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「トキヒコ」

夜、観光の疲れもあってか全員が眠っている時、マリアは屋上へと出ていた。冷たい風がマリアの体を冷やす。薄着のまま出てき



たマリアは少し身震いをしている。その背中にコートを被せる。時人だ。



「気が利くのね。それにしても、奇麗な夜景。また連れて行ってね」



マリアはうれしそうに笑った。時人も少しはにかむ程度ではあったが、久々に体を休めたという実感があった。そして、気になるこ



ともあった。それを聞くためにここに来たのだ。



「何が目的だ?あんたを見ていると帰る素振りが全く無い。何かから逃げているようにも感じ



た」



街を案内している最中、やけにそわそわしたり、周りをキョロキョロと見たりしていた。見慣れない風景を見ているようにも感じた



が、顔が笑っていないのに不信感を覚えた。マリアは時人を見る。先程とは違い、真剣な顔つきでこちらを見ている。いつまでも隠



し通せるわけはないと思っていたマリアは決心して言うことに決めた。



「私のことご存知かしら?」



「資産家の娘だろ。テレビで大々的に放送していたぞ」



「えぇ、三人娘の末っ子として生まれてきたの」



それからマリアは自分のことについて話し始めた。



「幸せな家庭だったわ。母を早くに亡くしたけど、父も二人の姉も優しかったわ。でも」



マリアの顔が暗くなる。



「父が病に倒れて遺産相続の話が出てきたの。長女のアウラ姉さんが相続するはずだったのに、父は私に全財産を相続させたの。親



類一同、もちろん姉さんも大反対よ」



「どうして、あんたなんだ?」



マリアは掛けておいた首飾りを外して時人に差し出した。豪華な飾り付けを施されている。時人の予感通り、これが関連している。




「父の死後から五十日後に正式な遺産相続が行われるわ。その時にこの首飾りを持っている者が遺産を相続できるの」




「それで、気に食わない姉たちが首飾りを手に入れるためにお前を襲う訳だな」



「もう襲われたの!飛行機から落ちたのも姉さんの仕業」



マリアの眼に涙がたまっていた。よほど酷かったのだろう。



「それを渡せば、襲われることないんだろ?」



「これは母の形見よ。素直に渡せないわ。それにあんな姉さんに渡すくらいなら。実の妹を殺そうとした人なんかに」




その直後、人の気配を感じた。こちらの様子をどこからか見ているようだった。時人はマリアの手を握りマリアを強引に近づかせ



た。



「な、何するの!」



思わず赤面するマリア。さすがお嬢様。こういう事に関しては素人である。暗闇から影が現れる。数は三人。囲まれている。マリア



は何も分からずに動揺しているようだった。



「ヒマ人め」



三人の男たちは黙って戦闘態勢に入る。ナイフなどを構えて徐々に近づいてくる。時人はまったく動じない。しかし、マリアは恐怖



に駆られていた。



「何よ、あいつら。ねぇ、何とかしてよ」



「大丈夫だ。任せておけ」



一斉に男たちが襲いかかる。それと同時に時を止める時人。動かない男たちを触らぬようにロープで男たちの手足を拘束した。その



後、三人とも殴り、意識を失わせた。



「何が起こったの?」



マリアはよくわからない様子だった。当然だ。時を止められていては何が起こっているのかなどわかる筈がない。しかし、そこでマ



リアはあることに気付いた。



「ねぇ、あなたも『時』を操れるの?」



「え?」



マリアは確かにそう言った。なぜ一般人がこの能力について知っている。時人は訳が分からなかった。




「なんで、それを」



「少し前に、東洋人をボディガードに雇ったのよ。その男も『時』を操れたから・・・・」



「名前は!」



マリアを壁に押し当て声を張り上げる時人。



「『トキヒコ』」



その名前が、時人の過去を思い出させる。あの男が生きている。




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