空からの贈り物
休日の街は実に賑わっていた。そんな中を時人とアネモネは歩いていた。新しい服を買いに来たほか、必要な物を揃えるための買
い物でもある。時人にとって計算外な行動だった。こんなにも早くMARBLEが襲ってくること。それにより急遽、部室に身を隠
すことにした。全員で行動したほうが良いという時人の判断だった。
「ありがとうございます。時人さん」
「気にするな、服ぐらい買ってあげるから」
「はい」
アネモネの心は変わり始めていた。少しずつ、少しずつ。ゆっくりと
空を見た時人は異変に思った。何かがある。空中に。そして徐々に落下している。
「アネモネ、あれが何か分かるか?」
アネモネの眼がその落下物を捉えた。それを見たアネモネの口からはこう告げられた。
「ヒト、です」
「本当か?」
「はい、女性ですね。気を失っているようです」
改めて上を見直す時人。しかし、空には飛行機や飛んでいるモノ自体なかった。青空が澄み渡っている。とにかく、助けるのが先決
だ。時人はアネモネの背中に乗った。
「とりあえず、助けるぞ」
「ハイ」
アネモネは体を地面と平行にして走りだす。そのスピードは自動車を簡単に追い越すほどのスピードだった。それでも追いつきそう
になかった。厄介なことに、アネモネもそうだが、落下してくる女性を一般市民が気付き始めたのだ。騒ぎ始める人々。アネモネの
飛行に頼りたいが、アネモネよりも重くなると飛べなくなるから危険がある。
「アネモネ、十分だ。ありがとう」
時人はアネモネから降りて近くのビルの壁を縦に一気に駆け上がった。
自分が落下する『時』を極限まで遅くする。そうすることにより、壁を駆け上がることが可能になる。
『時』を戻し、ビルの屋上に立つ。タイミングを計り、落下してくる女性に飛びつく。女性を抱えることに成功した時人。そして再
び、『時』を遅くすることにより、ゆっくりと地面に着地することもできた。これ以上、一般人の目に付くのは危ない。アネモネと
一緒に女性を連れて部室へと向かった。
「どうするんだよ、この娘を」
ベッドに寝かせて、改めて話し合う五人。桃色の奇麗な長髪。耳にイヤリング、髪飾りなどを付けている。どこから来たのか、なん
で空から落ちてきたのか、どんな人物なのか、まったくわからない。
「お嬢様らしいな。この服装からして」
推測でわかる事だった。真っ昼間からドレスを着ており、豪華な髪飾りも付いている。イヤリングも相当高価なものだからかなりの
富豪者だろう。事態が急速に動いたのはテレビで流れたあるニュースだった。
「緊急速報です。フランスの資産家であるマリューセル家の一人娘のマリア・マリューセルさん(十八)が行方不明になったという
情報が入りました。本日午後、搭乗中の飛行機から突然、姿を消した模様で現在も捜索が続いております。特徴は桃色の長髪。翡翠
色の髪飾りです」
一同が目を丸くして流されているマリアという娘の映像を見た。まるっきり、ここで寝ている娘と同じであった。桃色の髪も髪飾り
も同じだった。
「おい、マジかよ」
明らかにヤバそうな雰囲気がそこにはあった。しかし、時人の顔だけは相変わらず笑顔だった。時人はマリアの胸元に目がいってい
た。
隠れて見えないが、首飾りもしているようだった。それが特に気になっていた。それを間近で見るために顔に近づこうとした時、
マリアが目を覚ました。目が合う時人とマリア。ニッコリ笑って挨拶した時人の頬に強烈なビンタが入る。
「きゃあああああああああああああああああああああ」
部室は荒れ放題だった。あれから、マリアが乱心状態となりひと暴れしてしまったのだ。
「落ち着きましたか?マリアさん」
アキラが紅茶を差し出す。それをゆっくりと飲むマリア。
「何があったんだ?話してくれるか」
一向に話そうとせず、周りを見ているマリア。何かを思い出したように唐突にマリアが質問を始めた。
「ここは日本?」
「そうだ」
「日本のどこ?」
「東京だ」
「そう、よかった」
安堵のため息とともに胸を撫で下ろすマリア。何に安心したのかはさっぱりわからない。
「なら貴方達、ここを案内して頂戴。前から来てみたかったのよ、東京」
「何言ってんだ。あんた捜索ねが・・・・」
聖児の言葉を強引に止める時人。口に人差し指を立てて黙るようにと指示をする。俺に任せろと言わんばかりに。
「かしこまりました、マリアさん。しかし、その服ではいささか目立ちます。どうか庶民の服へと着替えることを勧めます。こちら
も気兼ねなくエスコート出来ます故」
「わかりましたわ」
「水華。着替えを」
低姿勢の時人。無駄に口が達者になるときは何か企んでいる時だと全員が知っている。何をす
るかは時人に任せる。あとは時人の指示に従うだけだ。




