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異世界奇行 ~ダーメニンゲンの詩~  作者: DIVER_RYU
序集 『異世界奇行』
3/61

第二篇『ウェルカムトゥようこそ異世界へ』上

この物語は、異世界から来た少年を拾った現地のおっさんのお話です

「さてさて、連れて来たは良いんだが……」


 長イスの上で寝っ転がる一人の少年。彼を連れて来た男は、その長い銀髪をえんじ色のターバンで巻いて押さえながらその様子を見ていた。


「しかし奇妙な巡り合わせだなあ。五歳の時に今の母さんに拾われたこのコモドちゃんが、今度は拾う側になっちまったよ。身元が分かれば良いけど多分そうはいかねぇだろうな。それに一度何処かで診せた方が良いしな、連れて行くか」


 机にある引き出しから、カードの束を取り出すとベルトに付いたカードホルダーに差し込み、補充する。この白紙のカードはゴーレムの機動に使用していたモノである。呪文であるエメト、ネグロフといった言葉をこのカードに向かって吹き込むことにより、その力を発揮するのだ。


「ん、ここは……?」

「お? 御目覚めみたいだな。本日何度目の寝起きだい、という冗談はさておき……」


 目を覚ましたケン。辺りは薄暗く、所々にランタンを思わせる明かりが灯っている。作りモノと思われる手や足が所々に置かれており、窓らしきモノは見当たらない。


「ようこそ、俺の工房へ。そこに転がってるのはいわゆる義肢ってヤツさ。俺の本職は魔動機の職人でな、色々作ってるんだぜ」


 聞かれてもいないのにコモドは語り始めた。


「最もそこにあるのは試作品……おっと、勝手に語って申し訳ない。さて目を覚ましたとはいえ心配な箇所がいくつかある。隣町まで行くぞ」


 コモドは部屋の中にある、レンガを組んで作られた柱に歩いていく。カードを一枚取り出すと、


「エメト。まぁ見てな、コイツは俺の自信作だぜ」


 そう言って、一つだけ色の違うレンガにカードを投げて差し込んだ。すると何ということだろう、このレンガ一つ一つがまるで意志でも持ったかのように動いては柱そのものが開き、ヒトが入れるスペースが出来上がったのである。


「コレはすげぇ!?」

「お、目ぇ輝かせとるな? 発明家冥利に尽きるってモンだぜ。まぁ入りなさい、操作はこっちでやるから」


 二人が中に入るとレンガは元に戻り、中に光が灯った。


「一番上まで頼む」


 コモドが一言入れると、二人の立つ床がどういう原理か、どんどん上昇してゆく。驚くケンであったが、同時あるモノを思い出していた。


(驚いたけどコレ、要はエレベーターだよな)


 玄関を通り、コモドは掛けてあったマントを取ると、外に出るなり羽織って階段を下る。家そのものは高床式であり、先ほどのレンガの柱が地下まで貫いている。床下に出来た物陰には、全身を鱗に覆われた恐竜にも似た生物がくつろいでいた。全長は三メートル程、かなりの大きさである。


「え、何このでっかい生き物は?」

「あれま、竜を見るのは初めてかい。この子たちは闘竜とうりゅうと言ってな。まぁいつもはこんな感じで、床下で眠ってる温厚な存在だよ。今回はちょっと協力してもらおうか」

「え、協力?」


 コモドは、集落の中にいる竜達を見繕い始めた。この集落の建物はいずれもコモドの家と同じく高床式であり、竜は実に身近にその床下でくつろいでいる。どうも非常に身近な存在のようである、しかし竜である。ケンには少し、ついて行けぬ光景であった。何せ竜、それまで彼が住んでいた場所には竜というモノは空想上の生物、ましてやこのような光景など考えられなかったためである。ある一か所だけ、竜に似た生物が集落内にも多く棲む場所があったのだが……。


(こないだテレビで見たコモド島みたいだなまるで。食われたりしなけりゃ良いんだけど。って、このおっちゃん確か名前が……)


 見慣れぬ景色をキョロキョロするケンは、一頭の竜に近付いてみた。うつ伏せになり、ダラッと伸びている。コモドの言う通り、非常に大人しい生物であるらしい。記念に少し触れてみようかと思ったのか、ケンはそっと手を伸ばしてみた。彼自身の竜のイメージが壊れかけていた、その時である。


『何か用か?』

「え、誰、誰!?」


 突如ケンの中に声が響いたのである。声の主は分からない。声の主を探すケンに、更に声が響く。


『こっちだよ』


 言われた方を向くケン。そこにいたのは如何にも先程まで眠っていた竜、目だけをパッチリと開いていた。


「あら、竜に話しかけられたのか。口動かさないし、分からなかったかもしれんな」

「え、この生き物、喋るの!?」

『失礼な』

「あ、こら、機嫌損ねたな」


 竜に向かって向き直したコモドは竜に目を合わせ、少し経つと再び口を開いた。


「分かってくれたよ。良いかい、竜に接する時は今から言うことだけに気を付けておくれ。まず第一に敬意を以て話しかけること。竜は脳味噌に直接話しかけてくるが、同時にこちらが口で喋ったことも理解する力がある。はっきり言って知能はヒトより上だ。第二に、間違っても口には手を近付けないこと。竜は口に何かしらの力を持っている、この子達は毒を持ってるからね」

「温厚な生き物って言ったよね、言ったよね!?」

「いくら温厚なヒトでも怒る時ゃ怒るだろ、そういうことだぜ。あと竜の持つ毒は、一度体内に入ると中々外に出ていかない。噛まれないよう気を付けとくれ。滅多にないことだが、怒らせると霧状にして吐くことすらあるから。と、まぁこの話はここまでとして、竜を一頭説得したからこっち来てくれ」

「説得ッ!?」


 コモドに言われるままにケンが付いていくと、そこには一際大きな竜が待っていた。全長実に四メートル、ガッシリとした筋肉質な後足に、立派な爪を生やした前足、それでいて何処か温厚な目付きが特徴の個体である。


「この大きさなら二人乗りが出来る。丁度体を動かしたいそうだ、だから協力してくれるってよ」

「コモドさん何処まで竜と話し込んだんですか!?」

「あぁ、まぁ、その昔闘竜と一緒に暮らしてたことがあってな、話はしやすいんだよ。さ、後ろに乗ってくれ」


 コモドはその竜の背中に乗ると、竜が自らのヒゲをコモドに握らせる。その後ろにケンは乗ると、コモドにしっかりと掴まった。それを確認すると、コモドは竜のヒゲを持った手にスナップを利かせて、


「ハイヤァァーーッ!!」


 と声を上げると竜の後ろ足が躍動、地面に大きく足跡を抉って竜は駆け出した。


「うおわぁぁあああああおおおああああああ!? 速い速い速ァァアアアい!?」

「凄いだろォ! 闘竜ってのはこの速さでブッ通し半日は走れるんだぜ!!」


 しかしわずか十分後のことである。


「おつかれ!」

「速いな!!」


 隣町に到着した。コモドは帰って行く竜に対して手を振っている。


「そのまま帰しちゃうの?」

「嗚呼、それがマナーだ。竜は道を間違えない。さ、目的地はすぐそこだ、行くぜ」


 コモドと歩く町並みは、それはそれは独特なモノであった。この町には先程のような竜はおらず、人種も種族も様々な人々が行き来していた。ある者は腕から背中にかけて皮膜が張っており、またある者は角が生えている。建物は木造であったり石であったり、アジアなのかヨーロッパなのか分類に苦しむ街並みである。屋台には東南アジアを思わせる串焼きやら麺料理やらが目立っていた。


「ここはペンタブルクだ。何処から来たのかは知らんが、闘竜も知らんとくれば恐らくこの辺りのことはほぼ知らんだろ、案内するぜ」

「ありがとうございます。ところであの、何処か独特な建物は一体……?」


 ケンが指差した方向にあったのは、その中でも一際、中世の香りを漂わせる古い造りの家であった。ツタを多く絡ませ、蝙蝠の羽を生やした小鬼のようなモニュメントが目を引く、いかにもな怪しい家である。


「魔女でも住んでそうな……」

「その通り魔女の家さ。そうそう、あれこそが目的地な」

「へぇ目的地……ってあそこがァ!?」

「そうだよ? 言っておくがあの家の飾りやら植物やらは全て意味がある、ヤボなことは言うなよ」

「いや、まぁ、その、僕を、一体何故あそこに?」

「着いたぜ」

「無視された? 僕スルーされた?」


 大きな扉の前に立つコモドとケン。周りがアジアやらヨーロッパやらのチャンポンなのに対し、この建物だけは浮いて見えるほどの中世ヨーロッパである。


 扉にはノック用の金具がついており、蝙蝠の意匠が付いている。コレを使い、コモドは二回ノックをした後に、右手を親指と人差し指と中指の先を合わせて薬指と小指を曲げた独特の形にすると、額、左肩、鳩尾、右肩の順に指を動かした。現実世界においてキリスト教徒が十字を描く動きに少しだけ似ている。


 その動きをとると、今度はパンと音を立てて手を合わせた。するとなんということだろう、扉は一人でに開いて二人を中にいざなうのであった。扉を通って開口一番、コモドは、ケンにとってある意味衝撃の一言を発するのであった。


「母さん、ただいまー」

「お邪魔しまーす……て、え、ただいまッ!?」

「うん、ここね、俺の実家」


 実にしれっと、コモドは言った。すると奥からコツッ、コツッと独特な音が響いて来る。緊張してガチガチになるケンに対し、それを不思議そうに見つめるコモドはリラックスしきっていた。いつの間にかターバンまで外している。


 そして音が近付くごとに、壁やシャンデリアにある蝋燭が一つずつ灯っていく。明るくなった玄関に、遂に魔女が姿を現した。長く艶のある黒髪といかにも魔女を思わせる黒い衣装は白い肌と見事なコントラストを描き、その中において目立つ黄金色のファーを肩から胸元にかけてまとっている。しかしその顔は息子たるコモドよりも若く美しく、そしてその胸は大変に豊満であった。黄金色の目、スリットにより三分割されたスカートからは赤い裏地が覗き、足には何ともまぁ高いヒールを履いている。


「おかえりなさい、コモド。おや、その子ね、例の保護した子は」

「は、はいッ! け、けけ、ケンですッ!!」

「緊張すんなよぉ。てかさっき足元から頭のてっぺんまで、舐めるように見つめていたなぁ?」

「良いじゃないの別に。コモドの母親です、ラァワと申します。あなたが例の子ね、手紙でうかがってますよ。さ、こっちにいらして下さい」


 ケンが色々な意味でガチガチになる中、魔女ことラァワはスムーズに奥に案内しつつコモドと親子の会話を広げていた。最早ケンは蚊帳の外である、用事があるのは彼なのにも関わらず。


「……でね、そこで拾ったのが彼なんだよ。ケガしてる様子はないけど、心配だから連れて来たってワケでさ」

「そうね、一度診ておいた方が良いわね。嗚呼、お茶を沸かすからちょっと待っててね」


 テーブルに案内して二人を座らせると、ラァワはそのまま奥に入っていった。ケンは緊張しきったのか、背筋が妙な伸び方をしている。そこに気付いたコモドは彼の目の前で、パチッと指を鳴らしてみせた。いわゆる、弾指たんじと呼ばれる方法で。


「緊張しすぎだっつーの! これじゃ俺、まるで気の抜けない環境で育ったみたいじゃねぇか」

「あの、その、聞き辛いんだけど、あの人ホントにコモドさんのお母さん……? 何か、若すぎない!?」

「そりゃそうだ、あの人は俺の実の母親ではない。実の両親は、俺が五歳の時に死んじまった」

「えっ」

「お茶が出来たわよー」


 出された茶を飲みながら、ケンは思った。今、目の前にいる銀髪サイドテール眼帯おじさんは、思ってた以上に過酷な人生を送って来たらしい。


「俺がケンちゃんについて疑問に思ってることは山ほどあるけどね、敢えて絞り込むなら何処から来たんだい」


 茶を一気飲みしながらコモドが切り出した。ツタが描かれた西洋風の急須からドボドボとカップに注ぎつつ。


「えーと、何処からかと申しますと……日本って国です」

「ニフォン? 何処だよそこ」

「私も聞いたことないわね、ニフォンって」

「……ニホン、です。御存知、ありませんかやっぱり」


 コモドとラァワは顔を見合わせ、息ぴったりのタイミングで首をかしげた。


「えと、そのニッ……ホン、から、どうしてここに?」

「僕にもよく分からないんです。夏休み始まって、自転車で家に忘れ物取りに走ってたら急に辺りがおかしくなって……」

「夏休み? 自転車? 母さんわかる?」

「いや、聞いたことないわね」

「……ともかく! 変な裂け目に引き込まれて、気が付いたらなんか密造所に風穴開けて入ってしまってて、正直僕も何が起きているのかよく分からないんです」


 ケン自身も自分で何を言っているのかよく分かっていなかった。 


「ヒトを引き込む裂け目ね。逆なら聞いたことあるわよ」

「何ですかそれは!?」

虚空触界陣こくうしょっかいじんという禁断の兵器よ。かつてイレザリアが研究してたって聞いたことがあるわ。最も裂け目から出てくるのはヒトではなく、ヒトを食うバケモノ達なんだけど」

「何それ怖いな」

「ただ、起動するには天肆てんし族の力が必要とも聞いているわ」

「あの、イレザリアって? あとてんし? って一体」

「嗚呼、ごめんなさい。イレザリアというのはここの隣国よ。コモドも私も本来はここの出身なの」


 本棚にあった地図を広げてラァワは説明し始めた。


「ここが今いる町、ペンタブルク。コモドが普段住んでるのはここ、ジーペンビュルゲン。かつての言葉でペンシルバニアね」

「……字が全く読めない」

「あれ、言葉通じるけど字は読めないのか!?」


 ケンというか現実世界の我々から見ると、地図にはキリル文字やギリシャ文字、梵字等をチャンポンにしたようなとても読めるシロモノではないモノがびっしりと書かれていた。


「コモド、後でケンちゃん連れて図書館に行ってきなさい」

「その方が良いな、うん」


 またも突然の『ちゃん付け』に驚くケンであったが、この二人には些細なことらしい。


「で、続き。この国境の向こうがイレザリア、正式には神聖イレザリア皇国よ。で、こちら側はダーメニンゲン」

「え、駄目人間?」

「違う! ダー・メ・ニン・ゲン、これも正式にはダーメニンゲン連邦、三つの国で成り立っている。この辺りはインクシュタット、その隣にはキャンバスコット、イーゼルラントと続いている。まぁこの三つは関所がないから簡単に通れるよ」

「ちょっと色んな意味で追いつかない……あと、日本、日本何処だよ、それらしいのがまるで見つからない」


 再びコモドとラァワが顔を合わせる。するとコモドが何かを思いつき、何やら台座に刺さった羽ペンと紙を持って現れた。


「ケンちゃん、簡単なので良い。ニーホンの形をここに描いてみてくれないかね」

「わかりました」


 ケンはペンを台座から引き抜くと、その先端からインクが滴っている。付けペンであるらしい。持ち慣れない羽ペンで指をカタカタいわせながらも、簡単な日本列島の図を彼は描いた。その図を見てコモドが言う。


「何だコレ、下手クソに描いた蹄竜ていりゅうか?」


 蹄竜は竜の一種なのだが、解説は実物が登場した後にする。


「いや、こういう形なんです。周りが海に囲まれてて」

「海ィ!? え、島なのこれ、えぇーッ!?」

「こんな印象的な形、見つからない方がおかしいわよ。少なくともこの世界にはない国ね。そういえばコモド、この子村や町で変なこと言ったりやったりしてない? 竜を怒らせたりとか」

「うげっ」


 ピンポイントすぎる指摘に驚くケン。わずか数十分前にやらかしたばかりである。


「嗚呼、やっちまってた。だから少なくともインクシュタットの人間ではないのは確かだぜ、闘竜相手に『喋れるのかコイツ』なんてなぁ」

「そこまで言ってない!!」

「それともう一つ、ちょっと紙くれ」


 コモドは羽ペンにインクを浸し直すと、紙に向かって素早く手を動かした。数秒のうちに紙には、ケンの持っていた自転車が精密に描き込まれていた。


「え、え、絵ェめっちゃ上手い!?」


 コモドは一発鼻息を思い切り噴き出した後に、口を開いた。


「俺は一度見たモノは簡単には忘れない。これくらいは御手のモノよ。さてコレなんだけどね母さん、ケンちゃんが持ってた魔動機なんだけど見たことある?」

「ないわよいくらなんでも。ケンちゃん、これって一体、何?」

「それは自転車です。魔動機なんて大それたモノじゃなくて、ここにケツ乗せてここに足を乗せて踏み込むと、この輪っかが動いて前に進めるんです」

「この横に突き出た棒は何?」

「グリップです。ここを握って運転するんです」

「こう?」


 コモドは、棒と丸で出来た簡単な自転車の絵に、これまた棒で出来た人間を乗せた極めて簡単な絵で見せた。さっきの気合の入りようとはあまりに異なるが、それでも核心を突いている。


「そうです、そうです!!」

「魔動機ならぬ、筋動機ってとこかしら」

「脚動機じゃねぇの? しかしそろそろ、ケンちゃんのことを診た方が良いんじゃないんかい」

「それもそうね」


 飲み切ったカップを皿に置き、ラァワが立った。


「ケンちゃん、こっちにいらっしゃい。コモドは後片付けをお願いね」

「はいはい、任せといてー」


 ケンが案内されたのは、ラァワの仕事場であった。薄暗い部屋の中、一対一で対面する椅子、水晶玉、各種薬草、独特の匂いのする蝋燭がケンを歓迎する。


「先に説明しておくわね。私達魔女の仕事はいくつかあるけど、主となるのは訪ねて来た人の苦悩や苦痛を探って和らげることにあるの。そのためには簡単な治療や、占いといった業務を魔女としての能力で行うのよね。というワケでまずは……」


 ラァワはその豊満な胸から、一枚の札を取り出した。ケンの瞳孔が思わずグワッと開く。


「コレは魔女摂符といってね。私達の商売道具で色んな効果があるんだけど……って聞いてる?」

「……ああ! すみません!!」

「続けるわよ。その中でもこの札は占眼符せんがんふといってね。通常では見えないモノを『視る』ことが出来るの。これで中の骨とか内臓とかが大丈夫か見せてもらうわ。だから、服を脱いでそこに横になってくれる?」

「え、服を、ですか?」

「そうよ。……ふふっ、一体何を考えてるのかしら?」


 ラァワは占眼符を目にあてながら含み笑いをした。ケンはここで気が付いた。脳味噌の中を、全部『視られた』ということに。


「ちょ、え、あ、その、その、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

「良いわよそこまで言わなくて。十七歳なんでしょ、当たり前よ。ただ、成人の儀式はしてないみたいね。どうも二十歳がそちらの成人みたいだし」

「そこまで視ちゃったんですか!?」

「それくらい軽く視えるわよ。そうそう、この国では十五歳が成人なの、ここでまともにやっていくには成人の儀式が必要だわ。魔女によって行われる儀式だから、後で時間作ってやってあげる。それより今は、大丈夫か診ないとね。と言っても今終わったんだけど」

「え、いつの間に」

「骨も内臓も、体の巡りも何一つ問題なしね。まさかここまで開けっぴろげとは思わなかったわ。服を着てちょうだい」


 ケンのスケベ魂が、まさか妙なところで役に立つとは本人にも分からぬところであった。


「ついでに色々視えたわよ。まず第一に、さっきお茶を飲みながら話してたことに嘘偽りは一切ないようね。あなたはこの世界の人間ではないわ。正直この結果には私も驚いているの、何せこんな結果初めてだから」

「そうそう出るモンじゃないと、思いますよ……」

「第二に。あなたが成すべきはまず、この世界でひたすらに生き残ること。そうでないと、戻る手立ては永遠に失うわよ。ある意味当たり前ねこれは。武器の一つか二つは買っておいた方が良いわ」

「そんなに物騒なんですか?」

「この世界に来て、早速危ない目に遭ったでしょう? これからもきっとそういう目に遭い続けるわよ、ここにいれば」

「えぇ……」

「視たところ武器を扱った経験はほぼないに等しいわね。竹で出来た剣と、樹のヤニみたいなので出来た剣は武器なんて呼べないわよ。この件はコモドにも伝えておくわ、この後で町の探索ついでにお買い物をした方が良いわよ」

「……ありがとうございます」


 この人の前では下心も、逆らうことも禁物であると心に刻み込まれたケンであった。一方その頃。


「オイオイオイ。母さん、お茶っ葉に性的興奮の作用のあるヤツを混ぜたな。こりゃケンちゃん大恥かいてるぞ」


 後片付けを終えたコモドは、額、左肩、鳩尾、右肩に指を動かすと、音を立てずにそっと手を合わすのであった。母親の、仕事場に。

美少女との出会いはライトノベルでは定番ですが、美魔女との出会いもアリなのではないでしょうか。

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