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宵の宴〜アネモネ〜 




 アネモネは考えていた。なぜこの人は無駄だと分かっていても私に立ち向かうのだろう。アネモネは動かなかった。




それはマスター水華の命令でもあったからだ。MARBLEの刺客の戦闘能力を測るためらしい。けど、この人は弱い。




測るに値しない、アネモネはそう思っていた。何度、銃で撃っても、ナイフで切りつけてもアネモネにキズ一つ付かない。先程から




通信しているマスター水華の反応も薄くなってきた。良い情報も何一つ持っていない『アウター』に構っているヒマはない。




「もういいや、アネモネ。始末して」




「了解しました。マスター」




動き出すアネモネ。その表情はいつものままだった。アウターである清水忠志は後ずさりしかできない。アネモネが人間ではないこ




とに気付き始めたのだ。清水の心には絶対に逃げ切ることを考えているのだ。どんな手を使っても逃げ切る。




「マスター、どのように始末しますか?」




「一番簡単な方法だ。ただし、誰にも見つかるなよ」




アネモネの脳内で『簡単で、一番静かな方法』を探す。見つかったのはひとつだった。それを実行するには近距離でなければいけな




い。アネモネが徐々に近づこうとしたその時、清水は手榴弾を手にしており、アネモネに向かって投げつけた。





 閃光とともに豪快な爆音が辺りに木霊する。清水は逃げることを忘れ、煙と炎に包まれた風景を見ていた。甲高い笑い声さえも出




てしまう。それほど快感だったのだ。





 アネモネは生きている。その煙と炎の中からゆっくりとした歩調で、確実に清水に迫っていた。傷は一つもない。




しかし、服が破けてしまってボロボロである。アネモネにはそのほうが許せなかった。清水は固まって動けなかった。人間でもなく




爆発では死なない。化け物にさえ見えてきた。




「来るな、化け物め」




清水の顔はまるで恐怖そのものを見ているかのような顔だった。その瞳にはアネモネしか映っていなかった。それはアネモネも知っ




ていた。





アネモネは清水の首元に針を一刺しする。その針からは水華が合成した毒が注入されていく。




 清水は静かに息を引き取った。









 アネモネはしばらく破けて服を見ていた。すこし、悲しい気持ちになる。自分が化け物呼ばわりされてしまった。それも悲しかっ





た。けど、それよりも。




「時人さん、ごめんなさい」




せっかく時人が自分のために選んで買ってくれた服。それがボロボロになってしまった。込み上げてくる涙はない。




けど、悲しい感情はそこにはあった。





アネモネは、『悲しみ』という感情を知った。






 男は思っていた。クロノスのこと。『時の支配人』のこと。いずれも順調に事が進んでいる。男の口元が少し緩みだす。




男の部屋に、逢瀬が入ってきた。




「全員、死にました」




「そうか、まぁ予想の範囲内だな」




「やはり、私が・・・・・」




「そうだな。考えておこう。下がれ」




逢瀬は部屋を後にした。クロノスは強い。しかし、まだ我らには敵わない。あのお方のもっとも信用するテクデットには遠く及ばな




いだろう。ただ、気掛かりなのは他の三人だった。誰も情報にはなく力も未知数だ。データも何もなかった。三人ともクロノスと同




じくらいの実力だ。それだけはわかる。




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