過去の記憶
聖児とアキラは微動だにしない。時彦の「並行支配」が続いている証拠だ。
「マリアの姉を知っているか?」
「遺産相続の件でもめているって聞いたけど」
「マリアの姉二人はMARBLEと繋がっている」
「え?」
「経緯は知らないが、MARBLEが日本の警察を動かせるのも姉達が資金のバックアップをしているからだ」
納得のできることだった。今も警察は何もしていない。時人たちに関しては全てMARBLEに任せているということだ。
「だが、そんな奴らにも計算外な事が起きた」
「マリアへの遺産相続」
「そう、姉の資金源は莫大な財産にある。フランス一の資産家であるマリューセル卿の。それが断たれれば姉はもとい、MARBLEの資金源も無くなる」
「そうなれば警察にも関与できなくなるという訳か。でも、都合良くないか?それに何で末のマリアに遺産相続なんて」
「全て、俺が仕向けたことだ」
話は時彦とマリアが会う時へと逆行する。
時彦が十五の時。自分が影であることを知り、正式な「時の支配人」である時人のために存在するという宿命にも気付いた。そしてその時彦が最初に行った行動が、いずれ弟の時人が
「時の支配人」になった時の最大の障害になるMARBLEの壊滅だった。MARBLEの存在自体を知らずに時人が過ごせればそれで良かったが、壊滅は難しいと悟った時彦はMARB
LEの周辺事情について調べる事にした。そして、ある一つの繋がりを発見した。それがマリューセル家とのものだった。
MARBLEは資金の八割をマリューセル家の財産に頼っていることもわかった。つまり、マリューセル家との関係を断つことができればMARBLEの力は激減すると考えた。MAR
BLEとマリューセル家での繋がりは当主のマリューセル卿ではなく姉二人によるものだった。
時彦はマリューセル家のボディガードに雇ってもらい、姉二人について詳しく調べる事にした。そこで知ったことは三つ。
一つは、マリューセル卿の財産を巧みに操り、気付かれないように身内すらも騙して資金を送っていること。
そして二つ目。これが一番厄介だった。姉二人の下にはもう一人三女がいるらしく、その三女・マリアの命を姉二人は狙っているのだ。理由は簡単なもので万が一を考えたとき、遺産を相
続させる訳にはいかないというものだった。
三つ目もかなり危ないものだった。姉の二人は父の食事に微量の毒を混入し続けていること。この毒は一食二食なら問題ないが長期的に飲むと死に至る毒だった。これを時彦の来る二年
前から続けていた。そのせいでこの頃からマリューセル卿の容態も悪くなっていたのだ。
時彦のやるべきことは決まっていた。マリアを姉二人の手から全力で守ること。この頃の時彦は「時の眼」を開眼しており二つの「支配」も手に入れていた。その能力のお陰でマリアの
命を救う事も出来た。姉達からの非道から守り続けてマリューセル卿にも信頼される存在になることができた。
ある日の夜、マリューセル卿の寝室へと邪魔をした時彦。そこであることを伝えた。それはマリアの命を狙っているのが二人の姉だという事。姉がマリューセル卿に毒を盛って病気にし
たこと。マリューセル家の財産を横暴していること。それを聞いたマリューセル卿はひどく悲しんだ。そこに時彦はある提案を促した。その提案のお陰でマリアが遺産相続をすることにな
った。
そして、時彦はマリューセル家から姿を消す決心をした。その前日にマリアとある約束をした。それが時人を訪ねること、そうすれば必ず助けに行くことをマリアの間で約束した。
物語はここから再び時を刻み始める。終わりに向かって。




