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異世界奇行 ~ダーメニンゲンの詩~  作者: DIVER_RYU
第二集『天肆争奪戦』
40/61

第十七篇『空より来たる眠り姫』中

タイトル一時変更中です。御了承ください

 朝食のジロ芋を口にしながら、借りた蹄竜に跨り二人は国立公園へと向かう。そこに並んで滑空する、一頭の飛竜が現れる。それを見たコモドが口を開いた。


「お、アリファ! 出迎えありがとよ!」

「アリファ……ということは?」

「嗚呼、案内を頼んでおいたのさ。国立公園じゃ一番頼りになる助っ人だぜ」

「コモド兄さん! ケンさん! こっちッス!!」


 二人の先には手を振り合図する人物がいた。そのまま飛竜アリファを左腕に留まらせ、門を開ける。


「ミナージ! 今日は頼むぜ!!」


 その姿は、魔女集会で見た正装とは打って変わって野生的かつ戦闘的なモノであった。白い三角形の並んだ赤いターバンを頭部から首元にかけて巻き、右足に巻き付けられたホルスターには拳銃、この世界では一般的にマーギナムと呼ばれるモノが納められている。胴に着込んだベストには大型の短刀、ウィンチ付きのカギ縄、弾倉といったモノが仕込まれていた。背中に負ったボルトアクションライフルを思わせる大型の銃は、魔女集会の夜にも使われていたモノであった。


「さて、コモド兄さんなら御存知だと思うけど、ケンさんには念入りに説明しとくッス。竜の谷はこの公園の先にあるッスけど、保護区域の上にとても危険な場所だから普段はヒトが入れないようにしてあるっす」


 ヤブを切り払い、一行は進む。幸いにもケンの使う月刀はナタの性能も兼ね備えており、こういった環境下では抜群の威力を誇るのであった。


「この張られた縄の向こうが禁止区域になるッス。今回は解いてあるッスけど、普段はこの縄を媒体にして、保護官以外の人間には通れない特殊な結界が張られているッス」


 縄を跨いで数歩進んだその先に待っていたのは巨大な滝の流れ落ちる、まさに千尋の谷。滝のしぶきが霧となり、太陽光と反応して虹の橋が架かっている。手すり越しに、垂直に落ち込む崖を覗き込み、足のすくむケンをよそにミナージ達は淡々と準備を始めた。あらかじめ取り付けてあった縄に鉤をつけ、コモド達もまたミナージから装備を受け取り着けてゆく。


「ケンちゃん、ビビってる場合じゃないぜ。さぁ着けるんだ」

「え、は、はい……」

「言われたとおりに頼むッスよ」


 ミナージの手ほどきでケンが装備を付け、最後にコモドが連なる形で三人がそれぞれ縄を取る。いざ降下、と行こうとした、まさにその時であった。


「待った……アリファ、向こうか」

「え?」


 コモドは、樹上にたたずむアリファに話しかけていた。


「いるのは分かってんだよ、出て来い!!」


 腰に提げていた手斧を取り出し、コモドがあらぬ方向へと投げ付けたのであった。


「ゴブブーッ!!」

「その声は……嘘でしょ!?」

「出たな、ブラックバアル!!」


 頭に深々と斧が刺さり、ゴブリンが一体倒れ込んで来たのであった。しかしそれを合図に、次々にゴブリン達が姿を現す。


「ミナージ、ここは俺が喰いとめる! 繭の落下地点まで早く行け!!」

「そうはいかないんだな、死神コモド!」

「何だと?」


 コモドが振り向いたそこには。


「てめぇはビアル!? いつの間に来やがった!!」

「あぁっ、アリファ!!」


 ブラックバアル最高幹部、ビアルが立っていたのはコモドと、ケンとミナージの間。そしていつの間にかアリファを、放った鎖にて捕らえていたのであった。


「ずっと見させてもらってたよ。三人の大冒険をね……おっと危ない」


 怒ったアリファの口から火が放たれる。軽く首だけでかわして見せるビアルだが、その捕らえる手に力が入る。


「しかし残念だったね、君らが絶対の信頼を置いていた保護結界と言えども、保護官そのモノに内通者がいてはどうしようもないということだ」

「内通者だと……!」


 ミナージの顔が青ざめる。自分らは二手も三手も先を行かれていたのだ。


「さて死神コモド。以前に拙者の術を見ているなら分かるだろうが……」


 ビアルはその手に持つ巨大な得物を、縄を垂らす鎖にあてて見せる。


「拙者の使う化鋼術を以てすれば、あの二人を我が意のままに料理することが出来る。この深い深い谷底に命綱なしで降りてもらうも良し、はたまた己を護るはずだった鎖そのものに牙を剥かれるも良し」

「え、ええ、落とすつもり……!?」

「ビアル、ケンとミナージとアリファには手を出すな! 狙いは俺だろう!!」

「違うな。貴様からは死の匂いがする、あとひと月も持つまい。だがそこの若いのはどうだね? このまま谷底まで無事に降ろせば、この先に舞い降りるであろう天の力を手に入れることとなる」


 苦虫を噛み潰したような表情をコモドは浮かべていた。


「チッ、どこまでもお見通しってワケか。だがよぉく聞けよゼーブルの腰巾着。あの力が欲しいのは他でもねぇ、この俺だ」

「死人がコレを手にしてどうしようと? まさか、死の運命さだめを天の力でひっくり返すつもりか」

「御名答。つうワケだ、これからも“お付き合い”頼むぜぇ? 末永くなァ!!」

「貴様に長生きなどさせるモノか。やれ、ゴブリン!!」


 飛び掛かるゴブリンを、腰のひねりを入れた手甲剣の一撃が真っ二つに斬り落とす。背後から近付く二体を刃を絡めた肘鉄が仕留め、投げ飛ばしたゴブリンの一体が大木に当たりバラバラになる。


「ヴィブロスラーッシュ!!」


 三体ものゴブリンの首が一斉に飛んだ。


「化鋼術、自在鎖じざいさ!」


 アリファを放り投げたビアルの腕輪から、くさびの付いた鎖が放たれる。倒したゴブリンの一体を掴み、コモドは盾として使いながらビアルの元に踏み込んだ。手甲の尺骨にあたる部分から伸びる刃を斬り付けるコモド、その一撃をビアルの得物が防ぐ。その瞬間に、コモドは牙を弾いて出した揺らぎを掌に籠め、叫びながら掌打を放つのであった。


「響牙術、パルスインパルム!」

「んぐッ!?」


 解説せねばなるまい。パルスインパルムとは掌に宿した揺らぎを直接叩き込み、内部にその振動を伝えて破壊する打撃技である。その衝撃は持ち主たるビアルにも伝わり、谷底に落とされまいとその場で膝をつき何とか踏みとどまるのであった。だが技の叩き込まれた得物は、鋼鉄の塊でありながらも掌型に大きくへこまされ、ぐにゃりと曲がってしまっていた。


「流石だ、死神コモド。我がビアルラッシュをここまでするとはな。だが……!!」


 剃り上げた頭に血管をビキビキと浮かべ、睨み付けるビアル。それに対し、構えを直したコモド。


「油断したな。落ちよ!」


 次の瞬間、ビアルラッシュが命中したのは、何と命綱を固定するくさびであった。ビアルは振り向きざまに歪んだ得物を投げつけたのである。


「あああああああぁぁぁぁぁぁぁ!?」

「しまった、ケンちゃん!! ミナージ!!」


 コモドが叫び、駆け込む。思い切り踏み込んだ足が遂に宙へといざない、彼の体が谷底へと消えてゆく。鎖で縛ったアリファを拾い上げながら、ビアルはしたり顔を浮かべて見つめるのであった。


「ふははははははは!! 愚かなヤツらめ、死への旅路を楽しむが良いッ!!」

「キシャーッ!!」

「痛ッ!? このチクショウ……」


 ビアルの手に噛みつき、アリファが手から抜け出した。体に絡まった鎖を無理矢理炎で外し、コモド達の後を追って谷底へと降りて行く。そんなアリファの眼の先で、谷底に叩き付けられようとしているケンとミナージ。二人をしっかりと目で捉え、コモドが両腕を体側にピタリと付け、空気抵抗を減らす形になり急降下する。ピアスについた竜の牙を弾き、現れた青い揺らぎをごとターバンに手をかけ、叫ぶ。


「響牙術、ヴェレスネイカー!!」


 水中を泳ぐミズヘビのようにその身をくねらせ、コモドのターバンがケンとミナージの元へ飛んで行く。


「ケンちゃん! ミナージ!! ターバンを取れッ!!」


 落下しながら互いに身を縮こまらせる、ケンとミナージに向かってコモドが叫んだ。


「コモドさん……!?」

「取るんだァッ!!」


 飛び込んでくるアリファ。その顎がターバンをくわえたその時、ミナージが叫ぶ。


「アリファ!! こっちだッ!!」


 ケンを腕にしっかりと抱えたまま、全力で腕を伸ばすミナージ。落下し行く中、一瞬の出来事がまるで数時間にもかかって感じられる時間が続く。刻一刻と近付く谷底、加速度を付けて死が近付いて来る。


 ターバンが到達するや否や、コモドが出す軽い手振りに合わせて一気に二人をくくり付ける。そして自ら谷の壁面に向かい、一度手甲同士を合わせて内部のタルウィサイトを片方に移して巨大な刃を展開、壁面に突き刺し、大量の土塊や何かの根っこを落としながらガリガリと削り、徐々に自分らの落下速度を落としてゆく。


「シャーッ!」

「どうしたアリファ! ……なるほど、良いの見つけたな」


 コモドが目を向けた先にあったのは、壁面から伸びる太い木の枝。刃を立てていない方の腕を素早く絡め、両足をも突き立てることで遂に、彼らの落下は終わりを迎えたのであった。


「……ミナージ! ケンちゃん! 無事か!!」

「な……なんとか……」

「助かった……ッス……」

「良かった……おっと。オイ見てみろよ、アレ!」


 コモドが指したその向こうには、岸壁にめり込む巨大な楕円体。明らかに元からあったとは思えぬ佇まい、丁度ヒト一人すっぽりと収まりそうな大きさ、その物体は、谷底からそこまで離れていない位置に存在していた。


「天肆の繭……!」

「結果的には速く辿り着けたッスね……何たる皮肉ッスかコレ……」

「それはとにかく、早く降りましょうよコモドさん……」




「そうか、谷底に落ちたか」

「はい。しかし、あのままくたばるヤツらとも思えませぬ」

「死体を確認せよ。ブラックネメアも貸与しよう」


 茂みに身を隠すビアル。ゴブリンの頭部から浮かび上がるゼーブルの顔に話しかけている。


「よいかビアル。仮にヤツらが生きていたなら、そのまま繭まで泳がせよ」

「何故ですかゼーブル様。弱っていたとして、天の力を得たならどうとでもされますぞ」

「ルシーザを谷底に飛ばしてある。見るのだ」


 ゼーブルの一言の後に、虚像が変わる。そこに浮かんでいたのは谷底の風景、岸壁に貼り付いた繭が映し出されている。


「繭についたコイツが分かるか?」 

「コレは……昆虫……?」

「吾輩の持つ文献を見るに……ソヤツは天肆族が操るとされる、シケイダーの幼生だろう。繭と共に付いているということは、恐らくその中身を守護する目的があると考えて良い。コモド達が繭に接触するならば、必ずこのシケイダーとも相まみえることとなろう?」


 その一言を聞いたビアルの瞳孔が開く。


「なるほど……アイツらの立場からすれば、何処の誰とも分からないコモド達とタダで面会させることはない、と考えられるワケですか」

「さすれば、どちらかはキズ付き、もう片方は死ぬ。七三の確率でコモド達の方だろうな。それに無傷のシケイダーと相まみえるのは我々にとっても不利益だろう」


 ゼーブルは文献を取り出した。


「コイツによるとな。シケイダーは天肆族と同じく、空間そのモノに作用させる力を持っている」

「空間だと……」

「賢い闘術士なら避けて通るべき相手だ。正面からバカ正直に斬り込んでもキズ一つ付かないであろう」

「恐るべし恐るべし……」


 ビアルの顔が青ざめている。それが空間を操るということの恐ろしさを示していた。


「改めて伝える。ブラックネメアを派遣しよう。アレならまだ対抗出来なくもないからな」

「お願いしますッ!!」


 その頃、コモド達もまさにその繭の近くにまで到達していたのであった。


「お陰であっさりと辿り着けたぜ。ビアルの野郎、吠えヅラかかしてやる」

「ところでコモドさん。あの繭にくっついてる、セミの幼虫みたいなのは何ですか?」


 繭についた、件の握り拳程の大きさの物体を指差しケンが尋ねる。


「セミの幼虫? ……アレか? 俺、虫はあんまり知らん……ミナージ、分かるか?」

「うーん、あんなにでかいセミなんて見たことないッスね……ん、でかいセミ?」


 ミナージの表情が、何かに気付いた素振りを見せる。


「天肆の繭ッスよね。ということはアレはただのセミじゃないッスよ!」

「どんなセミなんだ、あんな大きさなら相当うるせぇのか?」

「そんな可愛いモンじゃないッス! アイツはシケイダーの幼虫ッス!!」

「シケイダーだとォ!?」


 コモドの顔が驚愕を示す。一方でキョトンとしたケンが尋ねた。


「何か、昔の特撮モノっぽい名前……の、それって何ですか」

「アレは天肆が兵士代わりに使う、いわば働きアリみたいなモンッスよ」

「ブラックバアルのゴブリンみたいなの……であってます?」

「近いけど……ゴブリンなんて比べモンになんねぇよ。戦力としては」

「あのセミがそんなに!?」

「セミに似てますがちょいと違うヤツッス……あ、羽化が始まってるッスよ!!」


 セミの幼虫を思わせる謎の生命体、その背中に亀裂が入り、中からズルリと身を起こすシケイダー。ホンモノのセミよろしく、大きく背中を反らして現れ出でた異形の姿、ギラリと光る複眼、長く鋭い口吻、ガバッと開いた両腕には外骨格の硬く鋭い鉤爪が揃っておりタダモノではないことは一目瞭然であった。


「ええヒト型!? 何処に収まってたのあんなの!?」


 ポケットに収まりそうな大きさであったセミの幼虫から出て来たのはなんと、身長一七〇センチはありそうな半人半虫の異形の存在であった。ケンが驚くのも無理はない。全身は白く、まさに羽化したてのセミと同じ色をしている。


「あの在り得ない構造こそがタダモノではない証拠ッス。アイツは空間に作用する力を持ってるッス、それであのちっさい殻の中にキレイに収まっているってワケッス」

「良いかケンちゃん。下手に近付けば、繭に何かする不届き者だと思われるぜ」

「わ、分かりました……」

「ひとまず、そこの竜塚に隠れるッス」


 そう言ってミナージが指差したのは、土と落ち葉を盛り上げた二メートル程の高さの塚であった。


「なるほど竜の産卵跡か、つくづく助けられてばっかりだぜ」


 繭に手をかけ、徐々に色づいてゆくシケイダー。全体がアブラゼミを思わせる色に変わると、繭そのモノを真っすぐに見つめている。


「主人の繭が分かるみたいッスね」

「早く出てきて欲しいのかな」

「はてさてどんなツラしてんだろうね、肝心な天肆の方は」


 繭に飛び乗り、崖に手足をかけ、今度は頭を下にして繭を見つめだすシケイダー。固唾を呑んで見守るコモド、ケン、ミナージ。しかし三人の手はそれぞれ自らの得物にかかっている。今は敵意を持たぬシケイダーが、もし急にこちらに気付いた上で、敵意を向けて来た時にはどうなるか。賢い闘術士なら避けるべき相手と、正面切って闘うか、さもなくば目的の繭を目前にして逃亡しなければならなくなるのだ。


「見守っている……のか?」


 だが次の瞬間であった。シケイダーは、その鉤爪を湛えた両手でむんずと繭を掴むと、思い切り首を後ろに振り上げ、尖った口吻で主人であるはずの繭に一撃を加えたのである!


「え? え?」


 呆気にとられる一行。それに気付かぬシケイダー、口吻で繭についた土を削り、何度も爪を立て、その中身である白い物体を表に出すのであった。


「あ、ひょっとして中の人を出してあげようとしてるんですよコレ」


 と、ケンちゃんが言った直後であった。シケイダーは片手の鉤爪を揃えて貫手の形を作り、肩を使って大きく振りかぶり、思い切りその先端をぶつけようとしたのである。出してあげよう、という雰囲気はまるで感じられない。


「えぇッ!? 何やってんだアイツ!!」


 思わず大声でハモる三人。その瞬間、シケイダーの貫手が止まった。


「ジジジ……」


 鳴き声らしき音と共に、コモド達の方に顔を向け、複眼がギラリと深紅の光を放つ。


「まずい、気付かれた!! ……んぐ!?」


 思わずコモドはケンの口を掌で押さえた。そしてケン自身はミナージの、そのミナージの手がコモドの口をそれぞれ押さえるのであった。しかし時既に遅し、シケイダーの深紅に光る眼は一行の隠れた竜塚を凝視したまま。


「……ケンちゃん、ミナージ、よく聞け」


 コモドがミナージの手を口から離すと、小声でそっと話しかける。


「俺がアイツを引き寄せる。その間に二人で繭を回収してくれ」

「え、でもそんなことしたらコモドさんが」

「俺は良い。いざとなったら……ルクトライザーでどうにかする」

「まさか力業ッスか……でも、今持てる手段なら、それが一番ッスね……!」


 シケイダーが地上に降り、そっと竜塚に近付いて来る。


「良いか……合図を出したら繭に近付いてくれ。その合図だがな……アイツと会話を試みてみる」

「分かったッス」

「出来れば穏便に済ませときてぇんだ。良いな?」

「コモドさん、頼みますよ」


 コモドは竜塚からその身を起こし、シケイダーの眼前に躍り出る。わざとマントの裾を触り、バサッと動かしながら注目を誘ってゆく。赤銅色の隻眼と、深紅の複眼とが睨み合う。構えを取らぬままコモドは、徐々に徐々にシケイダーの注目を竜塚、そして繭から離してゆく。


「よぉ。話、通じるかい?」

「……ジジッ?」


 会話を試みるコモド。それと同時に、ケンとミナージはそっと竜塚の影から姿を現した。


「もし俺の言葉が分かるんだったら、聞いてくれないか。俺は、アレが、欲しい」


 身振り手振りを交えながら、コモドが交渉に入る。額から脂汗が流れ落ちてゆく。


「何があったかは知らないけど、アレ、壊れたら、困っちゃう」

「ジジジ……ジジジ?」


 シケイダーはキョトンとした感じで、コモドの言葉を聞きつつその動きを見つめていた。二人の様子を見ながら、ケンとミナージは徐々に、徐々に繭に近付いてゆく。残り二メートル、一メートル、遂に手が届くと思われた時であった。シケイダーの額にある三つの赤い単眼が一瞬だけ光ったその直後、二人の元に異変が起こったのである。


「え、え、何で……」

「ケンさん? ……え、嘘だろ、触れない……!?」


 繭に、手が触れることが出来ない。そればかりか、まるで壁でも触っているかのように、ある場所から一歩踏み出すことすらままならない。その様子が見えたコモドが、シケイダーに再び話しかける。


「おい、今、あの二人に何をした」

「ジッジッジッ」


 チラリとケンとミナージを一瞥して、シケイダーはコモドに向き直る。そして自らを指差し、繭を指差した後に、自らの首を掻き切るようなサインを見せたのであった。


「お前……刺客だったのか」

「ジリリリ」


 シケイダーは頷いた。


「だったら繭を渡すワケにはいかない、そうだな?」

「ジッ!」


 再びシケイダーは頷いた。言葉は通じている。だが、その目的は決して通じ合わぬモノであった。


「何と言うことだ……ヤツは護衛ではなかったのか」


 その様子を小型魔動機で隠し撮りしていたビアルとゼーブルも、また驚きを隠せないでいた。


「やんごとなき身分が無事ではない、天も地も同じことであったか」

「感心している場合ではありませぬぞゼーブル様!」

「良い良い、存分に争わせておけ。先程も言ったように、どちらかが傷付きどちらかが倒れるまで待つのだ」


タイトルは変わっても、変わらないのは何でしょう

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