宵の宴〜時人〜
部室に集まった五人は今朝からニュースを見ている。自分たちの犯した連続爆発放火事件の特番などが放送しているため、テレビに
釘付けだ。過激なテロリストや異常な思考の持ち主など、諸説様々な専門家の意見。全て的はずれであった。
「まさか、高校生がした事だとは分からないだろうな」
聖児の言うとおりだった。絶対に分かるはずがない。しかし、時人には気がかりなことがあった。
「警察は何の動きも見せないな」
アキラの言葉で何かを思い出した時人はテレビの電源を消した。
「警察はMARBLEに吸収されたのだろうな。だから独断で行動できないんだ」
「なるほど、ということは行動できない今がチャンスか?」
聖児の言葉を首を振ることで否定する時人。
「MARBLEは警察と共同しているから俺たちが複数人で行動していることを知っているだろう。だから一旦、計画は中止だ。そ
して、MARBLEを迎え撃つ」
「迎え撃つ?どういうことだ」
聖児はよく分かっていない様子だった。
「MARBLEは慎重な連中だ。表舞台にはまず出ない。闇を狙い俺たちを葬るつもりだ」
「確かに、暗殺のほうが殺り易いだろうからな」
「おそらく、最初は雑魚が来る。そこで俺たちの戦力を測るのだろう」
なるほど、と聖児もようやく理解できたようだ。
「今後の目的は『MARBLEの全滅』だ」
時人はすでに刀を抜いていた。そして、目の前の男と対峙している。夜のビル街、そこの一番高いビルの上に二人はいた。男との
距離は約十m。最初に動いたのは男だった。一気に時人との距離を縮め銃を撃つ。時人は自分と銃の間に手を出し、銃弾の時を止め
た。すぐさま間合いを取ったが、すぐ後ろに気配を感じた。振り向きざまにその気配を刀で切りつけた。そこには何もいなかった。
ただ、少し後ろで男が空中に浮いていた。ゆっくりと、降りてくる男。
「世良慎次。能力は『浮遊』だ」
空を自在に動ける能力。時人は大きく息を吐く。そして、深く考え込む。この男を倒す方法を。
「クロノスよ。俺と戦ったのが運の尽きだ」
「クロノス?」
「貴様の呼び名だ」
時人は少し微笑んでいる様子だった。
「いい呼び名だな。気に入った」
世良には自信があった。自分の考えた仮定が全てうまくいっている。奴の時を止める能力は一定範囲内しか止められない。だから、
奴が時を止めようとした時に一気に空へと飛び、逃げる。それが成功しているのだ。勝機はこちらにある。今もこうして範囲外にい
るわけだから、ここから銃殺が一番いいだろう。世良は銃を構えて数発、時人に向けて撃った。
「時よ、止まれ」
銃弾だけが止まると思っていた世良は驚愕した。自分の体も動きを止めたのだ。そして、うまく飛行することができずに、そのまま
屋上へと叩きつけられた。叩きつけられた後も体は動くことはない。世良は考えた。なぜだ?自分の推測通りに範囲からは出ている
のに。
「時を止める範囲は無限だ。それにどんなにお前が離れていようとお前だけの『時』を止めることが出来るからな」
その直後、世良の体は自由が利いた。慌てて立ち上がる世良。叩きつけられた衝撃で銃を手放してしまった。殺される。それが世良
の頭を支配していた。
「逃げろ」
「何?」
「俺から逃げてみろ。ただし十秒後、俺はお前の『時』だけを止める。そうなればお前の負けだ」
一方的につき付けられたゲーム。しかし、世良の生き残る道はそれに従うしかない。
「よーい、スタート」
一気にビルを駆け抜ける世良。空を飛べるので一瞬で時人との距離を離す。そのまま、遠くまで逃げ続けたい世良だったが、ビルに
足をつけた途端、体が動かなくなった。そして、目の前には時人が立っていたのだ。
「お前の負けだ。これから死ぬお前に最後の種明しだ。俺は触れたモノ全ての『時』を止められる。だから、お前だけの『時』を止
めることが出来たのだ。その証拠だ」
時人は世良の目の前に時計を差し出した。その時計は普通に時を刻んでいたのだ。
「お前だけがこの世界の『時』から置いていかれる」
銃を世良の額に突きつけて微笑む。
「俺と戦ったのが運の尽きだ」
銃声が響き、世良は倒れこむ。時からは開放された。しかし、世良はもう動くことはなかった。




