動乱の学園
時人は屋上に向かい急いで走っていた。アネモネも後ろを付いていく。高貴館の爆発後、時人はあることを確かめるために屋上へ
と向かっていたのだ。屋上へと着き、高貴館を見下ろす。悲惨だった。建物は半壊状態。炎上している場所もある。その、半壊して
いる場所から氷の結晶が見えていた。アキラだ。すぐにそれがアキラだとわかった。それと同時に、あれほどの氷をださければなら
なかったアキラはそうとう苦戦したということ。アキラの安否も気になったが、それ以上にそこには違和感があった。
警備の問題だった。これほどの大騒動。なぜ、警備員が一人もいない。ここの警備システムは万全だ。それがなぜ作動していな
い。通常、高等部内での出来事に対してシステムが働き、すぐさま救急車や消防車などが駆け付ける。
高貴館の爆発があってからすでに三十分以上が経過していた。おかしい。なにか作為的なものまで感じる。
「時人さん。なにか、高等部全体に膜のようなモノが張られています」
「は?」
「正方体のような形をしており空中も地面も覆われています。警察との連絡も取れません」
膜。要するに結界が張られている。ここに時人たちがいることはMARBLEに筒抜けだ。
「クロノスだな」
後ろを向くと男が六人、すでに抜刀しており、戦闘態勢に入っていた。徐々に近づいてくる。時人も迎え撃つ準備に入ろうとした、
その時、アネモネが声を上げた。
「マスター!応答してください!マスター水華!」
「どうした!」
「マスターとも連絡ができません」
まさか、水華の身に何かがあったのか。水華はまったく戦闘向きではない。そのためのアネモネだ。離したのはやはりまずかったの
だ。
「アネモネ!水華を頼んだ!」
「はい!」
屋上から飛び降り、猛スピードで水華のいる部室へと向かう。それを追おうと男達も走りだす。その前に立ちはだかる時人。
「あの女の行く場所にマリアとかいうお嬢様がいるんだろ?」
胸騒ぎがした。こいつら、マリアを知っている。なぜ、どこで、どうやって、考えても答えは見つからなかった。見つけようとする
前に、男達は一斉に時人に斬りかかった。
時人は珍しく息を切らして、刀の血を拭っていた。後ろには先程の男達の死骸が転がっている。頭の奥が痛く感じる。どうやら連
発が効いたのだろう。
時人の『能力』通称『時間支配』
どんなモノにも弱点はあるように、この『時間支配』にも弱点はある。それが多対一の時である。通常、時を止めると術者以外の全
てが静止する。それを解くには術者自身が解くか、術者が静止しているモノに触れることで再び時は動く。それは究極に一対一に特
化した形とも言えるため、多人数との戦いでは一人一人を確実に仕留めるため、一人につき一回、時を止めなければならない。しか
し、その弱点は『時の支配人』にしか分からない。そのため、現在でも最強の『能力』である。
「あらら、全滅かい。もう少しがんばれよな」
その声の主は、いきなり現れた。そして、死骸を叩くなどして死んでいることを確かめていた。身長は高く、長髪。黒のスーツを着
ている。
「やぁ、君がクロノスだろ。はじめまして」
「誰だ?名乗れ」
どうせMARBLEだろう。どんな能力でも倒すしかない。そして、水華の元へ。
「デクテット。フィア・リッター。四法院仁だ。よろしく」
「デクテット。序列四番までお出ましか」
デクテット。まずいことになった。序列四番目まで出てくるとは予想外だ。それに体もそろそろ限界に近づいている。
「そう怪訝そうな顔をするなよ。俺は別に戦いに来たんじゃない。ただ・・・・・」
「ただ?」
「面白くしに来ただけだ」
男は手を叩いた。その音の刹那に爆発が高等部各地で起こった。何十個もの爆弾が一斉に爆発している。地響きとともに建物が崩れ
始めてきている。特別棟も学年棟も徐々に壊れ始めている。ただ、まだ部室棟までは爆発が行われていない。
四法院仁はいつの間にか姿を消していた。
デクテットの一人。アイン・リッターのヴァイスは男の元にいた。
「どうかな、ヴァイス。首尾のほうは」
「先刻、逢瀬のほうから連絡がありまして。鮫島とアリオットが死にました」
「そうか、まぁ、いいだろう。犠牲は付き物だ。それより、封鎖してくれたかね?」
「問題なく、万全で御座います」
「わかったぞ。下がれ」
ヴァイスは深く頭をさげ、その部屋から出て行った。




