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異世界奇行 ~ダーメニンゲンの詩~  作者: DIVER_RYU
第二集『天肆争奪戦』
49/61

第二一篇『ブラックバアルの真実』下

この物語を読む際には、大切な存在から向けられる刃に御注意下さい


『ケンよ……ケンスケ・セドよ……聞こえますか……』

「誰……?」


 病室にて、ケンに話し掛ける者がいた。だが周囲を見渡しても、彼以外に病室に立つ者はいなかった。


『あたくしは導く者……ケンよ、元の世界に帰りたくはないですか……』

「なッ……!? 出来るんですか? 帰れるんですか!?」

『なれば、あたくしの声により耳を傾けるのです……』

「教えて下さい、あなたは一体!?」


 それから約三十分のことである。


「コルウス先生、連れてきました」


 インクシュタット総合病院に到着したコモド達一行。だが、そこで起きていたこととは。


「コモドさん、大変です……ケンさんが、ケンさんが姿を消しました……!!」

「何だってぇ!?」


 一難去ってまた一難、今回消えたのは偽物ではなく本物、しかもしばらく一緒にいた人物であった。


「ほんの四十分前は確認出来たのですが……」

「探してきます、先生はとにかく、この二人をお願いします!!」


 ソラスとサヴラを病院に置いて、コモドは飛び出した。


「待て待て、待つのじゃ。急に飛び出したところで探すアテはあるのかえ?」

「ケンちゃんはケガしといて勝手に出歩くようなヤツじゃねぇ! ブラックバアルのことだ、以前にも竜の谷に行ってる間に病院が狙われたしな!」

「だからアテはあるのかと聞いておるのじゃ!!」

「二人とも落ち着きなさい。コモドちゃんはコモドちゃんで、考えがあって動いたのでしょう?」


 なんとか追いついたカタックが二人を止める。


「……実家だ。母さんの占眼符を頼ってみようと思う」

「それなら……わらわを使ってみるのはいかがかえ?」

「ラマエルちゃん、何か良い方法があるの?」

「ちょっと空の散歩をすれば良いだけじゃよ。それに、アヤツの位置なら分かる、何か独特な気配がするんでな」


 そう言ってラマエルは空へと駆け出した。


「俺も空が飛べたなら……」

「それは飛べる方に任せるべきよ。あなた一人でも何でも出来ると思っちゃダメよ」

「んなこと思っちゃねぇよ、だけどよぉ……俺には時間がねぇんだよ……!!」

「だからこそ焦っちゃダメなの。それこそもっと時間がなくなっちゃうかも、しれないわよ? アテクシとて四四歳となれば闘術士としても中々時間が限られて……」

「……つまりゼーブルって四四歳だったのか」


 地味に驚くコモドの元に、ラマエルが上空から話しかける。


「コモド、おったぞ! 着いて参れ!!」

「本当か!?」

「ただ変なヤツらが周りにおるんじゃ、気を付けた方が良いかも知れんな。こっちじゃ」

「変なヤツら……どうせブラックバアルの構成員だろうけど……」


 首をひねりながら、コモドはケンの元へ向かうのであった。




「ほぉ、この少年がカギになるというのデスカ」


 虚ろな目を見開いたまま、ケンは歩かされていた。


「間違いないワ。それにあの死神はこの少年を、まだ無力な存在と思い込んでるフシがあるワネ」


 その周りに立っていたのは三人、いずれも黒い革の衣装に身を包み、その上から一部装甲がまるで縫い付けられたように喰い込んでいる。三人とも共通して顔色は青白く、生気は感じられぬ程であった。


「しかしまぁサイレーヌも面白いとこに目を付けるモンですナァ」


 サイレーヌと呼ばれた女性はフードで頭を覆い隠し、その一方で胸元から首にかけては大きく開いている。その首元は痛々しく切り開かれており、喉仏の位置には機械が埋め込まれていた。


「ヘルベンダー、あたくしはこういう可愛い少年に目がないこと、御存知でショウ?」

「久しぶりの目覚めなのデス、頭も体もなぁんか重くてたまりませんナァ」


 ヘルベンダーと呼ばれている者は極めて恰幅が良く、背丈もビアルやイリーヴといった身長二メートル台の男達を、更に上回る巨漢であった。体のあちこちに球状のカプセルが埋め込まれており、その目もまるで白いカプセルを二つに割ってはめ込んだような形をしている。


「とぉころでさっきからマードッグが変な方を向いてるんデスが、だぁいじょうぶですかネぇ?」


 マードッグと呼ばれた、さっきから言葉を発しておらぬこの男。むき出しになった歯、目元を完全に覆った仮面、体中から生えた刃がより一層異様さを漂わせており、二人と話すことはなくずっとある方向を見たままであった。


「誰か来ている感じなのカシラ? マードッグ」

「……ガウ。ガガガウ」


 彼の第一声は、最早鳴き声か咆哮とでも言うべきモノであった。


「おやまぁ、早速来ちゃいましたカァ」

「死神コモド、嗅ぎ付けるのが早いなんて中々素敵じゃナイ。聞いた話じゃ歳は少々いってるケド……」

「マードッグ、アイサツをしに行きましょうかネェ?」

「ガウ!!」


 そう言って三人は三叉路をそれぞれの方向に歩き出したのであった。コモドがそこに辿り着いたのは、わずか五分後のことである。


「ケンちゃん! 何処だッ!!」


 三叉路のそれぞれを向きながら、コモドが叫ぶ。


「……向こうじゃ!」

「よし……!!」

「ん、待って、何かいるわ!!」


 カタックが止めたのも束の間、コモド達の元に突如小さな爆発が次々に巻き起こる。怯んだコモドとカタック、見る方向を変えたラマエルが声を上げた。


「何ヤツじゃ!」


 ラマエルが声を上げたその瞬間、爆風の中から次々に影が飛び出す。見覚えのある形に、コモドがキッと睨みを利かせて言い放つのであった。


「出やがったなゴブリン! やはりブラックバアルの手の者か!!」

「ゴブゴブゥーッ!!」


 ゴブリンはそれぞれ手に短剣を握っており、振りかざし飛び掛かって来る。


「……コイツらなら、アテクシで十分よ。先に行ってちょうだい」

「すまん!」


 コモドを追いかけようとしたゴブリンの刃を、左手に持つ十字型の短刀で受け止めるカタック。


「悪いわね……アンタ達の相手はアテクシ、一人よ」


 次の瞬間、止められたゴブリンの胴体は一瞬にして二分割されることとなった。短刀の先端でクイッと手招きするような動きと共に、普段からはとても想像しにくい低い声で言い放つのであった。


「何処からでもいらっしゃい、三下さん」


 背後から斬りかかるゴブリン二体を、振り向きざまにまとめて斬り倒す。更に刀身に魔眼閃光を無詠唱で放つと、そのまま離れたゴブリンまで振り向きざまに三体薙ぎ払うのであった。残り一体、ゴブリンの中でやや大型のホブゴブリンを見定めると、相手もまた短剣を棒に挿して槍にして構え始める。


「武器は長い方が勝つ、とでも言いたげね?」


 刀の刃先を向けながら言い放つカタック、だが刀と槍ではリーチに大きな差があった。穂先を下に構えるホブゴブリンを見据えながら、カタックは左に持った短刀をそっと、右で持っていた刀の納まっていた鞘に近付ける。


「だったら、アテクシの勝ちよ」

「ゴブ!?」


 短刀の柄は刀の鞘に丁度ハマるように作られており、軽くねじ込んでカチっと納め、鯉口についた金具を親指で入れると、そのまま鞘ごと左手で取り出し足の甲に鞘尻を当て、蹴り込んだ。カタックの刀の鞘と短刀は、組み合わされば十文字槍となる仕組みとなっていたのである。重さのある一撃を喰らい、ホブゴブリンはそのまま槍を手から落として仰向けに倒れ込んでしまうのであった。直後、ホブゴブリンの首は宙に飛ぶ。


「ゴブリンは片付いたわね。急がないと……あら、この気配、機械人形のようだけど人間ぽくもあり……何がいるのかしら?」


 カタックがゴブリン達と切り結ぶ頃、コモドとラマエルはケンのいるであろう位置までその足を急がせていた。


「こっちか?」

「こっちじゃ! ……うわッ!?」


 思わぬ場所、建物の壁から飛び出た影が、ラマエルを空から引きずり降ろす。


「ラマエル!? おい、ラマエルに何すんだてめぇ!!」

「ふぇっふぇっふぇ……噂のお姫サマをようやく目にすることが出来ますナァ」

「ガウ、ガウ! ガガガガガガ」


 異様な姿の二人組が、コモド達の前に姿を現した。


「ケンちゃんとやらをお探しなんですネェ、彼でしたらこの先をずぅーっと行った向こうにいらっしゃいますヨォ」

「大丈夫かしらコモドちゃん!? ラマエルちゃん!?」


 そこに、ゴブリンを蹴散らしたカタックが合流する。


「あぁれマァ、ゴブリンさん達がみんなやられちゃったようですネェ」

「追いついたわ……それにしては随分とハデなアイサツをしてくれたわね。何者かしら?」


 パン、パンと土手っ腹を叩きながら、巨漢が口を開いた。


「おっと失礼。ワタシは、ブラックバアル改造闘士部隊のヘルベンダー……」

「ガガガウ! ガウガウ!!」

「同じく、マードッグと言っておりますナァ」

「ブラックバアル……改造闘士部隊だと!?」


 コモドが驚くと、ヘルベンダーが返した。


「ええそうデス。ワタシ達のカラダはビアル様による改造手術を施されておりましてですネェ」

「ビアルによる改造だと。確かアイツも皮膚の下に……」


 コモドは記憶していた。竜の谷で対峙した時、ヴィブロスラッシュを受けたビアルの顔の皮膚の下からは、鋼のウロコに覆われたドクロのような顔が覗いていたことを。同じような身体改造を施した部下がいたとしても、何らおかしいことはない。


「ほっほう、御存知なら話が早いですネェ。お見せしてあげなさい、マードッグ」

「ガァァァウ!!」


 力んだマードッグの全身に生えた刃が、一気に膨張して展開される。中にはコモドの手甲剣と同じ位置も確認出来る。


「タルウィサイト……体内に仕込んだのか、中毒死しても知らねぇぜ」

「ガガガガガガ」


 マードッグの声は何処か笑っているように聞こえた。


「何がおかしい!!」

「マードッグはこう言っていまァス、『それが可能なのが我々なのだ』ってネェ」

「ガウ」


 頷くマードッグ、どうやらヘルベンダーとは意思の疎通が出来るらしい。 


「どちらにしても足止めを頼まれたモノでしてネェ、我々の麗しき同僚にサァ」

「確かに一人足りぬな……コモド、コイツらと似た格好のヤツがもう一人おるはずなんじゃ」

「一筋縄でいく相手には見えないわね……コモドちゃんにラマエルちゃん、さっきと同じく、隙を見て駆け出してちょうだい」

「先生!?」

殿しんがりなら任せてちょうだい……さぁ行って!!」


 飛び掛かるマードッグ、その目は真っすぐにコモドを捉えている。その場からバック転で退いたコモドに、マードッグの上段回し蹴りが襲い掛かる。その蹴り足にも刃は展開されていた。手首の刃二つで受け止めるコモド、しかし脇腹から突如展開した刃がザックリとコモドの二の腕を突き刺した。


「退きなさいッ!!」


 刀を抜くと同時に横から斬り付けるカタックが、マードッグの意識を自らに向けさせた。コモドはその場から飛び退くが、二の腕から流れ出る血は止まる気配がない。


「クソ……間違っても掴んだり投げたりなんて考えちゃいけないヤツだな……!!」

「ワタシの存在を忘れてもらっては困りますナァ」


 その背後にいつの間にか移動していたヘルベンダーの、掌がコモドの頭上に迫っていた。


「ぐおぇッ!?」


 まるで蚊でも叩き落すかのように、コモドが地面に叩き付けられる。


「コモドッ!?」


 ラマエルが駆け付け、ヘルベンダーに向かう。だが天肆族を前にしても、彼はニタニタとした笑顔を崩さない。


「ふぇっふぇっふぇ、そんな可愛い顔で睨まれたら惚れちゃいますヨォ?」

「ふざけておるのか!?」

「ふざけるも何も、ワタシはキミくらいのトシ恰好の、ムチムチした小娘が大好きでしてネェ」

「それは驚いたのう。まさかこの地上に、齢四ケタが好みの変わり者がおるとは」

「何歳でもかまいませんよ可愛ければネェ!! 封入ふうにゅう術……」


 そう言ってヘルベンダーは体に埋め込まれたカプセルの一つを取り出して握り潰し、唱える。


「カプセルプリズン!!」

「んなッ!?」


 そして粉状になったそれをラマエルに向かって放つと、何と一瞬にして巨大なカプセルが再構築され、ラマエルを閉じ込めた。


「ラマエル!?」

「ワタシの封入術はこのカプセルにですネェ、どんなモノでも優ァしく包み込んで放さないんですヨォ、ふぇっふぇっふぇ……」

「なんの、カプセル如きでわらわが囚われの身になると思うでないわ!! 天導術、エルバラック!!」


 ラマエルの触角から放たれた電撃が、カプセルを一瞬にして粉砕する。


「アラアラ面白い術ですネェ」

「囚われの身になるべきはそちらじゃ! 天導術、エルベリース!」


 指先から放たれる絹糸がヘルベンダーを囲み、巨大な繭に閉じ込める。


「ほほーう、コレは中々安心感のある繭ですネェ」

「随分と余裕だなヘルベンダー? ラマエル気を付けろ、コイツわざと撃たせてるかもしれねぇ……」

「わざとじゃと?」

「手の内を知りつつ、魔力切れを狙ってやがるってことだ」

「気付いたところで遅いんですヨォ!! ふーむ、コレが効きそうですネェ」


 繭から上がる炎。焼け落ちるそこから不敵な笑みを浮かべ、ヘルベンダーは現れる。


「天肆の力が如何なるモノか、大体分かりましたヨォ」

「なんじゃとぉ?」

「噂に聞く鱗粉、電撃が放てる触角、指先から放つ絹……全身が魔触媒とはトテモうらやましいですネェ。ですが……」


 カプセルの一つを手にとって、ニヤリとしながら言い放つ。


「さっきの絹と同じ、この毒で溶かしながら燃やせば話が早いと言うことですナァ!!」

「爆薬といい毒といい、何でもアリだなお前さんの体よぉ」

「自分でがんばって封入して、がんばって埋め込んでるんですヨォ」

「コモド、どうにか抜け出さないとケンが危ないぞ……そうじゃ!!」


 ラマエルの触角は、ヒトでいう眉毛にあたる位置から鳥の羽毛に似た形のモノが生えている。まるで眉毛の一本でも抜くかのように、羽枝にあたる部分を器用に爪で切り取ると、コモドに渡した。


「コモド、コレを持って早う抜けるのじゃ! コヤツはわらわが喰い止める!!」

「大丈夫なのかラマエル!? 俺どうやって探せば良いの!?」

「今渡したのはわらわの触角の一部、真っすぐに立てればケンのいる方に向いて光るはずじゃ! 早う行け!!」

「分かった、すまねぇ!!」


 素早く駆け出したコモド。その行く手を阻もうとしたヘルベンダーとマードッグの前に、ラマエルとカタックが立ちはだかる。


「ほっほう、行かせないというワケですカァ?」

「ガウガウガウ!!」

「ええ、行かせないわよ」

「わらわ達が相手じゃ、ゆくぞ!!」


 刀を構えるカタックに、帯電する触角に指先を添えるラマエル。体中の刃を擦り合わせるマードッグに、四股を踏むような動きをとるヘルベンダー。


「行けェ、爆弾カプセル!!」


 全身に力を入れ、埋め込まれたカプセルのいくつかを飛ばすヘルベンダー。たちまち辺りから爆発が起きる。


「宝眼術、魔眼閃光!」


 カタックの目から放たれた光線がヘルベンダーを狙う。カプセルの一つが被弾し、たちまち炎が上がり始めた。


「しめた!」


 そう言って左手に握った短刀の柄を長刀の鞘に挿入し、鯉口に付いた金具を入れると、炎上するヘルベンダーのカプセル目掛けて鞘ごと握って突き出した。ホブゴブリンを倒した時と同じく簡易的な十文字槍が出来上がり、確かに刺さった感触を手にするカタック。だが、ヘルベンダーの表情はイヤな笑顔を浮かべたままであった。


「あら、今の場所をえぐられたら、相当痛いはずだけど?」

「痛覚なんてありませんヨォ。それにワタシの皮膚は火を通さない上にですネェ……」


 刺したはずの槍が、なんと押し戻されている。


「切られても突かれても、自力で押し出せるんですヨォ!!」

「アテクシの一撃を……やるわね」


 素早く槍を戻して構えを直すカタック、その隣では。


「ガウガウ!!」

「なんじゃコイツ……まるで電撃が当たらぬぞ……!?」


 何とラマエルの術は、マードッグを捉えることが出来ずにいた。彼はエルバラックによる電撃が当たる寸前に姿を消してしまっており、空間を支配出来るはずの力を持ったラマエルを何と一方的に翻弄していたのである。何かしらの術を使っていることは明確であった、だが詠唱ナシで使い続けるマードッグの使う術を、見破ることまでは至らなかった。


「詠唱ナシでここまでいくとは……コイツが一番危ないわ」

「止むを得ぬ……行けシケイダー!!」


 髪飾りとして待機していたシケイダーが殻を抜け出し、マードッグの刃と自らの爪を交え合う。


「ジジジッ!!」

「ガウゥゥ!!」


 爪と刃の間には間が空いており、シケイダーが自らに触れさせていないことを示している。


「この子がシケイダー……なるほど、頼りになるわね」

「ふぇっふぇっふぇ、考えましたネェ……ただぁし、あの死神とて今頃は……」




「この先か?」


 指先でラマエルの触角の一部を持ちながら、コモドは奔走する。その先端は緑色に光っており、常に折れ曲がっている。即ち、光の指し示す方向にケンがいることになる。


「ケンちゃん! 何処だ!? ケンちゃん!!」


 光の方向を見ながら走り続けるコモド、だが次の瞬間に触角の一部が示す向きが反転し、コモドの方と向き合った。ケンの位置を、ほぼ特定出来たようなモノであった。


「そこにいたのか……ケンちゃん、俺だよ、コモドだよ……ぬぅん!?」


 振り返ったコモドを待っていたのは、鉛の矢による手荒い歓迎であった。マードッグに刺された二の腕に、更に抉るように刺さった矢を手で引き抜きながら、目の前の人物を確認する。


「ケンちゃん……!?」


 そこにいたのは確かにケンであった。だが、コモドの知るケンちゃんではなかった。半分に座った両目、刀を右手に、左手にはアダーを構え、真っすぐに標的を見定めていた。


「おいケンちゃん、誰を狙って……」

「……フッ!!」

「嘘だろッ!?」


 二発目の矢を刃で弾いたコモド。だがまだ、目の前の光景が信じられずにいた。


「おい返事してくれ。吹矢じゃなくて、言葉で!!」


 そう言われたケンはアダーを降ろし、ホルスターに仕舞い込む。


「分かってくれたのか? そうだケンちゃん、俺は敵じゃない。何があったかは知らねぇけどさ、病院戻ろうぜ? な?」


 必死でなだめるコモド。少しずつケンに近付き、肩に触れようとした、その時であった。


「ごほォッ!?」


 彼の鳩尾を衝撃が襲った。痛む箇所を押さえながらその場から下がると、自らの腹部を打ったモノを見た。そこにあったのは、鞘に収まったままのケンの刀、その柄が突き出されていたのである。


「……ケンちゃんの刀の使い方じゃねぇ。コイツはもっと……人を斬り慣れたヤツのやり方だな」


 徐々に、徐々にコモドの隻眼に敵意が宿る。今の目の前にいるのは、ケンであってケンではない。では何か。相手の目線に気付いたコモドはその瞳に目を合わし、そして眼帯についた“眼”を使った。


「魔力がかかっているな……即ち操られている、目がイカれてるぜ。どうしたモンかな……」


 痛みでふらつく足腰に力を入れ直し、乱れていた呼吸を整え、真っすぐにケンに向かって構えをとる。一方のケンはというと、一言も発することなく柄に手をやり、刃を抜いた。


「抜いたな!? やっぱりそうだ……既に、構えが違う」


 刀の先端を前に向けず、峰に手を添え横に構えるケンの姿を見て、コモドが呟く。


「止むを得ん!」


 手甲の刃が展開される。今、悪夢のような対戦カードが現実に起きてしまった。果たしてコモドは、無事にケンを正気に戻すことが出来るのであろうか。


悪夢の対決が始まった。コモドは今、自ら鍛えた刀の露となろうとしている

コモド対ケン、勝負の行方やいかに

次篇『改造闘士の三重奏曲』 お楽しみに


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