卑劣なる愚行
アキラも時を同じくして、テクデットの一人。アリオットと対峙していた。場所は崩壊が進
んでいる高貴館。そのステージ上で闘っている。しかし、アキラはすでに息を切らし、体中に
傷が目立つ。アリオットと出会う前まで必死で瓦礫の下に埋まっていた生徒達を一人で助けて
いたのだ。
「さて、これから少しゲームをしましょう」
アリオットは嬉しそうにアキラに告げた。
「この場所に約三十個の爆弾を仕掛けておきました。起爆させるスイッチもあります。貴方が
私の攻撃に耐え続ければ貴方の勝ちですわ。但し、負けた場合は」
アリオットは見せしめに一つの爆弾を起爆させた。その威力は大きく、高貴館全体が揺れるほ
どだった。不安に駆られる生徒達。泣き出す生徒もいる。
「それともう一つ、もし私に危害を加えようとすれば生徒を殺しますわよ」
生徒一人ひとりの後ろにはアウターらしき男達が立っていた。全員で十人以上いる。
「いいだろう」
アキラはそれに応える事しかできなかった。手に持っていた刀を捨て、ただ立つだけだった。
「それでは、ゲームスタート」
アキラの腕にナイフが刺さる。激痛が腕から全身を駆け巡る。刺された場所からは紅い血が滴
り落ちる。
身体や四肢だけではなく、顔にまでナイフの切り傷が無数に付いているアキラ。それでもな
お、アリオットは止めようとしなかった。アキラもまた、それに耐え続けている。生徒の中に
は香奈もいた。香奈の眼には明の傷つく姿が目に映る。声が出なかった。けど、涙が止まらな
かった。ほかの女生徒もアキラの無残な姿を見てすすり泣いている。それは男子も同じだっ
た。泣きはせずともやり場のない怒りだけがあった。周りにアウターさえいなければ今すぐに
でも助けに行きたい気持ちでいっぱいだった。
アキラの心に怒りはなかった。生徒の安全を第一に考えるとこれが得策だった。自分がじっ
としていれば生徒は助かるのだ。その思いだけしかない。
「もう、つまらないですわ」
その言葉を機にアリオットはスイッチを押した。再び爆発が高貴館と生徒達を襲う。今度は一
気に五発。先の比ではなかった。床に亀裂が走り、大きく揺れた。
「貴様、約束が違うぞ」
アキラの怒りにもアリオットは冷静だった。
「あら、肉体的にも飽きてきましたし、今度は精神的に痛めようと思いまして」
「それに、マリアさんを捕まえなければならないですしね」
その言葉に違和感を覚えたが、その時すでにアキラの中で何かが切れてしまった。
とうとう屋上も壊れはじめてきた。そして、その破片が生徒の頭上に迫ってきていた。
アウターをすり抜けて、生徒だけを覆うように巨大な氷の結晶の塊が生徒を破片から守って
いた。アキラはいつの間にか刀を持っていた。その刀は美しく光っていた。アキラの『能力』
により、氷を発現させたのだ。
「お前は許されない悪だ」
ゆっくりとアリオットに近づく。アリオットはその表情に怯え、後ずさりをする。アキラの顔
は狂気に満ちている。滅多に見せない顔だった。
「私は女ですよ。女に手を挙げる男がいまして?」
その言葉を笑うかのように胴体を斜めに切りつけた。鮮血が舞いアリオットは悲鳴を上げる。
「悪は殺す。たとえ、女子供老人でも。どんな小さな悪でも、大きな悪でも、殺す。それができなければ時人に合わす顔は無い」
アキラの体も同様に血が出ている。アリオットの比ではない。しかし、時人に対する信念がア
キラを動かしている。
「吸血鬼を知っているか?」
「止めて、殺さないで、助けて」
もはや話しかけるのをアキラは無駄だと思った。アリオットの心臓に軽く刀を突き刺す。致命
傷ではない。刺すことが目的ではないからだ。アリオットは刀を抜こうと必死になっていだ
が、体の異変に気づいた。腕が枯渇している。血がないようにカサカサに乾燥しているのだ。
腕だけではない足も、顔を触ってみるとしわが刻まれていた。断末魔ともとれる悲鳴とともに
アリオットは絶命した。全身の血を抜き取られたのだ。
アリオット・レイントン。ツェーン・リッター。『千里眼法』
アキラは重い体を引きずりながら必死に歩いていた。アリオットの言葉が気になったのだ。
なぜ、MARBLEがマリアのことを知っているのかを。嫌な予感のしたアキラは部室へと急
いだ。すこし咳きこんで、口に手を当てる。手には血が付いていた。その後、アキラの意識は
途絶えた。眠るかのようにその場で倒れ込んでしまった。




