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異世界奇行 ~ダーメニンゲンの詩~  作者: DIVER_RYU
第二集『天肆争奪戦』
57/61

第二五篇『迷宮鉄道暗黒経由地獄行』中

この物語を読みながらの、駆け込み乗車はおやめください。

「さて、良いモノを拾ったは良いが、あのハエ人形は何処に行ったんだ?」


 この数分前、一行は再び廊下に出ていた。しかしこの時、彼らの心にはある違和感を覚えていた。今進む場所は罠こそあれど、まるでゴブリンやオークの姿が見られなかったためである。


「進めど進めど、扉がないのう」

「……罠もねぇな。そろそろ石がすり減って、砂になっちまうぜ」


 コモドの投げる石が、何度も何度も虚しい音を響かせる。


「隠し部屋もなさそうね……」


 アカリナの槍の石突が、コツコツと壁を叩き続けている。しかし音に変化は見られない。


「さっきの部屋に戻ってみない?」


 リトアが提案する。


「賛成」


 たった一言、ラビアが返事をした。鶴の一声となったらしく、各々が首を縦に振る。


「有りっちゃ有りね。でもこの廊下いつまで続いているのかしら……」

「てかもう一旦休みません? 大分歩いた気がするんですけど……」


 ケンの一声に、一行は足を止めた。


「そうしよう。何なら、向こうから出向いてくれるかもしれんしな」


 “あ”に濁点を付けたような溜め息と共にその場に腰かけ、壁に背をもたれるコモド。襟から結櫛を取り出し、早速髪にかけながら口を開く。


「もういっそのこと、壁という壁にコイツの試し撃ちでもしてやろうか」

「早速撃ちたくてしょうがないのね。全くこの子ったら……」


 ヒュドラを撫でながら満面の笑みを浮かべているコモドに、ラァワは半分呆れながら返した。


「母さん、野郎ってのはいくつになっても、刀振り回したり銃ブン放したりしてぇ生きモンなんだよ」

「多分コモドさんと僕だけだと思います……」

「あら、方向性違うけどあたしも野郎の仲間入りみたいね」

「え、ラビアさんも!?」


 驚くケンに、ラビアは義足をポンと叩いてみせた。


「あら、結構クセになるのよ? コイツをブッ放つの」

「んん……本当はもう少し、振動を軽くしてぇんだがな」


 額を押さえながら呟くコモドの顔は、職人のそれとなっていた。


「浪漫と実用性は時にすれ違う……男女の仲みたいでじれったいわね」

「わらわにはちと分からん世界じゃのう……んん?」


 腰を下ろそうとした、その時であった。ラマエルの触角が、あらぬ方向になびき始めたのは。


「何かあるのう? ちょっと探ってみても良いかえ?」

「どうぞ? しかし何かしらね、今は何が出てきても嬉しいんだけど」


 ラマエルは羽毛状の触角から一本、爪で切り取ると指先でつまんで立てると壁際に近付けて見始める。やがて一カ所にて、光る毛先が真っすぐに壁を差した。そこは何の変哲もなければ罠すらも見当たらない壁の一部である。ただ一つだけ、近付かねば分からぬ特徴があったのだった。


「ここか? ちょっと確かめてみるぞ」


 するとコモドは牙を弾き、発生した揺らぎを壁に打ち込むとすぐさま耳をあてる。目を閉じ、意識を集中させながら、聞こえた結果が報告された。


「……風の音がする、中に空洞があるぜ!」

「空洞!? 突いても分からなかったわよここ!?」


 槍の石突で確かめていたアカリナが驚愕する。突いて確かめる、という行為でも簡単には分からぬ仕掛けがあったのだ。


「よく見りゃ金属で継いだ跡がある。隙間を重点的に埋めているな。そんで恐らく、化鋼術か何かを用いて開ける感じの隠し扉だろうぜ。ラビア、ちょっと見てくれねぇか?」


 ラビアに選手交代となる。すると彼女は付け爪の一つを取り出すと、金属によって継いだ跡をつつき始めるのであった。そしてつついた先端を軽く口に含み、少し考え事をした後に口を開く。


「コモド、コレはお手上げね。使われた鋼に“雑味”があるわ、恐らくだけど紋章術の染料ね」

「紋章術だと? ははぁ、継ぎながら紋章を描いた感じか」

「純粋に化鋼術で継いだだけならあたしの手でちょちょいのちょいだけどね。コイツは無理よ。やれるとしたら、一人しかいないわね」

「……ビアルか。やりやがったなあの野郎……。そんでラマエルが反応したのは恐らく、紋章術の染料に対してだろうな」

「ビアルといえば、谷底で闘ったあの男か。随分と手強い相手のようじゃのう」

「しかしどうすれば良いのよ。ビアル以外に開けられないとして、アイツが素直に出てくるとも思えないし……」


 リトアの言う通りであった。仮にビアルが出て来たとしてどうするか。そも相手は相当な腕前の上にゼーブルの忠臣である。生け捕りにすることはおろか、仮に出来た所で開けさせられるとは考えられず。ならばどうすべきか。


「あるぜ、良い方法がよォ……へっへっへ」

「コモドさん? 何か凄く嬉しそうだけどどうしたの?」

「良いモノ見せてやるぜ、この継ぎ目なら……こんだけあれば良いだろ」


 ポケットから取り出したモノ、それは仕掛け箱から抜き出した、紙で包まれた爆薬であった。


「コモドちゃん? まさか、やっちゃうつもり?」

「そのまさかだぜ先生! 響牙術と、爆燃符と、この爆薬を組み合わせればいけるはずだぜ。とりあえず皆、ここからあと二十歩は下がってくれねぇか」

「爆燃符使うなら、点火するなら私がやった方が良いわね? 封印符は要るかしら?」

「使えるんなら頼んで良いかい。その方が安全だしな」


 そう言うとコモドはラァワから爆燃符を受け取ると包み紙から取り出した爆薬をくるみ、壁に押し当てると今度は封印符を十字型に貼り付けて固定する。


「あの爆薬を、爆燃符によって起爆する。そして封印符によって爆発の衝撃に指向性を持たせることで、安全性を高めつつ壁に対する破壊力を集中させてやるんだ」


 作業しながら、コモドの解説が続く。


「そして封印符の隙間に、俺の響牙術を上乗せしたヘクセンアローを打ち込んでやることで爆発そのものの威力を高めてやるって算段さ」

「コモド、いつでも良いわよ」

「よし……三、二、一でぶっ放そう」


 自分とラァワ以外の全員が後ろに下がったことを確認し、印を結ぶかのように立てられた二人の指先に光が灯る。


「三……!」


 意識の集中と共に練り上げられた魔力が、光の眩さをより強めてゆく。 


「二……!」


 腕を引き、サイドスローで構えるコモド。腰を捻り、肘を曲げて構えるラァワ。緊張が走る。


「一ッ!!」


 コモドの撃ち出した振動の青い光弾と、ラァワの爪から放たれる赤い矢尻状の光弾。同時に撃ち出した二つが合流、そのまま爆薬に突き刺さるとたちまち轟音が響き渡り、土煙が巻き起こる。爆薬のあった箇所には、見事な横穴が開くのであった。


「んー、コレはコレは香り高い爆薬だぜ。やっぱ発破して初めて真価が出るんだよなァ」

「先に見てこようかしら。それにしてもまるでお香を利く時みたいなこと言うわねこの子は」

「先生、この子は“こういう子”よ」

「この人、一体“どういう子”だと思われてんだろう……」


 アカリナがボソりと呟くと、リトアがまさかの返事をするのであった。


「姉さん。多分だけど、こちらには分からない人で良いと思うよ」


 それを聞いたケンまでもが呟き出す。


「何か、こう、コモドさんって微妙に人間扱いされてませんよね……」

「オウ、今更だが死神コモドってよく言われてるぞ」


 最早返す言葉もなかった。


「さて、石も調達出来たし中を探るか」

「コモドちゃん、どうも中は石投げなくても良さそうよ?」


 刀の先に火を灯したカタックが報告する。


「ほう? どういうこっちゃ?」

「来てみれば分かるわ」


 コモドが横穴の奥に入るとそこは、素掘りで出来た地下通路であった。先程までの石造りに魔力の光の帯が走ったモノと違い、ひたすらに土の壁が続いて見える。


「こりゃ罠の仕掛けようがないな?」

「松明が置いてあるわね、火は点いてないけどどうする?」

「母さん、頼む」


 ラァワが指を鳴らす。次々に灯りの付く松明。素掘りの通路の全容が姿を現し、そして中に潜むモノまでもが現れることとなる。


「棺が立ててありやがる……ラマエル、分かるか?」

「……中に一人、生きておるぞ」

「ヒトか、機械か」

「……両方じゃ。併せ持っておる」

「即ち、ブラックバアルの改造闘士……!!」


 各々が武器を構える中、ダラリと腕を下げたまま睨みを利かせるコモドが叫んだ。


「毒の匂いがする。改造闘士第一の刺客はてめぇか、ヘルベンダー!!」

「ふぇっふぇっふぇ……よく分かりましナァ……」


 棺の蓋を掌で吹き飛ばし、全身にカプセルを埋め込んだ巨体が姿を現した。


「見たことない顔が若干いますネェ。しかも若くてムチムチしてて良いですネェ」

「やだコイツ気持ち悪い……」

「コモド? 改造闘士ってこんなんばっかなの?」

「嗚呼、強烈なのしかいねぇぞ、覚悟しとけ」


 ラビアの顔から血の気が引く。それを見たヘルベンダーは何故か上機嫌となり、叫んだ。


「ふぇっふぇっふぇ!! 良い顔ですヨ……そのキレイな青白さ、改造したら映えますネェ!!」

「ちょっと!? あたしは片脚以外は機械化する予定なんかないよ!!」


 ヘルベンダーはカプセルの一つを取り外し、叫ぶ。


「早速ですガ、貴方達には死んで頂きますヨォ!!」


 地面に叩き付けて割ったカプセルから、大量のゴブリンが飛び出し襲い掛かる。


「らしくなって来たぜ、ブラックバアル!!」

「おっと、ゴブリンだけじゃありませんヨ?」


 更に素掘りの地面から次々に手が伸び、オークが姿を現した。


「へっ、コイツの出番みてぇだな!! 試し撃ちしてやるよ覚悟しな!!」


 そう言ってコモドはマントを翻すと、中から厳つい三連砲が姿を現す。入手したばかりにも関わらず慣れた手付きで組み上げ、スターターロープを思い切り引っ張るとその砲身は回転を始める。ヘルベンダーとその周辺に先端を向けると、コモドは遂に引き金を引いた。


「てめぇの威力を見せてみろ、ヒュドラ!!」


 炸裂する光弾、辺りを眩く照らし、次々にオークを、ゴブリンを、ハチの巣からやがてオガクズへと変えてゆく。


「す、凄い……」


 しかし最も撃つべき対象であったヘルベンダーの姿がない。今ある“的”の中では最も撃ちやすいであろう巨体は、何と着弾する前にその場から跳び去っていた。


「何処行きやがったヘルベンダー……」

「ここですヨォォオ!!」


 的の声が聞こえたのはコモドの背後、咄嗟に手甲の刃で斬り付けようと振り返る、だが。


「放せ……ッ!!」

「なぬ、アカリナッ!? それにリトアまでッ!?」


 ヘルベンダーの両手は姉妹の頭部を掴み、ぶら下げていた。


「撃てますかネェ!! この小娘もろトモォォ!!」

「早速やりやがったなこの野郎……!!」


 銃口を下げ、ギリギリと歯を噛み締めながらコモドの隻眼が睨み付ける。


「悔しいですネェ、そのヒュドラを使えば確かにワタシの体をオガクズに変えられるでショウ。しかし出来ないみたいですネェ。例え自分のゴーレムをくすねて、潰そうとしてきた憎たらしい相手だったとしてもネェ!!」

「……喋り過ぎだ、てめぇ!!」


 地の底から響くような低い声でコモドが吼えた。


「じゃあ、何もしなければこちらで頭を握り潰しますかネェ!!」

「そうはさせるかッ!! この変態!!」


 啖呵が響いたその直後、ヘルベンダーの顔を横から薙ぎ倒すようにして、ラビアの跳び蹴りが直撃した。


「アカリナちゃん! リトアちゃん! 大丈夫!?」

「大丈夫、頭掴まれただけ……」

「……視たところヒビは入ってはいないわ。随分と器用なことが出来るのね」

「しかしどうやってアイツを……!!」


 跳び蹴りから着地し、体勢を直すラビア。再びヒュドラを構えるコモド。刀を構えるケンと、翼を広げたラマエルの四人がヘルベンダーを取り囲んだ。


「うーむ、このままアナタ達を相手し続けるのも難しいですネェ」

「じゃあ退いたらいかがかしら?」

「先生、退くようなツラには見えねぇです」

「全くじゃ。それにコイツのカプセル、以前とは異なる妙なモノが混ざっておる、気を付けよ!!」

「気付かれてしまいましたカァ……じゃあ生かして帰せませんネェ!? 封入術!!」


 掌に握られた大量のカプセルを一気に潰し、素早くバラ撒くと術名を叫ぶ。


「カプセルプリズン!!」

「範囲が広い!? まずい離れろッ!!」


 素早くその場から離れるコモド達。彼の足裏にガラスの壁が触れた。すぐそこまで、カプセルプリズンによる結界が迫っていたのである。


「おい無事か!?」

「コモド……まずいわね。やられたわ」


 ラァワの声があらぬ場所から響く。コモドが目線を動かすとそこには、ガラスの向こうに隔てられてしまったラァワの姿があった。


「母さん!?」

「なんてこと……しかも私だけじゃないわ……」

「まずいですコモドさん、外にいるのは……五人みたい」

「アカリナ! リトア!! くっそぉ……」


 よりにもよっての人物が囚われの身と化してしまっていた。姉妹の名前を叫びながら、ラビアの拳がガンガンとガラスの壁を叩く。


「ふぇっふぇっふぇ!! 年頃の娘が二人も手に入るなんて今日は良い日ですネェ!! 一人だけ、とんだ大年増が混ざっておりますガ……」

「オイてめぇ!! 何余裕ぶっこいてんだッ!! 開けろォ!!」

「あら、魔女に対する口の利き方がなっちゃいないわね。齢三ケタいってないなんて、魔女としてはまだまだ“お嬢さん”よ」

「ラァワさんも余裕だな……」


 迫り来る張り手を、封印符一つで受け止めながら、ラァワはガラスの向こうにいるコモドへ声をかける。


「コモド、外の皆を連れて、奥まで走って。コイツを片付けたらすぐに追いかける!」

「しかし母さん、そんなことをしたら……!!」

「奥からあと三体、コイツと同じ気配がするの」

「何だって!? ……改造闘士部隊だ、ビアル含めりゃ数が合うぞ!」

「それにここで手こずっていたら後ろからバッサリよ、さぁ早く!!」

「チキショウ、やっぱりいやがんのか! 母さん……すまねぇ!!」


 走り去るコモドを背中で見送ると、ラァワは改めてヘルベンダーに向かい、啖呵を切るのであった。


「あの子達にとんだ好機を与えてくれたわね。どの道、あなたは私の手で足止めするつもりだったわ」

「ほっほウ、しかし例え魔女とは言えども、あんな小娘二人抱えて闘えますかネェ!?」

「抱えて? とんでもない。あの美人姉妹は、ウチのコモドをステージに振り向かせた上に戦闘でも追い詰めた実力者よ。そうでしょう?」


 そう放ったラァワの顔には、自信と凄みに溢れた笑顔を浮かべていた。


「かかっておいでなさい、お太りさん」




「何かあるな?」


 先を急ぐコモド。素掘りの通路を走ったその先に見えたのは何本も敷かれた鉄製のレール、そしてその上に鎮座する三台ものトロッコであった。車体のあちこちを手でポンポンと叩きながら、ぼそりと呟いた。


「ふむ……一台につき、乗れて二人だな。なるほど、コイツで地下を移動すれば破壊工作も暗殺も自由自在、ゴブリンでも武器でも運び放題ってことだな」

「罠の匂いはせんのう。敢えて言うなら、先程のヘルベンダーと同じ匂いじゃ。乗って来たんかのう」

「せっかくだし、使っちゃいますかコモドさん」

「でもそれなら、動力源どうすれば良いかしら」

「動力源なら良いのあるわ。化鋼術、飛来槍!」


 ラビアは、足元に落ちていたクズ鉄を数個拾うと術を発動する。創り出された飛来槍を先頭のトロッコの金具にあてがい、再び術名を唱えるのであった。


「化鋼術、自在鎖! あとは台車を押した後に飛来槍に魔力を込めてやれば、結構な速さで進めるはずよ」

「じゃ、押してくか。殿しんがりは俺で行こう」


 トロッコの側面に四人が付き、一番後ろにコモドがスタンバイする。


「うおおおおおおおおおおおおッ!!」


 咆哮と共にトロッコが押され、勢いのついた台車に各々が飛び乗り、先頭に乗ったラビアがトロッコ両端の槍を軽く手で叩く。飛来槍そのモノの飛行する力で、トロッコは引かれ走り出した。


「やるわねラビアちゃん!」

「どうも先生。恐らくだけど、ビアルのヤツもこうやって運んでたんじゃないかしらね」


 隣同士で乗り込んだ者同士の、会話が始まった。


「あわわわわわ、速い速い速い」

「落ち着くのじゃケン」


 そんな中、一番後ろの台車に一人で乗り込んだコモドは、台車の後ろを眺めながら呟いていた。


「母さん、アカリナ、リトア、無事でいてくれ……」


 そして前に向き直ろうとしたまさにその時、彼の耳が、鼻が、あるモノを捉えた。


「おい、来るぞ、後ろからだッ!!」

「何だって、まさかヘルベンダーが!?」

「いや、違う! この雰囲気は……!!」


 ラマエルが言い終わらぬうちに、台車に次々フックの付いた鎖が掛けられる。鎖の方向はあらゆる方面から伸びており、トロッコは急激に失速する。遂にはコモドの乗る最後尾の台車にフックが掛けられると、トロッコは引きずり戻される形となった。


「自在鎖!? 来たわねビアル……!!」

「野郎、鎖如きで捕まえた気になってんじゃねぇぞッ!!」


 そう吼えると身を乗り出して、コモドは手甲から放つ刃で鎖を断ち切った。ケンもまた、拾っていた斧で鎖を叩き割る。しかし相手の攻撃は止むことを知らず、何処に潜んでいたのかゴブリン達が次々に降り立ち包囲する。その手に握られ旋回していたのはフック付きの鎖であった。


「数だけは立派にそろえて来たわね……」


 刀を抜いて構えるカタック。


「先方の掃除をお願いしてもよろしいかしら、先生。スキを見て一気に加速しようと思うの」

「任せてちょうだい」


 次々にかけられるフックを断ち切りながらも、五人は包囲網からの脱出を目指す。


「天導術、エルバラック!!」


 ラマエルの放つ電撃が、鎖を通じてゴブリン達を解体する。


「宝眼術、魔眼閃光!!」


 刀に術をかけて一気に振り払うカタック。胴を斬られたゴブリン達が転がってゆく。


「動かせそうか、ラビア!」

「ええ、行ってみるわ。飛来槍を二つ追加して直列でやってみる!!」

「無理はするなよ!! ……クッソ、まだぞろぞろついてきやがるな」


 後ろを振り返るコモド。先程よりも速度を上げて振り切ろうとするトロッコに、まだゴブリン達が追走しようと試みる。


「コイツの出番みてぇだな、ヒュドラ三六!! 喰らいやがれッ!!」


 コモドの声と同時に、その腰だめに構えたヒュドラ三六が火を吹いた。轟音と共に放たれる無数の光弾が、辺りをまるで閃光弾のように照らしながら眼前の目標を射抜いてゆく。バラバラに弾け飛ぶゴブリンの機体を背に先を急ぐ一行、だが彼らには失念していることがあった。今走っている、トロッコの線路は一体何で出来ていたか。


「……まずいよコモドさん、線路が、何か赤くなってきている!!」

「何だって!? ……しまった、線路そのモノに術をかけて来やがったか!!」

「あのバカ!! 線路そのモノを溶鋼弾にするつもりね!! そうはいくかッ!!」


 そう叫ぶとラビアは素早く印を結ぶように手を組んだ後に、ダンッと音を立てて台車の床を叩き付ける。すると、今トロッコが進み行く箇所が急激に元の色に戻っていく。溶けた線路によってトロッコを足止めしつつ、真下から溶鋼弾の絨毯をお見舞いするというのが一行の読んだ攻撃であり、今まさに阻止することには成功した。

 だが次の瞬間に一行が目にしたのは、それまで走って来た線路、ラビアによる術の解除が間に合わなかった箇所が溶けたまま次々に飛び散り、ゴブリンの残骸に降り注ぐという不可解な現象であった。


「ビアルのヤツ、何をやるつもりなんじゃ?」


 ラマエルが首をかしげるその隣で、驚いたケンが指を差しながら叫んだ。


「コモドさん見て、さっきやっつけたゴブリンが!!」

「……直ってやがる!?」


 コモドが驚いたまさにその通り、溶けた鉄によって蘇った、継ぎはぎだらけとなったゴブリン達が一行の前に現れたのであった。


魔法の銃があるのなら、魔法ガトリングもありでしょう。

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