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異世界奇行 ~ダーメニンゲンの詩~  作者: DIVER_RYU
第二集『天肆争奪戦』
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第二六篇『機械化闘士の鎮魂歌』下

この物語を読んだ後には、親友との時間を大切になさって下さい。

 他のメンバーが改造闘士部隊を相手取っていたまさにその頃、コモドは最も闘いたくない相手を前に、無人のトロッコから手甲を取り出し身に付けていた。


「助けは来ないようだな。武器だけ送って寄越すとは中々良い仲間ではないか」

「どうせそちらさんの、改造闘士の仕業だろう。サイレーヌとマードッグ辺りじゃねぇのか?」


 左手を天井に、そして右手を地面に向けるかのように腰だめに構えたコモド。その指は掴みかかる猛禽類のような様相を見せていた。赤銅色の隻眼が、まるで光を放つかのように一層強く開かれる。


「死神コモド、やはりそうでなくてはな」

「……そちらさんは知らなかったはずなんだぜ。俺が“死神”になった経緯なんてよォ」


 コモドの手甲剣、アルムドラッドに仕込まれた刃が顔を出す。イリーヴの手首に仕込まれた扇子状の刃、メニギスライサーが展開される。


「俺が“死神”にならずに済むんだったらな。あの時、さっさと研究室から帰っていたなら……」

「今更の想い出話か? 過ぎた事にいつまでも縛られるくらいなら、コモドも脳改造を受けてみてはどうだ?」

「言ってくれるじゃねぇか。過ぎた事にいつまでも縛られる程に、後悔が出来るのが人間の感情ってモンだぜ。現に、さっきから話に付き合っているイリーヴもまた、後悔してるんじゃねぇのか?」


 構えを解かぬまま、コモドは話し続けていた。その会話に、一縷の望みを抱いたまま。


「後悔だと? 何をバカなことを。我は一介の機械人形、過去もなければ家族もない、あるのは貴様を殺す使命のみ」

「自分に言い聞かせているように、聞こえるのは気のせいかァ?」


 コモドがそう口を開いた直後、イリーヴの構えはコモドそっくりなモノへと変わった。


「そして貴様の過去も家族も友人も消え去り、人形となるのだ!」

「断る。……そうか、とうとう捨てたか、ヒトであり続けることを!!」

「いずれこの国はブラックバアルの手に落ちる。そうなれば全て同じことだ」

「機体どころか骨の髄まで真っ黒に染まりやがって。覚悟はしていたが実際に見ると悲しいモンだな」

「遺言は書いたか。死出の旅路の準備は済んだか。激痛と悔恨の中、意識を閉ざす覚悟はあるか」


 激突する、アルムドラッドとメニギスライサー。しばし睨み合った直後、互いに押しのけ合うと構えが変わる。手甲同士を交差させるコモド、顔面のカバーに手をかざすイリーヴ。


「バレルアイザー!!」


 緑色の眼から放たれた稲妻状の光線を、コモドの手甲から展開した巨大な刃が受け止め、振り払うとイリーヴの足元から爆発と土煙が起こる。


「響牙術、ヴィブロスラッシュ!!」


 続けてピアスに付いた牙を弾き、手甲の刃に魔力を宿らせ、振りかぶる。


「斬れるのか、このイリーヴをッ!!」

「斬ってやるッ!! 人形の体なら俺がまた作ってやらァ!!」


 意を決した一撃が遂に、放たれた。宙を飛ぶ刃を、イリーヴは両腕を広げ、何とその機体を以て受け止めようとする。


「何を考えて……!?」


 放った張本人が目前の光景に驚く中、胸部そのモノでヴィブロスラッシュを受け止めたイリーヴは何と、手刀一つで術を叩き割った。


「ヴィブロスラッシュへの耐久性など、最初から設計に入っている。生身の人間ならば即死しただろうに、残念だったな」


 胸部に浅い切り傷を刻んだだけで、ヴィブロスラッシュは解除されたのであった。しかしそれだけではない。


「傷が……治っている……!?」


 イリーヴの胸部の傷に無数のワイヤーが生成され、瞬く間に傷口が覆われる。コモドが邪竜症候群の発作を起こしたあの夜の、翌朝に見たのと同じ現象が今目の前で起きていた。


「貴様の修理など必要ない!」

「……言ってくれるじゃねぇか。後悔すんなよ?」


 その口調と裏腹に、コモドはある疑問を抱いていた。


(オートメイトの再生能力、何度見ても慣れねぇぜ)


 今、彼の脳裏にはその恐怖と、未知の技術に対する興味が絡み合っていた。


(その辺の泥で出来たゴーレムじゃねぇんだぞ、材料は何処から調達しているんだ? 何よりゴーレムの再生は生命力が宿るからこそ出来るんだぞ!? まさか、イリーヴの血液が“弱って”いた原因って、もしかして……!?)


 その仕組みとは脳の監獄、生命力を薪として火にくべるが如きシロモノであった。メニギスに備え付けられた脳髄は機械人形に思考力を与える頭脳であると同時に、生命力を発する“燃料”である。そして機体が傷付くその度に脳に蓄えられた生命力は酷使され、それによって早められた血流は溶質たる酸素や養分といったエネルギー源を消耗することとなる。罪なき終身刑、それがメニギスに改造され、暗黒組織に使役される者の末路であったのだ。


 悲しいことに、コモドの脳裏をよぎった予想は当たってしまっていた。それが影響したのであろうか。踏み込んだ彼の斬撃は、手甲二つ分の金属を注ぎ込んだ大刀にも関わらずイリーヴの機械の手に、易々と納まることとなってしまった。


「刃が軽い。さては迷ったな? 喋りと裏腹に何を考えている」

「チッ……タルウィサイトに出ちまってやがる」


 掴まれた刃を液状に変えて素早く納め、空を掴んだ腕目掛けて蹴りが飛ぶ。だがイリーヴの体は揺らぐことすらない。


「てめぇだって分かるはずだろう、そのワケ分からん機械人形の機体からだなァ、脳みそに残った生命力削って動かしてんだろう!? じゃなきゃさっきの再生は……」


 刃を展開せぬまま、コモドはイリーヴ目掛けて直に拳を叩き付けた。使い手の精神がその質量に影響するアフリマニウム、それを組み込んだ流体合金であるタルウィサイトは、迷いを抱いたままではとても振るえないためであった。


「出来ないはず……か? 生身の人間とて同じことだろう、闘いの本質は生命の削り合い、貴様が打てば我が削れる、それだけのことではないか」


 生命を削るという事実を、イリーヴは否定しなかった。その返事を以てコモドは理解した。自らのひねり出した咄嗟の予測が、残念ながら正しいという事実を。


「俺は削りたくねぇんだよ! イリーヴ、俺はあんたを削りに来たんじゃねぇ、助け出しに来たんだ!!」

「要らん世話だ。言っただろう、我は一介の機械人形」

「己が滅ぶと知って何故暗黒組織に与する!」

「我が使命だからだ。それ以上などあるモノか。バレルフッカー!!」


 直後、イリーヴの手の甲に生成された鉤爪が振りかざされる。


「俺を殺す。それが使命なんだな」


 そう尋ねるコモド。何とその隻眼は閉ざされていた。


「そうだ」


 イリーヴの返事はシンプルであった。


「じゃあやれよ。ひと思いに頼むぜ。どうせあとひと月の命だ」

「抗わぬのか?」


 コモドの思わぬ発言に、イリーヴの鉤爪は相手の肩にかけられたまま止まっていた。


「イリーヴ。良いことを教えてやるよ。機械人形の腕はな……」


 肩にかかった鉤の重みを感じながら、コモドが語り掛ける。


「敵の肩にかけたまま、震えたりしねぇんだぜ? 普通はそんな風には作らねぇからな。……だがそちらさんには、どんな人形師でも作れぬ部位がある」

「何が言いたいのだコモド。何処が我の腕を振るえさすのだ」


 グッと睨みつけたコモド。その時、眼帯に仕込まれた三つの青い玉石が、一瞬だけ光を放った。直後、したり顔となったコモドは軽く頷きながら言葉を続けた。


「脳髄だよ、そいつが人形の腕を邪魔すんのさ。そしてその震えこそが、イリーヴに人間であるという証拠なのさ!」

「コモド……貴様ッ!? うぅ……!!」


 鉤を展開したまま、後ずさるイリーヴ。その顔面にかけられたカバーを、そこに備え付けられた脳を抑え付けながら、震えていた。緑眼がチカチカと点滅し、あらぬダメージが入ったことを示している。一体、彼に何が起きたというのか。


「やはりそうか。人間としての動きを、縛っていたな、コイツで!!」


 そう話しながらズカズカと歩み寄った次の瞬間、コモドはイリーヴの後頭部にある隙間に手を入れると、ズルリとあるモノを取り出す。それはシラミにもハエにも似た、巨大な虫型の人形であった。


「コイツはよく出来ている……神経系を縛る小型人形といったところか。趣味の悪ぃモン作るじゃねぇかよぉ、ビアル!!」


 眼前にない第三者の名前を叫び、振り向きざまに手甲を振るうコモド。弾かれた棒手裏剣が地に落ちた。


「貴様、イリーヴに何をしやがった。せっかく二対一で潰そうというところを」


 皮膚の剥がれ、鋼鉄のウロコで覆われたドクロを剥き出しにした顔であっても、その目には憎悪と怒りを映していた。


「黙れ、てめぇこそビアルに何しやがった。いや聞くまでもねぇか」


 イリーヴから引きずり出した虫型の人形を見せ、コモドはビアルと対峙する。


「欲しければくれてやる。死出の旅路の土産にするが良い」

「いらねぇよ。それに潰しに来たんだろ、俺のこと。……早うやれや」


 わずかコンマ数秒後の出来事であった。ぶつかり合うビアルの得物と、コモドの手甲剣。怒りの込められた重さを放つコモドのアルムドラットに対し、一撃の破壊力を求めて編み出したビアルラッシュ。その衝撃は互角であった。


「針蜻蛉!」


 ビアルラッシュから分離した針がコモドに向かう。


「デヤッ!!」

「ふんぐッ!?」


 針蜻蛉による攻撃に気付いたコモド、つかさず軸足を捻り、ビアルの足元を狙い、蹴り込む。体勢を崩したビアルに更なる前蹴りを浴びせ、得物ごと後ずさりさせると、体を捻りながらその指に相手の放った針蜻蛉を掴んでいた。やがて翅が止まり、沈黙した針蜻蛉をコモドはその場で投げ捨てると、牙を弾いて指先に魔力による青い揺らぎを灯し、構えた。


「イリーヴから離れろ、響牙術、ヴィブロクラッカー!!」


 足元に敷き詰められたレールや枕木の隙間を縫って、地面に指を突き刺し術を発動させる。地面を引き裂き、レールも枕木も破壊しながら衝撃がビアルに襲い掛かる。


「おのれ、かくなる上は!」


 ビアルラッシュを前方に攻撃を防ぎながらも、ビアルは衝撃波そのモノに押されていた。コモドとの距離が伸びてゆく。しかし手に複数の鉤を取り出すと棒手裏剣を通して周囲の壁にバラ撒き、唱えた。


「化鋼術、自在鎖!」


 すると棒手裏剣が杭の付いた鎖に変わり、鉤の先端を向けてコモドへと伸びてゆく。瞬く間に鎖の鉤は右の二の腕、左のふくらはぎ、そして左の掌に喰らいついた。


「ギィィ……!!」


 苦痛に歪むコモドの口から、ギリギリと歯がきしむ音が響く。肉に喰い込む鉤からはダラダラと血が流れ落ち、確実にその体力を蝕んでいた。


「引けェ……」


 ビアルは目を見開き、コモドを捉えた鉤に指令を出す。すると鎖はその場からズルズルとビアルの前方へ、コモドを引きずり始めた。距離が近付くと同時に同時にビアルの口角が上がってゆく。得物の先端に彫り込まれた溝に、腰に下げていた染料を走らせると、まるで宣言するかのように術名を唱えた。


「紋章術、不動紋」

「不動紋だと? 狙いは心臓か? いや、ヤツの腕力なら……!!」


 不動紋は刻まれた箇所の真下に魔力を浸透させ、動きを止める効力を持つ。無論、心臓の位置に刻み込まれればたちまち致命傷となり得る。おまけに左肩と左手を同時に鉤で引かれるコモドでは、防ぐことが難しい状態にあった。添え手をかけ、真っすぐにコモドの心臓に得物の先端を向けたビアル。しかしコモドが言うように、このままでは不動紋どころか、ビアル自身の力を以てすれば打突そのモノで心臓を破壊することすら可能である。まさに絶体絶命。


「我が主に楯突いた報いを受けるが良い。冥府へ還れ、死神コモド!」

「……フンッ!!」


 ビアルがもたらす死を前にして、コモドが力みながらとった行動。それは何と首を使って右の二の腕を捉えた鉤目掛け、ピアスについた牙を鳴らすことであった。


「響牙術、ヴェレスネイカー!!」

「何をッ!?」


 コモドが響牙術をかけた対象、それは他ならぬビアルがかけた鎖であった。杭が壁から抜け、そして力を抜いたコモドは何と鎖によってビアルの前から急激に距離を開け、三つの鉤に手をやると素早く引き抜いた。彼は化鋼術によって作られた鎖を、術者の集中力が得物に向いたその時を狙って響牙術によって魔力を上書きし、コントロールの権を奪い取ったのである。


「痛ッ……てぇなァ……!!」


 手足にかけられた鉤を外し、出血をターバンによって無理矢理抑え込むと、コモドはふとその背後を見た。


「イリーヴ……動けるか?」

「あぁ……」


 力のない返事が来る。イリーヴは壁にもたれかかり、うなだれていた。


「ここから出るぞ。その様子じゃ。俺が生きてるうちに輸血しないとまずそうだ」

「……そうか」

「そうか、って何だよ。今は冗談言ってる場合じゃねぇぜ」

「そのまま返す。ここから生きて出るなんてもう、我には冗談にしか聞こえんのだ」

「イリーヴ? ……どういうことだ?」

「……見ろ、コレ以上、直らんのだ」


 壁に手を付いたまま、イリーヴは立ち上がりコモドの向き直った。彼の胸には、コモドが付けたキズに複数のワイヤーが絡みつき、そのまま止まっていた。それだけではなく、そのキズからはなんと赤い液体までもが垂れ落ちていた。


「脳に流すはずの血が……流れ出している……?」

「もう、我には生命力が残されていない。あと十歩も歩けんだろう」


 そう話すイリーヴの声にもまた、ノイズが混ざり始めていた。爛々と輝いていた機械の緑眼もまた、徐々に輝きを失いつつある。


「俺が付けたキズで……そんな……!!」

「コモド……よく聞け……今すぐ我を置いて先に進むんだ」

なァに言ってんだ!? この状況で、親友を置いて行くヤツがおるか! おぶってでも連れてくからな!!」


 コモドはイリーヴを起こそうと肩を貸した。眼前に、自ら付けたキズがイヤでも目に入る。


「親友と、呼んでくれるんだな……だからこそ、コモドにはここで死なれるワケにはいかんのだ。我の機体からだには、生命力が尽きると同時に起爆する、爆弾が仕掛けられている……」

「爆弾だとォ? ……なんてこった、ホントに爆薬の匂いがしやがるぜ……しかも飛びっきり上等なヤツだ……」


 眼前のキズから漂って来た甘い匂いに気付くと、コモドは足を止めた。


「分かっただろう? この量の爆薬が炸裂すれば、確実に我は弾け飛ぶ。至近距離で闘っているであろう相手は確実に、我を形作る装甲の破片によって挽き肉と化す。それがビアルの狙いだ」

「どうしても、連れて行くことは出来ないんだな」


 ゆっくりと、肩からイリーヴを降ろし、壁を背にかけるコモド。いつの間にか彼の隻眼に、熱いモノがこみあげていた。


「すまないなコモド……脳髄を縛るあの人形、オルニソを植えられた時点で既に、信管が入れられたようなモノだった……」

「あの虫の人形か……もう少し早く気付いていれば……!!」


 自ら引きずり出した人形を思い出すコモド。脳に残った生命力をひたすら酷使する仕組みを作り、最終的にはコモド共々爆殺する。場合によってはビアル自らも手を下すことで確実に起爆する。それが相手の狙いだったのだ。


「イリーヴ、俺もあとひと月の命だ。もし、向こうで会えることになったら……」


 一度鼻をすすった後に、コモドは続けた。


「一緒に一杯やろうぜ。生きてるうちには、出来なかったことだからさ」

「ああ、約束だ。……来るぞ」


 長いようで短かったかつての親友達による会話を、強制的に閉ざす足音が近づいて来る。


「コモド……先には行かせんぞ、お前だけは……!!」


 機械改造された目を光らせ、叫ぶ。


「ビアルアイザー!!」


 イリーヴを最早無視した上で、ビアルはコモドに襲い掛かる。目から放たれた一撃を間一髪でかわしたコモド、かがんだついでに足元にあった何かを拾い上げるとすぐさま牙にあてて揺らぎを宿し、投げた。


「うがッ!? やりおったなコモド……」


 ビアルの眼窩に突き刺さったそれは。


「……手裏剣返し!!」


 彼自身が打っていた、棒手裏剣の一つであった。


「ヴァァアアア!! 武装変幻、ビアルラッシュ!!」


 最早獣のようなうなり声を上げ、ビアルは眼窩に刺さった棒手裏剣を引き抜き、得物に変える。両手にビアルラッシュを構え、コモドに飛び掛かろうとした、まさにその時であった。


「バレルシャフト!!」

「何をッ!?」


 ビアルの胸を貫通し、イリーヴの銛が出現する。痛みと衝撃からか、二振りのビアルラッシュは地に落ち、棒手裏剣へと戻ってしまった。


「そんなまさか……イリーヴッ!?」


 驚くビアルが振り返ったそこには、しっかりと二本足で立ち上がったイリーヴの姿があった。だが同時に彼の胸に刻まれたキズは再び開き、自己修復機能によって覆い始めていたはずのワイヤーが溶け落ちている。そしてふと鼻に入り込んだ匂いを以て、ビアルの表情が変わった。


「イリーヴお前……自爆する気かッ!?」

「ビアル! コモドの邪魔はさせん、一緒に爆ぜてもらうぞ!!」


 必死の抵抗を試みるビアルだが、返しのついた銛を外すことは容易ではなかった。


「よせイリーヴ!! 気でも狂ったか!!」

「狂ってなどおらん! 我は一介の機械人形……否、死に逝く一人の人間だッ!!」


 背後から抑え込み、尖った指先を喰い込ませ、とうとうイリーヴはビアルを捕らえた。


「イリーヴッ!!」

「来るなコモド!! ……短い間だったが、また会えて嬉しかったぞ」


 思わず手を伸ばし近付こうとしたコモド、しかしイリーヴは叫び、止めた。


「バレルフッカー!!」


 もう片手に鉤を作り出し、はるか後方にワイヤーを放ち、残っていた枕木に掛ける。ウインチを起動し、イリーヴはビアルを押さえつけたまま、一気にコモドから離れて行く。


「放せイリィィィィィィーーーヴ!!」


 ビアルの絶叫が地下道内をこだまする。やがて二人の姿が見えなくなったその時、一瞬だけ閃光が地下道内と照らしたその直後、ドンッという音と衝撃がコモドに襲い掛かった。


「オワッ!?」


 頭と顔をおさえ、その場にうずくまるのがやっとのコモド。やがて土煙が収まった頃、彼が一歩、また一歩とそこに近付いたその時、足に何かが当たるのを感じた。うずくまり、手にしたそれは、千切れ飛んだ親友の右腕であった。


「イリーヴ……すまねぇ……すまねぇ……!!」




 ヘルベンダーによる妨害を突破した、ラァワとアカリナ。だがその先から響く轟音が二人の足を止める。


「今のは一体!?」

「ハデにやってるようね。急ぎましょう」


 土煙が収まるのを待ち、再び足を進める二人。やがてその視界に映るモノ、それは落ちた松明、崩れた土塊、バラバラになった枕木、ねじ曲がったレール。それらを避けつつ、二人が急いだ先にあったのは、機械人形の腕を抱えてさめざめと泣く、死神と呼ばれた闘術士の姿であった。


~次篇予告~

次々に打ち倒される、暗黒組織の闘士達。

しかしゼーブルにはまだ“奥の手”が残されていた。

次篇『悪夢が来たりて牙を剥く』 お楽しみに

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