夜光祭にて
あの夜から二日が経った。あの後に、マリアから来たる五十日後まで護衛してほしいをお願いがあった。マリアからしてみれば当
然だった。以前にボディガードをしていたトキヒコは何度もマリアの窮地を救ったという。トキヒコと同じ能力を持つ時人を信頼す
るのは筋が通っている。この件に関しては皆も了承してくれている。今も部室で水華と一緒にいる。
時人たちも一応、学生である。学校には来ているし授業も受けている。聖児だけは例外である。アキラは生徒会にも在籍しているた
め普段も真面目に勉学に励んでいる。アネモネもヒューマノイドであることを隠しながら暮らしている。アネモネは男子にも人気が
あり、告白も度々ある。水華をマスターと呼ぶため男子の間では召使いやメイドという妄想が広まっている。しかし、校内では時人
といつも一緒にいる。それも水華の命令でもある。聖児は頼りないし、アキラは真面目すぎるかららしい。そのおかげで変な噂も絶
えない。
赤羽大付属学院高等部には生徒の保護者でも入ることのできない厳重警備になっている。その中で最も近寄りがたい存在である大
神時人の在籍する茶道部には滅多に人が来ないだろう。そして今日は、この学院三大名物のひとつ、夜光祭の準備で忙しいのを加え
て、この学園から出さない限りマリアは決して襲われることはないだろう。時人と水華の考えだった。
夜光祭とは、クリスマスの日、十二月二十四日に生徒会が企画する独自の文化祭である。クラス単位ではなく、専用体育館「高貴
館」という場所で行われる行事で、パーティのように談笑を楽しみ、演劇部・軽音楽部・吹奏楽部などの文化部の催し物もある。そ
の他様々なイベントがあり、それは毎年生徒会によって決められている。開催時間は夕方から。
聖児は準備などせず、いつもの仲間と遊んでいた。夜光祭には興味はなかったが仲間の一人、相原藤二がこの夜光祭で前々から好
意を抱いていた小笠原宮子に告白すると仲間内に教えてくれた。それを協力するために計画を立てている。浮かれ気味の聖児の携帯
に着信が鳴る。水華だ。
生徒会の準備もラストスパートに入っていた。あと二時間で開催される夜光祭。アキラも準備に追われていた。
「先輩、チェックお願いします」
アキラは最高責任者を任されており、最終確認に余念がない。それは飯尾香奈も同じだった。アキラに憧れて入った生徒会。辛くて
もアキラが居るからここまで出来たと思っている。夜光祭ではカップルが出来やすいということもあり、やる気の入る香奈。今日で
この関係を断ち、新しく恋人という関係を作る決心をしていた。そんなことは知る由もないアキラに着信が入る。水華だ。
部室に五人とマリアが集まった。要件はまだ分からない。水華がすぐ来いと電話で言った後、一方的に切られたからだ。
「何の用だ?」
「MARBLEが来ている。それも大勢だ」
「まさか、バレたのか?」
「その可能性が高い」
よりによってこんな時期に襲ってくるとは余程のヒマ人なのだろう。時人の頭にはまずそれが浮かんだ。危険はない。むしろ良いヒ
マつぶしだ。
「詳しい人数は?」
「まだ分からない。けど結構な数だよ」
「関係ないな。全員殺せばいいだろ?」
「一般生徒に被害が及ぶ可能性を考えろ」
そんな中、時人の考えはいたってシンプルだった。
「まぁ、状況に応じて個々で行動しよう。それが得策だ。下手に作戦考えて、それがバレたら元も子のないからな」
MARBLEは表向きには警察に協力している組織。それほど派手に動くことはない。
「マリアには一応、隠れてもらっておこう。何が起こるか分からない」
「えぇ、わかったわ」
そして、これから長い長い夜が始まる。




