宵の宴〜アキラと聖児〜
時刻は同じ頃、アキラと聖児、アネモネも別の場所でMARBLEの刺客と対峙していた。アキラは町外れの廃工場にいた。追跡
してくる敵と戦うために敢えて人気の無いところへと来たのだ。
「賢明だな。人を巻き込みたくないのかな?」
「人に見つからずにお前を殺せるからな」
アキラは手に持っていた刀を抜いて切っ先を敵に向けた。
「それは俺も同じだ」
敵も刀を抜き、戦闘体勢に入っている。
「金島太一。始末を開始する」
金島は勢いよくアキラに切りかかる。アキラはそれを素早く交わし、肩に一太刀入れる。しかし、それに反応した金島は刀によって
それを阻む。二人の刀は交錯し合い、どちらにも一太刀入れることが出来ない状態にある。
金島の横の大振りを瞬時に体を仰け反らせ交わしたアキラ。その一瞬、金島は体勢を崩した。明はその隙を見逃さなかった。間合い
を詰め、首を狙う。首に刀が触れたとき、アキラは違和感を覚えた。刀がそれ以上進まない。力を入れても全く動こうとはしない。
「これがおれの能力だ」
金島はアキラの腕を切る。しかし、アキラはそれを間一髪交わすことが出来た。
「『硬化』 それが俺の能力。無能なお前には到底勝ち目はない」
『硬化』体の一部から全身に至るまで自由に硬くすることが出来る。しかし、アキラは平然としていた。
今のアキラにはただ目の前の敵を倒すことしか考えていない。たとえ、それが誰であろうと、時人の邪魔をする奴は誰であろうと許
されることはない
「時間も無い。早めに終らせる」
アキラは水の入ったペットボトルを取り出した。そして、その水を刀にゆっくりとかけていく。
「覚めろ、『花鳥風月』」
アキラは何もない空間を刀で横一閃に切った。すると、刀についていた水が三日月状になり金島に向かっていく。その数四。首・右
腕・胴・左足に飛んでいる。
「なんだ?」
金島は何も分からずに刀すら構えずその三日月状の水を見ているだけだった。それが金島の体に触れた時、金島の目の前は真っ暗に
なった。
アキラの目の前には首、右腕、胴、左足がそれぞれ切断された金島の死体が転がっていた。残っている刀の水を拭き取り、そし
て、金島の死体に火をかける。
アキラは終始、その人の焼ける匂いのする綺麗な炎を見ていた。
『花鳥風月』水を操る能力。水を付着させた物の能力を得る。
聖児は目の前の敵に戸惑っていた。或いは殺すのを躊躇さえもしている様子だった。歳は俺と同じかそれ以下。それでいて華奢な
女の子。七瀬美紀はどうみてもMARBLEの刺客とは思えない。能力も無い『アウター』なら手短に終らせよう。
『アウター』異能組織MARBLEの中でも能力を持ち合わせていない一般人。これといった特徴もない。いわば戦闘員だ。
身体能力が高く、能力ではないが何らかの特技を持ち合わせている。
「お嬢ちゃん、あんたを殺したくない。帰ってくれないか?」
その言葉の後に聖児の腹に激痛が走った。七瀬は聖児にボディブローを入れたのだ。あまりの激痛にその場でひざを付く聖児。
「黙れ、私はお前を殺すだけだ。お前の都合など関係ない」
聖児はよろめきながら立ち上がる。すぐさま、七瀬の拳が飛んでくる。聖児は交わすだけで精一杯だった。
「安心して死ね。他の仲間も全員私が殺してあげるから」
その言葉の次に飛んできた拳を聖児は受け止めた。聖児はその拳を思い切り握り潰した。
断末魔が響き渡る。骨は砕け、皮を破り、外に出ていた。絶え間なく流れる血。指は全てあり得ない方向へと曲がっている。七瀬
の顔は気持ちの悪い汗が流れ続けていた。
「俺の『能力』は殺すか、生かすか、その二択しかない。ただ、お前は前者だ」
聖児は七瀬の頭に手を置く。力を入れずにそっと触るように。
「何をする気だ」
七瀬は恐怖で体が動かない。
「俺は、出来ない事を言う奴が大嫌いでね。アンタ程度に殺される俺らじゃないよ」
聖児は手に力を入れた。単純な力ではなく、『能力』の力を。
先程まで動いていた七瀬の死体は黒く焦げていた。もはや原形をとどめていない。タバコを出して、指を鳴らした。人差し指に火
が灯りタバコにつける。煙を空に向かい吐き出す。その煙が風に流されていく。それと同じように七瀬の死体も塵のように風に流さ
れていった。
『時人のためだ』
これが聖児の口癖である。
『発火』炎を自在に操り全てを焼き尽くす。火の付いたものが無くなるまで消える事の無い炎。




