第二四篇『蠢く森の戦慄世界』下
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遂に残り一体となったグールにとどめの一撃を入れ、カタックとラァワは森の奥に目をやっていた。
「グールは片付いたけど……禍々しい雰囲気が止まらないわね」
「まさかとは思うけど……やはり出たわね!」
分身を片付けた後に、占眼符を使って森の奥を視たラァワが険しい表情で呟く。
「ブラックバアルの手の者かしら?」
「それもそうだけど……この森の、名物がお出ましよ」
「急ぎましょう」
得物を持ったまま、コモド達の方へ急ぐ二人。しかしそうは問屋が卸さない。突如走る激痛がカタックの右腕を襲い、あらぬ方向に彼の体が引きずられる。
「ぎゃあッ!? コレは……!!」
素早く右腕を押さえ、激痛の正体を目にするカタック。そこには血で赤黒く染まった鋼のフックが皮膚を裂き、肉を貫き生えていた。フックの根元にはピンと張った鎖が生えており、凄まじい力で引いている。脂汗と共に目で辿ったそこに立っていたのは。
「残念だが、お前達を合流させるワケにはいかん。ここで朽ち果てるが良い!」
「久しぶりに会うというのに随分なアイサツね、ビアルちゃん? 主の兄に対する礼儀はないのかしら!?」
「黙れカタック、ゼーブル様の覇道を阻むのなら貴様とて敵だ!」
ヘクセンカッターによる杖の光刃剣を構え、カタックを捕えていた鎖を断ち切り、フックを引き抜き治癒符でキズを防ぎながらラァワも会話に飛び入るのであった。
「ゼーブルの命令でわざわざお出迎え御苦労なことね。どうせなら人数の多い方に行ってはどうなの?」
「我らが主の御意向は、客人は一人一人丁重にもてなせとのことだ。例え門の手前や庭の中であってもな」
「つまりこの森は、最早ペオルにとっちゃ庭ってことなのね。つまり……ザックームが植わっててオークがうろついてるような庭が自分の主に相応しい、そういうことで合っているかしら?」
「伯爵家の庭をこんな状態にする子爵が何処にいるのかしら、ねぇビアル?」
仮にイレザリアにおける爵位にまだ権威があり、そして貴族社会にいたのなら。屋敷の庭園をこのような惨状にしておくことはまず許されないであろう。ましてや未だに子爵としての地位に未練があるビアルでは、考えにくいことであった。
「この侵入者を阻む魔女喰いの森こそが、ゼーブル様にとっての理想の庭なのだ。出でよマードッグ!!」
「ガァァウ!!」
ビアルの命令で飛び出すマードッグ。先程鎖を断ち切っていた、光刃を展開した杖でラァワはその一撃を受け流す。
「ラァワ様、そいつが例の改造闘士よ! まだあと二人いるわ!!」
「なるほど、丁寧なお出迎えということね。ということは、奥にいる“アイツ”もその一環かしら?」
マードックの執拗な斬撃を杖でかわしながら、ラァワが聞く。
「そうだ。ヤツはこの森における、最高の番人だからな」
「アジダハーカを庭を放つヤツがいるモノですか!!」
そう叫んで放たれたカタックの突きを、半身でかわすビアル。同時に懐から取り出した棒手裏剣を術によってワニの尾に似た長剣、ビアルラッシュに変形させ、先端を向けながら口を開く。
「カタック、仮にも剣の使い手なら分かっているはずだ。コイツと打ち合えばどうなるかをな」
「安心してちょうだい、ただの剣じゃないわよ。紅蓮剣!!」
赤い光刃剣となった獲物で打ち返すカタック。数度に渡る攻撃の末、折れたのはビアルの方であった。高熱で打たれたことにより強く抉られ、曲がってしまったのだ。
「普通の剣ならこちらが折れていたでしょうけど、この紅蓮剣なら逆に相手を曲げるのよ。例え鈍器であろうともね」
「ふん、こんなモノ、折れたうちには入らんわ!」
懐から取り出した棒手裏剣を、折れた武器に打ち込むビアル。たちまち得物は形を変えた。
「あら、打ち合えないなら、撃ち合おうっていうのね?」
ビアルの手に今あるのは、ソードオフショットガンにも似た大型の銃であった。銃口の下にあるハンドグリップを一度引いた後に構え、叫ぶ。
「喰らうが良い! 化鋼術、溶鋼弾!!」
引き金を引くと同時に放たれたのは、灼熱によって大きな雫と化した鋼であった。
「えぐいモノを撃つわね……!!」
その場から樹を盾にしてかわしたカタック。溶鋼弾とは化鋼術によって無理矢理灼熱化させることによって溶けた鋼を弾丸として撃ち出す技である。最早マグマの塊を撃つが如き暴挙であった。カタックが見つめる、着弾した箇所からは炎が上がっており、高熱そのモノの威力を物語っている。しかし脅威はそれだけではない。
「化鋼術、自在鎖!!」
撃ち出した弾丸を、今度は灼熱のまま鎖に変えてカタックに襲わせる。残留している魔力を帯びたこの鋼の塊は、撃ち出された後にも自在に術を用いることが可能であった。即ち、撃った弾がそのまま術者の武器へとなり得るのである。それも、おびただしい高熱を発する状態で、である。
「まずいわ……溶けた鎖が刀身に……!!」
剣を使って鎖を防いだカタックであったが、鎖は刀身そのモノに絡み付くと高熱そのモノで再び溶け始め、紅蓮剣そのモノに癒着し始めていた。重心のバランスが崩れ、思うように刀を振れぬカタックに、更なる第二弾、第三弾が撃ち込まれる。何とか反応して弾を薙ぎ払うカタックであったが、弾はそのまま癒着し刀を重くしてゆく。
「最早剣ではないな、ただの鉄塊とでも言っておくか」
「くっ……!!」
ハンドグリップを引き、排熱されるビアルの銃。再び銃口を向けながら、カタックの運命は冷たい口調と共に告げられる。
「もう一発といったところか……最早剣など振れまい、逝け!」
引き金を引くビアル。だが銃声が響くことはなかった。銃口の先には剣を下に向けたまま、睨み付けるカタックの姿がある。彼の赤い宝石を用いた義眼が強く光っていた。直後、ビアルは銃を放り投げたのであった。
「カタックお前……!! 銃身そのモノに魔力をかけたな!!」
「この剣の意趣返しよ。弾が詰まっちゃ撃てやしないわね!!」
カタックがとった行動、それは宝眼術そのモノで放たれる高熱を銃身にかけて歪ませることにより、溶鋼弾を内部に癒着させることでわざと詰まらせたのである。直後、放り投げられた銃からは溶けた鋼が破裂し飛び散るのであった。
「次はこの剣を、軽くしてもらおうかしらね……!!」
一方でマードッグの刃を受け止めるラァワ。潜遁術の使い手であるマードッグにとって、樹木を媒体に術を使える森という環境は凄まじく相性が良かった。野球のバントを思わせる構えで杖を構え、樹という樹に目を向けるラァワ。斬り付けては隠れるという戦法をとるマードッグの攻撃は確実に精神とスタミナを削っていた。
「流石に木遁を使われ続けたら埒が明かないわ……」
周囲の樹を見つつ、ラァワの足は徐々にその場から離れて行く。
「ウガガガガ……」
「何か言いたげね? ヴィネガロンもそうだったけど、お喋り出来なくする代わりに強くするってのがビアルは好きみたいね」
ラァワが次に目を向けたのは木漏れ日であった。鬱蒼と茂った魔女喰いの森であっても、倒木が発生すればそこに太陽の光が差すこととなり、即ち木遁に使われるであろう場所が絞られることとなる。現に太陽光で照らされたそこには、キノコのびっしりと生えた倒木が横たわっていた。
「ガァァウ!!」
全身から刃を生やし、飛び掛かるマードッグの突進を、ラァワは杖一つで受け流す。するとマードッグは、その先にある件の倒木へと姿を隠そうとする。その瞬間をラァワは見逃さなかった。
「爆燃符!!」
素早く取り出した符を杖で薙ぎ、炎を灯すとそのまま炎の光弾を発射する。生木と比べれば燃えやすい枯木にわざと潜ませる、それがラァワの狙いであった。
「さぁ……そのまま出てこなければ蒸し焼きよ。どう出てくるかしら」
杖の先端を向けたままラァワは言い放つ。すると炎の上がる枯木から人影がゆらりと起き上がり、向かって来る。
「コレは!? 何て姿なの……!!」
しかし魔女の放った、純度の高い魔力を燃やして放った炎をモロにくぐったマードッグの姿はあまりに変わり果てていた。生白い皮膚は焼け落ち、鋼鉄のウロコに覆われたドクロをむき出しにした姿を見せながらラァワに近付いて行く。まるで血管か神経のように全身をめぐる流体金属が、極めて不気味に蠢いている。
「見たかラァワ! 魔女の放つ炎にすら耐える、拙者の改造闘士の姿を!!」
左右から攻めれば両肩の蛇が迎え撃ち、正面から迫れば毒を含んだ炎が噴き出し、背後には振り回すだけでも威力のある尻尾が打ち据える。生ける脅威、アジダハーカに立ち向かうは七人の闘術士。そのうちの一人、ケンはまだ知らなかった。アジダハーカの放つ、本当の恐怖がまだ控えていたという事実を。
「媒封術、スキルナッパー!!」
アカリナが掲げた槍の穂先に、アジダハーカの放つ電撃が吸い寄せられてゆく。
「リトア、受け取って! 媒封術、スキルバッファー!!」
槍の穂先に纏った電撃を放った先には、リトアの放っていたリング型の刃が浮遊していた。
「斬り刻め!」
リトアが指差すその先には、アジダハーカの両肩から生える大蛇のうちの一体があった。たちまち電撃と共に焼き落とされる頭部、決定打が与えられた、ように見えた。
「ザハァァァ!?」
痛みからか咆哮を上げる。アジダハーカ。すると頭部をなくした蛇を掴むと、何とその場から引き抜いてしまったのである。
「な、何であんなことを……!?」
「ケンちゃん、気を付けろ。アイツはこうなってからが本番だ」
血の滴る首無しの蛇の胴体を掴み、佇むアジダハーカ。するともう片手の爪を蛇のウロコにかけ、一気に引っ掻いて剥がし始めるのであった。一枚一枚が巨大な、直径十センチメートルはあろうかというウロコがバラ撒かれる。
「何がしたいんだアイツ……!!」
「良いですかケンさん、アジダハーカで最も恐ろしい部位、それは……ウロコッス!!」
ミナージがそう言い終わらぬうちに、剥がれたウロコからは何と昆虫を思わせる六本の脚が生え、一斉に七人の元へ走り出したのであった。
「天導術、エルバラック!!」
すぐさま前に出たラマエルがウロコを焼き払わんと電撃を放つ。だが直後、ウロコは歩みを止めず、そればかりか大きく膨らみ始めていた。それを見たコモドがターバンを拾うと、
「響牙術、ヴェレスネーカー!!」
ラマエルに向かってターバンを放ち、素早く自分の元へとたぐり寄せる。
「化鋼術、針蜻蛉!!」
ラビアが鉤爪の一つを外して投げると、無数の翅の付いた針へと姿を変え、ウロコの一つ一つを串刺しにしてゆく。
「皆、離れて!! 爆発するッ!!」
咄嗟にコモドはマントを用いてラマエルとケンを庇うのであった。ボンッという音と共に、次々にウロコ達が弾け飛んでゆく。
「アジダハーカのウロコは一枚一枚が独立して動いて、爆発する!!」
「エルバラックが……効かぬのか!?」
「違う、エルバラックそのモノを取り込んだんだ。そして魔女殺しの真相は……魔女の放った魔力をそのままこうして返して来ることに由来するんだ!!」
「早めに弾け飛ばすという手段も確かに存在するわ。最も、足止めしないと危険だけどね」
「じゃあ術を使わなければ良いんでは……?」
「そうもいかないッス、あのウロコは放っておくと……うぐッ!!」
「ミナージ!? しまった、取りつかれたか!!」
ミナージが押さえた左脚に、ウロコの一つが脚を喰い込ませて取りついていた。徐々にウロコそのモノが、赤く染まってゆくのが確認出来る。
「アイツはウロコを放ってヒトを喰わせる習性があるッス。クソ、離れろ……ッ!!」
ナイフを抜いてウロコにあて、すぐさま切り離して踏み付けるミナージ。その足にはべっとりと血が付いており、更にウロコが喰い付いていた場所の肉がひどく崩れている。
「肉が……溶けている……!!」
「全身がとりつかれたらまずいぞ、それこそあっと言う間に骨にされちまうぜ!」
「コレではわらわの術を以てもすぐには治らぬぞ……!」
一方でアカリナとリトアの姉妹は依然として前に立ち、アジダハーカの攻撃に対処していた。目から放たれる電撃を、口から放たれる炎を術によって受け止め、周囲に迫るウロコを払いながら一撃を返してゆく。
「皆さん、聞いて欲しいッス……ヤツの急所は背中、両肩の蛇の間にあるッスよ」
「背中……」
「そこに辿り着くためにまずは両肩の蛇を、と思ったんスけど……」
「四方にスキのない相手だ、今は蛇を片方取り除けただけでもマシと思った方が良いぞ」
「じゃあ、ヤツの急所は誰が打ち抜けば良い?」
するとミナージは銃弾を一つ取り出した。薬莢の上に赤く輝く宝石を植え付けたような外見のそれは、銃弾としてはあまりに異質であった。
「コレはコレは、とんだ貴重品が出て来たな」
「コモドさん、コレは……?」
「サラムナイトジャケット弾。名前の通り、高価な魔触媒であるサラムナイトにありったけの魔力を封入した上で弾体を覆った、強烈な一発ッス。出掛ける前に、父さんから受け取ったんスよ」
サラムナイトは宝眼術の魔触媒という側面を併せ持っており、ゼーブルの仮面と、カタックの義眼に仕込まれている。
「高いだけあって、コイツ一つで通常の火炎弾十五発分の威力は出るッスよ。けど、コイツを一度撃てばしばらくは銃が使いモノにならなくなるッス」
「なるほど、基本的には一発しか撃てない、そう思った方が良いかしら?」
こくり、とミナージがうなづいた。
「どうせこの足では長く闘えないッス、だからこそコイツの出番ってことッスよ」
「そうじゃの、ソイツをヤツの急所に撃ち込めば……!」
「やれるッス、確実に!」
「何度も言うが貴重な一発だぜ。だったら全力で、当ててやれるようにお膳立てするぞ」
「コモド、魔動機が絡むと熱くなるわね、相変わらず」
「俺はそういう、他を犠牲にしてでも振り切った火力ってのが大好きでな! アカリナ、リトア、聞いてくれッ!!」
即興の作戦を伝えるべく、コモドが前に出る。
「今からミナージが、アイツの急所にサラムナイトジャケット弾をブチ込む。アジダハーカは肩甲骨の間、即ち二つの蛇の付け根に脳がある、今のアイツなら右の蛇がいない、右の後ろから撃ち込めばいけるはずだ!!」
「分かったわ、何とかして足止めすれば良いわね!」
「そうと分かったら……粒介術、サンドクラスター!!」
攻撃の先鋒はリトアが受け持った。握り込んだ砂を、迫り来る尾に当ててその場から飛び退いた。たちまち、アジダハーカの尾からは小規模な爆発が次々に巻き起こる。
「ザハァ!?」
驚いたアジダハーカに、次の攻撃が迫っていた。長い銀髪を揺らし、ピアスに付いた牙を弾くと、コモドが叫ぶ。
「響牙術、ヴィブロクラッカー!!」
指先に灯した揺らぎ玉を、コモドはドスッと地面に突き刺した。青く輝く魔力が地面を引き裂いて走り、アジダハーカの足元を崩し、揺らし、土や石を飛ばして襲い掛かる。
「化鋼術、自在鎖!!」
鉤爪を鎖に変え、足元のおぼつかぬアジダハーカをラビアが拘束する。
「ザッハァァァアアア!!」
中央の大きな口が開き、あの腐食性の毒を含んだ炎が再び噴き出し、ラビアを襲う。
「アカリナ、出番よッ!!」
「媒封術、スキルナッパー!!」
だがその炎は軌道を変え、アカリナが掲げる槍の穂先へと吸い寄せられてゆく。
「鎖が足りないか……!!」
炎を吐きつつも、アジダハーカは恐るべき腕力によって、鎖を引きちぎろうとしていた。
「天導術、エルベリース!!」
ラマエルの指先から放たれた絹が、遂に標的の両腕を封じ込めた。徐々に動きを封じられてゆくアジダハーカであったが、まだ残っている武器がある。その場で身をよじると、長い尾がムチのように振るわれ、辺りを襲い始めた。一瞬だけ、肩に残った大蛇がある方向を見定めると、その尾は真っすぐにある人物へと向けられる。
「うわぁぁ!? 僕にィ!?」
「まずい、ケンちゃん下がれッ!!」
「来るなァァアアア!!」
刀を握る手に力が籠り、咄嗟に防ごうと前に出した短い刃。本来ならば、刀を持った当人ごと尾撃による衝撃で吹き飛ばされることとなるだろう。だが奇跡が起きたのは、まさにその時であった。ケンの握る刀の刃紋が、怪しい紫の光を放つ瞬間を、一同は目撃したのである。
「こ、コレは……!?」
驚くケン。しかし驚いたのは当人だけではない。彼に向けていたはずの尾が、耳を切り裂くが如き鋭い音と共に、その先端をそっくり切断されたアジダハーカ。魔女からも恐れられる怪物が、信じられないとばかりに一人の少年に対してたじろいでいた。
「今一体何が起きたッスか……」
「……ミナージ! 今だ!! ぶっ放せッ!!」
引金が引かれ、真後ろから貫く火炎弾の一撃がアジダハーカの胸部にて爆発する。倒れ込む巨体、炎を上げて崩れ落ちてゆく姿を見た一行は、一瞬にして肩の力が抜けその場にへたり込むのであった。
「やっ……た……!!」
うち一人、ミナージに至っては猟銃を杖代わりにしながら満身創痍となっていた。何とかボルトハンドルを引くと、薬莢と共にブシュウと排熱がなされてゆく。
「どうも、僕はここで退場のようッスね……」
「ミナージ、ようやった。しかし母さん達は大丈夫なのか?」
そう呟いた直後であった。その場になだれ込む四つの影、七人の身に再び緊張が走る。
「母さん!?」
「カタック先生!!」
うち二人の姿は味方であった。だが残りの二人は。
「出やがったわね、ビアル!!」
「……そこの、鉄のガイコツは一体何者!?」
九人の闘術士を前にして、ビアルは得物を構え言い放つ。
「フン、アジダハーカは片付けたようだな。一人堕ちたようだが……」
「へっ、一匹撃ち抜くくらいは出来るッスよ……!!」
撃鉄を起こした拳銃を構え、啖呵を切るミナージ。
「父親と同じようにしてやろうか?」
「言わせておけばッ!!」
銃声が響いた。片手を添えて素早く撃鉄を起こしもう一撃を加えようとした、まさにその時であった。
「拙者が化鋼術の使い手だと、知らんようだな」
「うがァッ!?」
放ったはずの銃弾は何と、よりにもよってミナージの左脚を貫いている。肉を溶かされたそこに入れられた一撃は、気絶すら許さぬ激痛をもたらすのであった。
「数が多いな。ここは退くぞ、マードッグ!」
「ガウ!!」
「自在鎖!!」
二人は鎖を辺りに放ち、素早くその場を後にするのであった。
「後を追うぞッ!!」
「皆、先に行って! あー、もしもし、コルウス先生聞こえる?」
ラァワは水晶玉を取り出し、魔女摂符の二種類バツ型に掌に置いた上に乗せると話しかけ始めた。
「早速だけど救護班を回してちょうだい。アジダハーカに脚をやられたわ。ええ、すぐお願い」
自らの式神符によって森を脱出するミナージを見送ると、ラァワもまた先を急ぐのであった。残るメンバーは八人。果たして、この危険地帯を抜けて暗黒組織の中枢に辿り着く者は現れるのか。
~次篇予告~
暗黒組織を追う一行を森の奥に待つのは、また地獄であった
仕掛けられた罠、待ち受ける刺客、悪の拠点の謎が今明かされる
次篇『迷宮鉄道暗黒経由地獄行』 お楽しみに




