機械仕掛けの神
アネモネはエレベーターで最上階を目指していた。しかし、エレベーターは最上階の一歩手前の二十五階で止まった。扉が開き、
奥に男が一人。
「早くそこから離れな。爆発するぞ」
アネモネはあえてそれに従い、エレベーターから降りる。そして、二三歩歩いた直後に後ろで爆発が起こった。振り返るとエレベー
ターは燃えていた。
「この先からは階段で行ってもらおうか。ただし、階段への扉の鍵は俺が持っている」
男は懐から鍵の束を取り出す。それを後ろへと放り飛ばす。
「デクテットのフィア・リッター、四法院仁だ。能力は『爆発』だ。よろしく」
「わかりました」
アネモネは四法院との距離をとりながら様子を見ようとしている。四法院はポケットから何かを取り出した。テニスボールだ。それ
を数回上にあげてこちらを見ていた。そして、テニスボールをこちらに向かって投げつけた。アネモネはそれを避けようとした直後
に突然、テニスボールが爆発をした。その爆風で倒れ込むアネモネ。倒れた先にテニスボールが数個転がっていた。そして、それも
次々と爆発を起こしアネモネを襲う。しかし、アネモネは手で顔を隠していたため、さほどダメージは受けていない様子だった。
「さすが、機械だけあるな。けど、それもいつまで耐えられるかな?」
四法院は次々とテニスボールを投げつける。それが爆発する前に何とか逃げるアネモネ。しかし、爆発は止むことなく続いている。
逃げているだけに夢中になっていたアネモネの目の前に四法院が現れる。手を広げるとそこには何十もの小さいボールがあった。ス
ーパーボールだった。それがアネモネの目の前で爆発する。
爆発が爆発を呼ぶ大爆発となった。壁も衝撃で壊れている。アネモネも同じだった。爆発の中心にいたため全ての爆発を受けてい
た。そのせいで、腕は大破寸前だった。足も壊れかけている。
「もう終わりか、諦めるか。俺だって女は殺したくないね。たとえ機械でも」
「優しいのですね。でも、時人さんと約束しましたから。必ず勝つと」
この戦いでは水華は指示をしなかった。それはアネモネの願いでもあったからだ。自分の力だけで闘ってみたい、時人の役に立ちた
いという願いだった。その願いもあって通信を切っていたアネモネが水華に向けて、連絡をとった。
「マスター。私を作ってくれてありがとうございました。さようなら」
「おい、どういう事だよ。いきなり連絡してきて何言ってんだよ」
それに応えることなくアネモネは通信を切った。これが最初で最後の希望。自分に残された最後の。アネモネは自分の心の中である
モノのスイッチを入れた。
「もう、いいだろ。諦めて帰るなら命だけは助けるぞ」
「大丈夫です。もう終わりますから」
アネモネは体内にとりつけられた安全装置を外したのだ。一般の人間の生活に溶け込むために全体の八割をカットさせて生活してき
たアネモネ。
「安全装置解除完了。目標確認。これより排除を決行します」
壊れかけていた壁の一部を剥ぎ取り四法院に向かって思い切り投げつける。四法院は避けることは出来たが、そのパワーに驚いた。
どこに隠されていたのか。
「まったく、面倒な相手だ」
次々と手当たり次第にモノを投げつけるアネモネに向かい、ナイフを数十個連続で投げつけた。それはアネモネに突き刺さり、その
直後に爆発を起こした。しかし、アネモネはまったくダメージを受けていなかった。そればかりか更に勢いが増したぐらいだった。
四法院は周りに叩きつけられた壁の破片で逃げ場がないことに気付いた。一瞬、アネモネから目を離した時、それをアネモネは見逃
さなかった。一瞬で間合いを詰め、四法院に殴りかかる。何度も何度も。地面にもその衝撃が伝わるほど、重く、強い殴打だった。
四法院が動かなくなったことを確認したアネモネは立ち上がり、鍵をとり、階段に向かって歩き出す。しかし、四法院はそれを許
さなかった。何とか意識を取り戻し、最後の力を振り絞り、地面を爆発させた。
「言っておくが、ここは行き止まりだ。その先には何もない。それにここには爆薬がたくさん詰まっている。それに引火すれば終わ
りだ」
アネモネは階段を上がろうとしたが、その先は行き止まりだった。戻って部屋を見渡してもどこにも逃げ場はなかった。爆発が次々
と起こり始める。必死に出口を探すが見つからない。エレベーターは破壊され壁は大破。アネモネは歩きだそうとしたが、不意に膝
を付いてしまう。思うように体が動かない。安全装置を外すことに慣れてなかったからだ。必死に生きたいと思ったが、それは無情
にも爆発により掻き消されてしまったのだ。
やがて部屋全体を大きな爆発が襲った。
時人は大きな爆音を聞いた。携帯が鳴る。水華からだ。
「どうした?何かあったのか?」
「アネモネが死んだ。そっちで大きな爆発とかなかったか?」
「ついさっき」
「そこにアネモネがいたんだ。おそらく助からないだろう」
時人は携帯を地面に落した。そのせいで携帯は壊れて水華との連絡も絶たれてしまった。後ろに気配を感じた。デクテットの一人か
と思ったが時彦だった。
「残るデクテットは二人だ。このまま急ぐぞ」
しかし、時人は動こうとはしなかった。アネモネの死が受け入れることができなかったのだ。そんな二人の前に一人の男が現れた。
「さすが、『時の支配人』だ。ここまで来るとはたいしたものだ。でもここが終点だ」
「お前はデクテットか?」
「あぁ、ドライ・リッターの氷川了だ。能力はいずれわかる」
氷川は手を地面に置き、何かを呟いていた。時彦は関係ないように斬りかかろうとする。時を止めることはない。一撃で終わらせ
る。切った瞬間、時彦の刀は地面を切っていた。しかし、氷川は時彦ではなく、時人に向って走り出した。時人は時を止めようとす
る。しかし、まだ止めることはできなかった。
「どうした!時人。時を止めろ!」
できない。それに足が変だった。足の太ももまでが石と化していた。動けない。
「無理に動くなよ。俺の『石化』からは逃げられないからな」
「まさか、まだ時を止めることができないのか?」
明らかにおかしかった。もうとっくに能力、「時の眼」に目覚めてもおかしくなかった。時彦は時を止め、男に斬りかかった。
「大丈夫か、時人」
時彦は時人の足の時間を戻して元通りにした。
「すまない、兄さん。まだ、能力に」
「わかっている。だったら一刻も早く終わらせよう」
二人は階段に向かって走り始めた。時彦が後に続く形で走っていると時彦の背中に激痛が走る。
「どうした、兄さん」
後ろにいたのは氷川だった。死んでいなかったのだ。あの時切られたのは石で作った人形らしく本物が時彦の背中に刃を刺してい
る。
「死にやがれ!」
「『彼の者の全てを消し去れ』」
時彦は氷川の記憶を全て跡形もなく消した。その後、氷川は気絶してしまった。
「大丈夫か、兄さん」
「時人、ちょっと来い」
時人は何も言わずに時彦のそばへと近寄る。時彦はそっと、時人の眼を覆った。
「俺の『眼』をやる。それでお前能力は戻る筈だ」
「でも、兄さん」
「俺のことなどどうでも良い。お前が『時の支配人』なんだ」
その言葉は時人の心の中に重く残った。小さく頷いて階段を駆け上がった。この事件の全ての元凶である男の元へ。
時彦の視界には男が一人。
「あなたが、クロノスですか?」
「あぁ、そうだ」
「私はデクテットのゼクス・リッターである・・・・・・何者でしたっけね?」
「俺が知っていると思うか」
時彦は力を振り絞り、刀を男の喉元を刺した。最後の、自分の命を削って使った最後の『支配』




