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異世界奇行 ~ダーメニンゲンの詩~  作者: DIVER_RYU
第二集『天肆争奪戦』
44/61

第十九篇『急げ恐怖の百足病棟へ』上

この物語は、病院の待合室での暇潰しに最適です

 ペンタブルク総合病院、そこはインクシュタットにおける医療機関を総括する、まさにこの国の民の生命線である。だが、この重要機関は今、未曽有に危機に陥っていた。


「ウガァァアア!!」


 咆哮を上げ、襲い掛かるオーク達。病院の周囲に死骸を埋めるという、悪辣極まりない方法で配置された怪物達がコモド達に襲い掛かる。


「くそォ!! どんだけ居やがるんだ!!」


 思わず声を上げたコモド。


「なんとおぞましい屍じゃ、何で動いておるのじゃ!? 死んでも動ける空間なのか!?」

「違うッス、アレはオークといって、角の中に本体が居るッス! ソイツが死体を動かしているんスよ!!」

「は、離れろォ!!」


 足首を掴まれたケン。すぐさまその根元に斧を打ち下ろす。手が離れたかと思うと、そのまま溶けるように消えて行った。


「ちょっと埒が明かないわね……爆燃符!」


 ラァワの取り出した符がオークのうちの一体に貼り付けられ、更に強烈な蹴りが入れられ数体を巻き添えにして団子状に倒れ込む。そこに追い撃ちでかけられた弾指が鳴らされると、一瞬にしてそのオーク団子が爆発した。


「ラマエル、その角を折ればオークは死ぬ。なんならあんな風に吹き飛ばしても良いぜ」

「分かったのじゃ。ならば少し下がってはくれぬか……」


 その声を聞いて、コモド達は全員、ラマエルから距離を置く。


「天導術、エルバラック!!」


 ラマエルの目の上に生えた触角が帯電し、一気に放出された電撃がたちまちオークの肉体を焼く。まとめて消し炭と化す威力は、既に地上の存在との格差をまざまざと見せつけるモノであった。


「コレは凄まじいわね……こっちまでビリビリ来そうよ」

「でもこれで、安心して突入出来るッスよ!」

「いや……死の匂いが一向に薄くならぬ、この感じはまだおるぞ?」

「え?」


 驚く男連中、その隣でラァワが再び占眼符を取り出して辺りを視始めた。


「あっ! コレは……まずいわね、病院の部屋のいくつかに、ギチギチにオークが詰めてあるわよ。表にいたのの、倍はいるわね」

「よーし、わらわがまとめて吹っ飛ばして来るぞよ!」

「ダメッスー!! 病院が吹き飛んじゃうッスよ、しかも患者ごと!!」

「各個撃破しかなさそうかな……何か良い方法は……」

「あるぞよ。吹き飛ばさずにオークを鎮めれば良いのじゃな」


 ラマエル以外の全員の顔が彼女に向いた。


「どう、やるの?」

「要はあの角の中にある、ちょびっとのドロドロを何とかすれば良いのじゃろ? だったらこの病院の内部の空間を、そのドロドロが生きられぬようにわらわの力で変えてしまえば良いのじゃ! まぁ見ておれ」


 背中の羽根を広げ、ラマエルは病院の建物の上部まで一気に上昇する。そして周りを囲むような軌道を描き、大量の鱗粉を撒きながらゆっくりと飛び回った。するとどうだろうか、ラァワの占眼符が映す光景にたちまち変化が訪れたのであった。


「ちょっと皆見て!」


 先程まで目に充てていた占眼符を掌にとり、水晶玉を置く。そこに見えたのは、次々に苦しみ出すオークの姿であった。倒れ込み。次々に煙を上げて消えていく姿は最早恐怖すら感じさせる。


「凄ぇ……でもコレで今度こそ安心して入れるぜ!」


 そこに降り立ったラマエルに、ケンとミナージが駆け寄った。


「ラマエルさん凄いよ! よし、このまま一気に……」

「……すまぬ、そうもいかなさそうじゃ……」

「え? ……えぇぇ!?」


 次の瞬間、ラマエルはその場に膝をついて座り込み、指先から放たれた糸がたちまち彼女自身の全身を覆い尽くしてしまったのであった。


「……聞いたことがあるッス、天肆ってある程度生命力を使っちゃうと、体が勝手に繭を作り始めちゃうんスよ……」 

「使い過ぎかよ! あー、でも、竜の谷からずっと闘いっ放し、それもあの体格であの魔力をずっと使ってたんじゃなぁ」

「嗚呼、人間の小娘だったら死んでるぜ。仕方ねぇ、運んでやるか……」


 すると、ゴーレムの掌の上で寝かされていたシケイダーが、繭の元にトコトコと歩いて近付いて来るのであった。


「お、運んでくれるのか?」


 こくり、と頷いたシケイダーと動きを合わせ、コモドが二人がかりで繭を持ち上げ、そして声が漏れるのであった。


「このお姫様、重いな……」

「コモド、いくらなんでも失礼よ」




 コモド達が必死に繭を運ぶその姿を、高みの見物をする者がいた。その者立つは病院屋上よりもなお上、コモド達には手の届かぬ天肆達の国、だった場所である。


「ふっ、やはり長続きはしないらしい。そのお荷物をどう抱えて闘うかね」


 水面に映る戦闘光景を余裕たっぷりに見つめるシュウ。ラマエルを地上へ追いやった張本人の表情は、どういうワケか楽しげにも見える。


「ふふ……はっはっはっ!! コレは傑作だ、重いお姫様か!! せいぜい頑張って運ぶが良い!!」

「シュウ様、大笑いしている場合では御座いませんぞ。あの姫様には、なんだかんだ生きていてもらわねば困るのです!」

「分かっている、分かっている。そうだな、少しだけ、手伝ってやるとするか」


 扉を開け、シュウは刀を抜く。その峰を人差し指でスゥっとなぞると、たちまちに紫色の光が刃に灯る。


「華月覇剣、望月移転剣ぼうげついてんけん


 そう唱え、刃を振るい剣先で円を描く。すると空間そのモノに、光る軌跡が刻み込まれてゆく。完成した光る円形を、まるで襖を開けるように刃先でずらし、その内部へとシュウは飛び込んだ。やがて彼の描いた空間の円は閉ざされ、消滅する。その一方で病院の裏口にその謎の円形が出現し、シュウの姿が現れた。


「さて……」


 突然出現した彼の姿に、病院裏口で見張りをしていたゴブリンの数体が驚愕する。


「ゴブッ!? ゴブゴブゴブッ!!」

「何処から出て来た、と言いたげだな?」

「ゴブ」


 うなづくゴブリンに対し、シュウの返す言葉とは。


「答えてやる義理などない。散れ」


 次の瞬間、ゴブリンの頭部が一斉に地面へと転がることとなるのであった。


「さ、彼らは今、何処にいるんだろうね?」


 数分後、同じ場所にコモド達が現れる。しかしながらそこにあるのは、ついさっきまでならゴブリンだった残骸達。


「……どうやら、潜入したのは俺達だけではないらしいな」

「終わらせてもらえるとありがたいわね」

「少なくともこれで一階の勢力は潰えたはずだ、一旦繭の部屋に戻ろう」


 繭の詰め込まれた部屋は、潜入前まではオークでぎちぎちに詰められた罠部屋であった。今では安全地帯となったこの一室で、コモド達一行は病院の間取りを手に話し始める。


「一階に先生達はいなかったわね」

「それどころか患者もいねぇぜ」

「となれば、二階より上に固められているはずだよ」

「この繭を運ぶのは厳しいッス、なればこの部屋を拠点にするッスよ」

「じゃあ、何人かはここに残らないとね。もしケガ人がいたらここに運べば良いわ」

「見たところここは急患用の部屋だったらしい。都合が良いな」

「応急手当の道具見つけたッス」

「よし……ミナージ、頼めるか!」


 返事の代わりに力強く頷いたミナージ。次にコモドが目を向けたのは……


「シケイダー、姫様を頼むぞ。あの実力なら、殿しんがりは任せられるはずだ」

「そう決まれば……ケンちゃん、コモド、行くわよ。誰かを運ぶなら、私の式神符を使えば良いわね」


 階段を駆け上がる三人。二階にコモドが到達してしばらくした後、ゴブリンの頭部の一つが階段を転がり落ちて行く。それを刃先で拾い上げ、階段を見上げる姿がいたことに、気付く者はいなかった。


「お膳立ては終わった。ここまでしとけば姫様も無事だろう」


 シュウは裏口から出つつ、刃先についたゴブリンの頭部を手で引き抜き小脇に抱えた。


「コイツはお土産にもらっていく。シケイダーよりかは使いやすそうだしな。あとは……」


 彼の持つ刀の刃が、紫色の光を放つ。その目は壁や窓を這いまわる、無数の絞殺ムカデに向けられていた。


「華月覇剣……」


 刃先を真上に向け、技名を宣言する。既にその刃は、空間そのモノにキズを付けていた。


繊月斬界破せんげつざんかいは!!」


 半円を描くように降ろされた刀が、三日月型の裂け目を創り出す。出来上がった裂け目は回転し、病院の壁に向かってまるで渦を描くかのような軌道で飛んで行く。ズシャアと強烈な音を発しながら大量のムカデを真っ二つにしつつ、やがてその壁にはくっきりとした三日月型のキズを残すこととなった。その音と衝撃は内部の存在にも知れ渡ることとなる。


「今の音は……まさか……!!」


 ゴブリンと切り結んでいたコモドもその一人であった。壁にクッキリと刻まれている三日月キズがその一撃のことを物語っている。


「まさか繊月斬界破……華月覇剣の使い手が来ているのか……!? 味方なら有り難いんだが……」

「少なくとも暗黒組織と闘ってるのは、私達だけじゃないってことね」

「あっ……コモドさん、ラァワさん、あの部屋です! あの切れ目の先に、コルウス先生とウラルさんが!!」

「本当かッ!!……三階だな、行くぞ!!」




 同時刻、多数の絞殺ムカデを落とした衝撃は、コルウスやウラルが交戦している三階の部屋まで響いていた。


「何だコレは……蛇眼彫塑が破られただと?」


 繊月斬界破による斬撃は、空間そのモノにキズを付ける。ウラルが絞殺ムカデを“停めて”いた蛇眼彫塑という技は、物体をその場に停滞させるという性質の空間を展開する効果があるが、その空間を一瞬のうちに破っていたのである。


「クッ、今になって新手ですか……!」

「誰だァ……オイラのムカデをいじめる仲間なんて知らないぞォ……」


 だが同時に、内部に停められていたムカデ達もまた、巻き添えに切り裂かれていたのであった。


「あら、連携出来てないだけじゃなくって?」


 新手の出現だと思って焦るコルウス、一方でラビアはこのムカデの主であるビズトロンに対し挑発的な態度をとっていた。


「まさか……華月覇剣? 実在するのか!? ……ん、誰か来ている……?」


 ウラルがその裂け目を覗いたその時、窓から顔を出すケンと目が合うのだった。


「ケン君、ということは!」


 直後、凄まじい足音が階段から響き、打ち破られたドアからはゴブリンの頭部が投げ込まれ、主役の一家三人が姿を現すのであった。


「死神コモドに、魔女ラァワ、そしてあの時の小僧!!」

「ケンちゃんだ! 彼にも名前ぐらいあるぜ!」

「行け、封印符!! 先生、早く皆さんを一階まで!!」


 封印符を飛ばされ、身動きのとれなくなったビズトロン。その隙に机やイスで出来たバリゲートをどかし、患者達を廊下に出す。


「大丈夫ですかウラルさん!!」

「嗚呼、来てくれて助かったよ。ケン君も頼もしくなったモンだね」

「ラビア! 大丈夫か!!」

「コモド……あたしも簡単には死なないよ」


 見知った顔をそれぞれ部屋から送り出す頃には、ビズトロンは封印符の束縛を無理矢理に解いていた。


「おのれおのれ!! よくもやってくれたな!!」

「悪いが、三対一で相手させてもらう。今日こそブッ壊してやるぜ、ビズトロン!」

「三対一ィ……? ヒェッヒェッヒェッ!! 三対一か、そう見ているんだったら面白いなァ!!」

「何だコイツ……とうとう狂っちゃったのか……?」


 呆気にとられるケンに対し、ドアを開け戻って来たコルウスが叫んだ。


「気を付けて! そいつ……体内にもう一体隠してる!!」

「もう一体!? 人形をか!?」

「ネタバレなんて良くないなァ……仕方ない、兄貴出番だァ!!」


 ビズトロンがそう叫ぶと、腹部にあるバックル状のパーツに刻まれたブラックバアルの紋が光を放ち、もう一体の人形――ヴィネガロンが姿を現す。


「ガルルォォォン!!」

「ヴィネガロンの兄貴! そいつが死神コモドだ、やっちまえ!!」


 コモドにハサミを向け、ヴィネガロンが迫る。


「会話機能を省く代わりに戦闘特化……俺は好きだぜ、ブチ壊すのが惜しいな」

「贅沢言ってる場合じゃないって! でもコモドさん、ここで暴れたらまずい気が……」

「屋上に出そう、某も参戦致す!」

「ヒェッヒェッヒェッ……決着付けようぜェ、コルウス先生よォ!!」


 数分後、屋上のドアを吹き飛ばし、四人の闘士と二体の機械人形が飛び出した。ビズトロンに相対するはコルウスとラァワ、ヴィネガロンに向かうはコモドとケン。


「喰らえ、ビズトクロー!」

「行け封印符!」


 次々に打ち出される鉤爪の爆弾を、封印符による結界が受け止める。


「絞殺ムカデ!!」

「念水術、ルストリーマー!!」


 バラ撒かれる小型のムカデ人形を、投げ付けられたガラス容器の水が襲う。術の効果により、急激に朽ちて崩れるムカデ達。だが同じく水のかかったはずのビズトロンに、変化はなかった。


「流石に対策されたか……!!」

「ルストリーマーなど! もう怖くもなんともないわァアア!!」

「その言葉、二言はないわね!!」


 ラァワの手が腰にある蝙蝠の爪を思わせる部位に添えられ、一気に杖として引き抜かれた。


「ガルルルォォォォォン!!」


 ビズトロン達がやり合うその後ろで、ヴィネガロンの右のハサミと左のムチが振り回される。


「近付けない……!!」

「流石は特化型なだけあるぜ、メチャクチャに振ってるワケじゃねぇな……!!」


 ターバンに手をかけながら、コモドが呟く。手首を返し、ピアスについた牙に指を当てて弾くと、そこから放たれた青い揺らぎがターバンに灯りゆく。


「響牙術、ヴェレスネイカー!!」


 ハサミの一撃をくぐり抜け、ヴィネガロンの背後から投げ付けられたターバンがまるで水中を泳ぐ海蛇のように空中を駆け、標的の左腕に絡みつく。広い範囲をカバーし続けていた、ムチによる一撃を封じる作戦であった。


「ガル!?」

「やった!」

「へっ、捕まえたァ!!」


 締め上げているターバンの端を掴み、抑え込もうとするコモド。ケンもまた、斧と刀の両方を手に斬り掛かろうとする。だがその直後であった。


「ガルルォン!!」

「おわぁっと!!」


 不意に開いたハサミから、火炎放射の洗礼が浴びせられる。そして焼け散るターバンがコモドの目に映った。拘束は全くの無意味だったのだ。更に開いたハサミはケンに向けられる。


「うげ、まずい!!」

「ケン、下がれ!!」


 最早『ちゃん』を付ける余裕すらなく、コモドはケンの前に駆けだすと身に纏うマントを広げ、火炎を防ぐ。魔力遮断の効果のある布で出来たこのマントは、オートメイトの動力たる魔力を燃やして出来た炎に対しても有効だった。


「チッ、よく出来てやがる」

「変な声しか出さないのに妙に冷静なのが……」


 更にマント越しに斬り掛かるような衝撃が響く。ムチによる追撃が襲い掛かるためであった。数珠のように鉄塊を並べた構造は、その一撃一撃が強烈な威力であった。


「あのハサミをどうにかしてぇが、ムチも放っておきたくねぇな」

「どうすれば……」


 厚手のマントとはいえ、いつまでもムチによる打撃を防ぎ続けることは出来ない。


「ケンちゃん、少し下がってくれ。ちょっと良い案が浮かんだ」

「どうするんですかコモドさん」

「このまま突っ込んでやるのさ……ムチは先端に行けば行く程威力を増す、根元を抑え込む方が痛みは少ないはずだ。まぁ見てろ」


 コモドはマントのすそから少しだけ相手を見据えると、火炎放射を止めてムチを振り上げたまさにそのタイミングを狙って突撃した。打ち付けられた衝撃がマントの内部にまで響く。だがムチを引き戻そうとしたヴィネガロンに異変が起きた。戻って来るはずだったそれはピンと張り詰めたまま、その先端が巻き取られていたのである。


「ガ、ガルッ!?」

「えぇッ、自分の体に縛り付けたッ!?」


 このやり方にはケンも驚愕する。マントをよく見ればその先端を内側に引き込んでおり、一気に距離を詰めたコモドはそのマントからするりと抜け出し、手甲の刃をまるで居合のように素早く展開、敵の背後に現れた次の瞬間にはそのムチを切断してしまっていた。更にその場で跳び上がるや否や、体を捻り強烈な後ろ蹴りが後頭部に炸裂、ヴィネガロンはその場に倒れ込んだ。


「ハァァァ……!!」


 呼吸を整え、構えを取り直すコモド。丁度ケンと合わせて挟み打ちの形となり、起き上がろうとするヴィネガロンの背後をどちらかは取れる状況となった。


「ガル? ガル……」


 前門のケン、後門のコモド。自らの状況に気付いたヴィネガロンだが、動揺する様子は見られない。まだ何か、策があるというのか。


「ガルルォ!!」

「うわ!!」

「またそっちかよ!!」


 迷わずに、ケン目掛けて火炎を放つ。慌ててその場から飛び退いたケンであったが、駆け出そうとしたコモドの足元を何かが打ち付け、その場に転がした。


「うがァ!? 何だ!?」

「ガルルルルル」 


 まるで笑うかのような調子でヴィネガロンが声を出す。コモドが斬り落としたはずのムチが、彼の足元を引っ掛けていたのである。


「遠隔操作だとォ……」

「ガル! ガル!!」


 自慢のハサミを振り上げ、ヴィネガロンが今度は転倒したコモドに近付いて来る。


「くそ、立てねぇ……!? そうか、最初から俺が狙い……!!」


 足元に絡みついた、遠隔操作のムチにより体制を直せずにいるコモド。今狙われたらたまったモノではない。ヴィネガロンはわざとケンを狙うことでコモドの注意を反らし、その間に遠隔操作でムチを操って足元を封じ、より脅威度の高いコモドを確実に仕留める算段だったのである。戦闘に特化していたのは装備だけではなく、その思考までもであった。


「こ、コモドさんを離せぇ!!」


 素早く斧を投げつけるケン。ガンッという音と共に落ちる斧。ヴィネガロンの背に切りキズが付くも、ほとんど意に介する様子がない。


「でぇぇぇぇやぁぁぁぁぁああああ!!」


 絶叫と共にケンは刀の切っ先を向けると、背中に付けたキズ目掛けて突進する。ドンッという音と共に、ヴィネガロンの動きが止まった。


「ケンちゃん!? しめた、今のうちに……」


 その場から転がりつつムチを外すコモド。一方でヴィネガロンの背中に深々と刀を突き刺したケンだったが……


「しまった、抜けない!」

「……ガル」

「え?」


 背後から刺したはずのケンと、刺されたヴィネガロンの目が合った。機械人形ならではの首が半転し、自らを刺した存在を確認したのである。


「ガルル!!」


 次の瞬間、ヴィネガロンの額から放たれたガスがケンを襲った。


「うぐほォ!? げほ、がほっ……!!」


 その匂いが鼻をかすったのか、コモドが吼えかかる。


「ケンちゃん!? おいてめぇ何嗅がせやがった!!」


 鼻と目を押さえてケンがその場に倒れ込む。それに気付いたラァワが咄嗟に占眼符を目にあて、


「刺激性の毒ガス……どこまでも仕込んでやがるヤツ……!!」

「ラァワ様、ケン君を頼みます!!」


 しかしそれだけでは終わらなかった。なんとハサミのついた右腕のパーツまで次々に半転すると、背中に刺さった刀に一撃を加える。次の瞬間、パキンという音と共にケンの刀は半分に折れ、地に落ちることとなってしまったのであった。


現実の病院ではお静かにお願いします。決して機械人形を暴れさせることはないように

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