第二六篇『機械化闘士の鎮魂歌』上
この物語を読む際には、密室でのガス事故に気を付けてお願い致します。
閉ざされた空間で巨体が動く度に、地響きが起こる。よろめく体を起こしながら攻撃の機会を伺う三人の闘術士。一対三と不利なはずの闘いにも関わらず、巨漢の顔にはいやらしい笑顔が浮かんでいた。
「ふぇっふぇっふぇっ……お楽しみはコレからですヨ、お嬢さん方」
「コイツ……三対一なのに何で……!?」
槍を構えたまま、肩で息をするアカリナ。
「あんなデカブツのクセに動きが速いなんて……」
地に落ちたリング状の刃を手甲に回収しながら、リトアも呟く。
「真魔術、ヘクセンアロー!!」
そんな中、ラァワだけは構えを新たにヘルベンダーの眼前に飛び出した。
「正中撃ち!!」
「甘いですネェ!!」
「何ッ!?」
直後、急にラァワに距離を詰めたヘルベンダーの、掌底がラァワを捉える。軽々と飛ばされる彼女の体を、姉妹の手が受け止めた。
「すまないわね……」
「ラァワ様無理をなさらないで……」
「でもどうすればアイツを……?」
「無駄ですヨ、無駄ァ!! 大人しく死んで頂けるとありがたいですネェ!!」
そう言って、ヘルベンダーはカプセルの一つを取り出す。たった一つだけ、赤い何かが封入されたそのカプセルを見たラァワに戦慄が走った。
「そいつはゼーブルの毒……!! この密室で放つつもり!?」
「ええそうですヨォ。何せコイツの中身はゼーブル様がお作りになられた、溶血霧散掌で御座いますからネェ。効果的に使わないと怒られちゃうんですヨォ」
「じゃあ使わなければ良いじゃないの!」
「そうもいかないんですヨォ! 何せコイツの中身は、ヒト一人軽くガイコツに出来ちゃう量が入ってますからネェ、使わないともったいないでしょウ?」
「ガイコツだって……? ウラルさんの腕みたいになるってこと……!?」
脂汗を垂らすリトア。ゼーブルの使った毒が、あの“人喰いウラル”の右腕を奪って倒した。一晩にしてインクシュタットを暗黒に包んだ決定的な事件の最中に起きた、悲劇にして惨劇。それが既に闘術士の間でも周知の事実となっていたのである。
「そんな物騒なモノは自分で味わうことね。封印符!!」
ラァワの取り出した封印符は、ひとたび宙に投げ上げられると一枚が二枚、二枚が四枚、四枚が八枚と次々に数を増やし、あたかも人喰い魚の群れのようにヘルベンダーを取り囲む。
「真魔術、結界牢獄!!」
「アラ味なマネをするんですネェ。流石は九十年も生きた魔女だけはありますネェ」
「どうするの? このまま私達を先に行かせてあげるなら、そのまま見逃してあげても良いけど」
「そんな心配は要らないのですヨォ! 封入術、デブリショット!!」
両の拳をぶつけ合わせるヘルベンダー。すると肩に埋め込まれたカプセル二つが飛び出し、弾け、破片となって目前に飛ぶ。この術は魔力を込めたカプセルを破裂させ、前方にだけ向かって散弾銃のように放つ攻撃技である。
「ガラスの破片で封印符を破れるとでも!?」
「破れまスヨ、こうすれバネ!!」
放った破片が封印符の壁に刺さると、今度はヘルベンダーの両手がかざされる。すると破片は吸い寄せられるように彼の手に寄せ集められ、掌の皮膚へ次々に突き刺さった。
「いきますヨォォオオ!!」
破片の埋め込まれた掌打が凄まじい速さで放たれ、瞬く間に結界牢獄は破られることとなった。
「結界を……削り落とした……!?」
「なんという力業……」
驚愕する姉妹。一方で術を破られたのを見るや否や、ラァワは魔力を切る。一枚に戻った封印符は宙に浮いたまま、燃え尽き消滅した。
「ウラルさんから聞いたことがあるわね、そのガラス片を手にまとうやり方。本来なら、手に油か何か塗ってからひっつけるんじゃなかったかしら」
「え、ラァワ様それいつの時代の話ですか」
「伊達にトシ喰っちゃいないわよ。どうやら世代が近いみたいね?」
「ふぇっふぇっふぇっ……コレこそが我々、闘士の正式な決闘の作法ですヨォ、お嬢さん方。闘術士ではなく、闘士と呼ばれていた時代のですネェ」
「だから改造“闘士”と名乗っていたワケね……」
解説せねばなるまい。闘術士とは本来新しい名称であり、闘士として活動できる術士を指す言葉である。
「ええ、今のように、触媒術も機動法も一般化する前のお話ですからネェ。闘士と名乗る方がしっくり来るのでスヨ」
「同時に“闘術士”の第一世代とも言うべき存在ってとこかしら?」
そしてヘルベンダーは闘士から闘術士に移り変わる時代を経た、まさに古強者であった。
「さて……昔話もそろそろここまでにしてはどうですカネ?」
掌にギラリとガラス片を光らせ、声のトーンを落としてヘルベンダーが問う。
「あら失礼、つい懐かしくなっちゃって。それなら近い世代のよしみで、一つ聞いてくれませんこと?」
「近ければどうなのでスカ、大人しく引いて下さるとデモ?」
「ジジババ世代同士、どちらが先に退場するかやり合いませんこと? 代わりにあの若い世代には、先に行ってもらいたいの」
スッとアカリナとリトアに目線をやった後に、ラァワは交渉に出る。
「ラァワ様!? いけません、まさか一人になると言うのですか!!」
止めに入るアカリナ。一方でヘルベンダーはアゴに指を添えて少し考えた後に、返事を考えていた。
「ふぇっふぇっふぇ……そういうことでスカ……」
「どうかしら? 私一人退けるだけでも、そこそこの痛手になるはずよ」
「そこそこどころじゃないです、かなりのモノです」
リトアまでもがラァワに同調しかねていた。一方でアゴの下から指を外すヘルベンダーを見て、ラァワの口元が少しだけ緩む。果たして彼の返事とは。
「……与える痛手は、いくら強くても良いのでスヨ。残念ながらアナタの思考は丸見えデス、この先で今まさに一人で苦しんでいるコモドの元に、その二人をすぐにでも駆け付けさセル。そうでショウ?」
思考を読み切られたラァワは目付きをギュッと鋭くして睨み返す。魔女でないにも関わらず、ヘルベンダーは魔女の思考そのモノを読み解ける程に場数を踏んでいた。
「図星でしタカ?」
「魔女相手によくやれるモノね。……どうやら一度や二度じゃないようね、そうやって相手を孤立させて、自分が足止めする間に仲間にやらせるっての」
「各個撃破は常套手段ですヨォ! そして方法が分かっているなら覚悟は出来たはずデス、アナタ達にもここで消えていただきますからネェ!!」
広げた掌に、多量のガラス片が不気味に閃く。尖った破片を絡めた張り手が、杖を構えるラァワに迫り来る。
「ガラスにはガラス……やってみる価値はあるわね」
ブーツに付いたヒール同士を打ち鳴らすと、ラァワの姿は一瞬にしてヘルベンダーの眼前から消えた。次に現れたその時には、ヘルベンダーから距離を離し、アカリナとリトアの間に立っている。
「お二人さん、よく聞いてちょうだい」
「はい」
「ヘルベンダーの張ったカプセルプリズンはガラスで出来ているわ。それもヤツの持っていたのと同じガラスでね」
「確かに、握りつぶしてたような」
「で、その破片を魔力で広げて……あっ!」
「即ち、ヤツの剛力を上乗せしたガラスの硬さをぶつけたら、どうなるかしら?」
「……いける!!」
「どうにか誘導出来ないかしら」
「……だったら、このリトアに考えが!」
非常に早口でありながら、三人は素早く作戦を共有する。現在彼女らを幽閉するカプセルプリズンは、他ならぬ術者の送り込む魔力によって成り立っている。術者即ちヘルベンダーに激突させることで、その怪力と同時に魔力の供給をストップさせられればどうなるか。
「作戦会議はお済みですカナ!?」
ヘルベンダーはその巨体を宙に飛ばし、カプセルプリズンの壁そのモノを蹴ると、三角跳びによる強力な張り手で三人を襲う。その場から散り散りになる三人、うちリトアの手甲からリング状の刃が放たれる。
「ワタクシに刃は効きませんヨォ?」
皮膚にめりこんだ刃を見せながら、ヘルベンダーはせせら笑う。
「いや、効くね! カプセルをいくつか埋め込んでいるなら、皮膚の突っ張っている場所がある!」
「……何でスト?」
ヘルベンダーの分厚くたるんだ皮膚は、打撃のみならず斬撃をも無効化する。しかしその強みはまさに“たるみ”によってもたらされるモノであった。ヘルベンダーの皮膚には所々、硝子で出来たカプセルが埋め込まれている。リトアの指摘通り、カプセルを埋め込んだ位置はまさに風船のように“突っ張って”いた。
「即ち、こうすれば!!」
リトアに刃のがめり込んだ位置に、工夫があった。二の腕にはまり込んだカプセルの近くに差しこんでいたのである。カプセルがめり込んだ位置の近くから刃を引き戻したまさにその時、遂にヘルベンダーの腕から鮮血が迸るのであった。驚くヘルベンダーの表情が、徐々に怒りの色を表してゆく。
「やってくれましたネェ! 小さな女の子を痛めつけるのは趣味じゃありませンガ、アナタは特別に苦しめて苦しめてから殺してあげますヨォォォ!!」
「よし、かかった!!」
掌にガラス片をギラつかせた一撃が彼女に襲い掛かる。顔面目掛けて放たれた掌打、だがその当たった先はリトアの顔ではなく、自らが張ったカプセルプリズンの壁であった。ガラス同士が削り合う不快な音が辺りに響き渡る。確かに、壁にはしっかりとしたキズが刻まれている。
「もらっといて良かった。粒介術、ファントムゾリュージョン!!」
術名を詠み上げると同時に、天肆の粉を手に構えた。
「ちょこまかうるさいんでスヨ!!」
振り向きざまに再び迫る掌打、しかし今度はリトアの姿が、当たる寸前に姿を消す。
「今だ姉さん!!」
「それッ!!」
声のする方に向いたヘルベンダーの顔を、リトアとアカリナによる息の合った空中回し蹴りが襲う。
「ヌゥッ!?」
よろけたヘルベンダー。そこに今度はラァワの、ヒールを絡めた飛び蹴りが炸裂する。遂に巨体が倒れ、ヒビの入った箇所に投げ出される。更に広がるカプセルプリズンへのダメージ、だが身を起こそうとしたまさにその時、ヘルベンダーは気付いてしまった。
「なるホド……考えましタネ……」
その瞬間、各々の武器がヘルベンダーを取り囲む。リトアの飛ばしたリング状の刃が首回りを、アカリナの穂先が目を、そしてラァワの杖の先端が喉元をそれぞれ捉えている。
「気付いたようね。このまま急所を抉られたくなければ、そこのヒビ割れを一気に破壊してくれないかしら」
「分かりまシタ、分かりましタヨ……」
諸手を上げながら立ち上がろうとするヘルベンダー。肩の力が抜けるリトアとアカリナ。だがラァワだけは厳しい表情を崩さなかった。
「分かりましたと言っているノニ、アナタだけは素直じゃありませんネェ?」
「……早く言った通りになさい。撃ち抜くわよ」
「はいハイ……」
返事と共に、彼は掌を打ち付けた。パリンという音と共にカプセルプリズンが破壊される。
「やった、出られる!」
そうアカリナが呟きその場から離れようとした直後、ゴンという音と共に彼女の額を衝撃が襲う。件のガラスの壁は再び出現したのだ。
「何ィ!?」
額を押さえながら後ずさるアカリナ。先程まで入っていたヒビまでもが、すっかり直ってしまっている。
「ふぇっふぇっふぇっ!! 破壊するまではそちらの頼んだコト、しかしその後コチラで直すなまでとは言ってませんでしたからネェ!!」
「やっぱり企んでたわね……!!」
「それとお気付きですカナ? 特にそこの魔女サマ。アナタの足元に転がる、赤いカプセルの存在ニ……」
「……コイツは!! 皆下がって!!」
「遅いんでスヨ! 封入術、デブリショット!!」
ゼーブルのありったけの悪意を借りて込められた、切り札の猛毒入り赤いカプセルが遂に破裂する。
「ふぇっふぇっふぇっ……あとは骨になるのを待つダケ……」
「とは、いかないんだよね!」
「何でスト!?」
驚いたヘルベンダーが振り向くと、そこには確かにガラスの牢獄に閉じ込めたはずの一人が、背後に回っていた。
「じゃ、じゃああの中に閉じ込めたノハ……」
「ファントムゾリュージョンは、まだ続いている!」
その一言が放たれた後に、カプセルプリズンに閉じ込めたはずのうちの一人、リトアが姿を消した。
「姉さん、ラァワ様、今すぐ助けます!!」
「リトア! 頼んだよ!!」
「そうはいきませんネェ!!」
一対一となったヘルベンダーとリトア。一方で、閉じ込められた二人はと言うと。
「まずい、このままじゃ二人とも!」
「封印符、行け!」
投げ打った封印符が、赤いガスを一カ所に押し込める。だが符そのモノはいきなり溶解を始めていた。
「うっ……いつまでもは持たないか……!!」
その背後で、鼻と口を押さえながらアカリナは、手にした槍を見つめていた。
「媒封術で……いや、通じるのかしら……」
「そうだ、媒封術! ヤツの毒は元々アフリマニウムを使ったモノ、このガスにも含まれるとしたら、当然このガスにも魔力が絡んでいるわ。通じるはずよ!」
「……分かった、やってみる! 媒封術、スキルナッパー!」
穂先をガスの発生源に向け、術が発動させた。
「カプセル爆弾!」
「粒介術、サンドブラスター!」
爆薬の詰まったカプセルと、リトアの放った砂の塊がぶつかり爆発を起こす。
「三対一ならともカク、どうして一対一で勝てると思ったのですカネ?」
「違うね、この後すぐ三対一になるんだよ!」
「そうはさせまセン。お気付きですカナ、アナタは自ら一対一の地獄に足を踏み入れてしまったのでスヨ!!」
手首に刃を発生させ、高速で回転させながらリトアが構える。
「残念だけど、地獄に送られるのはそっちだから」
「送ったことあるんですカネ!? そのトシデ!!」
「あんたが、第一号さ!!」
回転するリング状の刃が二つ、放たれる。
「最早かわす必要もありまセン。それと、コチラが地獄に送った数、ですガネ……」
腹部に刃がめり込む。
「もう数えきれないんでスヨ」
「だろうね。こんな組織にいるんじゃ」
「そして、ワタクシのお腹にこうして何度も刃を入れた方も、何人いたこトカ……」
刃を放った後に、印を結ぶリトア。すると刃の向きが変わり始める。
「まぁ全員殺してあげましたんですけドネ。そしてアナタもそうなるサダメ……」
刃が、回転したまま腹部をえぐるように皮膚に喰い込み、動き始める。
「ところでさっきからくすぐったいですネェ?」
回転するリング状の刃は、ヘルベンダーの腹部の上で渦を巻くような軌道で動き続ける。皮膚が、かき分けられてゆく。
「……何をなさりたいんでスカ?」
違和感が、ヘルベンダーの頭をよぎる。この小娘は今まで殺した相手とは何かが違う。先程から何も語ることなく、ただ一心不乱に、刃を動かし続けている。
「よく張った皮は……裂けやすい!」
「何でスト?」
かき分けられ、ピンと張ったヘルベンダーの腹に、突如軌道を変えた刃が刺さる。
「アアッ!?」
「外から破れないたるんだ皮膚は、同時に中に入った刃を出すことも出来ない」
「うぐ……ッ!!」
リトアの指摘の通りであった。今、彼女の放った刃はヘルベンダーの皮膚の下で、彼の改造によって得られた内部機械を破壊し始めていたのである。皮膚の弾力を活かした跳弾作戦が決まり、ヘルベンダーは苦悶の表情と共に膝を付いた。
「よし、今だ!!」
リトアは次の刃を手甲に出現させると、高速で回転させてガラスの結界へと近付く。
「イヤな音……!!」
リトアの手甲は、チャクラムに似たリング状の刃を腕輪のような形で出す。刃を分離させて自在に飛ばすのみならず、手甲から発生させたまま回転させることで対象を“削る”という行為も可能であった。
(あの一瞬で張り直したんだ、さっきのような頑丈さはないはず……!!)
額に脂汗を走らせながら、拳を掌に当てる形で力を入れ、刃の回転数を上げ、ガラスの結界を切断せんと削り進む。
「良かった、脱出出来そうね」
ガラスの掘削音に気が付いたラァワが安堵の声を出す。
「姉さん! ラァワ様! もう少し、もう少しで外に!!」
「リトア! ……危ないッ!!」
「えっ……」
アカリナが叫んだ時には、遅かった。リトアの顔に今、ヘルベンダーの巨大な掌が当てられ、遥か向こうに飛んで行く。
「リトアァァーーッ!!」
悲鳴に近い声を上げるアカリナに対し、ヘルベンダーは肩で息をしながらカプセルプリズンの中身を睨み付けた。
「次は貴女達デス……! 今すぐひきずり出して殺してあげましょウカッ!!」
「その必要はないわ。アカリナさん!!」
槍を構えたアカリナ。その穂先には、結界内に充満していたはずの毒ガスが集まっていた。
「ゼーブル様から頂いた毒ガ……!?」
すぐさまその場から離れようとしたヘルベンダー、だが。
「逃がさない……まだ計算通りよ……!!」
顔から流れ出る血を片手で押さえ、フラフラになりながらもリトアが現れる。片手を前方に向けると、なんとヘルベンダーはガラスの壁に引きずられ、その腹部が貼り付けられる。
「忘れたのかしら、アンタの体にはまだ、あたいの刃が残っているってこと……!!」
「まさか、まサカ……!?」
「姉さん、やっちゃって!!」
リトアは刃の持つリング型を利用して自らが付けた“傷”を、ガラスに付けた“傷”に合わさるように貼り付けていた。そのまま、槍で内部を貫くことが可能となるように。
「私も手伝うわ、式神符!」
ラァワがアカリナの柄に式神符を貼り付けると、魔力で出来た翼が生成される。
「媒封術! エフェクトラスターッ!!」
渾身のかけ声と共に、槍はアカリナの手を離れ、飛んだ。ガラスに刻まれた傷を貫き、ヘルベンダーに刻まれた傷をも通り、毒の集まった穂先が遂に彼の心臓部を捉える。
「アンギャアアアア!?」
ヘルベンダーの断末魔が響く。改造された体は、皮膚のあちこちから赤い泡を噴き出しながら崩れ落ち、同時にガラスで出来た結界が解除されてゆく。倒れ込んだ巨体の背中が一瞬盛り上がり、赤い泡と共に爆炎が立ち昇ると、後にはボロボロになった鋼の骨格だけが遺されていた。
「姉さん……!」
「リトア!!」
姉妹が遂に再会し、抱き合う。だがアカリナの腕の中で、リトアの体が急に重くなる。
「リトア……?」
違和感に気付いた姉がその顔を見た時には、妹の意識は既に失われた後だった。
「しっかりして、リトア!!」
「……大丈夫、まだ息があるわ」
駆け寄ったラァワが、そう伝えた。
「先生、聞こえる? もう一人、そっちに行くわ。……お願いね」
背中に貼られた式神符が、リトアを外へと運んで行く。残るメンバーはあと、七人。
石油ストーブの、二酸化炭素中毒には十分ご注意を。




