紅色の氷と蒼き炎
アキラは部屋を開けて異変に思った。大きな部屋だが、何も置いていなかった。その部屋の奥に男が一人。壁には窓すらない奇妙
な部屋だった。
「ようこそ、デクテットのズィーベン・リッター、来宮愁だ」
「さっそくで悪いが、殺す」
「君にはできない。絶対にね」
アキラは男の元へと走り出す。刀はないが、氷は出せる。これで仕留める。しかし、アキラと来宮の間に一つの影が割り込む。その
陰に見覚えはあった。そして、急に立ち止まる。目の前には香奈がいた。眼には生気がないように光を失っていた。香奈を見ている
と、急に激痛が体を襲った。銃で何発も打ち込まれてしまった。急所には当たっておらず、意識はあった。しかし、体が動こうとは
しなかった。急所は外れたものの、肩と膝を打ち抜かれていてまともに動く状態ではない。口からも吐血を出してしまう。
「弱い男だ。知人は殺せないか?」
「き・・・さま」
呼吸も苦しくなり、立つことは許されない状況。圧倒的にピンチである。
「警察の事件知っているだろ?あれは俺の仕業だ。俺の能力は『人形絡繰』でね。人を操ることができるんだよ。君はこの女と仲が
良いらしくてね、盾にしてもらったよ」
「外・・・・道が」
「もう無駄でしょ。息すら苦しい感じだから楽に殺してあげるよ」
来宮は徐々に近づきこめかみに銃を突き付ける。
「これで終わりだね」
しかし、銃は発砲すること無く、その代わりに何かが床に落ちた。来宮の指であった。引き金に添えられていた人差し指だった。来
宮の断末魔が部屋中に響く。アキラはゆっくりと立ち上がり銃を奪った。アキラの傷口からは血が出ているがそれは不規則な動きを
見せていた。
「お前、まさか自分の血を」
「そうだ、氷の元である水だって操れる。血だって同じだ」
来宮は切り口を押さえて後退してゆく。それをゆっくり追うアキラ。来宮の後ろから警官が続々と現われ始めた。来宮が能力を発揮
させた。
「もう終わりだ」
アキラは銃を壁に向かって可能な限り打ち続けた。その後、自分の体から流れている血を集めて塊に凝縮させその壁に向かって投げ
つけた。銃弾によりヒビが入っていた壁は音を出して崩れ始めた。その先からは太陽の光が差し込んでいた。
「しまった!」
「やはり、太陽が弱点か」
夜の記憶を忘れている。朝になると来宮の能力が消えていることから、太陽の光を与えれば能力の支配から解放されるということだ
った。集まっていた警官も香奈も気絶して倒れ込んだ。
「この死に損ないめ、殺してやる」
「もういい、凍え眠れ『無限氷結界』」
来宮の周りに血で造られた氷の結晶が生まれた。その中央で凍りつく来宮。しかし、アキラの足は動く気配が無かった。そればかり
か、意識が朦朧としてきており今にも倒れそうだった。必死に足を動かし部屋を出て壁にもたれかかる。体からは止めどなく血が溢
れてきている。アキラの心の中には時人がいた。その時人は笑っていた。アキラも笑おうとするが、口から血を出してしまう。壁に
もたれていたが、そのまま地面へと倒れてしまった。
それからアキラは動かなくなった。
聖児には嫌な予感がしていた。できることなら全員が生きて帰れることを願っていたが、どうやらそれは無理と感じていた。
目の前にいる男、ツヴァイ・リッターの相川骸。この男の能力により、かなりの重傷を負ってしまった。
「くそ、厄介だな」
壁に寄りかかり辺りを見渡す。あの能力は自分とは相性の悪い能力だ。距離をとり、様子を見るしかない。
「諦めろ。お前と俺じゃ格が違う」
後ろの壁が大破して衝撃で飛ばされる聖児。壊れた壁の向こうには骸がいた。聖児は火の玉を数個飛ばす。骸は手を交差させ火を振
り払うように大きく広げた。そして、火が消え聖児の体を切り刻む。無数の見えない刃が聖児の体を襲った。見えない刃の正体は骸
の能力にある。
「真空手刀」無数の刃を手から繰り出す。その刃の速度などにより風を巻き起こし火が消されてしまうのだった。
戦いの始まりから何度も斬撃を受けている。聖児の攻撃はまだ一度も当たっていない。聖児はその後、思い切った行動に出る。火
を周りに付け始めたのだ。
「お前、正気か」
「もっとだ。もっと、火を」
聖児は骸のことなど気にも留めずに周りに燃やし続ける。骸は聖児に刃を飛ばす。聖児の体を切り刻もうと聖児は燃やし続けた。そ
して、全てが燃え上がり、煙も充満してきた頃だった。聖児は骸のほうを向き、手を広げて見せる。
「いけ、豪炎翔」
その直後、あれほど燃えていた部屋の炎が聖児の手一点に集まっていた。そして、それは骸めがけて飛んで行った。骸は風圧で消そ
うとするが全く消えない。
「消えろ!千扇烈風」
手から発せられた大きな風と斬撃により、部屋は地面や壁に亀裂が走り、先程まで燃えていた用具すらも跡形なく壊れていた。しか
し、そこに聖児の姿はない。骸の眼前まで迫っていた。あの大きな火の塊は近づくための囮だった。聖児は一瞬早く骸に火を付け
た。しかし、骸は燃えていながらも、聖児の腹を手刀で貫いた。直後、聖児の口から大量の吐血がでる。
すでに燃え尽きた骸と腹を押さえる聖児。
「まいったな。完璧に穴があいている」
そして聖児は目をゆっくりと閉じ、倒れてしまった。




