第九篇『土塊の巨人は赤月に立つ』上
この物語は時折アクション映画の影響を受けてます。御了承下さい
空に浮かぶ赤い月が、湖面にそびえる巨体を照らしている。湖底をその足で踏みしめ上がって来る愛機の姿を眼に焼きつけつつ、一つの小舟に降り立ったコモドは乗っていたゴブリンを湖に叩き落とした。
「死神コモド! 貴様どうやって上がって来た!! 祭壇に武器の持ち込みは一切出来ないはずだぞッ!!」
「持ち込めねぇさ。だから沈めておいたんだよ、コイツと一緒にな」
湖の水で礼装がべったりとひっついたコモドの体に、いつの間にかゴーレムサモナーが巻き付いている。
「そうか、あの時厠に向かったのは……ッ!!」
「それより良いのかい。ルクトライザーの一歩は、そちらさんを軽く五体は踏み潰すぜ!」
「クソォ!! こうなれば、こうなればッ!! エメト、ドゥーマンダ!!」
叫ぶと同時に、カニスの両手にはゴーレムサモナーと、カードがそれぞれ握られていた。カードを差し込まれたサモナーから光が放たれ、ルクトライザーの前にもう一体のゴーレムが現れる。その姿は堅牢な装甲に覆われ、両手に巨大なハサミを持つ蟹のバケモノのような姿であった。
「ドゥーマンダ! ルクトライザーを討てッ!!」
巨大なハサミを伴ったストレートが、早速ルクトライザーに迫り来る。上半身を軽く反らし、ハサミを空振りさせると同時にドゥーマンダには拳が迫る。その拳を、相手のもう片方のハサミが掴んだ。
「ケンちゃん、すぐにそっちに行く! 少しだけ持たせてくれ!!」
「バカめ、手甲剣も触媒も持たぬその体で、辿り着けると思うのかッ!!」
ゴブリンから奪い取った櫂で舟を進めるコモド、その元に警備に偽装していたゴブリン達が迫る。櫂を両手で構えると、まるで大刀のように振り回してコモドはゴブリンに一撃を加えた。櫂の先端で割り裂かれた部分から、機械の部品が飛び出してくる。
「人形か」
「小舟のゴブリンども、コモドを岸に近付けるなッ!!」
その声に合わせ、ゴブリン達は櫂を片手に、一斉に手斧を構えた。
「ブン投げる気か?」
コモドの予想は的中した。飛んで来る刃が月の光を受け、不気味な赤に染まっている。咄嗟に櫂で叩き落すコモドであったが、叩き落したその瞬間に第二の刃が櫂の先端を落としてしまった。湖の底に、推進力となるべき部位が沈んで往く。斜めにキレイに割られた棒と化したその櫂を見るや否や、コモドはそれを逆手に持ち替え、大きく振りかぶると投げ槍の如くに投擲した。まさに斧を投げようとしていたゴブリンの胸に、深々とそれは突き刺さるのであった。
「お返しだッ!」
更にコモドは、櫂を叩き割った斧そのものを拾い上げると、近くまで来ていたゴブリン目掛けて投擲による一撃をお見舞いした。惰性で近付いて来る小舟にまんまと飛び乗ると、ゴブリンの顔面に刺さった斧を抜いて櫂を奪い、モノ言わぬ機体を盾にしつつ前進する。
「ルクトライザー、そっちはどうだ?」
そう言って振り返ると、ルクトライザーは拳を捕まえたハサミを掴み、外そうと奮闘していた。その首に、ドゥーマンダのもう片方のハサミがあてられている。
「単純な力業なら向こうが上か……!」
カードを取り出すも、横づけされた小舟からゴブリンの斧が迫る。咄嗟に斧の刺さったゴブリンで防ぐコモドだが、その間にもルクトライザーは膝を突きつつある。岸の方に目をやるも、頼みのラァワはケンを庇っての戦闘で手一杯であった。ゴブリンの大多数は魔女に差し向けられており、コモドは孤立無援を強いられていたのである。それも小舟に乗り、揺れる足場という慣れない環境で、カニスも言った通りの手甲もルクターの牙もない状況であった。
「コモドさん……生きていた……ッ!!」
湖から少し離れた森にて、ただ一人ゼーブルを追っていたウラルは安堵していた。ルクトライザーに出現はまさにコモドの生存を意味していたのだ、祭壇を破壊した爆発と炎からである。だが彼の安堵は、異なる形で一瞬にして破壊された。
「宝眼術、破眼念爆!」
「ぐはッ!?」
まさに一撃であった。ゼーブルの攻撃に気付きその場から転がり出る。しかし今一歩速さが足りなかった。その証拠に、ウラルの背中は焼け焦げている。
「敵に背を向け安堵するとは、やはりヤキが回っていたらしいな。ヤツが生きててそんなに嬉しいのか」
ゼーブルの声には何処か、怒気が混ざったようにも聞こえる。しかし怒り心頭なのはウラルもまた同じであった。闘術士に限らず、戦いに生きる者は例え悪人であっても越えてはならぬ領域が必ず存在する。
「黙れ外道! 殺人や犯罪だけでは飽き足らず、神聖な祭壇に罠を仕掛けて儀式を穢すとはな! 貴様のようなヤツに彼はやられんぞッ!!」
「ふん。ならばせめて、貴様だけでも消し去ってくれる」
「やってみろ若造……消えかけの炭火程、簡単に燃え尽きぬモノはないからなッ!!」
ゼーブルの複眼が鋭い光を放つ。するとウラルの刃が蛇腹状に展開し、頭上の枝に巻き付き持ち上げた。宙を舞うウラルの後を、爆発が追う。逆にウラルが放つアダーの矢を、ゼーブルはその場から一歩も動かずに叩き落としていた。刃を元に戻し、木の幹を足場にゼーブルの背後をとるウラルだが、その矢はゼーブルの右手により受け止められ、自身の右手に帰って来ることとなった。矢を掴み返して握り締めるウラル。そこに、ゼーブルは自らの腰にあるサーベル状の得物に手を掛け、こう言い放つのであった。
「なるほど、貴様の言う通りだな。放っておいては火事の元か。久しぶりだぞ、吾輩にコレを抜かせる者は……」
得物の鯉口を切り、腰を落とし、ゼーブルが構える。ただならぬ雰囲気にウラルもまた右手の矢を握り締め、手甲剣の切っ先を相手に向けた。
魔女達が封印符を取り出すその前で、ラァワのように戦力となる者達はゴブリンを相手取っていた。この国において、魔女のほとんどは戦闘経験がない。ラァワのような存在は貴重であるが、彼女に数人戦力を足しただけでも苦戦を強いられるのは目に見えていた。ラビアは付け爪に加えて皮膜をムチのように振り回し、ミナージは大振りのナイフを猟銃に付けてゴブリン達に応戦している。それだけでなく魔女の愛弟子達の中でも武器を持つ者はゴブリンを迎え討っていた。一方でケンはというと、
「ひぃっ、来るなー!!」
ラァワに背中を預け、コモドからの預かり品を抱えたまま、がむしゃらに刀を振り回すだけであった。
「ケンちゃん、相手にされてないわよ」
「分かってる、分かってるけど!!」
「……それにしても、どうにかコモドを助け出せないかしらね」
ラァワがコモドを確認すると、そこにはゴブリンを肉盾にしつつも揺れる足場と孤立無援で苦戦する姿があった。カードを取り出したまま、サモナーにも挿入出来ずに攻撃を凌いでいる。もしあの場にルクターの牙があれば術の一つも報いることが出来るだろう。祭壇に武器の類を持ち込めないという決まりをまんまと利用されていた。もしあの爆発で仕損じても、並みの舞手であれば確実に始末出来るためである。
「くそ、小舟が増えて来やがった……」
そんな中、コモドの意外な粘りを見てか、小舟に乗ったゴブリンが更に追加されて来る。うち一体は他の個体よりも背が高く、得物も手斧ではなく馬上鞭にも似たモノを握っている。その機体が得物をコモドに向けるや否や、今度は次々に弩を構え始めた。放たれた矢に対してすぐさま肉盾を使うコモドであったが、刺さった矢を見るや否や驚愕した。
(この矢は……ッ!!)
コモドは何と、矢の刺さったゴブリンの骸をすぐさま湖に投げ込んだ。直後、強烈な爆発が湖面をざわつかせる。ゴブリンの放つ矢には爆弾が仕込まれていたのだ。その衝撃は大きく舟を揺らし、コモドが手にしていたカードは白紙のまま湖面に浮かぶととなった。そして盾を失った彼に今、第二波が向けられようとしていた。
(まずいッ!! あの矢をこの早さで撃たれ続けたらたまったモンじゃねぇぜ!!)
コモドは迷わず飛び込んだ。そして深く、深く進んで行く。轟音が頭上で響き渡る。それを合図に動きを止め、水面を見上げて見れば、砕け散った小舟の材が水中からも分かる。その中に一つ、舟に刺さらずに沈みゆく矢を彼は見つけた。矢柄を掴み、小舟の一つを睨むと浮上する。
(文字通り、一矢報いてやるか。矢尻型時間差式収束爆弾、通称ベローネ。何かに刺さればその一点に衝撃を向け、時間差で爆発するヤツだ、何てモノ用意してんだアイツらは)
ゴブリンの乗ったの舟に手をかける。コモドの影を探してかがり火をかざすゴブリン達を上手くかいくぐり、舟の一つに矢を突き刺すと、コモドは指笛を吹きながら潜り込んだ。目論見通り次々に矢が湖に飛び込み、小舟の一つが砕け散る。ゴブリンが一体沈んでくるのが見えた。もがくゴブリンに背後からそっと近付くと、コモドは首に腕を回して頭を抑え込み、一気に捻り上げた。そして弩を取り上げると矢の様子を見る。
(なるほど、一発撃つと勝手に充填される仕組みか。アダーの弾倉みてぇなモンだな。そして残りは二発か、他のヤツもあと二発は撃てると考えて間違いねぇな)
コモドはわざと舟から離れ、かがり火から離れた位置で頭を出す。そして眼帯に意識を集中させた。義眼の役割も果たしているこの眼帯は、暗がりでもわずかな光を集めることで昼間のように辺りを見渡すことが出来るようになる。弩を構えながら、ゆっくり、ゆっくりとゴブリンの乗った小舟の一つに向かう。背後から狙いすました一撃が、小舟に乗った標的を湖面へと射落とした。爆発する水面に気付いたゴブリン達が、コモドのいる方向に矢を放つ。だが全く違う方向から、その標的による第二撃がゴブリンを襲った。
放たれた矢を潜ることでかわすと、コモドは再び様子を見た。ゴブリン達は彼の読み通り、弩を捨てて様子をうかがっている。こっそりと、矢を回収していたコモドはゴブリンが乗っていた小舟の陰に隠れ、弩に装填すると小舟に身を上げ、引き金を引いた。次々に放たれた矢が、豪快に湖面をざわつかせる。櫂で一気にカニスへと近付くと、コモドは弩を構えた。
「死神コモド……あれだけの数を一人で……!?」
「カニス、観念しろ!」
引き金に指をかける。するとゴブリンのうちの一体、他の機体を指揮していた者が立ち塞がった。放たれた矢を得物一つで叩き落す。
「残りは一発か……」
弩の様子を見て、コモドは呟いた。その間にも、指揮していたゴブリン、ホブゴブリンは迫って来る。
「そこだッ!!」
コモドは小舟の先端に矢を放った。小舟が半壊し、ホブゴブリンは投げ出される。そこにつかさず櫂による一撃を加えた。頭部だけが、湖面に浮かぶこととなった。
「行くぞカニス!!」
「んな……うぐ……くそ……」
胸から溢れ出る血を押さえ、ウラルは膝を突きうずくまっていた。ゼーブルが抜き払った得物、サーベルのような顔をして鞘に収まっていたそれから煙が上がっている。
「マーギナム、だったのか……!!」
「そうだ。しかし剣でもある」
銃口に値する部位を指でずらし、引き金を引く。するとエネルギーで出来た赤い刃が出現した。
「数あるマーギナムの中でも一際優れたタイパン社の四四口径を元に改造を加え、剣としても使えるだけでなく剣に偽装しての奇襲を可能とした、吾輩の愛用品だ。名付けてハルティアス、貴族の護身用に持ってこいの一品だとは思わんかね」
自慢げに得物を見せびらかすゼーブル。奇襲に成功したのが余程の快感であったらしい。
「同じイレザリア出身者のよしみとして教えてやる。貴様が知ってた通り、貴族に決闘は付きモノだ。しかし決闘とは命のやりとりよ。だからこそ金を積んででもこのような武器を手に入れるのだ。最もコイツは、家の没落と共に眠りにつく定めであったがな」
「没落だと。だとすればゼーブル、貴方の目的は家の再興か?」
ウラルは何とか立ち上がった。ターバンを外し、胸のキズを縛って抑え付け、手甲剣を構えながら。
「再興か。それも悪くはなかろう。だがどの道貴様には関係のない話だ」
その時、湖から響いた爆音にゼーブルは気付いた。ウラルもまた警戒している。
「あの爆音は……?」
「……ベローネ部隊を動員したか。コモド一人に相当手こずってると見えるな」
ゼーブルはウラルの方に向き直した。
「しかしながら吾輩も、貴様一人に手こずっているな。遊びが過ぎたか」
「どうですかね、こちらはまだ……遊び足りないんですよ!!」
「そうか」
二つの刃が、ギィンと言う激しい音を立てて激突した。
小舟の後ろのへりまで移動すると、半壊した小舟までの距離を見る。一気に駆け出し、先端からコモドは飛び出した。そして櫂の柄を壊れた舟に突き立てると、そのまま棒高跳びの要領でカニスの舟まで跳ぶのであった。
「跳んで来やがったなあのバカ!?」
「バカで悪かったなァァーーッ!!」
跳び蹴りの姿勢で迫るコモドに、カニスは右腕の盾を構えた。だがコモドの脚力が上回ったらしい。蹴り落とされたカニスはすぐさま舟に手をかけた。そこに、コモドは懐から光る何かを取り出すと、素早い一撃を突き刺したのであった。
「うがァァァアア!? 何だコレは……櫛!?」
「武器の持ち込みはダメでもな、コレは良いみたいだぜ。盲点だっただろ。しばらくそうしてな!」
「く、くそ、だがアレを見ろ!!」
カニスが指差した方向には、完全に両膝を突いたばかりか、湖に沈められようとしているルクトライザーの姿があった。
「ルクトライザー!?」
とっさにカードを取り出したコモドであったが、今度は先程の櫛が彼の右手を刺す。そしてカニスは小舟に上がって来た。
「さっきの礼だ!! そして貴様の首はもらい受けるぞ、死神コモド!!」
カニスは右腕の盾を構えると二つの刃が出現し、ハサミのように交差することで直剣型の手甲剣となった。櫛と手甲剣ではあまりに射程に違いがあり過ぎる。すると、その様子を見たラァワが、符の一つを取り出しケンに話しかけるのであった。
「ケンちゃん、コモドにお届けモノを頼めるかしら」
「ど、どうするってんですか!!」
「魔女摂符、式神符!」
そういうと、ラァワはケンの背中に符を貼り付ける。すると貼られた符から蝙蝠の巨大な翼が出現した。
「私の翼程じゃないけど、結構飛べるわよ。さ、コモドを助けに行ったげて!!」
「だからって投げ飛ばさないでぇー!?」
なんとラァワ、背負い投げの要領でケンを、コモドに向かって豪快に投げ飛ばす。慌てるケンであったが、湖に着水する前に何とか風を掴み、飛び始めた。
「コモドさァァーーーん!!」
「ぬお、ケンちゃん!? 丁度良いや、早くその包みくれ!!」
「そうはさせるか! ドゥーマンダ、その羽の生えたガキを打ち落とせ!!」
ルクトライザーを押さえていたドゥーマンダの腕が伸び、巨大なハサミがケンに襲いかかる。
「うわぁぁぁぁぁぁ!?」
「ケンちゃん危ない!? ネシェク、ゴーレムアーツ、ブレイカーテイル!!」
咄嗟の詠唱でカードを通し、コモドのサモナーからルクトライザーの胸のヒビ割れに青い光の玉が飛ぶ。すると首を押さえられていたその背後から、尻尾状の長い三叉の槍が伸びる。すぐに手で持ち引き抜くと、ケンに伸び行くハサミに投げ付けた。ケンをハサミが捕える寸前で、咄嗟の一撃は間に合った。
「良いぞ、ルクトライザー!! ケンちゃん、その包みをこっちに投げろ!!」
「分かった!!」
ケンが包みをコモドに向かって投げ付けると、コモドはその包みに向かって弾指を鳴らした。するとなんと包みはその場で開き、手甲やルクターの牙が次々にコモドに向かって飛んで行く。両腕に手甲が、蛇腹状の腕輪が、ルクターの牙はピアスにそれぞれ装着されていく。
「おかえり、ルクター!」
牙に向かって一言、コモドが呟く。その背後で、舟に上がったカニスが手甲剣を構えて襲い掛かろうとしていた。
「コモドさん後ろ、後ろ!!」
「後ろォ? おぉっと!!」
半開きになったハサミ状の刃を、コモドの十字型に組んだ手甲が受け止めた。
「悪ぃな、まだ死ぬワケにはいかねぇんだよ!」
「死神コモド、この二つ名に偽りはないようだな……!! 何が何でも刈り取るつもりかッ!!」
「俺はただ生き延びてぇだけだ、刈り取りに来たのはてめぇだろう! 答えろカニス、ゼーブルは何処にいる!!」
「貴様にゼーブル様と面会する資格などない、ただセピア湖の底に骨となって沈むが良いッ!!」
カニスの蹴りがコモドの腹部に命中する、だがコモドは組んだ腕をそのまま下ろすとカニスの足を持ち、足首を捻り上げて相手の姿勢を崩した。その隙にコモドは得物を包んでいたターバンの端をケンに投げ渡すと、
「そいつ引っ張って岸まで飛べ!!」
「分かったァ!!」
小舟の動力をケンに任せると、コモドは小舟のへりにギリギリで掴まるカニスの頭を掴み上げて尋ねるのであった。
「てめぇ、自分のやったことが分かってんのか。今ここでブッ殺されても文句が言えねぇくらいの大罪だぞ!」
「大罪だと……コモド、貴様こそ自分の罪を自覚していないようだな」
「俺の罪だとォ!? 言ってみろ。心当たりならいくらでもあるぜ」
「貴様、国境のオドーンを覚えているか……?」
「覚えてるともさ。銭のためならゴーレムの密造に加えて人身売買、死んで当然のゲス野郎だったぜ。ヤツのアジトを割り出すのは苦労したなァ!!」
「オドーンは、おれの親父だァ……!!」
「何ィィイイ!?」
ある意味では衝撃の事実を告げられたコモドは思わず大声を上げた。
「この国では罪人でもな、おれにとっては良い親父だったよ。あの時おれは隠れ家にいなかった、ゼーブル様の指示の元、関所に潜入してる真っ最中だったからな……!!」
「一家そろって、頭から足の先までブラックバアルにドップリか。見上げた忠誠心だがなカニス、ヤツの何処にそんな価値があるってんだ、アァ!?」
「あるさ。少なくとも貴様よりはな……!! あの御方は、売れない職人だった親父に仕事をくれたんだ。貴様のような一流の職人には分かるまい、あの貧しさがッ!! 親父はそんな中でも、おれと弟子達には優しかったんだ、どんな手段を使ってでも、せめて俺達だけにはひもじい思いをさせないようにって、身を粉にして働いてくれていたんだ!! ゼーブル様は俺達、いや親父を救ってくれた慈悲深い御方だ、貴様には到底マネ出来まいッ!!」
舟から半分身が乗り出した状態でもなお、カニスは叫んだ。だが、その声を遮る者が現れるとは思いもよらなかったらしい。
「黙れカニスッ!! 僕はね、そのコモドさんに助けられて今ここにいるんだよ! アンタの父さんに捕まって、売り飛ばされそうになってたとこからなッ!!」
「何だとォ!?」
驚いた顔で、カニスは目線をケンに向けた。
「その人がアジトに来なかったら、僕はここにはいない! もしコモドさんが君の言うように死神でしかないのなら、僕は何故今生きているんだ? 運が良いだけなのか? どうなんだよ!! 被害者面なんかして、自分の都合ばっかり押し付けるなッ!!」
「ケンちゃん……ありがとう、もう良い」
ハァァ、と一度息を整えた後、コモドは口を開いた。
「カニス。俺がどんな言い訳をしようと、あんたの親父さんを殺めた事実は変わんねぇだろうよ。だがな、彼は人として越えちゃあいけない線を越えちまった、つうのもまた事実なんだよ」
「そんな、親父は……ッ!」
ケンという、父親の罪の存在を実際に目の当たりにしたカニスは戸惑いを隠せなかった。そしてコモドもまた、今のカニスにケンちゃんの姿が重なって見えていた。岸に付いた舟からカニスを連れ出しつつ、コモドは言葉を続ける。
「……罪滅ぼしじゃねぇけどさ。もしあんたが望むんなら、俺んとこ来ねぇか?」
「死神コモド、貴様は一体何を言ってるんだ?」
「あんたはまだ引き返せる。親父さんだって、本来はまっとうな職人として生きてたかったはずだ。その夢を、俺んとこで叶えてみねぇか?」
「親父の、夢……」
「そうだ。なんなら弟子もかき集めて連れて来い。良い機会だ、一気に俺の工房を拡張して一儲けすっぞ。どうだ?」
「何だそれ、ははははははは……」
「俺そんなに可笑しいこと言ったかなァ……」
ぽりぽりと顔のキズを掻き始めたコモド。だが次の瞬間、カニスよりも更に向こうで、ゴーレム同士の戦闘が激化するのが目に入った。
「コケにしてくれたなコモド。おれは貴様の弟子になるくらいなら、今ここでルクトライザーを倒して親父の優秀さを証明してやる。ドゥーマンダ、やれッ!!」
爆発する矢の元ネタに気付けたらんぼう者は五十点獲得です。意味はないけど




