序列一番と「支配」の力
時人、聖児、アキラはデクテットの一人と対峙していた。男はいきなり現れて戦いを申し込
んできたのだ。
「君たち三人がもし勝てれば、ある情報を教えてやろう」
「何の情報だ?」
「俺たちMARBLEがマリア嬢を狙う理由だ」
三人の表情が変わった。それが一番気になっている事だった。しかし、この男はなぜか自信に
充ち溢れていた。そうでなければわざわざ一人で戦いに来ないだろう。おそらくデクテットの
一人。それもかなり上位。
「君たちでは俺に勝てない」
「甘く見るなよ!」
時人がすかさず時を止め、男に切りにかかる。しかし、そこである異変が起こった。時が動き
出してしまった。時人が時を止められなかった。男は逆に時人を殴った。
やはり、と男は確信した。
「クロノスよ。お前は時を止められないようだな」
「本当か、時人」
時人は何も言えなかった。しかし、言わなくても聖児とアキラは理解できた。さっきの状態を
見ればおかしな時の動き方だった。
「どうする?最強の能力がないのに戦うのかな?」
「当たり前だ」
聖児は火の玉を数個、男に向かって投げつけた。男の直前で火の玉は消えた。一瞬で、そこに
何もなかったかのように消えた。男は少し微笑んでいた。男の後ろにアキラが迫っていた。
「氷れ」
男の足が地面とともに凍りつく。それでもまだ男の笑みは消えていなかった。アキラは思っ
た。まずは様子見だと。胴を切りつければ何かしら自分の能力での対処が見れる。そこから敵
を分析する。すかさず、斬りにかかるアキラ。だが、男の行動は意外なものだった。男が足に
ついている氷に手を添えると、またもや氷が消えた。聖児の火の玉を消したように、氷まで跡
形なく消えてしまった。さらに男がアキラの刀に触る。そして、刀も消えたしまった。
「なに!」
アキラはそのまま蹴られて倒れてしまった。
「他愛ないな。もう終わりか」
時人は敵のことなどどうでもよかった。自分の能力が使えない。そのことに衝撃を受けたこと
が隠せなかった。
「大将は戦意喪失か。情けないな」
その通り、時人は構えも取らず立ち尽くしていた。しかし、二人は決してあきらめていない。
「咲け、崩炎華」
男の周りに炎で彩られた大きな花が咲く。その中心で焼かれ始める男。だがそれも一瞬で終わ
る。それすらも消えてしまったのだ。
「時人をバカにするな。殺すぞ」
すかさず、アキラも攻撃に移る。
「凍て奔れ、疾氷狼」
地面に手を付け、氷で造られた巨大な狼を男に向けて放つ。それでもなお、男の直前で消され
てしまう。
「もうわかっただろ。無駄なんだよ。お前達と俺の『能力』は違う次元だ。俺と対等なのはク
ロノス、お前だけだ」
しかし、時人は全く反応を示さない。
「最後に、自己紹介だ。デクテットのアイン・リッター、ヴァイスだ。力の序列は、一番。つ
まり、デクテット最強だ」
「嘘だろ、こいつが序列一番だと」
「ちなみに、能力は『万物消滅』だ。何でも消すことができる。この手に触れたものは」
男はクロノスに向かって走り出した。しかし、その間に割って入る男が一人いた。
「『眼よ、二方の時を定め、支配せよ』」
「何者だ!貴様!」
ヴァイスは立ち止まり、いきなり現れた男に問いかけた。
「アンタは」
時人は目の前の人物に驚いているだけだった。その男は時人のほうを向いた。
「こうして面と向かうのは初めてだな、時人。俺とよく似ている」
「兄・・・さん」
時人の眼には涙があふれていた。理由は分からなかった。ただ、本能や直感が時人にそうさせ
たのだ。自分と兄の出生の秘密を知っている時人だから。
「お前の能力の使えない理由とマリアが狙われている理由を教えてやる。だが、その前に」
時彦はヴァイスのほうを見てこう言った。
「『時の支配人』に対する大罪を償ってもらおうか。雑魚よ」
「雑魚かどうか確かめるか?」
「よく見ておけ、時人。これが『眼の力』だ」
ヴァイスは時彦に殴りかかる。それを手で受け止め、もう一方の手でヴァイスの顔を覆う。
「腕ごと消してやる」
その言葉とは裏腹に手は消えていなかった。
「どういうことだ。能力が発動しないなんて」
「お前の『万物消滅』は確かにおれの手に起こっている。しかし、俺とお前、時人が体感して
いる世界は通常の世界とは違う」
「どういうことだ」
時彦の眼が青白く輝いている。その瞳に吸い込まれるかの如く見入るヴァイス。
「この『時の眼』の『支配』のひとつ、『並行支配』により、俺たちのいる世界だけ時間の流
れが遅くなっている。例えるなら、こちらでの十年は通常の世界にとって刹那よりも短い。故
にお前の能力の発動過程が肉眼では捉えらないほど遅いという事だ」
「しかし、確実に腕は消えているという事だろう」
ヴァイスはさらに力を込める。時が遅いのなら、何か所も消滅すれば良い、という考えだ。
「その前に終わる。『眼よ、彼の者に永遠の忘却を与えよ』」
顔を覆っている手のほうから小さな波動が起き、それがヴァイスの体を駆け巡る。ヴァイスの
拳を離し、覆っていた手も退ける。ヴァイスは時彦との距離をとる。
「お前はもう終わりだ。俺の能力・・・・・・・あれ?」
ヴァイスは急に頭を押さえこんだ。そして、何かを呟きはじめた。
「俺の能力は何だ?なぜだ。思い出せない」
「お前の記憶にある『万物消滅』に関する全ての時を消した。もう、思い出すことはない。こ
れが『忘却支配』だ」
時彦はヴァイスの鳩尾を殴り、そのまま気絶させた。そして、時人のほうへと近寄る。
「これから話すことは誰にも言うな。マリア本人にもだ」
「わかった」
そして、時彦は時の遅い世界でゆっくりと時間をかけながら説明を始めた。
『並行支配』通常の世界とは別に時の時間感覚の違う世界を作り込み、指定した人物だけを取
り込む。また、対人も可能である。
『忘却支配』その人物に関連のある対象を記憶した時間などを消し去る。永遠もあれば一時も
ある。また、その対象全ての記憶の時間を消すこともできる。




