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異世界奇行 ~ダーメニンゲンの詩~  作者: DIVER_RYU
第一集『暗黒組織ブラックバアル』
36/61

第十六篇『新月の闇が戦慄を呼ぶ』上

この物語を読む前には、手の消毒をお願いします。

 真っ赤に染まった視界、全身を駆け巡る激痛。


「アァァ……誰か……誰かァ……!!」


 苦痛に歪んだ表情から、かすれた声が漏れ出してくる。


「イヤだ……イヤだ……助けてくれ……」


 顔、背中、体中に刻まれたキズ痕から、とめどなく溢れ出す血液。その自分のモノであるはずの血液までもが、肉体を焼き始める。フラついた足取りが、もがく手が、ひたすらに空を切り続けている。体中の皮膚がヒビ割れるような痛みが常に走り、


「カハァッ!! ゲホッ、ゲホォ!!」


 喉から、鼻から、粘度の増した赤黒い血が飛び出してくる。鉄臭い匂いが痛みと一緒に粘膜を刺す。まるで引っ掻くように目を拭い、視界の晴れたそこに映っていたモノ。それは……。


「俺の手、が……!?」


 血にまみれたその隙間から、ヒトの手にはないはずのモノが覗いている。異形の指先には鋭いカギ爪、湾曲したその内側にべっとりと、血液とはまた異なる物体がこびりついている。血走った眼が、手の先を見渡した。


「アァァ……!? ラビア? 母さん!? ……そんな、ケンちゃんまで!!」


 目をヒン剥き、肉を裂かれ、体中があらぬ方向に曲がり、見知った顔がただの物体と化して転がっていたのであった。


「うわァァァアアアアアアアアア!?」




「……ハァ、ハァ、夢か……夢で良かった……」


 脂汗を垂れ流してのたうつコモド、そこに飛び込んだコルウスによる舌下投与による処置が功を成したのか、コモドは徐々に大人しくなっていった。そして動きが止まったその時。


「コモドさん! ……良かった、脈が戻っている……」


 ベッドの上でうなされていたコモドが目を開く。それを見たケンが、恐る恐る口を開いた。


「コモドさん……今のは、一体何だったのですか?」

「今のか? ……すまん、暦を見せてくれ」


 机にある、いわば卓上カレンダーとも呼ぶべきモノをケンが手渡した。


「嗚呼……もうこんなに近付いていたのか……新月まであと……三日」

「新月?」

「うん。新月が近付くとね、イヤな夢を見るんだよ……あと、新月の夜までには実家帰らねぇと……」

「まぁこの日までには歩き回れるようになりましょう。今は安心して眠れるようにするのが大切です。では、おやすみなさいませ」


 部屋から出て行くケンとコルウスを見送ったコモド。その額を、近くに座っていたラビアがそっと拭きとった。


「……ハァ、いつもより早いな」

「え?」

「こないだまでは前日だった。早くなってやがる……こんな悪夢が、あと二日は続くのか」


 徐々に、兆候が早まる症状。コモドの口が不安を語っている。


「すると、先生にお薬を持たせたお母様の判断には脱帽ね。やっぱり分かるのかしら」

「新月の前日まで、入院期間が伸びる可能性を考えたんだろうな。もしくは……」


 目を閉じ、少しだけ何かを考えた後にコモドは己の考えを口に出した。


「恐らくだが、占いに出たな」

「占いに?」


 突拍子もない要素にラビアは驚いた。


「ここ最近、変則的な事例があまりにも増えてやがる。だから先読みしたんだろうな、俺の体にも何かしら来ると」

「あたしよく分からないんだけど、占いって何処まで確実に読めるモノなのかしら?」

「占眼符が示すのはあくまで“傾向”らしい。本当に凄いのはそこから読みとる魔女の技術ってことさ。ウン十年、場合によってはウン百年分の経験を使うんだそうだ。その数ある可能性の中に、俺の悪化もあったらしいな……」


 魔女の長い時間によって、占いがある種の技術として確立する。ある時代における陰陽師や巫女といった存在にも近しいポストが、現代よりも重要な役割を以て活躍する理由がここにある。


「この手がな。ウロコにびっしり覆われてな」

「えっ、急にどうしたのよ」


 瞳孔の開ききった暗い眼で、コモドはぼそぼそと語り始めた。隻眼の前に、自分の手を置いてじっと見つめながら。


「さっきまで見てた夢。そんで指先に血がべっとりと、こびりついててな。ウロコ一つ一つが、皮膚を刺してきてな」

「やめて!」


 ラビアの声が、絞り出される。


「コモド、もうやめて。……これ以上、そんなこと話したら、今以上に弱るわよ」

「そうだな……弱っちまったら、アンタの脚も直せねぇしな! ハハハ……」


 コモドに布団を被せ、ラビアは自らのベッドに戻って行く。窓側に顔を向けて背を丸め、布団を丸めた塊に顔を押し当て、いつの間にか涙を頬に感じながら、そっと呟くのであった。


「コモド……どうして、アンタがこんな目に遭わなきゃいけないの……」




「さて、説明と参りますか。コモドさんのあの発作、アレは邪竜症候群と呼ばれる難病です」

「邪竜……コモドさんの故郷を滅ぼした、あの怪物ですか」


 ケンの病室にて、コルウスによる解説が行われている。


「ええ。しかし邪竜とは、単に暴れまわるだけの怪物ではありません。元々はイレザリアの兵器として改良された特殊個体、兵竜へいりゅうでありました。その失敗作が邪竜なのです」


 衝撃の事実が語られる。邪竜とは野生の竜ではなかった。即ち人災であったのだ。


「失敗作……!? それが何故野放しになっていたのですか」

「兵器として試用する前に、脱走したのです。失敗の内容こそ、脱走によって野放しになってしまったというモノだったのです」

「そんな……!!」


 その背後で、茶を少し口にしたウラルもまた起き上がる。


「せっかくですし私も混ざりましょうかね。大多数の邪竜は討伐されました。他ならぬ、イレザリア政府によって集められた討伐隊によってね。その中にはイーゼルラントやインクシュタットの人間も多かったと言います」

「他国の人間に尻ぬぐいをさせてでも、鎮めなければならなかったというのが分かるでしょう」

「もうメチャクチャじゃないですか……あの荒れ果てた様子といい、イレザリアは本当に国として機能出来ているのですか」

「知りません。イレザリア出身であるウラルさんやコモドさんはもちろんのこと、長年住んでたラァワ様ですら分からないというのですから」


 国の機密が牙を剥き、他国の人間に処理をさせる。国境一つを越えただけで、問題の規模の大きさがいかなるモノかを示すこととなる。新兵器として国を護るはずだった兵竜、しかしその結果は国力を衰退させる、まさに災い以外の何モノでもなかった。


「しかし……私らの故郷を襲った個体、最後の一頭だったそいつはそれまでの邪竜より遥かに巨大な個体でありました。おまけに邪竜の寿命は野生の竜と比べれば遥かに短く、その上寿命が近付けば近づくほど狂暴性が増すという危険さ厄介さまで兼ね備えていたのです」

「まさに使い捨ての兵器……もう、可哀そうに思えてきました……」

「コモドさんもね、同情してるんですよ。某にも語ってくれましたがね、彼にとって邪竜は仇であっても決して憎悪を向けられない相手なのだそうです」


 コモドと竜の因縁。竜によって全てを失った彼を、助け出したのもまた竜であった。


「そして邪竜の兵器としての利用法、コレが問題だったのです。あの竜の脳には天然の竜につく寄生虫を、これまた凶悪な改造を施したモノが住み着いているのです。通称、邪竜怪虫というんですけどね。コイツは新月の晩が近付くと極めて小さな卵を大量に産んで血液中に流します。その際に同時に放たれる物質が、コモドに悪夢を見せるんですよ」

「え、卵!? あの人の、体の中に!?」


 恐怖、不快感、二つの感情がケンの肌にブツブツと浮き上がる。


「そして新月の晩になれば一斉に孵化、大量の幼生が血液中を泳ぎ回るのですが……この時、内側からグサグサとキズを付け、同時に産卵時に出る物質が作用して、竜の体も性質をも変えてしまうんですよ。爪や牙から常に体液を垂れ流し、辺りにあるモノ全てに恐怖と憎悪を抱いて暴れ回る、怪物にね」

「何それ……何それ……」


 竜を何処までも苦しめる、邪悪な発明。戦慄するケン、しかしそれを上回る恐怖の情報が待っていた。


「で、当然のことながら邪竜を運用する際には新月の晩に行います。あの闇の中から襲って来るワケですからね、たまったモノじゃないですよ。そして可能な限りは竜を回収しますが、余程のことがない限り討伐されることでしょう」

「え、やっつけられちゃったら何の問題もないのでは……?」

「この後が問題なんです。一か月後、次の新月の晩になると今度は、邪竜にキズをつけられた人間が発症、半人半竜の怪物と化すのです。人間大とは言え、邪竜と同等のバケモンが相手の陣営に大量発生するのはたまったモノじゃないですよ。そして壊滅した所を一気に叩いて占領する。コモドさんが、新月の晩になる度に苦しんでいる症状がまさにコレなのです」


 新月の晩が人を怪物に変え、新月の闇に乗じて襲い掛かる。その恐ろしさは想像に難くはなかった。


「コモドさんが……怪物……本当に怪物に……?」

「一度発症した人間は、新月の晩が訪れる度に怪物となり、その度に脳の前の方……前頭前野と呼ばれる部分が衰退していくんですけど、前頭前野分かりますかね?」

「あの、何となくは分かります。この辺ですよねこの辺」

「分かる方で安心しました。まぁ、人間の意思、計画性、判断、抑制、集中等々、実に色々な分野を司る部分ですよ。特に意思と判断と抑制に影響が出やすくなりましてね、今回運び込まれたアカリナさんはかなり幸運だったと言えるでしょう」

「え、あの時コモドさんが怒ってメチャクチャになってたのって、まさかその虫の影響で!?」

「ええ、抑えが、利かなくなっていくんです」

「じゃああの時も……」

「あの時?」


 コルウスとウラルが一瞬だけ顔を合わせると、ケンに向き直った。


「ちょっと、詳しくお聞かせ願えますか?」

「ついこないだ、吸血ナビスと闘った時のことです。アイツの策にハマって、僕がナビスに捕まって……その後コモドさんが助けに来てくれたんですけどね……」

「これは相当怒ってそうですな……」

「……入ってきた時点で様子がおかしかったんです。まるで僕が見えてなかったみたいで……」

「え……?」

「僕が捕まった後、あのゼーブルに頭割られそうになって。そこにコモドさんが入って来たんですけど、何かずっと吼えてたし、脚をケガしてたのに何も感じてなかったみたいだし、何よりゼーブルが毒ガスをブチ撒いても気付いてなくて……」

「よく生きてられましたね……ゼーブルの毒ガス……私の右腕を奪ったあの技か……!!」


 右腕の断面を触りながらウラルが呟いた。人体を軽々と腐食し、骨だけにしてしまう猛毒を、密室でブチ撒くゼーブルの狂気。しかしコモドの狂気はそれを上回っていた。助けに来たはずなのにも関わらず、救出するという目的が吹き飛び、ただ目の前の敵を殺すことだけを考える戦闘マシーンと化していたのだ。


「コモドさんが気が付いたのは、その後ゼーブルが僕に毒手を叩き込もうとした時です。その後はナビスやっつけて脱出するまで何とか無事でいたんですけど……」

「吸血ナビス討伐の裏側に、まさかこんなことが……」

「人質を逆に利用するのならともかく、無視して突っ込むなんて……あの日は月が欠け始めたばかりだったはずですよ。ちょっと好戦的になってるな、と思ってたらまさかそこまでなってたのですか」

「邪竜怪虫の動きは月光によって抑えられます、しかしコモドさんの体内のは凄まじく活発化していると言えましょう……」

「え……!!」

「恐らくですが……次の邪竜化で脳に決定的な損傷が来るでしょう。ケンさん、貴方の言っていた状態はまさに、症状の進んだ患者に見られる傾向なのです。恐らくですが彼の余命は……残り一か月」

「そんなッ!!」


 思わず大きな声が出てしまったケン。仕方のないことだろう、自分を拾い、一か月近く一緒に暮らし、更には何度も助けてくれた恩人がまさか余命一か月の重病人だとは思わないだろう。


「このことは、ラァワ様も御存知なのですか?」

「……薄々感付いていたみたいです。あの薬を渡したのは、症状の進行に気付いていたからなんです」

「あの御方のことです……覚悟は出来ていますよ……」


 その頃、館の前で一人、細くなった月を見つめるラァワの姿があった。その目からは涙がこぼれている。


「コモド……私の可愛いコモド……逝かないで……貴方はまだ……」


 涙を拭い、振り返る。


「あの部屋を使うのも、多くてあと二回かしらね。でも何度見ても、本当にイヤな部屋……」


 閉ざされた地下に広がる館の秘密。それは各種薬草や香辛料、乾燥豆の入った袋の積まれた倉庫では決してない。倉庫の隣にある、魔方陣の描かれた重く巨大な扉に封じられた一室。


「整えておきましょう。封印符!」




 翌朝。ラビアが目を覚ます頃には、涙の跡がくっきりとシーツに刻まれていた。まだだるさの残る体をもたげ、枕元に置いてあるグラスの中身を口に含み、溜め息一つと共に目をこすり、隣のベッドに声をかけようとした。


「コモドぉ、起きてるぅ? ……って、え、コモド? え、うそ、え、え、え!?」


 コモドの寝ているはずのベッドはもぬけの殻、ベッドメイクまでしっかりと済ませてあった。


「まさか……」


 寝間着から素早く着替え、車椅子に飛び乗るとラビアは病室から出る。看護師の一人を捕まえ、コモドの居場所を聞き、言われた部屋に入り込んだ。


「コモド!! もう動けるようになったの!?」

「お、ラビア! 見てくれよ、脚直ったぜェ!!」

「ちょっと!? いつから作業してたのよ!?」

「んー、太陽が昇る直前から。あとは調整するだけだァ」


 口の片側を上げて、あっけらかんと笑いながら義足を差し出すコモド。


「ありがとう……だけど!! 無茶し過ぎよ!! 昨日からロクに眠れてないって言うのに!!」

「母さんみてぇなこと言うな珍しい。……あのなラビア、はめ込みながらで良いから聞いて欲しい」


 神妙な表情を浮かべ、コモドは作業にとりかかる。


「……次を探してくれ。コレが最後になるかもしれんから」

「コモド? ちょっと何てこと言い出すのよ」

「次の新月の発作、生きられない可能性が出て来やがった。もし保てたとしても次の発作で終わりだ。……多分、母さんも覚悟が出来ている」

「ラァワさんも……」

「俺の悪夢も大した内容になりやがった。ある時はひたすらに壊滅した故郷を見せられ続け、またある時にはその故郷を襲った邪竜の感覚を見せつけて来やがる。アイツも、凄まじい苦痛の中でもがいてたに過ぎなかったんだ。ルクターがヤツにトドメを刺したのは、いわば介錯だったのかもしれねぇ。今ではそう思うのさ」

「感覚まで竜のそれに近付いてきている……こんな因縁ってあるのかしら」

「そしてもう一つ。邪竜症候群の末期症状らしいな、今の俺は抑えが利かなくなってきている……あと少しで、俺はラビアの友達を、赤枠のついてないヤツを手に掛けるところだった。ルクトライザーが止めてくれなければ、俺は取り返しのつかないことをやっていた……新月が近付くとね、戦闘中にこっちの目の奥から声がするんだよ」


 そう言ってコモドが指差したのは、かつて邪竜にやられた右目であった。


「斬れ、殺せ、焼き尽くせってね……しかも今もずっと響いてて……以前より声が大きくなってきてんだよ……怖ぇんだよ……だから作業か何かに集中してねぇとやってらんねぇんだよ!!」


 眼帯の下から、赤い液体が流れ出る。顔には激昂した時と同じくキズ痕が赤く浮かび上がっており、今まさにコモドの精神が大きく揺さぶられていることを示していた。


「コモド……ごめんなさい」

「気にしないでくれ……長いようで、短い付き合いだったな」


 はめ込んだ義足で軽く歩かせた後、車椅子を押してラビアを食事に向かわせる。次にコモドの目に留まったのは、壁に寄りかかって動かないイリーヴの姿であった。


「あっ、コモドさん! 先生、いました」

「おうケンちゃん。良いとこに来た、イリーヴ運ぶの手伝ってくれや」

「いや、その前に、血液検査だってさ」

「血液……そうだ、血液を……コイツも巡らさなきゃいけねぇんだよ……」


 コモドはイリーヴを肩にかけ、立ち上がる。


「先生に伝えてくれ。イリーヴは俺と血の型が合うんだ、ここの病院の装置があればイリーヴを助けられるんだよ」


 十数分後、コモドとイリーヴは機械を通じて、その血液を交換する運びとなった。


「普通ならその辺の病院でやっても良いんだがな、俺の血はちと余計なモンが入り過ぎている。除去しなきゃいけねぇんだよ」

「虫……の卵、でしたっけ? 先生」

「おー、そうそうそれそれ。……あ、ケンちゃんに話すの、忘れとったな。最も昨日の見てりゃイヤでも聞くことになるか」

「コモドさん……」


 グラスの中の水を飲みながら、コモドはガラスの中に抜き取られる血液を見ていた。特殊な光を当てられ、薬剤を投与され、イリーヴに繋がったチューブに流れ込む。


「イリーヴの血の型は特殊なモンでな、すぐに使えるのが俺の血液くらいしかない。本当ならもっと健康体を連れて来たいんだが、そうもいかねぇしな。しかしここまでドロッドロの脳味噌に悪い血液になりながらよく持ったなイリーヴよぉ」


 ブツブツと呟きながら、コモドは紙に何やら書き始める。


「ケンちゃん、先生から聞いたのなら分かってるかもしれんが、俺はもう先が長くない」

「なんか……ごめんなさい」

「え、何で? 俺は楽しかったよ、君が来てからね」

「僕が……来てから?」


 コモドは、それまでにケンに見せたことがないであろう、柔和な笑みを見せていた。


「どうせここまで進行してんなら、どのみち俺の脳は耐えられねぇ。そもそも、赤枠のついてないアカリナ達を始末しようとしちまったんだ、ここまで壊れたヤツが長生き出来るワケねぇよ。な、そうだろ、お嬢さんがた」


 そう言って、コモドは扉の方に目を遣った。開いた扉には、ラビアと一緒にカタリナとリトアが立っている。


「今更許されるとは思っていないし、病気を言い訳にするつもりもない。それでも言わせてくれ、あの時はすまなかった」

「そんな……ッ!! 先生やラビアちゃんから全部聞きました、コモドさんがこんなことになってたなんて……」

「あたし達のお爺様のことも、ウラルさんから聞かせてもらいました。あの時は本当にごめんなさい!!」


 深々と頭を下げる二人。それを見てコモドはぼそりと言ったのであった。


「……二人ともツラ上げてくれ。君達にも話すことがあるから」


 深く息を吐いた後、コモドはカードの一枚を取り出した。サラサラと筆ペンで紋様と文字を描き込むと、ケンに渡す。


「ケンちゃん、その真ん中に書かれている呪文を唱えて欲しい」

「コレですか……えーと……『ダムート・ラシート』!」


 ケンの声に反応し、カードに新たな紋様が浮かび上がる。


「今のでケンちゃんの声紋を取らせてもらった。コレを俺のゴーレムサモナーに挿し込めば、ルクトライザーの持ち主はケンちゃんになる。ケンちゃんの声が、言葉がルクトライザーを動かせるようになるんだ」

「え、僕がですか!?」

「そうだ。ルクトライザー、いやゴーレムは作り手の分身、俺の肉体が滅びても、ルクトライザーが存在し続ける限り俺の魂は不滅ってことだ。だから、その魂を託す相手として、ケンちゃんにお願いしたい。きっと力になってくれるから」


 そう言って、コモドはケンにカードを渡す。


「頼んだよ」

「はい……ッ!!」


 カードを受け取り、大切に胸のポケットにカードを差す。


「で、本題だがね。俺がもし今回の発作を生きて乗り切った、その時には。残りひと月の命を使ってブラックバアルを壊滅させる! 今血液を替えているイリーヴのため、ここに飛ばされて理不尽を受けるケンちゃんの安寧のため、そして君達を騙した真の仇であるゼーブルを討ち取るため。……出来ればで良い、協力してくれないか?」


実は、ケンちゃんが来なければ、コモドの破滅はより早まっていたのかもしれません。

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