悲劇の序曲
時間は遡り、逢瀬はまた男の元にいた。今度はアリオットと鮫島もいる。
「君たち三人に、中隊を組んでもらおう」
中隊とは、テクデット一人につきアウターが五人。それが三組で構成された隊のことである。
「なぜ私たち三人なのですの?」
アリオットは不服そうに尋ねた。
「おれも同感だ。一人でもできるぞ」
鮫島も反論する。
「君達の『能力』のおかげでクロノスの所在を見つけることが出来たのだ。だから、チャンスは平等だ」
男はあくまでもこの三人が協力することを願っているようだ。
「それに、クロノスは強い。三人でも足りるかな?」
男が『強い』という単語を口にしたのを逢瀬は初めて聞いた。それほど脅威と言えるのだろう。そして、男は挑発しているようにも
聞こえた。我の強いテクデットが三人集まっている。アリオットと鮫島は簡単に挑発に乗って中隊で行くことに了承した。
夜光祭は無事開催された。時人はアネモネと。聖児は仲間と飲み食いをしてはしゃいでいる。アキラは香奈と共に生徒の喜ぶ顔を
見ている。成功してよかったとアキラは思っていた。水華はいつも通り部室で高貴館から漏れている光をじっと見ていた。
笑いあう生徒。いつもと違い勇気を出して異性と共に過ごす生徒。変わらない仲間と過ごす生徒。様々な願いがこの夜光祭には詰
まっているのだ。聖なる夜の一大イベント。香奈は依然、アキラと手を繋ぐことさえできずに後ろについているだけであった。
「センパイ。これどうぞ」
アキラに飲み物を差し出したのは同じクラスの女子だった。運動部に所属しており活発な女の子。私とは全く正反対の女の子。ちょ
っと気後れ感がある。
「先輩は、ああいう活発な娘のほうが好きですか?」
聞いた後で恥ずかしくなった。自分でも何を言っているのか分からなくなってしまった。
「いや、大人しいほうが好きだな。香奈のような」
それを聞いて一気に心臓が飛び跳ねた。顔も熱くなるし手には汗が滲んできている。
「せ、先輩。あの・・・・・その・・・・」
香奈の声はけたたましい騒音に掻き消された。そして、照明が落ちる。生徒の不安な声が飛び交う。パニック状態とでも言うのか、
混乱していて何が起こっているのかアキラにも分からない。誰かを助けなければならない。その思いがあったが、香奈の手を握るこ
としかできなかった。
そして爆音が響き渡った。




