第十九篇『急げ恐怖の百足病棟へ』下
この物語を読んだ後には、友人との再会をお勧めします
屋上でコモド達が戦闘に入っていたその時、病院の一階では。
「父さん!!」
「ミナージ! 来てくれたか……!!」
無事に再会するミナージとウラル。他の患者も応急処置を終えて脱出を控えている。
「ミナージ君、三階に囚われていた患者はこれで全員よ」
「分かったよラビアさん。ところで、先生は?」
「屋上で闘っている、コモド達と一緒にね」
「……あと、一人足りないッスよ」
「え?」
ウラルとラビアが、ミナージの方を向き、そして周りを見始める。
「父さん、黒いオートメイトは何処行った?」
「黒いオートメイト……イリーヴって言ってたっけ……」
「……そう言えば見てない!! まさかアイツらの目的って!!」
「なるほど……そういうことか……だから無暗に患者に手を出そうとしなかったワケだな……」
「がはっ、ぐぉ……何コレ……目が見えない……!!」
「ケンちゃん、喋っちゃダメ!!」
得物が折れた上、刺激性ガスを嗅がされ戦闘不能となったケン。刀の破片を背中に引っかけたまま、ヴィネガロンはコモドに迫る。
「行け、式神符!」
ケンに張り付いた符から翼が生え、ラァワの元に飛ばされ抱き寄せられる。
「すぐに処置すれば大丈夫よ、治癒符!」
「げほっ、げほっ……」
コモドとコルウスはそれぞれ、異なる機械人形を相手取る形となった。
「ヒェッヒェッヒェッ!! この組み合わせで二体二か面白いなァ!!」
「ガル! ガル! ガル!」
「面白がれるなんて羨ましいぜ、こちとら余裕がねぇのによォ」
「防腐剤まで完備した高級オートメイトです、何処か一カ所深手を負わせられていたなら……」
「それだったら、“兄貴”の方の背中に、確か……!!」
コモドの言葉を受けたコルウスが、ヴィネガロンの背中に目をやった。ケンが渾身の一撃で入れた刀の破片は、かなりの深さに達しているのが見える。
「念水術、シアナレスター!!」
ペンダントに仕込んだ水を使って出来た糸が放たれ刀の破片を回収、コモドがそれを受け取ると懐紙に包んでしまい込んだ。
「ヒェッヒェッヒェッ! オイラを忘れちゃ困るぜ!!」
その背後からビズトロンが迫る。その声に気付いたコモドはその場にしゃがむと足元を狙って蹴り込んだ。倒れ込んだビズトロンの機体はその場でバラバラに分かれ、次々にコモドの腕を、脚を抑え込みにかかる。
「死神コモドォ! 今からお前の関節という関節にオイラの絞殺ムカデを送り込んでェ! 全身を締め上げた上でバラバラにしてやるぜェェ!! 一斉突撃ィィイ!!」
残されていた胴体の断面から次々に絞殺ムカデが這い出てくる。
「コレがオイラの、必殺ムカデ地獄だァァアア!!」
浮遊する頭部から、自慢の必殺技が叫ばれた。放たれたムカデは標的を取り囲み、次々に飛びついては服の隙間や首筋を狙って前進する。体をよじり、ムカデを振り払おうとするコモドだが、その度に異なるムカデが彼の生命を狙って這い寄り、爪を立て、締め上げようと試みる。
「死ィィィねェェエエエエ!!」
「何のこれしき……ぐぉぉおおお!!」
次の瞬間、コモドは何と背中を思い切り屈めると、次々に迫り来る絞殺ムカデ目掛けて前転する。そのまま自らを抑え付けようとするビズトロンの腕を振り払うと、同時にピアスの牙を弾いて叫ぶのであった。
「響牙術、パルスインパルム!!」
「な、何ィィ!? やめろォォォオオ!!」
技名が唱えられると同時に、コモドの青い揺らぎを伴った掌打が、ムカデの発生源たるビズトロンの胴体に打ち込まれる。
「ギャアアアアアアア!!」
ビズトロンの胴体から現れるムカデがぽつりと止み、代わりに破裂音と同時に煙が上がり始める。
「おォのれコモドォォオオ!! オイラの大事な、絞殺ムカデ発生装置をよくもやってくれたなァァアアア!!」
分離していた機体を元に戻し、腹部を押さえてフラフラになりながらも相手に吼えかかるビズトロン。その様子を、ヴィネガロンと闘いながらも見ていたコルウスが呟いた。
「おかしい、パルスインパルムをまともに受けたのなら、ヤツの胴体の内部機構は今ので破壊されたはず、何故まだピンピンしている……?」
「……なるほど、そういうことか。やはり普通の機械人形ではない」
ビズトロンの元に兄貴ことヴィネガロンが駆け寄る。同時にコモドもコルウスの元に向かうと話し始めた。
「先生、どうやらこの兄弟は頭部が本体みてぇだ。普通そういうのは胴体に組み込むモンなんだがな。しかし今のを見て確信したぜ、兄貴の方も背中刺されても平気なようだし、切れた部位を操ってたし」
「なるほどなるほど……ヒトの体じゃあり得ない仕組みも機械人形なら……そうと決まれば!」
「分かったところでェ!! やらせると思うのか死神コモド! そしてコルウス先生よォォオオ!!」
コルウスとビズトロンの奇妙な因縁に今、終止符が打たれようとしている。
「でっけぇ口叩くなよビズトロン! 仕組みが分かればバラせねぇモンなんてねぇんだよ、人形もヒトもなッ!!」
「開頭手術と参ろうか、あなた達という病巣は切除する!」
「どっちみち仕組みを知られたからには生かしちゃおけねェ……兄貴ィ、やっちまえェェ!!」
「ガルルルォォォォオオオオオオン!!」
ヴィネガロンの右腕が思い切り振られると同時に、そこに付いた巨大なハサミが切り離されコルウスを襲う。そこに刃を展開したコモドが飛び出し打ち返す、だがヴィネガロンの右腕の断面から炎が噴き出し二人を襲う。
「ビズトクロー十連射ァァアア!!」
バラ撒かれた炎に隠れ、ビズトロンは両手の爪全てを発射する。
「念水術、リップルウォール!」
放たれた水の壁が炎と爪の両方を防ぐ。その横で手甲同士を合わせて内部の流体金属を移動させ、巨大な刃を展開したコモドが牙を弾く。
「響牙術、ヴィブロスラッシュ!」
炎の海を切り裂き、巨大な斬撃が二体の人形目掛けて飛ぶ。腹部を切り裂かれ、上半身と下半身が別々に動くビズトロンとヴィネガロン。浮遊しながらも余裕そうな態度で挑発する。
「ヒェッヒェッヒェッ! 忘れたのかァ? オイラ達はその程度の斬撃では痛くも痒くもないぜヒェッヒェッヒェッ!!」
「ならば今すぐ激痛に変えてやる。コモドさん下がって! 念水術、ルストリーマー!!」
水に腐食性を与える術が唱えられるや否や、二体の様子は変わり始める。
「う、断面はまずい、すぐに戻るぞ兄貴ィ!!」
「ガルッ!!」
「断面……やっぱりそうか!」
慌てて下半身を腕で引き寄せ、断面を隠す二体。断面が腐食すれば最後、自在に分離合体は行えなくなることは当人達も把握していたらしい。コルウスはリップルウォールとして壁を展開していた水を打ちかけるも、間一髪合体の間に合ったビズトロンは勝ち誇るように叫んだ。
「遅かったなァ!!」
辺りを包んでいた炎にも水がかかり、シュウという音と共に水煙が上がって辺りを包み込む。
「いや、間に合ったね」
「何ィ? オイラの体は別に何とも……!?」
不敵な笑みを浮かべたコルウス。確かに断面に水がかかるのは防いだはずであった。
「念水術は、術者の集中力を絞り込むことによって、霧や水煙さえも操ることが出来る。そしてこの煙、背後に回されればどうなる!」
「背後だとォ!!」
「そしてそこに……斧で割られて刀で突き刺された、深いキズでもあったとしたら!?」
「……まさか!?」
「ケンちゃん……お手柄だぜ」
ビズトロンがその横を向いた時にはもう遅かった。親愛なる兄貴は今まさにガクガクと全身を振るわせながら、その場に倒れ込もうとしている。ヴィネガロンの背中に刻まれた、ケンの渾身の一撃で刻まれたキズ。そこにまるで吸い込まれるように水煙が入り込んだことにより、赤茶色のサビが今まさにヴィネガロンの中枢を腐らせ始めていたのである。
「あ、兄貴! 兄貴ィィ!!」
「ガガガガ、ガガ……」
遂に唸り声すら満足に出せなくなった兄貴の様子を見て、わなわなと拳を握り締めるビズトロン。そしてすぐに向き直り、
「おォォのれおのれェェエエ!!」
と叫びながら両の鉤爪を振り上げ、破れかぶれになりながら二人に突っ込んでくる。それを見たコモドは落ちている自分のマントに牙を弾いて出した揺らぎを投げて宿らせ、掌を向けて意識を集中させた。するとマントは一人で浮き上がってその場で回転し、縁に振動で出来た刃を光らせる。
「響牙術、エッジクローカー!!」
「ヒェッ!?」
コモドは、かざした手で引き寄せるかのような動きと共に技を叫ぶと、彼のマントはビズトロンの足元を後ろから突き抜け、持ち主の手へと飛ぶ。コモドが再びそれをはおる頃には、ビズトロンはスネから下を切断されその場に崩れ落ちていた。起き上がろうとするビズトロンであったが、
「逃がすか! ルストリーマー!!」
すぐさまコルウスが印を結んだ指をその断面に向け、水煙を入り込ませる。すると見る見るうちに恐るべき変色が始まるのであった。
「ああッ、足が、足が断面から腐ってゆく……!!」
「先生、今だ、頭だけで逃げられる前に、兄貴の方を!」
「分かった!」
倒れているヴィネガロンに駆け寄ったコルウスはその頭部を脇に抑え込んで無理矢理起こした。コモドもまた、もがいているビズトロンを同じように抱えて締め上げる。脚の断面が床をこする度に、赤茶色の軌跡が付着する。
「何をォ……するつもりだァァ……!!」
バタバタと爪を立てて離れようとするビズトロン、しかし腐食が爪にまで広がり遂には崩れ始める。コモドはその様子に構わずコルウスの方を見て、うなずき一つで合図をする。
「でぇぇぇぇやぁぁぁああああ!!」
「そぉぉぉぉりぁぁあああああ!!」
二人の掛け声と同時にその足は強く駆け出し、一方で二体は力なく引きずられ、刻一刻と互いの頭頂部が迫ってゆく。グシャリという音の後、コモドとコルウスの姿が交差し振り返り残心をとるその頃には、頭部の合わさったままの人形が残るばかりであった。
「あ、あああ、あに……き……」
「ガ……ル……」
ひしゃげた頭部から、最期の声が響く。倒れ込んだ胴体はまるで互いの手をとるような形となり、機械人形の兄弟は機能を停止した。それと同時に、断面から広がっていた腐食は遂に頭部へと到達、二体は跡形もなく崩れ去り、風によって共に飛ばされていくのであった。
「兄弟仲良く朽ち果てやがって……」
「某には、ある意味うらやましく思いますね……」
シルエットすらもボロボロに崩れた残骸を見ながら、コモドとコルウスは呟いていた。
「ああッ、そう言えば……ケンちゃんは!? 無事なのか!?」
「ええなんとか……すぐに治癒符を使ったから失明することはないと思うけど……」
「あとは某の方でどうにかしましょう。ケンくん、施術室まで行きますよ」
コルウスがケンを肩を支え、屋上を後にする。その姿を見送ると、コモドは落ちているケンの刀を拾い上げた。真ん中で二つに折れてしまっているそれを見ながら、ぽつりと呟くのであった。
「勿体ねぇ……せっかくの隕鉄だ、何かに打ち直せば使えるかな……」
「コレばっかりは……治癒符でも無理ね」
「ケンちゃんには後日、違う武器を選ばせよう」
戦闘を終え、ほっと一息つきつつ額の汗を拭うコモド。だがそこに。
「コモドさん! イリーヴさんは見なかったッスか!?」
扉を開けて飛び込んで来たミナージの一言が、彼の顔に再びの緊張を走らせた。
「イリーヴ……? そういや見てねぇ! 何処に行ったんだ!?」
病院内に、次々と扉を開ける音がバタンバタンと響く。同時にコモドの声が上がる。
「イリーヴ! 何処だ、返事をしてくれ、イリーヴッ!!」
だが彼の探す、黒い機体に緑眼の人形の姿はない。コモドの脳裏にはイヤな予感、それも部屋を一つ、また一つ確認する度に色濃くなってゆく。
「何処に……行ったんだ! まさか、ブラックバアルの目的って……!!」
『そうだ、最初からそれが目的なのだ』
「その声は……ゼーブルッ!! てめぇ何処にいやがんだ!!」
院内を揺らさんばかりの怒号をコモドが叫ぶ。だが依然として姿を見せぬまま、まるで嘲笑うかのようなゼーブルの声が響き続けるのであった。
『死神コモド。貴様が友人と思っているあの機械人形、イリーヴ・デ・メニギスは我々の造った“モノ”だ。よって回収させてもらったまで』
「ふざけんなッ!! アイツはれっきとした……人間だァ!! てめぇに“所有権”なんて最初っからねぇぜッ!!」
『そうか、だがもう遅い。死神コモド、次にイリーヴと会う時にこそ、貴様は死ぬのだ。友人だと思っているこの人形の手にかかってな! 楽しみにするが良い……』
「んな……てめぇ何処まで腐りきってやがんだァ……。出て来いッ!! ブチ殺してやるッ!!」
『そう言われて出てくると思うのか? 所詮貴様は刈り取るだけの死神、親友を助けるなどという器用なマネなど出来はしない。フハハハハハ……』
ゼーブルの声が消えてゆく。暗黒組織の目的は既に果たされていたのであった。
「イリーヴ……すまねぇ……すまねぇぇッ……!! アァァァ……」
膝をがっくりと落とし、床をダンダンと叩きながらコモドは泣いていた。
「俺はァ……俺はァァ……刈り取るだけの死神なのかよォ……友人一人助けることも出来ねぇのかよォォ……!!」
翌日。病院突入前にその力を使い過ぎたため、繭に入っていたラマエルが目を醒ますと、隣には吸入器を付けられ両目を布で覆われたケンが床についていた。
「ケン……? コレは一体何が起きたというのじゃ、病院とやらは無事であるのか?」
「嗚呼、物騒なヤツらは片付いたよ」
覇気のない声で、コモドが答えた。その手にはケンの刀だったモノが布に包まれている。
「で、ケンちゃんは鼻と目焼かれて御覧の通りさ。失明まではしねぇらしいが、ちょっと治るのにかかりそうだぜ」
「なんと……そしてその手にあるモノは……?」
「ケンちゃんの持ってたヤツだ。コイツを背後からブッ刺した直後に、ああなった」
ケンの方に視線を向けながら、そう話す。
「で、その後コイツもパキーン、さ。まるで蚊でも払うかのように、やられちまった」
布の中身を見せながら、コモドは説明した。
「……その刀、隕鉄じゃな」
「嗚呼、高かったんだぜ。勿体ねぇだろ? だから打ち直してナイフにでもしようかなと思ってて」
「その必要はない……わらわに貸してはくれぬかの」
「コレを? ……分かった」
刀を受け取ったラマエルは、その断面を見つめ始める。そして軽く一回うなずくと、
「コレならば……まぁ見ておれ」
親指で自らの翅を軽く拭って鱗粉を取り出し、その断面に塗り始める。
「で、こうして……こうじゃ」
「え……そんなバカなことが……!?」
コモドは目を見張った。ラマエルの手にあったのは、さっきまで真っ二つに折れていたはずの刀がなんと、壊れる前の姿に戻っているという信じがたいモノだったのだ。
「この手の隕鉄は本来、わらわ達の粉を合わせて作られる。しかしコイツはどうやら、たまたま付着していた粉だけが含まれていたようじゃな。だから本来必要な量の粉を足して、元の姿に戻してやったというワケじゃ」
「信じられねぇ……買い直さなくても済むじゃねぇか!!」
「だけではないぞえ。こうしてやればそうそう簡単に折られることもあるまい。ただ……この感じ、キチンと火にかけた方が良いかも知れぬぞ」
「分かった……やってみるよ」
暗黒組織との闘いは今回、特性の機械人形を二体破壊するという成果をもたらしたが、引き換えにイリーヴを連れ去られるという実質的な敗北に終わったのである。今、残り少ない自らの時間を自覚したコモドの精神には限界が近付いている。今の彼には少しでも、それを忘れて没頭する“作業”が必要であった。
「えー、天肆の隕鉄のやり方……あった、コレだ……何々……『まず地の脈で生まれし竜の吐息にまぶし、火の脈で生まれし竜の吐息にて緑色に輝くまで熱した後に、紋様が湖の底の深き青となるまで水の脈で生まれし竜の吐息の中で冷やせ』と、ほうほう……。えー、実質的に闘竜と飛竜と蹄竜の三頭も連れてくる必要があるんかコレ。しかも焼き入れの際の温度差があり過ぎやしねぇか? まぁ良い、今からやるのはあくまで焼き直しだからな……」
一日のうちに何度も、外骨格や機械人形打ち付けられたケンの刀に最早刃など存在しなかった。多少木目のような模様が入っただけの鉄塊に成り下がり、おまけにラマエルが触れるまでは真っ二つに割れてすらいたのである。通常の刀剣であれば打ち直し一択であろう。
「はぁぁ……ほぉぉ……ホントに信じられねぇ色に変わりやがる……俺の知ってる鉄じゃねぇぜ……面白ぇじゃねぇか……」
通常なら平原に昇る太陽の如き輝きを放つであろうケンの刀は、極めて鮮やかな緑色に輝いていた。
「イリーヴの目を思い出す緑色だ……さて、焼き入れの瞬間はいつ見ても痺れるぜ、そうだろ、イリーヴ!!」
いつの間にか口元に笑みが戻り、彼の目は再び輝きを宿していた。やがて彼の手には、継ぎ目一つ見えることのない、まるで新品同様の刀が存在した。何処か御機嫌な鼻歌と共に、コモドは研石の準備を始めるのであった。
「ケンちゃんきっと喜ぶぞぉ、見舞いに行く時に渡してやろ……」
コモドに残された時間は、あと二七日。それまでに彼はブラックバアルを叩き、イリーヴと再び親友として接することが出来るのであろうか。砥石に刃をかける頃には、彼の闘志にも再び研ぎ澄まされてゆくのであった。髪の一本を使って切れ味を確認した後、鞘に納めると再び言葉が口からこぼれるのであった。
「折れた刀が元通りに直った上に元鞘にキレイに納まるなんざ見たことねぇよ、まるで流体金属使ったみてぇだ……。天肆族って凄ぇんだな、ゼーブル達が狙うワケだぜ。しかしアイツ、何で病院襲った際にラマエルにまで手を出そうとしなかったんだ……?」
同時刻、ブラックバアルの拠点にて、ゼーブルは横たわるイリーヴの機体を見ていた。
「血液交換をやったようだな……造血装置が動いておらん、やはり回収せねばならんかったな」
「しかしゼーブル様、本当に作り直してコモドにぶつけるのですか。いくら外観が機械であっても、コヤツの脳髄はナマモノなのですぞ」
「ナマモノだから良いのだ……見たまえ」
ゼーブルはそう言うと、カーテンの奥にビアルを案内する。そこに存在したのは。
「コレは……!! ゼーブル様、メニギスを量産していかがなさるおつもりですか!!」
イリーヴと同じような姿をした人形が数体、一列ズラリと並んでいるのであった。目に光は灯っておらず、イリーヴであれば脳髄の納められているカバーの内部が、もぬけの殻である。
「いや、まだ量産までは漕ぎ着けておらぬ。そこまで行く前に、ガブルドはイリーヴの手にかかってしまったのでな。そしてコヤツらは試作品だ、だが少し直せば十分にイリーヴと同様の力を発揮することが可能となる」
「しかしコレだけの脳を集めるのは並大抵のことでは御座いません……」
「そこは焦らずとも良い、既に誰を使うかは決まっておる……天肆族の小娘なんてどうだ? 体から剥離した鱗粉を魔触媒として操れるのだ、脳だけでもこちらの自由に出来れば良いとは思わぬか?」
「ラマエルを……!? そんなこと、出来るのでありましょうか……!?」
「説得するより、殺す方が楽なのはお前も知っておるだろう。脳さえ無事ならそれで良い……」
ゼーブルの考えていることはまさに狂気であった。実質的な改造手術による隷属化によって、天肆族を操り人形にするというあまりにも非人道的、かつ無理矢理な手段であったのだ。
「何より、もし吾輩の身に何かあった時……その時には、頼んだぞ」
メニギスのうちの一体を見つめながら、ゼーブルはビアルに頼むのであった。
「ハッ、必ずや……!!」
~次篇予告~
手がかりを探すコモド。そんな彼を襲ったのは、
彼が得意とするはずのヴィブロスラッシュだった
次篇『連邦じゃ二番目の響牙術士』 お楽しみに




