第十四篇『緑眼の魔人はかつての友』中
この話の中盤からが、前篇の続きとなります。
翌日のことである。物忌みにより工房に篭り切りのコモドとは対照的に、イリーヴは紙きれ一枚を手にその足を運び続ける日々が続いていた。
『汝が真の姿を知りたくば、今一度心せよ。その答えは国境近く、セピアの湖畔にて問うが良い』
占眼符と共に折り込まれていた紙には、この一文と共に簡単な地図が書き記してあった。
(行ってみるしかない。コモドが見つからぬ今、今の我に残されたのはコレだけだ!)
深く被った笠、機械の体を覆い尽くすマント。笠の奥には緑の眼を光らせて、足音に伴うは機械音。その上で二メートル二十センチの巨体は、数少ない町行く人間を誰も彼も振り向かせた。前腕に刻み込まれた、ドクロを背負ったハエの紋様にサラシを巻きつけ、己の出処を隠しながら彼は行く。湖畔の町並みに吹く風が、よりその姿を強調するのであった。
「この家を知らないか」
「嗚呼、ここでしたら……あそこですよ」
通行人の中年女性が指差す先に見える家、そこにイリーヴは足早に向かって行った。頭部のカバー下に覗く、機械で出来た緑眼に映った実家の光景。今の今まで求めていた自らの縁の場所に、彼は遂に辿り着いたのだ。
「コレは……我の……我の帰る場所は……」
両親と共に記憶の映像にあった彼の実家の玄関には、『売家』と書かれた紙が一枚貼り付けてあった。
「ここには誰も住んでいないのか?」
「ええ、そこにお墓が二つ見えるでしょう」
先程の通行人が指差す方向に、簡素な造りの墓石が見える。花が手向けられており、それもまだ新しい。
「この家に住んでいた夫婦に手向けられたモノです。何でも、三年前にダンナさんが、そんで去年は奥さんが」
「……そうなのか」
家のすぐ近くにあった、湖畔の共同墓地にイリーヴは近寄り、祈りのサインを始めている。
「何でも、二人には行方不明になった一人息子がいたのだとか……」
「一人息子……」
「とうとう、会えないまま亡くなるなんてねぇ」
笠の下の顔の様子を、女性には伺い知ることが出来なかった。それでもなお、悲しげな様子だけは伝わって来る。
「……すまない……我は……」
「どうか、なされたのですか?」
「嗚呼、何でもない。ありがとう……」
女性が帰って行った一方で、イリーヴは墓石の前に両手をつく。もし彼に涙腺が残っていれば泣いていたことだろう。だが今、目頭に滲む熱さは涙ではない。今まさに焼き切れんとする回路の異常行動が、改造されたその身を既に蝕み始めていたのだ。直後、その熱さは次の瞬間には激痛へと変わっていた。
「アア……アアァ……うう……」
蘇りつつある記憶への拒否反応か、はたまた有機体と無機物の拮抗か。笠の奥で彼の緑眼は点滅を始めていた。
「チッ、記憶を取り戻したか。はたまた受け入れられずにいるか」
その声に、イリーヴの目の点滅は止まった。そして爛々と灯った緑眼が声の主を睨み付ける。
「ビアル……! 何をしに来た!!」
「決まっているだろう。お前を確保する」
そう言ってビアルは弾指を鳴らすと、一瞬にしてゴブリンが出現する。更に襟元に手をかけると、
「拙者の僕を紹介しよう。行け、我が手掛けし人形よ!」
服を開けた胸元に刻み込まれた、ドクロを背負ったハエの紋が光を放ち、赤い影が飛び出し人の形を取り始める。
「ヒェーッヒェッヒェッヒェッ!! ビズトロン、お呼びにより見参」
その姿はまさに怪物であった。ヒトの顔にムカデを融合したような顔、胴体にも多数のムカデが巻き付いたような意匠を見せている。見る者が見れば卒倒しかねないであろう。腰のベルト状のパーツにはブラックバアル特有のドクロを背負ったハエが刻まれ、指先は鋭く尖り真っ赤に染まっている。
「やれ」
指を開き、標的に向けながらビズトロンが迫り来る。咄嗟に構えをとるイリーヴ。
「ヒェヒェヒェ! 喰らえ、ビズトクロー!!」
鋭く尖った指先が分離、発射される。イリーヴは手首から展開するヒレ状の刃で防いだ、がその爪は当たったその場から爆発し始めたのである。
「無駄だイリーヴ。お前のメニギスライサーでもそいつは防げん。ビズトロンの爪には簡易型ベローネが仕込んである」
爆風に押されて崩れるイリーヴ、そこにビズトロンは体に巻き付いたムカデ状のパーツの一つを外して投げ付けた。イリーヴの右腕と胴体に巻き付いた巨大なムカデがイリーヴの体をギチギチと締め上げる。
「ヒェッヒェッヒェッ……どうだイリーヴ、オレ様の絞殺ムカデの威力は!!」
「ぐっ……」
「一度巻き付けば、人間の首なら一分も経たずに泣き別れ!」
「くそォ……!!」
「機械もまた例外ではない!」
自信に満ちた台詞がビズトロンから放たれる。
「ヌゥゥ……バレルフッカー!!」
残った左腕に、大きく湾曲した刃が形成される。自らを締め上げるモノに引っかけ、真っ二つになったムカデが地に落ちる。その断面からは銅線が覗いていた。
「デアッ!!」
その展開した刃を使い、抑え付けにかかってきたゴブリンを一気に斬り伏せる。
「ビズトクロー!!」
向けられた指先から再びあの矢が放たれる。それを見たイリーヴ、咄嗟に近くにいたゴブリンを一体捕まえると、
「ゴ、ゴブゥー!?」
自らを狙う矢をゴブリンを盾にした上で突き飛ばし、爆発に紛れて難を逃れたのであった。
「ヒェェーッ! 逃ィげたかァ!!」
「探せゴブリン! ビズトロン、戻れ」
「ハハァー!!」
再び赤い影になったビズトロンはビアルの衣装の中に飛び込んでいったのであった。
「ゼーブル様、第二計画に移ります」
物陰にて、近くの木に留まったハエ型機械人形、ルシーザにビアルは目を合わせた。
「よろしい。次に確実にヤツが現れるのはコンサート当日、この日ならコモドをエサに出来るだろう」
ルシーザの複眼の点滅と共に、ゼーブルの声が響く。
「承知致しました。では引き続き、アカリナ達との接触を続けて参ります」
「それで良い、頼んだぞ」
ビアル達が姿を消した後、しばらくしてからイリーヴは姿を現した。墓地の近くにあった掃き溜めの落ち葉の中に、身を潜めていたのである。だがその姿を見て、ある通行人が声を上げた。
「おい見ろよ、機械人形が脱走してるぜ!!」
「え、うわホントかよ。捕まえたらいくらかもらえるかな」
「んなッ!? しまった、笠とマントが!!」
解説せねばなるまい。彼が何故異形の姿を笠やマントで隠し続けていたのか。それは機械人形が単独で歩き続けていれば、持ち主から逃げ出したか、迷子になっていると見做されるためである。
「しかもキズだらけだぜ……」
「早く職人に見せないとまずいんじゃねぇか?」
更に、通常の機械人形はキズを自動再生する術を持たない。よってすぐに見つけ出して修理を施さねばならないのだ。そうしなければ、人形の購入にかけた金が全て無駄になってしまう可能性すらある。よって、この通行人の発言は決して金欲しさだけから来たモノではない。更に付け加えるなら、人形に対する悪意から来たモノでは決してなかったのだ。だがこの親切心、今のイリーヴにとっては脅威でしかなかった。
「というワケで」
「早くこっちにおいでぇ」
「……そういうワケにはいかん、職人なら間に合ってる!!」
イリーヴはたまらず駆け出し、そのまま湖の水面へと姿を消したのであった。咄嗟に追った二人は、湖の中にイリーヴの姿を追う。だが黒い機体は水中の暗さに溶け込み、その影を追うことは叶わなかった。行く先々で追われる日々。元鞘からはゴブリンを差し向けられ、通行人からは良心から要らぬ目をつけられ。そんな日々がいつまでも続くかと思われた。だが、事態は急転を迎えることとなるのである。
コンサート当日。ウラルが入院するペンタブルクの病院に、魔女ラァワが訪れていた。
「おはよう、お薬届けに来たわよ。ところで、コルウス先生はどちらに?」
「コルウス先生なら、件のコンサートに救護班として出ております。要件でしたらお伝え致しますが」
「いや、コンサートなら丁度良いわね。ちょっとそっちの方面で用事が出来たのよ」
「そうでしたか。ついでですし、ウラルさんにも会っていかれますか?」
「そうしようかしら」
その頃イリーヴはジーペンビュルゲンを訪れていた。彼の目的は一つ、コモドを探し出すことである。
「もし。コモドの工房はこの辺りと聞いたが」
「ええ、コモドさんの工房ならそこですよ」
「かたじけない」
道を教えてくれた年寄りに頭を下げ、そのまま去ろうとしたイリーヴであった、だが。
「あ、でもさっき、コモドさん出掛けて行きましたよ」
「え、そうなんですか」
「ええ。何でも、噂の歌姫のコンサート、だとか……珍しいわね、あの人がそういうの行くなんて」
「コンサート……それは一体何処で行われる?」
「あそこの大きな公園ですよ」
早速足を運んだイリーヴ。だが圧倒的な衆人環境は、途中まで運んだ彼の足をためらわせた。機械の緑眼に映る情報が洪水を起こす。コモドが中に紛れ込んでいたとしても、読み取れるはずがない。
「何だ……何故人間がこんなにいる……!?」
イリーヴには理解が出来ない。十年の空白期間、そして自らの記憶で手一杯だった彼には世情を追うことが出来なかったためである。咄嗟に公園内の池に身を潜めたイリーヴであったが、爆音が、歓声が、全てが彼の感覚を攻撃する。人間より遥かに高められた機械人形の感覚が見事にアダとなった。
「終わってくれ……終わってくれ……!!」
池の底まで沈み、両手で頭を抱えながらイリーヴは震えていた。中途半端に取り戻した人間性には、機械のもたらす鋭敏な感覚がただひたすら苦痛となる。あくまで機械的に取捨選択していたあらゆる感覚を、今の彼には使いこなせないでいた。
「終わって……ん?」
歓声が、拍手が徐々に小さくなっていく。雑踏の中、聞き覚えのある声を彼の聴力が捉え始める。
『アレ、ケンちゃんは何処だ?』
『おかしいわね、あんなに楽しみにしてたのに』
『とにかく探そう、ラビアはアッチを頼む』
場違いに緊迫感のこもった会話が、彼の脳内に響き始めた。その中に聞こえる名前が、イリーヴを覚醒させる。
『分かったわ……ってコモド! サモナーは!?』
『え? ……嘘だろォ!?』
公園の奥にある池から遂に身を起こし、イリーヴは現れた。
「見つけたぞ……コモド……!!」
時は戻り、コンサート後の事件へと結びつく。ゴーレムが二体、激突する足元にてコモドとゼーブルがぶつかろうとしていた。交差する右腕。突っ込んだコモドの手甲剣を、掻い潜るようにしてゼーブルの毒手が受け止めていた。互いの腕の向こうに見える顔が、赤銅の隻眼と深紅の複眼が睨み合う。
「宝眼術、複眼催眠!!」
「んぐッ……!?」
まるで居合の如き速さで、ゼーブルが術をかける。怪しく光る複眼が、隻眼を通してコモドの脳にもやをかけ始める。
「コモドよ……我が組織に下れ……コモド……!!」
「そうはいくか……」
右手をグッと掴み、掌の中央を指先で押す。爪の喰い込む痛みが本来の意識を呼び覚ます。更にその拳でコモドは自らの視界を塞ぐ。あの光だ、あの光を目に入れると途端に脳が働かなくなり、ゼーブルの声が反響して聞こえ始める。しかし次の瞬間、コモドの脇腹を衝撃が捉えた。腹部を押さえてうずくまるコモドの視界には、蹴り足を戻して残身をとるゼーブルの姿があった。
「コモドさん!!」
様子を見ていたケンが思わず声を上げた。
「どうした。その程度でやられる男ではあるまい」
ゼーブルの動きは一般的な闘術士とは一線を画すモノであった。最低限の動き、最大限の速さで前蹴りが迫る。後ろに飛び退き構えを直すコモドに対し、ゼーブルの複眼が再び光り始めた。
「宝眼術、破眼念爆!!」
咄嗟の判断でその場から転がるコモド。彼のいた跡が爆発を起こす。しかしゼーブルの複眼が再び光る。コモドを追って爆発が起こされる。少しでも速く動かねば巻き込まれる。
「いつまで逃げられるかな?」
「攻め入る隙がない……近付けば毒手、見てしまえば催眠、離れれば念爆……!」
「甘いな。貴様らの脅威は、吾輩だけではないと知るが良い」
パチッ、と弾指を鳴らすゼーブル。するとラビアとケンの背後に庇われていたはずのアカリナとリトアが立ち上がり、
「ちょっとアカリナ!? リトアまで!?」
それぞれ得物を突き付けたのであった。
「ゼーブルッ!? 一体何をした!!」
「フン。気付かなかったのか? アカリナとリトアにはあらかじめ軽めの催眠をかけてあったのだ」
「……それで話が通じなかったのか」
「そして吾輩の合図一つで、催眠の深度を強化出来る。今の彼女らには何を話しても無駄だ」
槍を振りかざし、リング状の刃を飛ばす。ケンとラビアは防戦一方であった。催眠で操られているとしても、ケガ人を相手に本気を出すワケにはいかない。
「今すぐあの二人を殺さねば、鉄脚ラビアはともかく未熟な弟分はどうなるかな?」
「外道め……響牙術、ヴィブロクラッカー!!」
揺らぎを指に灯し、地面に叩きつけたコモド。亀裂が走り、衝撃波と共に土塊がゼーブルに襲い掛かる。踏みとどまり、相手の様子を伺うゼーブルの目に飛び込んだのは、今まさにケンやラビアの元に向かおうとするコモドの姿であった。
「死神コモドよ。吾輩ならば貴様ごとあの四人を吹き飛ばせる。見せてやろう……」
そう言って、ゼーブルはラビアやケン達に視線を向けた。
「……アイツ、こっちを撃つ気だわ!」
ゼーブルの様子に気付いたラビア。その声に、コモドが立ち止まり後ろを振り返る。
「何をする気だゼーブルッ!?」
「宝眼術、破眼念爆」
「まずいッ、ルクトライザー!!」
コモドの声に応えたルクトライザーが、ラビアの前に立って庇った。破眼念爆がその体から土を吹き飛ばす。更にその背後からゼーブルの持つ漆黒のゴーレム、ブラックネメアの爪が襲い掛かった。
「ダメだ……まるで歯が立たない……!」
その様子を見たケンが呟いた。土で出来たルクトライザーの体が、ズタズタに刻まれていくのが見える。
「ルクトライザー!! くそッ、どうすれば……!」
「コモド。今の貴様に吾輩を倒すことは出来ん。この場で散るか、はたまた我らが組織に従うか。選ぶが良い」
「俺が、アンタにつくと思っているのか……!」
「酒場で会った時には怪物になりかけて喚いておったが、今では立派な怪物ではないか。何なら今すぐに、踵を返してアカリナ達を手に掛けるが良かろう。死神コモドにとって、赤枠つきか否かなど関係ないのだからなぁ?」
「チッ……」
「そうすれば貴様の腕にも、ドクロを背負ったハエを寄越してやる。我が組織に相応しい、立派な外道の、怪物の出来上がりだ。大いに祝してやろうぞ」
「コモドさん!! そいつの話を聞いちゃダメ!! あなたは怪物なんかじゃないッ!!」
ケンの叫びが響いた。
「ケンちゃん……!!」
「うるさいのがいるな。やれ、ブラックネメア!!」
ブラックネメアの爪が、ケンに向かおうとする。それを見たルクトライザー、何と背後からブラックネメアに組み付き、何とかその場から離そうとしていた。
「ルクトライザー、よくやった! しかしゼーブル……なんてことを……!!」
「同じことではないか。貴様もアカリナに対して何をした?」
「……だが!! 許されることではねぇだろう!!」
「貴様が言えたことではあるまい。最も、もうルクトライザーも限界に見えるがな」
その時、ルクトライザーの目がコモドにコンタクトをとった。目を合わせたコモドの表情が驚愕に変わっていく。
「ルクトライザー……本当に良いんだな?」
力強く、コモドの愛機はうなづいた。それを見て、コモドの顔に異様な迫力の笑みが浮かんで来る。持ち主の表情を見るや否や、ルクトライザーは凄まじい怪力を発揮、ズルズルとブラックネメアをコモド達から引き離していくではないか。
「……ゼーブル。ロック式ゴーレムの弱点を今教えてやる。ネグロフ、ネシェク、デレック!!」
「ほう?」
取り出した三枚のカードに呪文を吹き込み、まとめてサモナーに挿入される。するとブラックネメアに組み付いた、ルクトライザーの両腕から青い炎が噴き出し、背中から尻尾状の槍が展開するとしなりを以て本体ごと相手を拘束、更にバックル状のパーツからも青い炎が噴き出し始めた。更にルクトライザーの胴体に所々ある、竜の爪状のパーツがグワッと開き、相手を抑え込んでいる。
「吹っ飛ばせ! ゴーレムアーツ、必殺! ルクトラハッグバースト!!」
ルクトライザーの目からも炎が溢れ出し、胸にある十字状の割れ目から大量の炎が一気に噴き出し始める。その機体のあちこちにヒビが入り、同時にブラックネメアにもそのキズが伝搬し始めた。
「ゴーレム内の燃料魔力が暴走している……? 狂ったかコモド!!」
「人を怪物呼ばわりしておいて、狂ったかとは笑わせる。ゼーブル! てめぇの愛機が吹っ飛ぶ姿を見るが良い!!」
もがき出すブラックネメア、だが時は既に遅し。一瞬だけルクトライザーの機体が膨らんだかに見えた次の瞬間、青い爆風と共に黒曜石の残骸が散らばる結果となったのであった。がくっと膝をつき息を荒げるコモド、ゴーレムを自爆させるには大量の魔力、即ちその素となる生命力を多大に消費する。
「貴様よくも……!」
「何だァ!? 負け惜しみか?」
拳を振るわせながらコモドに向かい合うゼーブル。その様子を目にしながら、コモドもまた何とか立ち上がって見せる。
「……と、言いたいところだが。ふはははははは!! 罠にかかったな愚か者め!!」
ゼーブルの予想外の一言が走り出す。
「ほう、一体どんな罠だってんだ? ロック式ゴーレムは一度欠けたなら再生することが出来ねぇ。ああいう風に吹っ飛んじまえばどうなるか! ゼーブル、分かっとんのか!!」
「しかしその分貴様の生命力が削り取れる。ああするにはどれだけの生命力が必要か、まさか分からぬワケではあるまい?」
ビクッ、と目元を振るわせながらコモドは驚いた。
「何だと、まさか最初から……!!」
「そのまさかだ、ふははははははは……」
高笑いを上げながら、ゼーブルは毒手をコモドに向けて迫り来る。
「その生命力で戦えばどうなるか、分かっているはずだ。今の貴様はモノの数には入らない」
脇腹にゼーブルの蹴りが入る。コモドの反応が間に合わない。力なく転がされるその喉元に、赤黒く染まった指先が添えられる。脂汗と共に見開いたコモドの隻眼に、猛毒の先端が映り込む。
「終わりだ、死神コモド」
勝ち誇ったような声を上げ、ゼーブルが毒手を刺し込もうとした、まさにその時であった。
「機動法、バーレルアイザー!!」
「グルァッ!?」
緑色の閃光が走る。ゼーブルは咄嗟に片腕で塞ぎながらも、その場から吹き飛ばされる。すぐさま体勢を立て直したゼーブルと、脇腹の激痛に耐えながら何とかその身を起こすコモド。両者の目に飛び込んだ姿、それは漆黒の機体にせり上がった肩、銀のウロコの装甲が目立ち、頭部のカバーの下には爛々と輝く奇怪なる目。まさに緑眼の魔人、その様相を見てその場の人物は皆それぞれ呟いたのであった。
「黒いの!? 無事だったか!!」
「また乱入してきた!?」
「今度は何する気なの!?」
「イリーヴ……よりにもよって今現れるか……!!」
ボロボロにされた上着の袖を見ながら相手を睨み付けるゼーブル。一方でその一言を、コモドの耳が聞き逃すことはなかった。
「何ィ……おいゼーブル、今何と言った」
「コモド!! 我の名前がどうかしたか!!」
地の底から上がって来るような低い声でコモドは言った。フラつきながらも、その赤銅の隻眼には凄まじい怒りと確かな疑念の光が宿っている。
「ん? ……そうかそうか、貴様何も知らなかったのだな!! この機械人形の正体を!!」
「我の正体だと……」
イリーヴもまた動揺する。コモドの前では一介の機械人形としか名乗れなかった、自分の名前の意味を今知ろうとしている。
「イリーヴ、確かにそう聞こえたぜ! どういうことだ、コイツは偶然か!!」
「偶然などではない。正真正銘コイツは、イリーヴ・デ・メニギスは貴様の友人だったモノだァア!!」
今回、試験的に早朝の投稿とさせて頂きます。




