最初の犯行
都心は眠らない。それは人も同じである。自由に遊ぶ者。仕事をする者。様々な人間の交錯す
る街。その街の某警察署で二人の男がカメラと睨めっこをしていた。
「どう思いますか?この映像」
白鳥は、部下の田辺の言葉に耳を傾けず一心不乱でその映像を見続けている。終わっては巻き
戻してまた最初から。それを何十回と繰り返している。
「おかしいですよね、やっぱり」
田辺も改めて映像を見る。その映像は都内にある東帝銀行の事件現場で、時間は夜の九時。金
庫前の録画映像である。金庫の前には警備員が扉の両脇に一人ずつ立っている。この金庫前の
防犯カメラは計三台。その中で、このカメラだけが犯行の終始を収めている。警備は万全。し
かし昨夜、この金庫に入っていた現金が全て盗まれたのだ。それは大問題だが、もうひとつの
問題があった。それこそが白鳥と田辺が真剣に見ている原因なのだ。この映像の中の一部にそ
れはある。これに気付いたのは白鳥と田辺だけ。
その問題とは一人の男が映像に映ったところから始まる。男は黒いロングコートで背は大き
めで長髪。それが映像で分かること。金庫に向かって歩く男に警備員の一人が近づいた直後、
いつの間にか警備員が倒れたのだ。そして、もう一人の警備員も男に近づいただけで、倒れて
しまった。そして、金庫を開けて中へと入る。そして出てきたときには大量のカバンを持って
おり、堂々と歩いて映像から消えた。異変があるのは映像の左下に表示されている時間だ。警
備員二人が男に近づいて倒れるまでの間。男が金庫に入りカバンを持ち出てくるまでの間。そ
の間だけ、時間の表示は動かなかった。まるで時間が止まったように。それ以外では正常に動
いている。しかし、その三つだけ、確かに時間が止まっている。
「厄介になりそうだな」
白鳥は頭を掻きながらイスにもたれ掛かる。田辺に茶、と乱暴に命令をしてタバコを吸う。
男は思い返していた。昨日の出来事を。この銀行の金は俺が頂いた。誰も俺が犯人だとは気
付くことはない。気付いたとしても捕まることはない。自信はある。街の電光掲示板には、俺
が主役のニュースが流れている。通行人も盗まれた現金の額を見て足を止める。その中を犯人
である俺は堂々と歩く。これは始まりに過ぎない。おれの、これからを考えると笑いが止まら
なかった。




