10話 兄妹になる前の出会い
真っ暗闇。確か俺はリリィをたすけて……あれ……なんだっけ……?
混濁した意識の中、俺は何故か、
小雪と出会った日を思い出していた。
12年前
「あの……!オレもサッカーまぜてくれない……?」
黒髪の少年が、公園で遊んでいる少年達に声をかけている。幼い日の俺だ。
「……げっ!おまえヤクザのぼっちゃんだろ!」
「それきいたことある!目つきのわるい子はヤクザってわるいやつの子だから、あそんじゃダメってママが言ってた!」
「オレ……なにもわるいことしないよ? だからいっしょに……!」
「……いこうぜ、みんな。」
少年達は俺を睨みつけながら。公園から出ていく。
昔からそうだった。外見や、確証もない噂だけで、みんな俺を厄介者扱いする。
ずっとひとりぼっちだった。
だれもおれのことなんて、みていなかった。
「アイツのじぃちゃん、人ころしたこともあるらしいぜ!とうさんがいってた!」
「……っ!」
リーダー格の少年に飛びかかる。取っ組み合いの喧嘩になった。
じぃちゃんはヤクザなんかじゃない。身寄りのない人を屋敷に招き入れて、仕事を与えている、いわば人材派遣会社のような仕事をしているだけだ。
風貌や、金融関係の仕事をしていることもあって、誤解しても仕方ないと今は思うけれど、当時の幼い俺は、大好きなじぃちゃんを馬鹿にされるのは許せなかった。
「とりけせよ!じぃちゃんは人ごろしなんかじゃない!」
「おまえバカか!? こっちは15人だぞ!? かてるわけないだろ!!」
「かてるかてないじゃない!おまえはオレのかぞくをバカにした!とりけせ!!」
「くっ!!おまえらてつだえ!!」
囲まれ、踏みつけられ、殴られる。体を襲う痛みなんかよりも、家族を馬鹿にされて何もできないことの方が、痛かった。
痛い……さみしい……。
だれか……たすけて……。
「やめなよ」
鈴の音のような声がきこえた。一瞬、本当に鈴が転がったのかと思うほど綺麗な声だったのを今でも覚えている。
「だれだおまえ……っ!?」
少年たちの動きが止まる。まぶたをあけて、声のした方に視線を傾ける。
そこに、見たこともないような美少女が立っていた。
ベタで月並みな表現かもしれないけれど、その時は本当にそう思ったんだ。
「みんなでひとりをいじめるなんて、さいていね」
「……いや、これはプロレスごっこだよ!な!だからさ、きみもおれたちとあそぼうぜ!」
その子に見惚れたのか、リーダー格の少年が、その子の肩に触れようとした。
「さわらないで。アンタなんかにきょうみない、きえて」
白いワンピースを風に揺らし、優雅に、そして冷たく少年をあしらう女の子。
あまりにも冷たい視線だったのだろう、リーダー格の少年は半泣きになりながら、取り巻きをつれてどこかに行ってしまう。視線を向けられてない俺でさえ、怖かったほどだ。
広い公園の隅で、二人、ポツンと座っている。
「だいじょうぶ?」
「うん……ありがとう……でも、なんでオレなんかを……」
「かっこよかったから」
「えっ……?」
「かてるかてないじゃない……ってところ。なんか、むねのおくが、きゅってなったの」
さっきの冷たい視線とは、全く別物。暖かい綺麗な笑顔で、頬を染めながら、彼女はそう言った。
「わたしのなまえは、こゆき。しらいし こゆきっていうの。あなたは?」
「……オレは……あめかわユウ……」
「きれいななまえだね、ゆーくん」
「こゆきだって、きれいななまえだよ」
自分の目つきを見て怖がらない女の子ははじめてだった。
たぶん、その時に、俺はもうその子のことを好きになっていたんだと思う。
「わたし、さいきんひっこしてきて、ともだちいないの、よかったらともだちにならない?」
「っ……うん!いいよ!」
不思議と涙があふれていた。けれど哀しくはない。嬉し涙の意味をその時はじめて知ったんだ。
……小雪に、会いたい。
「お……にぃ……ちゃん…」
小雪の声が聞こえる。悲しそうな声だ。
「お兄ちゃん……!」
泣いているのか、小雪?
誰だ、俺の妹を泣かせたやつは…。
「ユウ……!お願い……っ!目を覚まして……!」
あ、俺か……、俺が小雪を悲しませているのか。
まぶたを開こうとしても、開かない。不思議な感覚だ、金縛りというものだろうか?
……金縛りだろうがなんだろうが、関係ない。気合いでも根性でもなんだってふりしぼって、開けなければならない。目を開けて、小雪を安心させてやるんだ。
なぜなら俺は、お兄ちゃんだから。
「……知らない天井だ」
「ユウ!!」
渾身のエ○ァンゲリオンネタを無視して小雪が俺に抱きつく。いだだだだ!小雪さん!まだ傷口が治ってないみたいですよ!!
「よかった……無事で……!」
どうやら病院に運ばれたらしい。視界の端にナースコールやら花瓶やらがうつる。リリィも部屋の端のほうに立っていた。
「雨川……本当にごめん……崖下に落ちた時に怪我したの全然気づかなくて……それなのに、わたしたくさんアンタにたすけてもらって……本当にごめんなさい……!」
……リリィは俯いている。片方の頬が赤くはれていた。まさか……。
「金髪、謝って済む問題じゃないんだよ。アンタがそもそも崖下に落ちなければこんなことにはならなかったんだから。反省して、これ以降はあまりでしゃばらないことね。」
小雪さんブチギレていらっしゃる……。
「まぁ……リリィも無事だったんだし、それでよかったってことで…!」
「なんでこの女を庇うの、お兄ちゃん?」
いや怖っ!小雪さん怖ぇー!目のハイライトをキャストオフした小雪さんは洒落にならんくらい怖い!!
俺がプリンパフェを作った時、興奮のあまり『これがブルジョワなのね…』とよくわからないことを呟いちゃったかわいらしい小雪ちゃんはやく帰ってきて!
「ねぇ、なんでって、きいてるの?」
「えっと……リリィさんもですね……悪気があって落ちたわけじゃ……ないわけですし……」
リリィがこちらをうるうるした目で見ている。どうやら小雪にこってり絞られたらしい。かわいそうに、気持ちはわかるぞ。
「ふーん」
「へへっ……」
「おんぶされちゃうよ??」
「おいリリィ! このドジっ子め!反省しなさい!!」
「いや変わり身はやっ!」
この世に、『おんぶされちゃうよ?』なんて脅迫があるとは思わなかった。俺限定のコユキエルの必殺技になりつつある。もちろんこうかはばつぐんだ。
「ところで、お兄ちゃん」
小雪はポケットからキラキラしたスマホをとりだす。どこかで見たことあるような……。小雪はたぷたぷとスマホをたぷっている。
「再生っと」
『名付けて!ハンムラビパイオツ法典!! 女の子のおっぱいを触っても自らの胸筋を触らせれば罪に問われない!これこそ真の男女平等! ジェンダーギャップ指数アメリカ越えを狙う為の唯一の方法だ!!』
だれだこの動画にうつっている目つきの悪い男は……しかも詭弁がすぎるぞ。不潔!女性の敵!!
「お兄ちゃん、この動画で、その……胸について熱く語ってる男、知ってる?」
さぁだれだろうな、そんな目つきの悪いヤクザみたいなやつ、一度見たら忘れないとおもうけどな、俺は知らない、小雪には悪いけれど、正直に答えよう。
「えっ?だれだろうな?」
「お前だよ」
俺でした(暗黒微笑)
「おいリリィ!話が違うぞ!!」
「だって! どうしてもこのちっこいのが持ち物検査するっていうから! アタシだってわけわかんないのよ! なんでアタシのスマホのパスワード知ってるのよ!」
「そんなことはどうだっていいの、お兄ちゃん」
「ひぃっ…!」
小雪さんの顔が近づく、もちろんハイライトはキャストオフだ。
「お兄ちゃんは、痴情にまみれた肉塊がいいの? それともお淑やかで清純な控えめな胸がいいの? どっち?」
なるほど、これは選択肢を間違えると死ぬやつですね。セーブセーブっと。
「はやく答えて」
時間制限があるのか、なかなかハードだな。
「も……もちろん、お淑やかで控えめな胸の方が……好きでゲスよ?」
「お兄ちゃん大好き〜!」
めいっぱいの笑顔ですりすり甘えてくる小雪。罪悪感で胸がいっぱいになる。
小雪には悪いが、実は俺は大きい方がすきだ。でも小雪のおっぱいなら俺はいつだって大好きだということは伝えたい。
控えめなおっぱいというものにはそそられないが、控えめな小雪のおっぱいにならそそられる。
小雪の母親、舞子さんはとても大きかった、だから小雪もまだ可能性はあるのだ、遺伝子的には微レ存なのだ。
「何言ってんの雨川、アンタ、アタシの胸じろじろ見てたじゃん。めっちゃキモかったよ?」
「リリィィィィィィイイ!!!てめぇぇぇぇぇええ!!!!」
ガシャン
病院には不釣り合いな無骨な金属音が聞こえた。
俺と小雪の手首におなじ手錠がかけられている。
「安心して、お兄ちゃん。私が矯正してあげる。一晩かけてね」
「あの……小雪さんは明日学校では……?」
「だいじょうぶ、ちゃんとおきられるわ、だってとなりにはずっとお兄ちゃんがいるんだもんね」
こうして、小雪の入院お泊まりが強行されたのであった。
次回は、ドキドキ小雪と二人きりの入院編です!
ブックマーク数や評価の数、PV数に驚いております……こんな未熟者の小説がたくさんの方に読んでいただけるとは思っていませんでした。本当に嬉しいです!ありがとうございます!
日間ランキング1位を目標に今後は最低1日2話投稿をすることにしました!評価、感想、ブックマーク等をいただけるととても嬉しいです!どうぞよろしくお願いします!




