第二十篇『連邦じゃ二番目の響牙術士』下
この物語を読む際には、壁に罠がないか確かめてからお願い致します
「ヴィブロスラッシュ二段斬りィィ!!」
素早い動きで二発もの斬撃を飛ばすソラス。それに対するコモドの放つ技とは。
「響牙術、ヴェレスネーカー!!」
ターバンを外し、揺らぎを宿らせ投擲する。螺旋状になって飛行するターバンが、ソラスの放ったヴィブロスラッシュを二発とも打ち消した。
「縛り上げろ!」
「そうはいくか! 響牙術、ヴィブロジャック!!」
作り出した揺らぎ球を、コモドの放ったターバンにぶつけるソラス。ヴィブロジャックとは、既に術のかかった物体を己の響牙術で上塗りすることでコントロール下に置く技術である。
「元の座に戻るが良い!!」
「がァッ!?」
ターバンはコモドの頭に戻された。しかしそれだけはなく、何とそのまま持ち主の頭部をギチギチと締め上げる。
「きょ……が……じゅ……!!」
「まともに唱えることも出来んだろう。さぁ差し出せ!!」
牙を弾いてもすぐに消える揺らぎ球。頭部を締められる痛みが、コモドの集中力を削ぐためである。
「そうはいくか……!! 唱えずともいけるんだよこっちはッ!!」
指三つで牙を弾き、揺らぎ球三つでターバンに無理矢理宿らせる。するとターバンから青い光が絶え、頭部は解放された。ソラスが宿らせた揺らぎを、コモドは自らの揺らぎで打ち消したのである。頭からターバンを外すも、肩で息をするコモドにラマエルが声をかける。
「コモド! 大事ないか!!」
「クソォ……最近あちこち締められ過ぎて……嗚呼痛ぇ……」
「どうした、もう虫の息かァ!! そんなんでは三番目以下かもしれねぇなッ!?」
「言ってくれるじゃねぇかッ!! こちとらそろそろノイローゼだよッ!!」
「じゃあ楽にしてやるよ。響牙術……」
牙を弾いて出した揺らぎ球を高く掲げ、大きな弾指を鳴らすソラス。すると矢のトラップを隠していたレンガ一つ一つに揺らぎが宿り、カタカタと動き始めた後にその場で高速で回転し始めた。
「ヴェレスピンドルッ!!」
解説せねばなるまい。ヴェレスピンドルは、響牙術における揺らぎを与えた物体に、高速回転をするための回転軸を与える技である。そして一度揺らぎを与えた物体は、術者の精神力と集中力を絞り込むことによって、直接手を触れずとも自在に操ることが可能となる。かつてコモドが落ちているマントに遠方から揺らぎを投げて与えることで術を発動させたように、ソラスは離れた位置にあるレンガを使って発動したのだ。だが、その数は一つや二つではなかった。
「飛べッ!!」
「天導術、エルア……なぬ!?」
「うわ間に合わねぇッ!?」
ラマエル目掛けて、高速回転するレンガが襲い掛かる。間一髪、その場からラマエルをかばって身をかわしたコモドだったが、的を外して砕けたレンガが彼の顔をピシッと切り裂いた。
「痛ッ!? 何つう練度で放ちやがる……!!」
「あなや、囲まれてしもうたぞ!!」
回転するレンガはまるで取り囲むように、コモド達の周りを浮遊する。連邦一の腕前を豪語するだけあって、ソラスの響牙術の腕は卓越したモノであった。
「お姫様。こちらとしては、貴女にまでキズを付けるつもりはありません。素直にこちらに来ていただけるのでしたら、この術は今すぐにでも解除致しましょう」
印を結んだ手を震わせつつも、不敵な笑みを浮かべてソラスは揺さぶりをかけた。
「今の今でそんな台詞を申すか!! 先程のレンガ、真っすぐにわらわを狙ったように見えたが気のせいかえ!?」
「抵抗するのであれば仕方ありません。こちらの意思に従わざるを得なくするだけで御座います」
「こうなれば止むをえん、エルドミニオンで無理にでも忠誠を……」
「やめろラマエル、今繭になられたらまずい! コイツ一人抑え込んだところで、この後にゼーブルやビアルが控えてる可能性があるぞ!」
「くっ……!!」
「分かりませんか、今の貴女達は、互いが互いの人質となってしまっているのですよ? 貴女のためにコモドが殺されるか、コモドのために貴女がこちらに歩み寄るか、選択肢は二つに一つなのです」
すると髪に付いたセミの幼虫に手を伸ばし、ラマエルは返した。
「何を言うておるかソラス……たった今から、そなたは三対一を強いられることとなるぞ! 行け、シケイダー!!」
「ジジジッ!!」
そう言って、ラマエルはセミの幼虫を投擲、即ちシケイダーを召喚する。その身をスルリと殻から抜けだし、シケイダーは壁から壁へと蹴って動いて直接ソラスへと飛び掛かった。
「何ィ!? ぐはッ!!」
顔の側面に蹴りを入れられ、素早く壁に寄り掛かるソラス。だがその痛みが集中を切り、浮かんでいたレンガは回転を止めて全て落下した。
「しめた! でかしたシケちゃん!!」
怒りで逆立った片方結びの長髪をなびかせ、階段を駆け上がるコモド。その手甲にはキッチリと刃が展開されている。
「隠し玉とは卑怯だぞ貴様ら……!!」
「騙し討ちしといて言う台詞じゃねぇだろッ!! でやァッ!!」
背を屈め、ソラスの振り下ろす刃を半身で外し、一瞬にして背後をとったコモドは相手の首に腕を引っかけるようにして襟を掴むと、無理矢理扉に叩き付けるような形で投げ飛ばした。
「おのれッ!!」
口から垂れる血を拭いながら、ソラスが立ち上がる。
「ラマエル! 扉に絹を張れ!! コイツと決着つけてやるッ!!」
「わ、分かったのじゃ」
ラマエルはすぐさま、扉に素早く絹による結界を張る。
「さぁコレで人質なんてねぇぜ。存分に殺り合おうじゃねぇか」
「言ったな……後悔させてやる!!」
接近していたコモドはそのまま手甲の刃で斬り掛かった。素早く打ち返そうとしたソラスの剣を、三つ連なった刃のうち二つに引っ掛け、刃を眼前から降ろすと強烈な頭突きを見舞うのであった。怯んだソラスの腹部に、更に蹴りによる追撃が刺さる。
「ハァァァ……!!」
呼吸を整え、構えを直し、コモドは距離をとりながらソラスの様子を見る。
「何だコイツ……響牙術なら格下のクセに……!!」
牙を弾きベルトに手をあてて揺らぎを宿らせたソラス。素早く外したベルトを投擲する。
「響牙術、ヴェレスネーカー!!」
「響牙術、エッジクローカー!!」
それに反応したコモドもまた揺らぎを出し、こちらはマントに宿らせ翻す。響牙術は揺らぎを宿らせる物体の性質と技の性質との兼ね合いで威力が左右される。組み合わせ次第では、身に付けたあらゆるモノが武器となり得るのだ。
ソラスのベルトは蛇のように、コモドのマントをすり抜けようとしていた。だがそこに待っていたのは、平然と印を結んでマントを手元に引き寄せるコモドの対処であった。ベルトは両断され、マントがコモドの身体に戻る。
「ええいまだだ! 響牙術……」
ソラスは牙を弾くと、壁にある火の点いた蝋燭を見つめる。
「ヴェレスピンドル!!」
炎そのモノに揺らぎを宿し、蝋燭から浮かび上がらせ、高速で回転させることで火の玉に変える。
「なるほど、さっきから応用がよく利いとるが……」
その様子を見ながらコモドが呟く。
「肝心なことを忘れてるぜ。今は単なる術自慢の時間じゃねぇんだぞ」
その間にも、高速回転による火の玉はその規模を広げてゆく。
「知ったことか。死神コモド、お前はその術自慢の前に膝を付くのだッ!!」
「そうか……」
コモドもまたピアスに付いた牙を弾き、揺らぎ球の灯った指を縦一文字に構え、そして微動だにせずいた。
「……何? 術名を唱えないだと?」
疑問を覚えつつも、ソラスは火球の規模を広げ続ける。やがてコモドの姿が隠れる程にまで膨らませると、構えを変える。
「まぁ良い構わん、焼き尽くせッ!!」
掌をコモドのいる方に向けると、回転しながら炎の塊がコモドへ向かって飛ぶ。だがその裏で、コモドは何をしていたか。
「ソラス……相手から目を逸らしたな。こちらには“視えている”ぞッ!!」
「何だとォ?」
コモドは、揺らぎを宿していない方の手を襟に沿わせ、愛用品である鋼の櫛を取り出した。折り畳まれた柄を広げ、その歯を揺らぎにあてて宿らせると、その場に櫛を浮かせて、叫んだ。
「ブチ抜けッ!!」
最早それは技名などではなかった。しかし直後に櫛は一直線に火球を貫き、回転軸を異なる揺らぎで干渉されたためにか瞬く間にかき消される。炎の消えたその向こうに見えたのは、手首を櫛で深々と刺され、更に肉の焼け焦げる匂いを上げて悶絶するソラスの姿であった。
「あづゥゥゥ!? 何だ、何だこの技はッ!!」
「技じゃねぇよ。その鉄櫛に宿した揺らぎを介して、出来るだけ練り込んだ魔力を注いでブッ飛ばす、単なる基本動作だ。さっきお前さんがレンガ飛ばした時みてぇにな」
「何ィ……?」
ズカズカと近付き強引に櫛を引き抜き、そのまま握り込んだ拳を顔面にお見舞いする。
「言っただろう、術自慢の時間じゃねぇってな」
櫛を折り畳み襟に戻すと、剣を向けたまま腰を抜かすソラスに向き直った。
「認めてやるよ。お前さんは確かに、響牙術の腕前なら俺より上だ。だが……」
「だが……?」
「闘術士としてはいかがなモンかね」
「何だとこのオッサン……!! 響牙術……何ィ?」
柄に付いた牙を弾こうとしたソラスだったが、ここにきて不可解な現象が彼を襲う。灯したはずの揺らぎは、どういうワケかすぐに消えてしまうのだった。
「何故だ、何故灯らない……!?」
「痛みだ。激痛ってのはな、術に必要な集中力を著しく削ぐんだぜ」
「何を!?」
「さっきの俺の頭締め上げやがったクセして知らなかったみてぇだな。お前さん、実戦経験があまりねぇんだろ?」
「コケにすんな……!!」
腰だめに剣を構え、コモドに突っ込むソラス。だがその標的はまたしても半身で刃を外すと、マントの下から外してあったターバンを掴んで取り出し、揺らぎを宿すことなくソラスの顔面に投げ付ける。視界を奪われ困惑したその隙を狙って、今度はアゴを狙って腕そのモノを叩き付けた。ただでさえ硬い手甲によるラリアットは相当な威力だったようで、ソラスは空中で一回転した後に仰向けに転がることとなった。
「没収だ」
カラン、という音を立てて床に落ちた剣を足で遠ざけた後、コモドはターバンを回収する。すると慌てて得物を取りに行こうととするソラスの襟を掴んで引っ張り上げ、もう片方の手を額に当てて掴み上げると、壁に押し付けつつその指でこめかみを締め上げる。
「ああああッ!?」
激痛と絶望からか、最早ダミ声となった悲鳴がソラスの喉から絞り出された。
「ソラス。チャンスをやるぜ」
「ここに来て遊ぶつもりか……?」
後頭部を壁にぶつけ、今度は襟首を掴むと空いた手で牙を弾き、指に灯った青い揺らぎをソラスの眼前に見せた。
「今から俺の使う術を当ててみな。正解だったら命だけは助けてやる」
「何だと……接近戦ならパルスインパルムか……?」
首を横に振るコモド。そして揺らぎを握り締めた。彼の手甲剣の刃が青く光り始める。
「ヴィ、ヴィブロスラッシュ……!?」
ふん、と軽く笑って見せたコモドに、ソラスは安堵した。ただし、一瞬のことであった。
「正解か? 正解なのか!?」
「惜しいな。正解は、ヴィブロスラッシュ……」
「え、まさか……イチ、ニィ……三段斬りッ!?」
手甲付いた刃を見たソラスに対し、コクリとうなづいたコモド。
「残念……素早く二回振るから六段斬りさ!」
「お、おい冗談だろ……!? ただでさえヴィブロスラッシュをこんな至近距離で、それも六段斬りなんてされたら……!!」
「嗚呼、お前さん、挽き肉になっちまうぜ?」
あまりに残酷な宣言を前に、ソラスは涙目になり凄まじい速さで首を横に振り始める。
「イヤだ……イヤだイヤだイヤだッ!!」
「観念しな! うろたえんじゃねぇッ!! 必殺ッ!!」
コモドが叫んだ。だがそこに。
「やめて! お兄様を殺さないで!!」
部屋から出て、叫ぶ者がいた。壁に寄り掛かりながらも、確実にソラスの方に近付いて来るのが分かる。
「サヴラ! 安静にしていろと言っただろ!!」
「お兄様! もう、やめて!」
「何を言っているんだ、コイツを殺して天肆を奪えば、サヴラは良くなるんだぞ!!」
「やむを得ん……命拾いしたなァ、オイ」
刃に灯っていた術を解除して手甲に格納し、ソラスを開放したコモド。そこにサヴラが近寄った。
「お兄様! 何故こんなことするの!? マイア様の館を改造して、マイア様から教わった術でこんなことまで!」
「うるさい! お前が助かるんなら何をやったって良い、例え外道に堕ちようともな!!」
「このサヴラのことで! お兄様に外道に堕ちてもらいたくはありません!!」
その間にコモドは階段室へと駆け戻る。
「コモド、もう大事ないか?」
「嗚呼、俺は大丈夫だ。すぐに先生に知らせよう、あのままでは……二人とも粛清されちまうぜ」
コモドの表情は依然緊張を保ったままであった。
「粛清とはとんだ連中じゃな、わらわとてシケイダーのヘマは許してやるとゆうに」
「優しいんだなラマエル、よし行くぞ」
「その必要はないわよコモドちゃん」
階段の後ろからコツコツと、歩いて来る音が響く。
「なぁんか遅いなと思ってみれば、随分と散らかしたわね?」
「先生! まぁ、見ての通りですよ。まさか暗黒組織と繋がりがあったなんてな」
口元に手を置きながら、結界の向こうから様子を見るカタック。
「のうカタックとやら、あの兄妹を助けてはやれぬかの? このままじゃ粛清されてしまうそうなのじゃ」
「分かったわ。でもまずはソラスちゃんの手当てが先ね。この結界、ラマエルちゃんが張ったのかしら」
「そうじゃ、今解くからちと待ってはくれぬかの」
階段室から廊下に歩み出ると、カタックはソラスに向かって話し掛ける。
「全くとんだ無茶をする子ね……」
「先生……おれ……」
「無理に喋る必要はないわ。それにしてもコモドちゃん、随分とボッコボコにしたわね」
「不可抗力だ……すまんな」
「お陰で……すぐに始末が出来るわね」
「……何だって?」
コモドが振り返って見たモノとは、今まさに剣を抜いて斬り掛かろうとするカタックの姿であった。
「先生ッ!?」
「よせッ!!」
コモドが駆け寄るよりも先に、ラマエルの技名を唱えずに放ったエルバラックがカタックを直撃する。怯んだその隙に、コモドはカタックと、ソラスの間に割って入った。
「本性現したな! 先生の、正体見たり、ブラックバアルッ!!」
「バレちゃったなら仕方ないわねぇ……」
左の手袋を引き抜くカタック、その手の甲にはクッキリと、ドクロを背負ったハエが刻まれているのであった。
「その位置ということは……幹部!!」
「ええ、ごめんなさいね。ここで粛清しとかないとアテクシの命が危険ですの」
「そうはいくかッ!!」
「もう仕方ないわねぇ……覚悟は良いかしら」
急にドスの入った低音となるカタックの声。彼の右手には蓮を象った鍔を持つ、日本刀を思わせる形の曲刀が握られ、左には兜割とマインゴーシュの合いの子のような短い直剣が握られる。
「アナタと直接やり合うのは避けたかったのよねぇ……でも仕方ないわね」
「ラマエル、その二人を頼む!!」
「心得た!!」
ラマエルはすぐさまソラスとサヴラの前に出ると手を胸の前で交差させ、指先から放つ絹で辺りを素早く包み込むと巨大な繭の結界を作り上げる。
「ふぅん、確かに捕まえるのは難しそうね」
ついさっきまで敵対していた人物が今や救助対象となり、逆に頼ろうとしていた人物が敵として眼前にいる。半ば混乱しながらも、コモドが構えを解くことはない。猛者同士の戦闘となったためか、両者互いに構えをとったまま、じりじりと足だけが動いている。
(隙がない……剣の達人なのは知っていたがここまでとは)
拮抗する二人の様子を、繭の中からラマエルは眺めていた。リビングで茶を淹れていた時にはまるで感じられなかった殺気が、カタックから溢れている。彼女の目にはその殺気がハッキリと、緑色のオーラとなって“視えて”いた。一方でコモドからも深紅のオーラが溢れ、カタックの放つ緑とぶつかり合っている。
「コレでは互いに動けぬぞ……何という殺気じゃ……」
ぼそりと呟くラマエル。もしここで術に集中力を注ごうモノなら、たちまち相手の刃の露と消える。そんなヴィジョンが互いの目に視える程の緊張感がこの“場”には漂っていた。武術の達人同士の試合は時に互いが一歩も動けぬ状態に陥るとされるが、今がまさにその状況であった。
「スゥゥゥ……」
呼吸を整えるコモド。徐々に構えを変えてゆき右腕を上に、左腕を腰だめに持っていくとそのままカタックを睨み付けた。横に張り出した手甲の刃が威圧感を醸し出している。
(賭けに出るぞ……わざと隙を晒した……斬り込んで来い……!!)
コモドの言う通り、今の彼は脇腹から斬り込まれればあっさりと通る構えを取っている。しかしそんなことはカタックにとってもすぐに分かることであった。わざと隙を誘って反撃を叩き込む、コモドの構え方はいわば“罠”とでも呼ぶべきモノであった。カタックにもコモドにも、斬り込まれた刀を手甲で受け止め、そのまま斬られるか刺されるかというヴィジョンが視えている。
「ハァァァ……!!」
よってカタックもまた切っ先を時折動かしながら、斬り込めずにいるのであった。この罠を切り抜け、コモドの身体に刃を当てるにはどうすれば良いのか。今、彼の両手には異なる長さの刃が握られている。左に握る短刀が、いわば受け止めて返すことに特化した形状をしていた。即ち二者とも“受けて返す”準備をしてきているのである。拮抗したまま動けない理由がそこにあった。
「喰い合いを始めておる……二人の影が……!!」
コモドのオーラが形作る赤い竜、カタックのオーラが作り出すのは巨大な緑の蛙。ラマエルの目にはその二つが互いに飛び掛かり、噛み付き、引き裂き、時には尾で叩き付け、またある時には頸部を締め上げる様子が視えている。だがその一方で本人達の姿は停まったままであった。
ゼーブルが魔女集会の晩に言い放った一言が、今になってコモドの脳裏に響く。
『ブラックバアルは、常に諸君らの隣人である』
以前から知っていた人物が暗黒組織の人間かもしれない。これから先を待ち受ける、ラマエルを狙った魔手が身近な存在から来るかもしれないという不安がコモドの精神に揺さぶりをかけ続けている。この拮抗を打破するのは果たしていかなるモノか、それは次篇で明らかとなる!
~次篇予告~
裏切ったカタックの刃がコモドに向かう
緊迫する場面、そこを打ち破るは今一つの刃
次篇『ブラックバアルの真実』 お楽しみに




