第十四篇『緑眼の魔人はかつての友』上
この物語は、前話の裏側を追う形で進みます。
その衝撃は突然のことであった。左頬に受けた一撃が、彼の存在せぬはずの記憶を呼び覚まし、身の回りの全てが変わることとなったのは。
「我は……我は……」
何度も、何度も水の中に顔を突っ込みながら呟き続ける。だが感覚のない機械の体に、水の冷たさは伝わらない。
「我は……何なのだ……? そうだ、あの光景を探すんだ。そしてコモドも……」
腰まで水に浸かりながら、黒い機械人形――イリーヴは歩き出す。かつてヒトであった証を、頭部のカバーに収められた脳髄にだけ示しながら。コモドと激突したこの日から、彼の真の闘いが始まったのだ。
「この場所を知らないか」
機械人形の体だから出来ることがある。あの時見た光景、両親の顔と家の浮かぶ景色を、手軽な紙に刷って人に見せて行く。異形の顔を隠すため、布を巻き付けた上に笠を深く被り、マントを羽織った出で立ちで外を歩く。街を歩くのに必要なモノはあらかじめガブルドの工房から抜き出していた。
「ゴブゴブッ!!」
「フンッ!!」
夜が訪れる。その度に来る日も、来る日もゴブリン達が彼を襲う。身を隠す下水道にも、魔の手は容赦なく伸びていた。一体一体なら貫手一発で、時にはヒレ状の刃でまとめて数体を葬り続ける。だがヒトとしての記憶や感情を取り戻してしまった代償か、自らと同じ機械人形であるゴブリンを屠る度に、彼は手を合わせるのであった。
「いつまで我は屠り続けるのだ……」
各地を転々とするイリーヴ。彼から見たペンタブルクの町は驚く程人通りが少なかった。情報は集まらない。だがある時拾った情報が、妙な転機となった。
「この男なら知ってるぞ」
「本当か、何処にいる」
闘う際に記憶に焼き付けたコモドの姿。紙に写っているのは、その記憶からそのまま刷り上げたモノであった。
「そこの白い大理石の建物と、ジーペンビュルゲンにある工房を行き来している」
「分かった、かたじけない」
それだけ言って、イリーヴは喫茶店の扉を開けて行った。すれ違ったテーブルにはラビアとアカリナ、そしてリトアがガールズトークを繰り広げている。コモドに繋がるであろう情報を持つ存在は、存外すぐ近くにあった。
「うぐッ……!?」
ある時、ゴブリンの投げ付けた斧が大腿部に突き刺さった。いつもと違う、不快な感覚がイリーヴの脳髄を襲う。がっくりと膝をついた状態で、斧を引き抜きゴブリンへと投げ返した。首を落とされるゴブリン、だが不快な感覚は治まらない。
「何だコレは……脚が動かない……? まさか、これが“痛み”か?」
図らずとも彼は己の体の仕組みの一つに気が付くこととなった。腕を斬られても、脚を失っても、彼の人形としての体はまるで生物のように回復し、元通りとなる。それがある日途絶えたのだ。ゴブリンの斧で割られた脚を抱えて隠れ家に戻り、ふと自らが屠ったゴブリンに目を遣る。
「旨そうだ……味覚なぞなかったはずだが……」
気が付いた時には、イリーヴはゴブリンの頭部を掴んでいた。その断面に口と思しき部位をあて、夢中になって喰らいつく。残っていたタルウィサイトが、彼の頭部を通して体に摂り込まれた。するとどうだろう、たちまち彼のキズは元通りに直って、いや治っていったのだ。
「……旨い。いつぶりだろう、こうして食事をしたのは……え、食事……?」
イリーヴの脳裏にまた何かがよぎる。昼間に見た、喫茶店にあるようなテーブル。食事を摂っていた、あの味が浮かび上がって来る。
「前にも食事というモノを摂ったことが、ある……? いや、何故人形である我に、何故そのような概念が……?」
自らをヒトであると忘れていた。自分を機械人形だと信じて止まない元人間。その実態は全く以て一般男性、だったモノ。
「誰かがいる……テーブルの向こう……我が誰と会食をしていたというのだ……?」
自らの脳に集中する。わずかに霞んだテーブルの向こうに浮かぶ人影。その正体を必死に探ろうとする。前頭葉に痛みを覚えながらも、遂にイリーヴはその顔に辿り着いた。そして呟くのであった。
「……コモドか? 我はコモドと、何があったのだ?」
翌日から、再びコモドを探し始めるイリーヴ。しかしまたもや彼にはチャンスが舞い込んだのであった。それも突然に。
「邪魔されるワケにもいかん。我が主人のためにもな!」
「……名乗ったらどうかしら。一方的に知られるのもイヤな感じだし」
ジーペンビュルゲンとペンタブルク、二つの町を繋ぐ森の小道。オーバーヒートを頻出する頭部を川の水で冷やしている最中にその声は聞こえて来た。
「お控ぇなすって。手前、しがない闘術士の未熟者で御座ぇます。その名をビアル・ガーダイル!」
「丁寧なアイサツどうも。で、何故にあたしの友人に近付くのかしら?」
「貴女が知る必要はない」
「それに主人ってだぁれ?」
「これ以上詮索するのであれば、今この場で挑戦者として対応させて頂こうか」
闘術士同士のやり取りが聞こえてくる。戦闘が始まろうとしている、緊迫した会話。イリーヴは身を潜め、その様子を見た。
(一人は女……片足から我と同じ雰囲気を感じる。もう一人は男……ん? あの男、何処かで見たような……?)
イリーヴの視界が男の方にフォーカスされ、文字情報で埋め尽くされる。右の前腕に反応が見える。ドクロを背負った、ハエの紋章が刻まれていた。自らの前腕にもある、あの模様が。
(ヤツはブラックバアルにいた男……そうだ、工房にいたヤツだ。名前は確か……ビアル!)
引き続き様子を探る。思わぬ所に思わぬ者がいたことに驚きつつも、千載一遇の好機を逃すワケにはいかなかった。工房にいた者なら、何かを掴めるかもしれない。
「どうかしら? コレがあたしの右脚の真の姿、コモド印の義足砲、タイパン社もビックリな六四口径! 火尖脚砲よ!!」
「フッ、この場で宣伝とは悪くない、悪くない……」
歪み切ったビアルの得物を戻すタイミングを見計らい、イリーヴは茂みから右腕を伸ばす。
「……バレルシャフト!!」
「だが勝負はこれからだ……ム?」
ビアルが話す、すぐ横の木にわざと当てた。驚く両名がイリーヴの方を見る、だが彼は構わず乱入してみせた。
「アァァァ……コモドォォ……コモドは何処だァァ……!!」
「アイツ……!!」
イリーヴは意識の底から湧き上がる千載一遇の喜びと、ブラックバアルへの憎しみから片言になりつつもビアルの方に詰め寄った。驚くビアルはイリーヴに対して構えをとる。しかしその背後でのことであった。
「コモド……? まさか創られたの?」
ラビアの思わず発した一言がイリーヴの意識を変えた。あの時見た記憶、その鍵となる人物の名前は、今の彼には劇薬に等しいモノであったと言えよう。
「コモドを知っているのかァア!!」
条件反射とでも言うべき速さで彼は反応した。
「やば……余計なこと言っちゃった?」
自ら背を向けてしまったビアルの逃走にも構わず、イリーヴはラビアに迫った。
「コモドは何処だァァアア!!」
「……知ィーらないッ!!」
ラビアまでもが逃走を図る。イリーヴは幹に刺さった銛を引き抜き、後ろに振りかぶって投げ付けた。チラと後ろを見たラビアはわざと低空を滑り、体をひねって銛を掴むと引っ張り返した。
「火尖脚砲!!」
その場で右脚での蹴りと共に火炎弾を放ちけん制するラビア。顔面に飛んで来るこの一撃を、左のヒレ状の刃を使って防いだイリーヴであったが、火炎弾による衝撃はその巨体を押し返していた。内部に脳味噌があるためか、イリーヴは無意識のうちに標的から顔を反らしてしまっていた。
「……逃がさない」
刃を格納し、再び視界を開けたイリーヴはラビアの飛び去った方向に目を遣った。反応の小さいラビア、そこに駆け付けた二人の反応、そのうち一人が、髪を片方結びにした独特なシルエットの男がこちらに駆けて来る。そして立ち止まり、この男は叫んだのであった。
「何処だッ!! コモドならここだ、ここにいるぞ!!」
「コモドォォオオ!!」
その声の音色は歓喜からか、それとも憎悪からか。
「よォ……久しぶりじゃねぇか。何で俺を探してたんだ?」
「我は……我は貴様と会ったことで、ないはずの記憶が蘇った! 貴様と闘ったあの日、我は創造主を殺して脱走した。追手をまき、この国のあちこちをひたすら彷徨った。だが何も分からない、だから探した! 貴様は我の何なのだ!!」
感情の濁流に翻弄されつつ、自身の海馬に浮かんだ言葉を必死につなぎ合わせ、イリーヴは叫ぶ。
「知るか!! だがこれだけは言わせてもらう、俺の友人達を巻き込むんじゃねぇ!!」
「ならば……貴様の拳に直接聞いてみるだけだァァ……!!」
拳を強く握り、手甲に展開された刃を構えるコモド。肘から伸びた刃を器用に使い、イリーヴから飛んだ貫手を受け止め、ヒレ状の刃を返し、隙あらば斬り付けんとする。ぶつかり合い、互いに弾く度に、間合いを保った両者は構えを解かぬまますり足を動かし続ける。交差する互いの手、急カーブしたコモドの腕がイリーヴの前腕を掴み、その勢いで宙に浮いたコモドの空中回転蹴りが頭部に炸裂する。
「何か思い出したか!!」
「グ……バレルシャフト……!」
「あの時の銛か……!!」
放たれた銛はコモドの腹部を捉えたかと見せかけ、逆にイリーヴに突き返されることとなる。そして入ったブラックバアルによる横槍。コモドがゴブリンと闘うその間に、イリーヴは姿を消していた。
「コンサートの最中に、乱入してきたらヤだなァ……」
コモドは呟きを一言残し、工房へと戻るのであった。
「イリーヴ・デ・メニギス……! 拙者の知らぬうちに何処に行っていた!!」
小道から外れた森の中で、イリーヴに槍を突きつけ詰問する男がいる。ゴブリン二体に拘束させ、更に数体を用意して辺りを見張らせていた。
「……ビアルなどに話すことはない」
「イリーヴ。ガブルドを殺したのはお前だな?」
穂先でアゴを上げながら、問い質さんとするビアル。
「そうだ。ヤツは我を利用しての反逆を企んだ。ビアルにとっても危険だった男のはずだ」
「それなら何故脱走した……!!」
「お前も同じだ……我を利用しようとしている」
フン、とビアルは鼻で笑いだした。
「利用だと。利用されぬ機械人形に、居場所などあるモノか!!」
「なら、我に何故あのような記憶があるのだ!! この頭部に詰まった脂とタンパク質の塊がそうさせるのか!!」
カバー越しに見える脳を見て、ビアルは一瞬だけ言葉をためらった。だが、決意を固めて口を開く。
「お前は、メニギスという機械人形はヒトの脳を知能として組み込み、生物としての側面と人形としての側面を良いとこ取りした新型オートメイトだ。お前の脳の持ち主はとうの昔に死んだ。ガブルドの元に担ぎ込まれた時には既に手遅れだったのだよ」
「んな……」
「お前は人形であり死人だ。死人が記憶を取り戻したところで何の意味もない。そうと分かれば……」
ビアルがイリーヴに手を伸ばした、まさにその時であった。その手の甲に光る何かが突き刺さる。槍を落とし、咄嗟に手を引っ込めたビアルであったが、手の甲にははっきりと焦げ目がついていた。飛んで来た方に目を遣ると、そこにいたのは。
「久しぶりね。随分とやさぐれちゃったみたいじゃない。ビアル」
「お前は……ッ!! 何故ここに来た!!」
艶っぽい女性の声が響き渡る。同時に、見張りに立たせていたはずのゴブリンの頭部がその場に投げ込まれた。
「息子の友達だった、かもしれない相手がここまで痛めつけられているのよ。今、イリーヴって言ったわね?」
「聞かれたか……だがお前には関係のないことだ、ラァワ!!」
ヤブを杖で払いながら、特徴的な黒衣を纏いラァワは姿を現した。
「魔女であるお前が、こんな機械人形に何の用だ」
棒手裏剣が放たれる。
「機械人形? 私にはね、はっきりと人間が見えているのよ。貴方と同じ、人間がね」
杖が一閃、棒手裏剣が落とされる。
「笑わせるな。魔女といえども齢九十では流石に耄碌か。機械人形が人間に見え、拾った子供が息子に見えているんだからな!」
「あら、今のは聞き捨てならないわね。それを言うんなら、ここは貴方達の国ではないわよ」
「……お前の国など何処にもない。構わん、やれ!」
イリーヴを押さえていたゴブリンが二体、ラァワに飛び掛かる。一瞬にして姿を消した標的。直後、目にも止まらぬ速さで、まず一体の頭部が何処かへ飛んで行く。
「真魔術、ヘクセンカッター!!」
杖に光の刃を発生させ、更にもう一体のゴブリンが斬り捨てられる。
「化鋼術、武創変幻!!」
棒手裏剣の一つをビアルラッシュに変え、ビアルが構える。光子剣となった杖を逆手に、ラァワもまた構えをとる。そのまま、じりじりとイリーヴの方に近付いていくと、コルセットに仕込んであった一枚の魔女摂符を取り出してイリーヴに渡すのであった。
「……コレを持って、早く行きなさい!」
小声でそっと、ラァワが告げる。
「私が足止めしておく。良いわね、捕まるんじゃないわよ!」
「かたじけない……!!」
イリーヴをかばいながら、ビアルの前に立ちはだかるラァワ。そこに得物を向けながら、ビアルが吼える。
「何を渡した。まさか、ヤツの記憶を蘇らせるつもりか!!」
「ええ、悪いかしら? こうしないと、あの子によってコモドが危なくなる。そう占眼符に出たのよ」
突撃するビアルの一撃を、その場から飛び上がり頭上を軽々と越えてかわしてみせる。
「何処までもコモドのためか、子離れしたらどうなんだ?」
「貴方こそ、ゼーブル何かに忠誠を誓う価値は何処にあるのかしら」
斬り上げられる得物の、先端に留まりビアルを見下ろすラァワ。ビアルラッシュの刃は全て鈍角となっており、斬るというより叩き潰すのに適した形状をしている。
「ラァワ!! 我が主は、お前の本来の主でもあるのだぞッ!! 愚弄するかッ!!」
「あら? 良いこと聞いちゃった……そうなの、そういう繋がりがあったのね」
真上に棒手裏剣を打つビアル、だがラァワは履いているブーツのヒール同士を打ち鳴らすと一瞬で姿を消した。だがそれを見るや否や、ビアルもまた得物であるビアルラッシュの先端を真下に向け、打ち付ける。爆音と共に姿が消えた。直後、同時に姿を現した二人は得物同士をぶつけ合っている。
「じゃあ聞かせてもらうけどねビアル、ビーネハイム家の毒手を教えたのも貴方なのかしら?」
「そうだ。最もあの御方なりに改良も施してるがな」
「貴方の右手には仕込まないのかしら」
「必要ない。拙者にはそのようなモノ、仕える上での邪魔にしかならんからな!!」
瞬間移動を繰り返す度に、周りに余波が及んでいく。重さにモノを言わせるビアルの一撃が木の幹をえぐり、鋭い斬撃を伴うラァワの一撃が枝葉を散らす。
「ビアル。そこまで貴方がイレザリアの貴族制を踏襲したがるのは何故かしら。今の時代、爵位なんて飾りにしかならないわよ」
「拙者から子爵家を奪ったお前が何を言う! お前さえ暴走しなければ!!」
鍔迫り合いに持ち込んだラァワとビアル。ヘクセンカッターから火花が散り、ビアルラッシュが灼熱化する。
「私が、暴走しなければ?」
ヘクセンカッターを押し切り突き出される一撃。ラァワのコルセットから展開した魔力の翼が攻撃を受け止めた。ビキビキと、スキンヘッドに血管を浮かせながらビアルは吼え猛る。
「お前さえいなければ、ビーネハイムの館があんなに荒れ果てるようなことはなかったのだ! あの時お前が落としたシャンデリア、今もそのままなのを知っているだろうッ!!」
「そしてオークだらけになったのも私の責任なのかしら? さっきの子もそうだけど、私は領民をオモチャにするなんて悪辣なマネはしないわよ。今も、昔もね!」
「ぐっ……!!」
ラァワが逆にタンカを切り始める。同時に、その手に爆燃符が握られていた。
「あの屋敷に沸いたオークが、エポラール商会を襲って大騒動になったわよ。そればかりかトロールまで出現するなんて。とても自然発生とは思えない規模よね、まさかあの屋敷で沸かしたんじゃないでしょうね?」
「フッ、自分らの屋敷を使って何が悪い?」
「だったら、せめて使う用途ぐらい考えるべきだったわね……!!」
取り出した爆燃符、だけでなく魔女摂符五種類全てを杖に刺し、ビアルに向けてその場に浮かす。印を結ぶような手つきをとった後に、ラァワの唇は術名を唱えた。
「真魔戦法、ロザリウムシュート!!」
杖に蝙蝠に似た形の羽が四枚も生え、矢のような形となり、ビアルめがけて一直線に突き進む。爆発が起き、その痕跡を確認するラァワ。だが、後には黒いススが少し残るだけであった。
「……逃げたわね。しかし、まだ近くにいる」
「流石だ、魔女ラァワよ。だが気配だけでは拙者を討つことは叶うまい!!」
声だけが響く。占眼符を取り出し、辺りを探り始める。
「よく聞け。我々の目的はこの国に新たな秩序と支配をもたらすことだ。政府の人間とて我々に逆らうことはなくなるだろう。魔女に飼い慣らされた愚民を、我々が解放するのだ。イリーヴもまた礎の一つに過ぎぬ」
「ビアル! そんな考え方、貴族の風上にもおけないわよ!! 高貴なる義務を忘れたのかしら!?」
占眼符越しにラァワの目が光る。だがどういうワケか、ビアルの気配と声は感じるにも関わらず、その姿を捉えることが全く出来ないでいた。魔女を千里眼を欺く、そんな技術は並大抵のモノではない。
「新たな時代の到来を楽しみにするが良い。ハッハッハッハッ……」
「……視えない。化鋼術に、こんな技はあったかしら」
高笑いを最後に、ビアルの気配は完全に消え失せたのであった。肩の力を抜いたラァワ、その唇がポツリと呟く。
「まさか、こんな形で再会するなんて。しかもかなり強敵になるわね……」
杖をコルセットに格納するとそのまま翼を展開、飛び去るのであった。
「あの子、無事に逃げることは出来たかしら……?」
「申し訳ありません、ゼーブル様。イリーヴを取り逃がしました」
薄暗いアジトの中、膝をついてビアルが報告する。
「面を上げよ。良いではないか」
茶を口にしながらゼーブルは言葉をかけた。
「元はと言えば乱入者、裏工作の邪魔にならぬだけマシだったと言えよう」
「ハハァ……しかしながら、この後も邪魔になる可能性が大いに御座いましょう。何せ、魔女ラァワが接触致しまして」
「魔女か……ともなれば、次の行動を先読みしてくる可能性が大いにある」
カップをソーサーに置き、ゼーブルはほんの少し考えると、決断的に席を立つのであった。
「毒を仕込んでくる。ビアル、茶器を洗ってきてはくれぬか」
「かしこまりました」
前話での戦闘の続きは、次話に御期待下さい。




