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不穏なる影

 翌日。テレビではあの犯行を放送以降、かなりの注目度がある。たった一人の強盗。しか


も、盗むのは全部。ひとつの落ち度もない。そして、証拠も残さない。それが注目される理由


だった。対策室で体を休める白鳥。しかし、心は休まることを知らない。あの仮面の男を捜す


までは休める気はない。署長からは、この事件の全てを任されている。だが、さすがに今回は


どうしようもない。体が動かずに、何も出来なかった。その時、田辺がドアを大きく開け入っ


てくる。


「警部、証言が出ました」


「どうだった?」


田辺は白鳥から事件開始時にある指示が出されていた。それは二人の警察官を使った作戦でも


あった。


「やはり、体が止まっていた時、時計の針も動かなかったようです」


その作戦は二人の警察官に時計だけを見るようにとの指示をしたのだ。その二人にはそれぞれ


アナログ時計と針時計を渡した。


「両方とも微動だにしなかったのか?」


「そのようです」


そうなるとますます分からなくなる。いったい、どうすればこんな事が出来るのだろうか?白


鳥の心の中にある仮説が生まれた。それは


『時を止める』


あの仮面の男は時を止めることが出来るのではないのだろうか。それだと思うとそれ以外感じ


られずにはいなかった。そう考え込んでいるとドアを叩く音がした。ドアは白鳥の返事を待つ


ことなく開いた。そこには黒いハットを目深に被り杖を持った男性が立っていた。明らかに警


察関係者ではないことは分かっていた。


「おい、お前。関係者以外立ち入り禁止だぞ」


田辺が近づこうとした時、男性の杖が手元を離れて田辺のアゴに向かって飛んでいった。勢い


が強く避けられなかった田辺は、杖がアゴに直撃してその場に倒れる。白鳥が立ち上がろうと


すると男性はそれを手で止めた。


「銀行強盗と宝石強盗の犯人を捕まえる手段を知っていますよ」


その言葉が白鳥の心を捉えた。


「どういうことだ?」


「協力しましょう、ということです」










 時人とアネモネは歩いていた。夜、繁華街も賑やかになる頃。二人はある場所へと向かって


いる。とある場所で二人は立ち止まった。地下に階段が伸びている。目的の店はその先だ。階


段を下りて、扉を開ける。中はバーカウンターで少ない照明ではあるが、店内を彩る数々の


光。バラードが響き渡りカウンターには一人の老人がいるだけだ。


「なんじゃ、お前か」


「客じゃなくて残念だな」


この老人の名前を時人は知らない。古くからの友人だ。主に何でも知っている。時人が知らな


いことでも。この老人に聞いて解決できなかったことはない。時人がカウンターのそばに行き


用件を言おうとした。その口を老人は止めた。


「客じゃなくても何かを頼んでもらおうか」


明らかに不機嫌そうな顔をしている時人。この老人は頼み事ひとつに注文ひとつをとる。


「アブサンひとつ」


「私はカルーア・ミルクで」


アネモネはヒューマノイドであるが、食生活は人間と同じである。だから、酒なども飲める。


二人の注文した酒がカウンターに置かれる。酒を飲み、改めて話をする。


「これでこれを売ってくれるか?」


渡したのはメモと、二つの事件で手に入れた金と宝石。その全てをここに持ってきたのだ。メ


モにはある二つの名前が書かれている。


「ちょっと待っておれ」


老人は奥へと姿を消した。その間、残りの酒を口の中に入れる。アネモネはまだゆっくり飲ん


でいる。


「アネモネ、美味しいか?」


「はい、とっても」


あの老人の出す酒はうまい。それも道楽だろう。老人のすること全ては道楽である。奥から出


てきた老人は縦長のカバンを持ってきた。


「両方、あったぞ。それとお釣りじゃ」


そう言って老人は札束を二つ出した。


「これだけか?」


「これでも安いほうじゃ」


「わかったよ」


時人はアネモネに金を渡してカバンを持ち、去ろうとした。そのとき酒代のことを思い出し


た。


「ジジィ。酒はいくらだ?」


「もう貰ったよ」


どうやら金の中にすでに酒代は入っていたようだ。


「それと、時人」


帰り際。老人に呼び止められる。


「遊びなら、やめておくんじゃ」


時人は鼻で笑った。


「人間は常に下に生まれる。どんな人間でも。しかし、神は違う。常に上に立つのだ」


「誰の言葉じゃ?」


「俺だ」






店を出て、帰る途中でカバンの中身を開ける。中には日本刀『村正』とS&W・M29が入っていた。どうやら本物のようだ。それだけを見て時人は満足した。カバンを閉めて再び歩き出す。これでもう大丈夫だろう。全ては整った。あとは本格的に始動するだけだ。今までのは序章に過ぎない。


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