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異世界奇行 ~ダーメニンゲンの詩~  作者: DIVER_RYU
第二集『天肆争奪戦』
39/61

第十七篇『空より来たる眠り姫』上

御覧の作品は『ダーメニンゲンの詩』です

「母上!」


 ここは一体何処なのか。辺りに広がる白い雲、まさに雲海の上に、島が浮かんでいる。島の上には巨大な宮殿、白一色でかつ継ぎ目一つない構造が脅威の技術を物語っている。読者諸賢にはもうお分かりであろう、ここはヒトの住む世界ではない。


「母上は何処じゃ!!」


 宮殿の中庭、柱の並び立つ中に陽光が差し、花が咲き誇るその中を、十代半ばと思われる年恰好の少女が一人、駆け抜けて行く。淡い緑の髪、眉毛にあたる位置から鳥の羽根を思わせる触角が生え、所々に帯の巻かれた白い服を着ている。


「母上ぇ!! あっ……」


 彼女の眼前に、人型の異形が複数、飛来する。ヒトとアブラゼミを融合したような外見をしたそれが迫る中、少女の肩甲骨の辺りから伸びる薄緑色の物体が、バサッと音を立て、巨大な蛾の翅の形を成してゆく。


「そこを退かぬか、シケイダー共! わらわを何と心得る!!」


 シケイダーと呼ばれる半人半蝉の存在にひるむことなく、少女は言い放った。一方で、シケイダー達の方はと言うと。


「ジ……ジジジ……」


 言葉を発することが出来ないらしい。蝉の鳴き声にも似た音を立てながら、有機体とは思えぬ機械的な動きで迫って来る。両腕についた鋭い鉤爪が少女に届く、まさにその時であった。


天導てんどう術、エルドミニオン!!」


 背中より広がった巨大な翅が、大きく羽ばたいたかと思われたその時。放たれた鱗粉が辺りに撒かれ更に巨大な蛾の紋様を描き出す。シケイダー達を一瞬のうちにその紋様の内部に収めたと同時に、彼らの動きがピタリと止まるのであった。


「シケイダー共に命ずる……母上の場所まで案内せよ!!」


 その一五〇センチの身長に見合わぬ威厳を発揮し、シケイダー達がしおらしく案内を始める。まるで式典のマントのように肩から下がる翅を翻し、少女がその後を歩いて行く。やがて辿り着く先にあったのは、無数のシケイダーがたかる謎の塊であった。しかしそれを見た少女はハッキリと口を開いたのであった。


「母上ッ! ……ええい、そこを退かぬかッ!! 者ども、行け!!」


 自ら従えたシケイダー達を一斉に向かわせ、散った個体に向かって自らも飛ぶ少女。自らの羽毛状の触角に手を添え、構えた。


「天導術、エルバラック!」


 添えた手の指先を、従えていないシケイダーに向ける。すると触角そのものが光を放ち、薄緑色の激しい閃光が辺りに放たれる。黒く焦げた外骨格が弾け飛び、動かなくなった者が地に落ちる。まるでピラニアのようにたかるシケイダーの中心に、ボロボロになった翅が見えた。


「母上! 何ゆえ、このような……!!」

「ラマエル様。それはワタクシどもが仕向けたから御座います」

「何ィ!?」


 母親をシケイダーの群れから引っ張り出した少女、改めラマエルは声のした方に顔を向ける。


「ラマエル様、老婆心ながら申し上げます。あなたのお母上はもう、我々を治める力がもうありませんのですよ」


 女性にカマキリを融合したような外見の個体が口を開く。


「そして、あなたにもそのような力はない。このお分かりで?」


 その隣に立つ、女性とジガバチを融合した見た目の個体もまた発言した。


「母上と……わらわのことまで取り除こうと。そなたら、己の言うておることが分かっておるのか!?」

「ええ。ですから……」


 ラマエルに従うシケイダーを沈黙させながら、二人は迫り来る。


「やれ、シケイダー!!」

「そうはさせぬ! 天導術、エルアイギス!!」


 ラマエルの前に躍り出た母親の天導術が、迫るシケイダーを一気に弾き飛ばした。


「……ほう、世継ぎのためならまだ動けるか」

「探し出せ! ラマエル様とアヤミエル様を、生きてここから出すな!!」


 姿を消したラマエルと母親改めアヤミエル。宮殿を脱出し、その裏庭である島の先端まで逃れる二人。自らの娘と向かい合い、アヤミエルが下す決断。それは!


「ラマエルや、よくお聞き。これからお前を、雲海の下へ逃すことにせんと思う」

「母上! いや、母上も一緒に!!」

「ならぬ! 雲海を越えるのに、お前の繭だけでは不足なのじゃ。よってわらわの糸を貸す、一刻も早く逃れるのじゃ。そして雲海の底……即ち、星の大地にて力を付け、必ずや自分の力で戻って参れ。よいな?」

「母上……そんな! わらわは離れとうない!! わらわはまだ……」


 涙を流すラマエルを、アヤミエルは強く抱き締めた。ボロボロになった翅を目一杯広げ、ラマエルの体そのものを包み込む。


「よいか、決して今生の別れなどではないぞ。妾がここを食い止める」

「母上ぇ……!!」

「さぁ……繭を張れ!!」


 宮殿から追手が迫る。


「いたぞッ!!」

「待て、スガリエル! ……様子が変だ」


 カマキリの外見の方が制止する。その視線の先には、体中から光を放つアヤミエルの姿があった。


「何故止めるオガミエル!!」

「あの光……間違いない、天変の力を使うつもりだ!!」

「何だって!?」


 オガミエルとスガリエルの両名が留まる中、シケイダー達が次々に飛びつこうとする。だが、次の瞬間。シケイダーの形が、一瞬にして吹き飛ぶ様子を二人は目撃するのであった。振り返るアヤミエルの顔に、多数のヒビが入るのが確認出来る。彼女の放つ光はそこから放たれていた。


「ラマエルに手を出すことは決して許さぬ……! よって妾がここで喰い止めよう!! 覚悟しや!!」

「まずいッ! “領域”を取られる!!」


 光に呑み込まれようとする二人。しかしその背後から飛び込んだ影が一つ、二人の前に躍り出ると引き抜いた刃で円を描き、更に身にまとったマントで光を防いだ。光が収まったその時、その者達の目の前にあったのは、巨大な繭が一つ置かれるのみであった。


「女王の眠りを選んだか……!」

「なれば女王の臣下はいずれも繭の中……」

「フッ、繭で眠れば国家ごと凍結とは、君達天肆族も中々都合の良い種族だな」


 刃を納める者から、その場に似つかわしくない男性の声が響く。昆虫と思しき特徴を、彼は体の何処にも宿していない。


「申し訳ありません、シュウ様」

「待てば良いのさ、スガリエル。それより、ラマエルはどうなった?」


 シュウと呼ばれた男が島の先端まで近付き、雲海を覗き込む。大きく削れた地形のその先に、今まさに雲に呑み込まれんとする巨大な塊が目に入った。


「なるほど、島の土ごと繭として封じ込めたのか。生身でそのまま雲海を突っ切るには難しかったようだな」

「いかがなされますか、我々ではこのまま追うことなど出来ませぬ」

「いずれラマエルは誰かに拾われる。試してみようじゃないか、そんな彼らの実力をね」


 ポケットから、小さなセミの幼虫を思わせる物体と取り出し、シュウはラマエルの繭に投げ付けた。脚を広げ、爪を立てながら繭にとりつき離れない。


「さぁ。文字通り、高みの見物と参ろうか。例えシケイダーとは言え、領域を制する力がなければ勝ち目はない……!!」




 コモドの発作が治まり、朝陽の昇るペンタブルクの町。陽の光を浴びる白亜の館の一室に、ケンが入室する。


「二人分、もらえましたよ」

「御苦労様。だとしたら良いお小遣いになるわね、持っておきなさい」

「あ、ありがとうございます……それとですね、玄関にあったんですけど、コレ何ですか?」


 そう言ってケンが取り出したのは、青く塗られた筒であった。中には何やら紙が入っている。


「え、青筒? 湖月省からの大切なお知らせよ、見せて見せて」

「湖月省……って何ですか?」

「この国の、魔女達の中枢といったところかしらね。主に魔女の国家認定とか、大勢での千里眼が必要な天候観測とか、暦の作成とか、魔女聖典の追記修正とか、色々やってるとこよ。私もここの認定を受けて魔女やっててね。さて、どれどれ……」


 中身を読み始めるラァワ。すると見る見るうちに、その表情は驚愕のそれに変わって行く。


「嘘でしょ……天肆てんしの繭が観測されたですってぇええ!?」

「母さんそれマジか!?」


 部屋に入って来たコモドまでもが驚愕の声を上げたのであった。


「天肆……? そう言えば以前からチラホラ聞いてたような気がするけど……確か前にリトアが、天肆の粉とか使ってたような……」

「嗚呼、天肆族の中でもな。粉が採れるのは天蚕てんさんと呼ばれる“性別”の者だけでな」

「え、性別?」

「まぁ詳しくは……コモド、そこの本棚から『三日月の聖典』を持って来て」

「はいはいちょっと待っててね」


 生命力を使い過ぎたラァワでは、かつてのように念動力一つで聖典を開くことが出来なかった。本棚の高い所に置かれた一冊をコモドが取り出し、素早くページを滑らせ、止めた。


「ほい、天肆の項目は一〇八ページから!」

「コモド、一〇四ページよ」

「オゥ……」


 一度見たモノは忘れないと豪語したコモドが見事に間違えたのであった。


「あー……魔女の聖典って時々、追記とか修正でページ送られてきて変わるから……」

「変わってないわよ、そこ」

「え……」

「さてさて、読んでいこうかしら?」


 そこから語られる内容は、ケンの世界では到底考えられぬモノであった。


「天肆族は基本的にはヒトの女性に似た姿に、節足動物の特徴が混ざった外見をしているのが特徴ね。しかし四つの生物学的性別が存在するのよ」

「え、四つ? 性別が!?」

「ええ。そのうちの一つが天蚕。蛾に似ているわね。最も数が少なく、そして最も高いヒエラルキーに存在するのよ。青い筒によれば、繭の中身はまさにその天蚕みたいね」

「要は隣国でいうとこの王族ってヤツかい、母さん」

「そんなとこね……性別で決まっちゃってるのよ、ヒト以上に」


 天から来たるはまさかの貴人、しかしそこには疑問が浮かぶのがケンであった。


「そんな偉い人が何故降って来るんでしょうかね」

「本人に聞いてみれば良いんじゃないかしら。そうそう、性別としてはヒトでいう女が一番近いわ。他の性と交われば必ず天蚕が卵を産み落とすとされているのよ」

「ということは、あとの三つはヒトでいうところの、男にあたるんですか?」

「それが微妙に違うのよね。三つ巴でね、それぞれが孕む、孕ますの関係にあるわ。ハチを思わせる姿の天蜂てんぽう、カマキリに似た天螳てんとう、そして蜘蛛に似た天蛛てんしゅの三つが存在してて……あら?」


 ラァワは青い筒の中から、通常の書類とは別に一枚の例外が出てくるのを見つけていた。


「コレ……式神符じゃないの。ちょっと出してみるわね」


 取り出された式神符を空中に浮かべ、弾指を鳴らしたラァワ。すると……!


『魔女集会の夜以来ね。ラァワ、コモドちゃん、そして剣介クン』

「フルバ様!?」


 それはまさかの、大物からのメッセージであった。式神符は大魔女フルバの姿へと変わり、話し始める。


『この式神符を展開したのなら、既に青い筒の中身を読んだ頃だろう。そこで直々の依頼がある。この天蚕の繭を君達に保護して欲しい』

「わ、私達で!?」

『天蚕は極めて強力な異能を使いこなす。もし暗黒組織の手に渡ればインクシュタットはおろか、隣国イレザリアやダーメニンゲン連邦そのものがヤツらの手に落ちることとなるであろう。だがもしラァワの元で保護が出来たなら。特にコモドちゃん、ひょっとすれば君の難病を克服することが出来るかもしれぬ』

「邪竜症候群を!? なるほど……」

『繭の中は天肆族の第一王女、ラマエルだ。わたくしの親友にして天肆族の王、アヤミエル直々の願いでもある。くれぐれも頼んだわよ……』


 一通りの内容を話し終わると、元の式神符へと戻ってゆくのであった。


「フルバ様から直々に……私も大物になったモノね」

「いや、ラァワさん!? フルバさんって一体何者なんですか、天肆族の王が親友って!?」

「ケンちゃん、あの御方は何でもありだ。既に五百年は生きている。そして天肆族は軽く数千年は生きる種族でもあるんだよ」

「えぇッ!? もうスケールが分かんないよ!!」


 ケンを置いてきぼりにしながら、話は進んでゆく。


「しかし何処に落ちるか分かってるんですか。空から降って来るったって、他の国かもしれないのに」

「そこで! このもう一枚入っている占眼符。繭の落下地点が入ってるはずよ、私らにわざわざ依頼するってことは割とこの近くに来るんじゃないかしら」


 占眼符の内容を再生する装置、即ち台座と水晶玉を素早く用意するコモド。台座に占眼符を置き、その上に水晶玉を置き、両の手をかざす。たちまち現れるヴィジョン、それは空から迫りくる巨大な楕円形の物体、その向かうであろう軌跡。


「竜の谷か……ケンちゃんに分かりやすく言うと闘竜の繁殖地でな、国立公園の立ち入り禁止区域だぜ」

「コレを持って行けば許可は下りるはずよ、今回ばかりは私も同行するわ」

「大丈夫なんですかラァワさん!?」

「あら、許可ならあっさり通るはずよ。安心してちょうだいな」

「いやそうじゃなくて!! 生命力!!」


 ケンの言うことも尤もであった。ラァワはこの前日、コモドの邪竜化の一件で大立ち回りを演じたばかりである。


「特に家を直したアレ! 顔が真っ青になってたじゃないですか!!」

「ああ、ヘクセンリストアのこと? アレね、直すこと自体にはそこまでかからないのよ。何せ予めかけておくモノだからね、コモドの邪竜化の時には必ず準備していることだから。むしろ問題は……」


 ラァワは布に包まれた、小柄にも似た暗器――魔女刺を取り出したのであった。


「あの時はむしろコイツの方が痛かったわね。でも、解毒そのモノならすぐに出来るのよコレ」

「母さん、コレもらって良い?」

「良いわよ、何かの材料にでもしたらどうかしら。純粋なアフリマニウムの塊だから、買ったら結構するわよ」

「何か呑気だなこの親子……」

「ケンちゃんも直に分かるわよ。こんな状況でも、日常ってのは訪れるってこと」


 コモドとラァワの方こそ分かっていた。日常を保つということの、難しさを。


「ただね、母さん。俺も休んだ方が良いと思うよ。体壊したら何にもならないから」

「じゃあ……お言葉に甘えるとしようかしら。そうだ、占眼符の結果を見た感じね……繭が来るのは明日の昼頃ね。随分とゆっくり来るのね、このお姫様」

「ケンちゃん、アンタも今日はゆっくりしとけよ。明日の準備としてな」

「あっ、はい。そういやラァワさん、本を一冊借りても良いですか……?」

「ええ、どうぞ」


 そう言ってケンが手に取った本。それを見たコモドが思わず声を出した。


「え、『闘術士のための触媒術大全』!? ケンちゃんまだ触媒手に入れてないだろ?」

「いや、気になることがあったんです。コモドさん、コンサートのことを覚えてますか?」


 ケンはあのコンサートの日、何故自分がコモドのゴーレムサモナーが盗まれたことに気付けたのかを、ありのままに話したのであった。天肆の粉を使ったと思しき演出、何故か自分には見えたリトアの姿、その後彼女が自分に使って来た粒介術、そのヒントを求めて彼は本を手に取ったのである。


「……天肆の粉を使った粒介術といえば、ゾリュージョンかファントムゾリュージョンだな。普通は見抜けるモノではないぞ」

「えっ!?」

「どちらの術も本質はな、バラまいた粉の届いた範囲を支配して質量を伴った幻を見せつけるというモノなんだ。その範囲……俺達は“領域”と呼ぶんだけどね、中に入ってしまっている限りは普通抵抗そのものが困難になるんだよ」

「だからあの子は、同年代と闘って敗けたことがなかったのか……」

「天肆の粉が触媒として関わる術は、自分らが存在する領域そのモノに作用する特徴がある。大元の天蚕の使う異能やヘクセンリストアの時点でもそうだが、領域を操る術ってのはいずれも強力なモノばかりだぜ。ちょっと見てみろ、その本は触媒から逆引きが出来るから」


 そこに載っている技名は、ケンにはよく分からないモノであったが、コモドの額には汗が浮かんでいる。


「いずれの術も、見たら絶対に警戒しないといけないモノだぜ。特にコイツは……」


 コモドが指差した先にあった名前。そこには表意文字がドサドサと九つも並んだ、そうそうたる技名が載っていた。


「え、え、何て読むのコレ……」

「『華月覇剣かげつはけん繊月斬界破せんげつざんかいは』って読む。コイツは天肆の粉を隕鉄に混ぜて打った刀を触媒として放つモノだがね、滅多に使い手はおらん。それでも広く知られるのには理由があってな」

「強いんですか!?」


 目を輝かせながらケンが尋ねた。


「違う。強すぎるんだ……」


 一方のコモドは何処か深刻な表情であった。


「短い人生だったけどさ、この使い手と闘ったことがないってのが不幸中の幸いだぜ。その技はな。空間そのモノに三日月型の裂け目を作って飛ばすのさ」


 スゥっと指先で空中に描きながら、説明を続ける。


「その裂け目に当たったヤツはな。空間同士の狭間に巻き込まれて、まるで型で抜いたかのようにスポーンと抉られちまうんだよ。あらゆるモノが存在する、空間そのモノを動かしちまうからな。斬れないモノがまず存在しない。おまけにコレでキズを付けられたら最後、まず治らないとまで言われているんだ」

「え……何それ……チート過ぎません……?」

「そのチートがよく分かんねぇけどよ。例のゾリュージョンやファントムゾリュージョンでもな、コレを一発ブチ込まれれば瞬く間に崩れ去るって言われてるんだぜ。支配領域にキズをつけちまうからな。だからこの流派……華月覇剣は人類が使う最強の触媒術だと言われているんだよ」

「最強の……だからブラックバアルが狙うのか、天肆の粉を」


 最強という言葉に心が躍ったケン。だがその力はまさに自分の身に過ぎたモノだと、今は感じていた。


「向こうに使い手がいないことを祈りたいね。ところでさっき……アンタ、ゾリュージョンを見抜いたって言ってたな?」

「はい、だから調べたかったんですけど」

「天肆の粉に耐性があるということは、その関連の技の素質を持つ可能性がある。だけど貴重品だからそうそう使えるモンじゃないよ。最も、だとすれば尚更、天蚕の力を手に入れなければならねぇぜ」


 一通り説明を終えると、コモドは開いてた書物を閉じてケンに渡す。


「しかしいくら触媒術に長けてても、戦闘そのモノでの体捌きが出来なきゃ何にもならんからな? だから今日は休め。何ならそいつを読みながらダラダラしとけば良い。……そうだ、刀を研いでおくけどどうだい?」

「え、良いんですか?」


 そう言って、ケンは鞘に納めた刀をコモドに渡す。


「地下室にさ、手斧が二つ落ちてただろ。アイツ研いでおけば使えると思ってね。何ならケンちゃんの刀もついでにな」




 翌日。キトキトに研がれた手斧を革で包んで右腰に差し、これまたキトキトに研がれた刀を鞘に納めて左腰に差し、更にアダーをホルスターに収めて右脚に装着し、そのアダーに使う弾倉を専用のホルダーに詰めて左脚に巻き付けた、完全装備のケンの姿があった。


「闘士としてサマになってきたじゃねぇか。おっちゃん嬉しいぞ」

「そろそろ使い切れる自信がありません……」

「良いんだよ。斧は持つだけでも良い威圧になる。まぁ達人が使えば振るって良し、薪割って良し、何なら投げても良しの万能武器にもなり得るんだぜ」

「その割にコモドさん使ってませんでしたよね……」

「え、持ってるよ。隕鉄で出来た高級なヤツを、日用品としてね。そこにかかってるよ」


 壁を指差すコモド。ガラス張りのその中に、斧が一つ納められていた。


「ただな、高級品で勿体ねぇから戦闘では使わねぇんだな。あと俺は達人とも言いにくいぜ」


 そう言いながら、コモドもまた手斧の一つを腰に差すのであった。


「どうしても使い方が荒っぽくなるんだよ、だから戦闘用の斧なら安物に限る。ただブラックバアルが用意したコイツ、かなり材質が良いように見えるな。金に糸目は付けねぇってことなんだろうよ」

「元貴族、なんですよねぇ。隠し財産でも使ってるんじゃ……」

「大方そんなとこじゃねぇかなァ。さて、準備出来たし、行くぞ」


試験的にタイトルを変えております。御了承ください

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