 「嫌いじゃないよ」


 「ふぇぇ……? 嫌いじゃないならなんでそっけない態度とるの?」


 「私、気づいたの、押してダメなら引くべきだって」


 「引く……?」


 「どうやら、こうかはばつぐんみたいだね」


 にひひっと小雪は笑う。こうかはばつぐんどころじゃねぇよ。ひんし超えて即死だよ。可愛さと残酷さが相まって最強に見えるよ。


 「夏祭り、本当にいかないの? 焼きとうもろこしも、りんご飴もあるんだよ?小雪の大好きなマヨネーズたっぷりの焼きそばだってあるよ?」


 「い……いかない」


 揺れたな?お兄ちゃん見逃さないぞ?

 小雪の好きな食べ物を一言で表すと、ボリュームのある食べ物、だ。小柄な体躯とは裏腹に、量のあるお腹にたまる食べ物が大好きだ。

 逆にわたあめなんかはあまり好きじゃない。『美味しいけど、食べた気しないね。雲くらい大きかったらいいんだけど』と無茶苦茶なことを言うのだ。


 「オムそばも、あるのに……たこ焼きも……あるのに……」


 「………」


 小雪のアホ毛がビクンビクン反応している。もう少しだ……!もう少しで堕ちるぞ……!


 「からあげ!フライドポテト!」


 「………っ」


 「やきとり!お好み焼きぃ!!」


 「………お、お兄ちゃんと、2人きりなら夏祭りしてもいいよ。」


 だらっしゃあ!小雪陥落!

 お兄ちゃんにそっけない態度とろうとしても、屋台には勝てなかったみたいだな。そっけない態度をとろうとした罰だ。お兄ちゃんなしではいられないくらい甘やかしてやるぞ。グヘヘ。


 「それじゃあさっそく今日の夏祭りに行く準備を……」


 「ん? 行かないよ?」


 「言ったでしょ、お兄ちゃんと2人きりなら夏祭りしていいって」


 「え……?」


 「人混み嫌いだし、ここでしようよ、夏祭り」


 どうやら小雪はお家で夏祭りをしたいらしい。まぁ俺としては小雪の浴衣を見れればそれでいいから別にいいっちゃいいんだけど……。

 浴衣、なんと甘美な響きだろう。これはネットの情報なので、あまり信じてはいないけれど、どうやら浴衣の下はノーパンノーブラなどというえっちな文化がこの日本には存在しているらしいのだ。


 小雪のノーブラノーパン浴衣。なるほど、なるほどなるほど。なるほどな。


 ひかえめに言っても、最&高だな。


 小雪のこぶりながらも女性特有の丸みを帯びたおしりのラインを下賤な奴らどもに見せるわけにはいかない。家で夏祭り、アリだな!!

 

 「わかった、お兄ちゃんが最高の屋台料理を作るから、待ってなさい。まずは買い出しにだな……ついてくるか?」


 「……いい、ちょっとだけ、体調悪いから……」


 「大丈夫か!?」


 小雪のそばに駆け寄る。小雪は昔から体が弱い。小学生のころ、病名は聞いてもよくわからなかったから覚えていないけれど、難しい病気にかかって一年近く入院してたことがある。正確には今も完治しているわけじゃなくて、あくまで薬などで症状を抑えているだけらしい。


 ここ数年はものすごく元気だったから油断していた。


 「ちょ……おにいちゃん、ちかい」


 「でも、小雪にもしものことがあったら……」


 「心配しすぎ」


 小雪はなぜか満足げに俺の頭を撫でる。


 「今のでちょっとだけ元気になったよ」


 「なら……いいけど、買い出しに行ってくるから、何かあったらすぐ電話するんだぞ」


 「はーい」


 自転車の鍵とカバンを持って、家をでる。うだるような熱気が体を包み込む。まさに夏、と言った具合だ。


 今日は近所のデパートの特売日。この絶好のタイミングを逃すわけにはいかない。


 駐輪場に自転車をとめると、見慣れた金髪がデパートの入り口にいた。


 「おーいリリィ!」


 「……雨川、久しぶりだね」


 デパートの食料品コーナーをリリィと歩く。少し効きすぎた冷房が心地よかった。


 「へぇー、夏祭りね」


 「小雪の要望で、家の中ですることになったんだ。リリィも来るか?」


 「行きたいけど……今回はパスかな、今日はいろいろと用事があるし」


 「そうか、残念だな」


 屋台料理に必要な具材をどんどんカートに入れていく。

 小雪を満足させるためには少し多め……いやかなり多めに買う必要がある。


 「あの……少し、屋上で話さない?」


 何か決心したような面持ちで、リリィはポツリと喋る。


 「いいけど、また何かあったのか?」


 「いや……そういうわけじゃ……ないんだけど……」


 リリィが隣でうつむいてぽしょぽしょと話す。白い肌はすこし赤みを帯びていた。


 エスカレーターを使い、デパートの屋上に上がると、子供達の楽しそうな声が聞こえてきた。よくある屋上遊園地というやつだ。

 俺とリリィはソフトクリームを買って、日陰のベンチに腰掛ける。


 リリィは赤くなってうつむいている。金髪が風でふわりと揺れる。今日の彼女はどこかいつもの雰囲気とは違った。例えるなら、オカンから女の子になったような……。


 「あの……雨川…!」


 「おう……どした?」


 ソフトクリームをぎゅっとにぎってうつむくリリィ。伏し目がちに俺の方を見ている。顔真っ赤だし、何か悩みでもあるのか?


 「その……えっと……最近、どう?」


 「最近どうって……まぁ調子いいんじゃないか?風邪とかひいてないし」


 「そう……!よかった……!」


 リリィはまた赤くなって、うつむく。あれ?コイツってこんなに話ベタだっけ?

 まるで恋する乙女のような反応だ。

 ……まさか、この前の一件からついに、ついに、俺のことを好きになったのか?

 崖下落下やら熊やらDV父親から救いまくってきたもんな。


 リリィは俺にベタ惚れぞっこんと言っても過言ではない気がする。


 「その………あの………」


 「………?」




 「……す……好きなの……雨川の………こと…」




 「へ?」


 過言じゃなかった。


 リリィは驚いたような顔で、顔を赤らめて、またうつむく。表情がころころ変わるやつだ。ちなみに俺はかたまっている。


 「ごめん……急にこんなこと言っても、困らせちゃうだけかと思ったんだけど……今言わなきゃ、恥ずかしくて一生言えないと……思って……」


 頬を両手で抑えて、一言ずつ、ゆっくりと喋るリリィ。顔はさらに真っ赤になっている。

 告白とか、そう言ったことでもサバサバこなしちゃうサバサバ系女子かと思っていたけれど、まったく逆のようだ。

 目の前で恥ずかしそうに、伏し目がちにこちらを伺う彼女は、間違いなく恋する純情な乙女だった。


 「え……あ……その……」


 こういう時、なんて言えばいいのか、小雪の告白でさえ、半年待ちにさせるヘタレな俺に即答などできるはずもなく。どうすればリリィを傷つけないで済むかを考えていた。


 「返事は、いいよ…! わかってるから……!」


 「わかってる……?」


 「雨川は、あのちっこいの、小雪が好きなんでしょ? 」


 「な……なぜそれを…!」


 「聞かなくてもわかるわよ、アンタの態度見てたら」


 リリィは少しだけ頬を膨らます。あざとい!あざといよあんた!金髪ギャルで純情で乙女であざといなんて!属性持ちすぎ!メモリの無駄遣いだよ!でも可愛い!悔しい!!


 「今回のこれは、告白じゃないからね…! いわばこれは宣戦布告ってやつ…だから!」


 「……宣戦布告?」


 「……アタシ、欲しいものは割と強引に手に入れるタイプなんだよね」



 そういうと、リリィは人差し指を自分の唇にあてて、それを俺の唇にあてた。


 あまりにも自然な仕草で、止めることも避けることもできなかった。



 「……雨川は、アタシのこと、好きになるよ、好きになって、アンタがアタシに告白するの」


 「………」


 「……なにか言いなさいよ…っ」


 「……顔を真っ赤にするくらい恥ずかしいならそんなことするんじゃありません!」


 「はぁ!?べ……べつに恥ずかしくなんてないし!?」


 リリィと軽口を叩き合う。

 ソフトクリームを食べ終わると、ベンチから立ち上がる。


 「覚悟しててよね。アタシが本気をだしたら、あのちっこいのなんて、目じゃないんだからっ」


 「おう……お手柔らかに頼む……」


 そういうとリリィは足早に去っていった。最後まで耳真っ赤だったな……アイツ。




 俺はのぼせた頭で家まで自転車を走らせた。まだ心臓がバクバク鳴っている。


 俺は小雪のことが好きだ。誰よりも。


 だけど、リリィも小雪に負けないくらい魅力的な女の子だ。そんな女の子にまっすぐ好意をぶつけられて立ちくらみをしているだけだ。そう信じたい。


 でも今回のことは小雪には黙っておこう、どう言い訳してもレッドカードを発行されてしまいそうな気がする……。


 「ただいまー」


 玄関をあけて、家に入る。冷たい空気が心地いい。エアコン最高。


 「………ん?」


 小雪のおかえりが聞こえない。お兄ちゃん寂しい。おかえりくらい言ってくれてもいいのに。まだ押してダメなら引いてみろ作戦を続けているのか?

 勘弁してほしい、小雪にそっけなくされたら、こうかはばつぐんどころじゃない。ひんしをとびこえて即死まである。


 リビングの扉を開ける。


 「お兄ちゃんが帰ってきたぞーおかえりくらい言ってもいいんじゃ……ない……か?」



 一瞬、脳がかたまる。






 「………え?」




 小雪が倒れていた。







日間ランキング1位を目標に今後は最低1日2話投稿をすることにしました!評価、感想、ブックマーク等をいただけると更新のモチベーションにつながります。できれば3話投稿したい…!


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