最後の男と支配
時人は全ての元凶の男。沙羅帝の前にいた。
「流石は、『時の支配人』と言ったところか。しかし、ここに来た君の仲間は君以外全員死んだ。それでも私と戦うのか?」
時人は無言のままだった。時人の周りに何かが漂っていた。帝はナイフを数本取り出しそれを見せつけながらこう言った。
「『このナイフを避けることはできない』」
帝はナイフを投げた。それはなぜか時人の手がしっかりと全部掴んでしまった。反射の速さといい常人離れしているものであった。
だが、帝は目を疑った。時人の手が両方ともぶら下がったままであるのだ。それにもかかわらずナイフは手で掴んでいる。あれは誰
の手だ?その手の先は時人の背中に隠れて見えない。幽霊のような、背後霊のどちらか。
「『お前はナイフに触れることはできない』」
もう一度、試してみることにした。帝は自分の能力に自信があった。「言霊」この能力こそが「時間支配」よりも最強であると自分
でも思っていた。ナイフを今度は先程よりも多く投げつけた。今度は時人の背中から両方の手が現れてナイフを殴り、地面に叩きつ
けたのだ。
「触ることはできなくても。殴ることはできるぜ」
時人の後ろから何かが現れた。それを見た瞬間、ある感覚が帝を襲った。その後、辺りが何もなくなり、漆黒の世界へと姿を変え
た。
「何だこれは。『元の世界へ戻れ』」
帝の「言霊」の能力が通じていなかった。
「ここは、『時の世界』だ。主が俺を目覚めさせてね。この世界では一切の能力は封じられる。この世界では俺の主が神だ」
「ふざけるなよ。こんな世界など抜け出してやる」
「無理だ。ある条件を解かない限り。ここから抜け出せられない」
「ある条件だと」
「アンタが死ぬことだ」
「なんだと」
帝の背後に時人が迫っていた。振り向いた瞬間、顔面に重い一撃を喰らわされた。その衝撃で遠くへ飛ばされる帝。
帝が気付くと、時の世界とは違う世界に来ていた。
「ここは」
正面には直角で左右に別れ道が続いている。その先を見てみると、今度は三方向に道が分かれている。反対側も同じ様にいくつも別
れ道ができていた。
「ここはどこなんだ。訳が分からない」
「ここは『時の迷宮』だ」
時人の後ろから現れた何かが時人ともに、また現れた。時人は黙ったままこちらを見ている。そして、何かはこの世界の説明を始め
た。
「この迷宮の行き止まりには様々な死を体験できる時間がある。それらに出会うことなく無事にゴールにたどり着ければここから出
られる。という仕組みだ。慎重に進めよ。少しでも行き止まりを見たらアウトだからな」
帝は歩きだす。ひとつ、ふたつと分から道を進んだあと、曲がり角を曲がってみると、行き止まりだった。そして、その壁には一枚
の張り紙が
「焼死」
それだけ書かれた紙を見た瞬間、帝の体を火が襲った。
「なんだ。いきなり」
暑さと息苦しさに悶えながら帝はその場に倒れ、死んだ。
目が覚めた帝はまた、時人と何かに出会った。その何かが、帝に近付いてきた。
「残念だったな。行き止まりに行ったか。紙に何て書いてあった?」
「焼死とだけ書いてあったぞ。その直後、俺は炎に襲われて・・・・」
帝は何かに気付いたように顔を青くした。何かもそれと同じくして笑みを漏らした。
「気付いたかな。この世界の行き止まりは、人生の行き止まりと同じだ。様々な死に方をした人間の、記憶した時間が紙とともに宿
っている。そして、その紙を見た人間にその力が及び、同じ死に方を体験する。しかし、ここは『時の支配人』が作り出した世界の
迷宮。死ぬ間際、本当に一瞬前にお前の時間を巻き戻し、この場所、つまりスタート地点まで戻すわけだ。もちろん、体験したこと
や記憶はそのままだ。お前は『焼死を体験した後にスタートからやり直し』という状態に戻るんだ。わかったかな」
「つまり、ゴールするまで様々な死を味わうという事か」
「ご名答。じゃあがんばれよ」
「貴様!何者だ」
「俺は、時人の、『時の支配人』の『時の眼』の最強の『支配』である『暴走支配』だ。お前の時とそこらじゅうに転がっている時
を混ぜ合わせてこの空間を作った。そして、主がこの世界で眼を覚めることはない。俺という『暴走支配』が神経を支配しているか
ら」
そう言って暴走支配は時人を連れて消えてしまった。




